目を覚ませば
君の瞳の中で~We still live~
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この物語のサブストーリーとなっています。軽く読めたら幸いです。
────平凡を、誰よりも望んだ。それが叶わないと知りながら、望み続けた。
目を開く。無数の本が、ひとつの球体の周りを回り続ける。それはまるで、恒星とその惑星、また衛星のように。そこは一種の宇宙、膨大な可能性の数。それは「世界」と呼ばれた。
世界、ではなく「世界」世界の集合体、全ての記録が集まる場所。例えるなら、宇宙の図書館、いや、データベースか。
さて、この光景には見慣れている。この「世界」と意識がつながるたびに、何度過去の光景を見た。しかし、意識がこの場所にある、それはあまりなかったことだ。一度死んだとき以外は。
「世界」に存在を刻んである少年は、常にこの膨大なデータと繋がっていた。故に彼は死にきれず、故に彼に幸せになる世界などなかった。存在を世界に刻んである少年には、もしもの世界「平行世界」がなかったからだ。
「やぁ、覚元和仁。「世界」の眺めはどう? 案外、シンプルかな?」
濃紺の髪の毛、エメラルドのような綺麗な瞳、純白のワンピース。この「世界」の内部で飛び回る、明らかに異質な少女。
「コスモ……今回は俺を呼び出してどういうつもりだ?」
コスモ。その名を「創造の神コスモ」という。「世界」からすべての世界を作ったとされる、神。
そして、このあまり驚いた様子もなく、平然とこの場所にいる少年。それこそが覚元和仁である。
コスモは、ひとつの願いを叶えるために、ひとつの世界を作った。その際、その異常な世界を保つための柱が必要だった。そこで、この「世界」に記録されていた存在から、柱を作り出した。それか覚元和仁である。
難しい話は無しにしよう。ともかく、覚元和仁も、コスモも、「世界」も異質、それだけだ。
「まぁね、私が作り出した世界で、あなたが不幸になった、それは事実でしょ?」
「あぁ、俺にはもしもの可能性なんてない。一本の道のみ。選択肢は、世界を、壊すか、守るか。そんな俺は、平凡には一番縁遠かったわけだな」
────平凡を望んでも、それは叶わない。平行世界がないのなら、どの人生にも選択肢はない。敷かれたレールの上しか、走ることはできない。その行き先が、平凡や幸せなら良かったが、待っていたのは、絶望と苦しみだった。
「そこで、私から一つ提案なんだけど……」
コスモは、腕組みをして、ニコニコ笑う。あまりこちらの心情など気に止めず、といったところか。この神の願いで、どれだけ振り回されたことか……と、内心良くは思っていない和仁だったが、一応、話は聞いておくことにした。
「平凡な世界、やってみない!?」
「は!?」
全くもって予想外の展開に、和仁は思わず口を開いた。
「今更無理だろう、無茶にも程がある」
「そうね、確かに、あなたのいる世界に上書きは不可能よ、でもね、分岐ぐらいはできるんじゃないかしら。どれだけ保つかわからないけど」
「……不確かだな」
「えぇ、でも大いに価値はあるんじゃないかしら」
確かに、と和仁はうなづいた。別の可能性があるのなら、それを見たいのは確かにそうだ。それに、もしもそこに平凡があったなら……それ以上に望むものはない。
「答えは、決まってるみたいね」
「あぁ、そうさせてもらおうか。その「別の可能性の世界」とやらを体験しよう」
そして、景色は次第に霞んでいく。白い光に、溺れるように。
だがその中で、確かに和仁はその顔を見た。コスモの、満足気な笑顔が。その美しさ、その怪しさ、思わず悪寒が走る。
……あぁ、これは、ただのうまい話じゃないみたいだな。
目を覚ますと、目の前には、姉の顔がある。……ん? 姉……?
「ね……姉ちゃん!?」
「あら、起きないから乗っかったら起きたわね」
よく見てみると、姉は和仁の上に馬乗りになっていた。顔は息が当たるほど近く、その顔は可愛らしくも整っている。一歩間違えば、姉弟であることを忘れてしまいそうになる。
彼女は、覚元日和、彼女は14年前、不慮の事故で死んでしまった。16歳で死んだため、成長した姿など見られるはずなどないのだが……
……まずは、胸がある。巨乳だ、小さなメロンぐらいはある。ショートヘアーをそのままに、どこかエロさが増している。化粧だってしてる。口紅なんて、ひいたところは見たことがなかったのに……
「ちょ、ちょっと和仁! 鼻血!」
ダメだ、ダメだ、つぶやきながら和仁は鼻血を吹き出す。いつも冷静、「世界」に繋がるが故に無敵。そんなはずの和仁が唯一弱いもの、それは女性だった。
身内でも、女性を感じてしまえばそれまで。もう姉として見ることが難しくなる。そう、ジャストヒットしてしまったのだ。
「待ってくれ、姉ちゃん。胸、隠して……」
「服着てるわよ! 何言ってるの!」
「存在を隠して……」
「ばっ、馬鹿言わないでよ! 寝ぼけるのもバカバカしいわよ!」
急に顔を真っ赤にして、恥ずかしくなったのか、和仁から離れ、日和は部屋を出て行ってしまった。和仁自身は何も悪いことはしていない。ある意味不幸だったのだ……
「一体何だ、この世界……」
まず、死んだはずの姉が生きている。その時点で、世界が違うことを意味していた。ありえた、別の可能性。姉が生きていたら、その世界。
どこか信じられなくて、ぼーっとしたまま、ベッドから起き上がるも、動けなかった。ありえない、こんなことは。
スマートフォンがアラームを鳴らす。画面を見るに、どうやらバイトの時間のようだ。どこかスケジュール帳にでも書いてないかと探してみると、カレンダーに「レストランバイト」と書かれていた。
どうやら、和仁は、バイトをしているらしい。高校はたしかバイトが禁止だった気がするが……規則を破ったのか、それとも、そんな規則すらない世界か。
「まずは、アルバイトだな」
簡単に着替えを済ませ、必要そうなものを持って出かける。あいにく、この世界の記憶を持ち合わせていない。異世界転生のようなものだ。似た世界だが、明らかに違う世界。生き方には困らないかもしれないが、何か不都合が起こるだろう。それは予想できた。
家を出る。真夏の暑い日差しが照りつけた。半袖は、学校の制服以外持っていない。今日も長袖パーカーである。不釣り合いだが、これが和仁のスタイルだった。
町並みは至って変わらず、町の人も同じく、この世界や日常そのものに、異質は感じない。
「俺の周りだけが、平凡に変わったのか?」
その時、ぼーっとしていたせいか、人にぶつかってしまった。
「うっ、ごめんなさい」
思わず和仁は変な声が出てしまった。だが、その少女を見て、どこか違和感を覚える。金髪のロングヘアー、青い目。外国人、と言ったほうがいいようなその少女。しかし、顔は日本人である。
「いえ、私も前を見ていなったので」
それだけ言うと、少女は立ち去ってしまった。しばらくの間、理解が追いつかず、和仁は立ち尽くす。
「誰だ、あれ……」
本来の世界では見なかった、全く見に覚えのない少女、違和感を感じつつも、和仁はバイト先へと足を進めた。
それが、この世界での大きな鍵となることを、和仁はまだ知らない。
元の世界より、軽く、柔らかく、楽しく、それをモットーに書いていきます!