表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/55

#014 賊発見!

 涼州兵の一部が俄かに騒がしくなった。


「何かあった様ですね?」


 と、気付いた毛利が言った。

 すると牛輔が、


「らしいな。俺の名を出しても良いから、毛利、ちょっくら聞いてこい」


 毛利を遣いに走らせる。


「はい!」


 判明した原因は、


「賊を発見した、だと?」


 であった。

 報告した毛利の顔色が悪い。

 顔面蒼白、と言う言葉そのままであった。


「……ど、どうしたら良いですかね、私」


 盾兵士の訓練を最近受けているとは言え、それはここ数日の話。

 正直、実戦に対する心構えなど、まるで出来ていなかった。

 そんな者が賊を迎え討つ兵の一員になる。

 万が一の事が起きる、即ち〝死〟が十分考えられたのだ。


「ここで待ってろ、董卓様に伺ってくる」


「で、でも私、足手まといにしか……」


「安心しろ、悪い様にはしねぇ」


 牛輔は董卓の下に、文字通り駆け込んだ。


「董卓様!」


「おお、牛輔! 参ったか!」


「賊の野営地が見つかったと、耳にしましたが?」


「うむ、黄巾賊の残党である白波賊と、どうやら匈奴(きょうど)(遊牧民)が混じっておるらしい」


「黄河を渡り、ここまで南下するとは……」


「宦官虐殺を耳にし、漢王朝の弱体化を見極めに参ったのであろう」


「賊の数は如何程でございましょう?」


「千程だ」


 それは、董卓率いて来た涼州兵の数と同数であった。

 つまり、将機を操れる部将の数が結果を左右する可能性が高い。

 本来ならば、決して挑んではならぬ兵数差。

 実に危険な状況であった。


「并州兵、いや、せめて董旻様とその兵がいれば……」


「丁原と呂布、それに董旻が率いる涼州兵は洛陽に居る袁紹ら軍閥に対する抑え。分かっていて言うでない」


「しかし……」


 牛輔が真に気にしているのは将機の稼動時間。

 クズ石を用いて出した将機では、もって四刻なのだから。

 既に董卓と牛輔の将機は出して久しい。

 残る時間はそれ程多くは無かった。

 賊にその事を悟られれば、賊側の将機に蹂躙される可能性があるのだ。


「案ずるな。相手は未だ気付いておらぬ。半包囲してから一気に仕掛け、慌てふためく賊共を各個撃破の上で殲滅すれば良いだけだ。時はそれ程要らぬ」


「ああ、そういう事でしたか」


 牛輔は安堵の色を顔に浮かべた。


「では……」


「うむ、一人たりとも逃さぬ。一人でも逃せば、背後にいる者らに漢室が侮られるでな」


「しかし、毛利はどうなさいますか?」


「兵を割き、今から洛陽に戻す余裕は無い。儂のいる本隊に回せ。そこが一番安全だ」


「はっ!」


 月明かりと星明かりだけを頼りした、総勢千名にも満たぬ軍馬が静かに進発した。


 一時間後。

 董卓の率いる千にも満たぬ軍勢が、賊を半包囲していた。


「良いか! 賊を一匹足りとも逃すな! 逃せば、我ら涼州兵だけでなく、皇室までが侮られようぞ! 天下万民の為にも、涼州に残す我ら家族の為にも、それだけはならん!」


 漢室の力が弱まる。

 それすなわち、涼州の地を狙う外敵である羌族に付け入る隙を与える事に他ならなかった。

 そうなると、先年董卓によって下された馬騰や韓遂が、何時迄も従っているか不確かとなる。

 ともすれば反旗を翻され、涼州全土が再び戦火に塗れる事に。

 それだけは、董卓と涼州兵士は避けたかったのだ。


「おお!」


 鬨の声が、闇夜に轟いた。




  ◇




「何!? 官軍に包囲されているだぞ!? 貴様ら、一体何をしていた!」


 賊軍の粗末な幕舎の一つから、怒声が上がった。


「楊奉!」


「胡才! それに李楽か!」


「囲まれておるらしいぞ!」


「ああ、まさかこの様な場所で、この様な時に官軍に見つかるとはな!」


「どうする!?」


 楊奉と呼ばれた部将は束の間考え込んだかと思うと、


「よし、李楽、お前は今すぐ全ての兵を起こせ! 包囲されている事、背水である事を良く言い聞かせろ!」


「何!?」


「弓兵には将機だけを狙わせよ! 一体でも将機を減らせば、こちらに勝ち目が出ると言い含めるのだ!」


「分かった!」


 李楽が走り去るその背を目で追いながら、楊奉はニヤリと笑った。




  ◇




 毛利が初めて参加した戦は、夜戦となった。

