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#046 我が背中に続け! 突撃!!

 時は少し遡る。

 毛利が自身に貸し与えられた隊と対面していた頃合いにだ。


「あれ? 華雄様では有りませんか!?」


 毛利は驚愕した。

 隊を率いる部将が華雄であったからだ。

 彼は涼州軍において武勇に名高い。

 それだけで無く、


「如何してここに?」


 胡軫の配下でもあった。

 だがその胡軫は、牛輔と共に洛陽を守護する役割を担っている。

 ここに居るはずが無かった。


「麒麟が見たくて参った」


 要するに、曹操の配下において随一の武勇を誇る、あの夏侯惇を退けた毛利の将機を見てみたいと言う。

 つまり、興味本位でここまで来たらしい。


「ご冗談を」


「当たり前だ。この華雄、そこまで暇では無いわ」


 毛利が詳しく聞いてみると、牛輔の差し金だった。


「胡軫様は難色を示されたがな」


 牛輔が何故、毛利の居る戦場に華雄を送ったかと言うと、


「お願いだから、毛利を無事に長安まで届けて!」


 と前皇上劉弁こと董白に、長安から届いた書状で泣きつかれたからであった。

 尊皇の士である牛輔が、そうまでされたら何も手を打たない訳にはいかない。

 彼はまるで印籠の如く劉弁からの書状を胡軫に向け、了承させたらしい。


(本当かな? あの牛輔様の事だから別の考えが有りそうだけど)


 例え隠された思惑があるとしてもだ。

 結果、毛利の助太刀として華雄が遣わされたのである。

 素直に感謝すべきだ。


 だと言うのに、演義をベースとした三国志しか知らぬ毛利は、この成り行きに嫌な予感を覚えていた。


(もしやこの戦い、華雄様が大活躍した後、関羽の踏み台になったやつか?)


 所謂(いわゆる)汜水関(しすいかん)の戦い〟である。

 董卓軍が、反董卓軍を汜水関で迎え撃った。

 その戦いで、華雄は孫堅軍の祖茂を皮切りに、数々の将を討ち取った。

 彼は董卓軍の看板将軍扱いされる。


 ただし、次のページで関羽に討ち取られるまでは。

 それもただの一合で。

 反董卓軍は帰陣した関羽を手放しで褒め称え、関羽と関羽を配下とする劉備は一躍スターダムにのし上がった。

 つまり、華雄は関羽の引き立て役にされていたのだ。


(俺が、げぇっ関羽! になるのか?)


 その考えが、毛利の顔に浮かんでいたのだろう。


「この華雄では不服か?」


 華雄が凄味を効かせた。


「いえ、決してその様な訳では」


「ならば、何を悩む?」


 関羽に一合の下で斬り捨てられるかも、などと言えない毛利は、


「流石の華雄様も孫堅一人ならいざ知らず、その配下も一度に相手は出来ないでしょう?」


 と誤魔化した。


「孫堅一人も危ういわ」華雄曰く、黄巾の乱時に目撃した孫堅は〝化け物〟と言う言葉が生易しい程の活躍だったとか。「あれの突進を止められれば或いは……と当時は考えたがな」


(将機による突進を緩める……か。馬防柵を設けると、進路を変えてしまうだろうから駄目だ。待てよ、要するにスピードを落とさせれば良いんだよな? なら、あの手で……)


「ではこの毛利が、孫堅の突進を止める……は難しいかもしれませんが、緩めて見せましょう」


「ほう、大した自身だ。李傕に(しご)かれ半ベソかいていた頃とはまるで別人。戦さを経て、一皮剥けたか」


「いえいえ、その様な事は無いです」


 と答えながら、毛利は更に考え込む。


(史実では、孫堅軍は難なく退けられた。問題はその後に颯爽と現れる関羽だ)