 厳重に半包囲したかと思うと、弓矢の斉射。

 弓音が幾重にも重なる。

 しかし、それを打ち消すかの様に、敵陣からの悲鳴が夜を引き裂いた。


 やがてそこに、


「董卓様の赤兎だ!」


「牛輔様の蚩尤も!」


 仄かに輝く二体の将機が、敵陣の中央で交錯するかの様に左右から攻め込んだ。

 その後からも、幾つかの将機が続いた。

 まるで、彗星の如く。

 いや、良く良く見るとそこ迄ではない。

 どうやら、人型兵器と言えども、人集りを跳ね飛ばす程の力は無いらしい。

 例えそれが、急造の陣形だとしても。


(一人、二人程度なら行ける。が、それ以上難しい。浮いてるから? それとも、以外と軽いのだろうか?)


 数名の敵兵に行く手を塞がれた将機、動きの止まった所を弓矢で狙い撃ちされていた。


 それでも、先の二名の戦働きは圧巻と言えた。

 大地を踏みしめた赤兎が剣を一振りしただけで、兵の首が三つ、四つと中を舞い、蚩尤が槍を一突きするだけで、隊列に大きな穴が穿たれたからだ。


「す、スゲェ……」


 毛利は見入る余り、それ以上声にならなかった。


 他の将機の動きも、素人目にも鮮やかに映った。

 数体の将機が一つの塊となり、互いをフォローしあいながら、確実に敵兵を追い詰め、討ち取っている。

 撃ち漏らした兵は、包囲する涼州兵が弓矢で適宜対応していた。


 やがて、一人、二人、と敵兵が武器を手放し、地面に横たわった。

 降伏の意思表示だ。

 それに、次々と倣う敵兵士。

 生き残った兵の全てが応じた。


 一戦を終え、毛利の居る本陣に牛輔が戻る。


「ご、ご無事でなによりでした」


「ありがとよ! って、随分と顔色悪いじゃねーか!」


「うぅ、ちょっと、血生臭い空気に当てられたかも知れません」


「ったく、情けねぇ。ま、その内慣れるぜ、否応なしにな!」


 毛利は何とも言えない表情を浮かべた。


「そ、それにしても、将機に乗るとまるで敵なしですね」


「そんな事はねぇよ!」


「え? だって、普通の兵では相手にならないじゃないですか」


「いや、あれを見てみろ」


 牛輔が指し示した先には、無数の矢を腕から生やした将機があった。


(や、矢が刺さるんだ。あんなにも硬そうな表面をしているのに……)


 驚くのはそれだけでは無かった。

 毛利は目にした、先の将機から現れた部将の、防具に守られていなかったであろう腕の一部が酷い傷を負っているのを。

 しかも、良く良く見ると、傷の箇所は将機に矢が刺さりし場所。

 つまり、


(嘘……将機がダメージを受けると、操縦者にも反映されるんだ……)


 であった。


(何たる不思議。いや、将機に乗った時、確かに風を感じたけどさ……。一体、どういう仕組みなんだろ?)


 だが、毛利は気付いた。

 考えても仕方が無い事に。

 そもそも、七つの石を腕の模様に当てる事により顕現する、摩訶不思議な人型兵器なのだから、と。

 そこに、


「惚けるな、毛利! 帰るぞ! 支度を急げ!」


 牛輔の怒声が飛ぶ。


「えぇ!?」


「どうやら敵の部将が兵を囮にして逃げていたらしい」


「酷っ!」


「まぁ、それは良い」


「良いんですか!?」


「こらっ! 我ら涼州軍当初の目的を忘れたか!」


「はっ! そ、そう言えば!」


 刹那、董卓の大音声が辺りに轟いた。


「怪我人は後から戻ってこい。他の者はこのまま洛陽に帰る! 夜明けは近い!急げ!」


「捕虜の者よ、聞け! この董卓様に忠誠を誓うものはこちらに参れ! 生かしてやろう! 来ぬ者は苦しまずに殺す! さぁ、いずれかを選べ!」


 毛利の目には、一方に集まる人の群れが映った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2019/03/01 18:00より新連載!
『煙嫌いのヘビースモーカー 〜最弱の煙魔法で成り上がる。時々世を煙に巻く〜』
異世界転移物です。最弱の煙魔法と現代知識で成り上ろうとするが異世界は思いの外世知辛く。。と言ったお話になります
こちらもお気に召して頂ければ幸いです!

以下のリンクをクリックして頂けますと、「小説家になろう 勝手にランキング」における本作のランキングが上がります!

小説家になろう 勝手にランキング

最後まで目を通して頂き、誠にありがとうございました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