 重ねて言うが、それは史実では無い。

 三国志演義、創作だ。


「華雄様、お願いが幾つか御座います」


「何だ?」


「一機打ちだけは避けて頂けますでしょうか? 何故かと申せば、華雄様が前に出てしまうと私の策が利かぬからです」


「良いだろう。それにこの華雄が役目は、毛利を無事長安に行かす事だ」


 勝手な動きは慎むらしい。


「有難う御座います。それと、盾持ちの将機も揃えて貰えますか?」


「? 構わぬが、何をする気だ」


「盾持ち将機にしか出来ぬ事を成すのです」





 そして、場面は両軍が対峙した時に戻る。

 孫堅軍が文字通り怒涛の進撃を見せていた。


『はっはっはっ! 見よ、祖茂! 涼州軍は我らを迎え討つ構えだぞ!』


『然に非ず。孫堅様の威に怖気付き腰が抜け、あの場から動けぬのではありませぬか!?』


『違いない!』


 将機・白虹を駆る孫堅を先頭に据えた孫堅軍は、涼州軍の両翼に多数配置された将機と兵に見向く事無く、中央の一隊に突撃する。


『突貫! 突貫!! 突貫!!! ……ん、何だあれは?』


 孫堅が目にしたのは、紙を幾枚も張り合わせた上に墨で〝孫〟の文字を描いた代物であった。

 奇天烈な色合いをした将機がそれに火を点す。

 忽ち燃え落ちた。


『おのれ!!!』


 孫堅は怒りに打ち震えた。

 自身の名を燃やされたのだから、当然だ。

 彼は孫の文字を描いた紙に点火した将機目掛け、一目散に自身の将機を駆った。

 それが毛利の狙い通りだとも知らずに。


『ぬぉぉ!?』


 直後、白虹の挙動が乱れ始める。

 その後に続く将機も。

 何が起きたか分からぬ孫堅軍は混乱の様相を呈していた。


 華雄は身震いする。

 孫堅軍の有様を目にしたから、では無く、毛利との会話を思い返してだ。


「華雄様。何故、孫堅軍が強いと思いますか?」


「獅子が率いし軍だからだ」


「違います」


「なに!?」


「速いからです」


「意味が分からぬ!」


「では実験です。ここにほぼ同じ重さの玉が、同じ長さがの紐で吊るされております」


 毛利は紐の端を二つとも、華雄に握らせた。


「次に、玉を同じ程度引いてから放します。すると、玉の速さはほとんど同じになります。ここがまでが実験の前提条件です」


「な、成る程ぅ?」


(ここでギブアップか? だが、無視する)


「同じ程度の重さで且つ、同じ速さ同士の玉がぶつかり合った場合、互いが同じ程度跳ね返されます」


 毛利が実際にやってみると、確かにそうなった。


「おお! 毛利の言う通りだ!」


「今度は、何故孫堅軍が強いのか、をこの玉で表してみます」


 玉の引っ張る距離を一方は短く、


「こちらが黄巾賊」


 今一方は……


「長く引いた方が孫堅軍です」


 それらを同じタイミングで放した。

 但し、長い方に軽く力を加える感じで。


「見て下さい。長く引いて速い玉の方が、そうでない方を大きく弾いてますよね?」


「確かに!」


「つまり、将機の重さはほぼ同じならば、速さで威力が変わる! それが孫堅軍の強さの秘密なのです!」


「そうであったか!」


「以上を踏まえ、孫堅軍を迎え撃つ場所に、遠目には分からない程度の凸凹を作ります」


「何故そうなる!?」


「道が凸凹していると将機はどうなりますか?」


「酷く揺れるな。だからこそ、将機で山道は駆けぬ」


 ホバリングしているとは言え、地面の凹凸には弱い。

 つまり、馬と一緒なのであった。


「さて、速度の落ちた孫堅軍に対してどうすべきでしょうか?」


「無論、盾を構えて迎え討つ」


「馬鹿!」


「ば、馬鹿!?」


「失礼。迎え撃ったら速度の遅いこちらが負けます」


「な! も、もしや……」


「ええ、こちらから突撃するのですよ!」




 毛利の指示通りに設けられた、盾で盛り土し固めた凸凹に孫堅軍の将機は気付かず侵入、小さな振動を繰り返しながら失速し始めた。

 まるで、減速帯の上を走る自動車の様に。


『そろそろ頃合いですね』


 毛利が華雄に話し掛ける。

 それに対し、


『これはお前の策だ』


 お前が号しろ、華雄はそう口にした。

 毛利は頷く。


『あまり時間も有りませので失礼して……』


 彼は息を大きく吸い込み、


『我が背中に続け! 突撃!!』


 と発した。


 横一列に並んでいた赤い将機が一斉に盾を構え直し、密集隊形を維持したまま突撃を開始する。

 一方の孫堅軍は、もたつきながらも漸く減速帯を抜け出ていた。


 この時、その一部始終を背後の本陣から見ていた将が一言、


「あの馬鹿。この徐栄は孫堅を止めろと命じたのだ」


 と零したとか。


 そうこうする間に赤い波が白波とぶつかる。

 まさにその瞬間、


『はっはっはっ! やるではないか! だがな! この程度の策で、この孫堅を討てると思うな! 祖茂! 俺の真似をしろと皆に伝えよ!』


 孫堅の将機が爆発的な跳躍を見せた。

 それも三度。

 つまり三段跳びである。


『なっ!?』


『伊達に白くは無い!』


 ちなみにだが、白い玉石は将機の各性能を満遍なく上げる。

 実にバランスに長けた色なのだ。

 故に、将機離れした動きも可能としていた。

 なお、赤は承知の通り、最高速特化である。


『これで速さは戻った!』


 孫堅の大音声が響いた。


『うぉおおおお!』


 それに、構わず突撃する毛利の雄叫びが重なる。


『気色悪い色の将機が最初か! それもまた良し!』


 白虹が大剣を腰だめに構え、最後の跳躍に入った。

 大地を踏み締める音。

 刹那、


『んぁ!?』


 白虹が態勢を崩す。

 その足元を見るとそこは、酷く泥濘んでいた。


『掛かった!』


 そして、毛利と孫堅は遂に激突した。

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