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09 ななな

 翌朝。

 シルビアと落ち合い、一階で共に朝食をとる。


「さて、今後の方針を決めるぞ」


 俺がそう言うと、シルビアは少し怪しむような視線をこちらに向けてくる。


「その、昨夜はかなり酔っていたから詳しい話を覚えていないのだが……セカンド殿は本当に強くなる方法を知っているのか?」


 信じたいが信じられない、といった表情だ。


「まあ安心しろ。ああ、その前に大体でいいからスキルとステータスを教えてくれ」

「む……まあ、仕方ないか」


 シルビアは暫し逡巡したのち、口を開いた。


「私は馬術と剣術以外は特に上げていない。剣術は歩兵・香車・桂馬・銀将が扱える。それぞれ2級、馬術は11級だ」

「なるほど。ステータスは?」

「……DEXが121、INTが103、あとは全て二桁だ」

「あー、ちなみにSTRとAGIとLUKは?」

「STRは79、AGIは98、LUKは15だ」

「了解」


 思った通りだ。彼女はDEX型。そして何故かINTも高い。これは確か……そう『魔弓タイプ』だ。


「よし、方針が決まった。シルビア、弓術をやろう」

「弓術だと? 確かにDEXはそこそこ高いが、私は弓なぞ扱ったこともないし、それに……その、騎士らしくない」


 まーだ言ってるよこの娘は。


「お前は多分、魔術と弓術に特化している。いずれは魔弓術師だな」

「魔弓術なんて聞いたこともないぞ?」


 え、あれ、この世界にはないのか? メヴィオンでは割と人気の職だったはずだぞ。


「魔術と弓術の複合スキル、知らない?」


「……知らんな」


 あかん。


「とにかくそういうのがあるんだよ。お前はそれを目指せ」


 あんまり納得していないのか「まぁ、分かった」と言って渋々頷くシルビア。


 そうと決まれば、色々とやらなきゃいけないことが出てきた。


「じゃあ今日の予定を言うぞ。まずは武器の購入。次にスキルの習得。夕方から経験値稼ぎだ。何か意見はあるか?」


「待て、私はあまり金を持っていない。実家に頼るわけにもいかんし……」

「金は気にするな。腐るほどある」


「…………念のため聞くが、幾らだ?」

「一週間前は20億CLあったが、今は8億CLくらいか?」

「 」


 アゴが胸に届きそうなくらい口を大きく開けて固まるシルビア。


 ……おかしい。20億CLくらい、ダンジョンに行けばすぐに稼げるのに。


 ああ、いや、そういえばこの世界ではダンジョンがまだ攻略され切っていないんだったな。ならダンジョンを周回するような酔狂人もいないというわけか。

 だとすれば、ダンジョン産のアイテムは更に希少価値が高いのでは? つまり、もっと儲け放題じゃないか……?


「まあいいや。それじゃあ行くぞ」

 俺は考えることを放棄して、シルビアを連れ武器屋へと向かった。




「毎度あり~」

 機嫌の良い武器屋の店主の声が響く。


 今回はシルビアのロングボウに加え、俺のロングソードを買った。


 それを見たシルビアは「ありがとう」とロングボウのお礼を言いつつ聞いてきた。


「セカンド殿は弓術師ではなかったのか?」

「今日から剣術も上げる」

「……ええと」


 シルビアは返答に困ったようだ。


「図書館で弓術の基礎スキルを覚えたら、弓術の必須スキルを習得がてら、俺の剣術の必須スキル習得にも付き合ってもらうからな」

「ん? ああ。んん?」


 シルビアは混乱している。

 なんだか初心者にメヴィオンのイロハを教えているような気分になってきた。


「まあ、なんだ……俺に付いてこい」


 面倒くさくなってそう言うと、シルビアは何故か頬を染めて「分かった」と頷いた。かなり可愛い。


 美人って得だなぁと、そう思った。




「な、な、ななな、なァっ!」


 昼時。

 王都と鉱山の間にある森の中で、シルビアは「ななな星人」と化した。


「な、何故そんなことを知っている!? どうしてそんなにサラッと私に教える!? 貴殿は何者なのだ!?」


 えらい剣幕で詰め寄られる。


「どうしてそんな怒ってんの」


「怒ってなどいない! 呆れ果てているんだ!」


 じゃあ怒鳴らないでほしいんだが。


「角行弓術に飛車弓術の習得方法など! ひ、秘匿中の秘匿事項だぞ!? 貴族が代々継承して独占している情報だ!」


 あー……なるほど分かった。そんなんだからこの世界はレベルが低いんだな。


「貴族ってやっぱ利権とか好きなんすねぇ」

「当たり前だ馬鹿者! こんなことが貴族どもに知れてみろ! 拷問されて殺されるぞ!」


 シルビアは俺のためを思って怒ってくれていた。良い奴だな。


 しかし、世界一位達成への近道には、シルビアに【弓術】を覚えさせて後方支援してもらう必要がある。後方支援が《角行弓術》も《飛車弓術》も使えないとなると、それは流石に仲間にした意味がない。


「じゃあこの情報はシルビアで止めておいてくれ。それでいいか?」

「ふざけるな馬鹿者! 私がそんな上級弓術を扱っていたら直ぐにバレるわ馬鹿者! 馬鹿者っ!」

 馬鹿者が気に入ったのかな?


「だったら人前で使わなきゃいいだろ」

「ぐ……それならば、まぁ」


 お、納得したか?


「……いや、それにしても危険だ。奴らはどこから嗅ぎ付けてくるか分からない。その上ただでさえセカンド殿は目立つし……既に目を付けられている可能性も……」


 なんかごにょごにょ言い出した。


「安心しろ、何かあったら俺が守ってやる。黙って付いてこい」


 さっき無意識に成功した口説き文句作戦を使ってみる。流石に2回目は効かないか……?


「…………わ、わかった」


 効いたみたいだった。




 その後。


「なななっ!?」といちいちうるさいシルビアを連れながら、《桂馬弓術》《銀将弓術》《金将弓術》《角行弓術》を習得させる。


 俺の時と同じく、彼女もすんなりと覚えられた。


 加えて俺も《桂馬剣術》《銀将剣術》《金将剣術》を習得した。それぞれ「精密攻撃」「強力な単体攻撃」「全方位への範囲攻撃」である。《角行剣術》と《飛車剣術》は面倒くさいので後回し。加えて《龍王剣術》も習得予定だが、こいつは類を見ないほど面倒くさいので全てが片付いてから考えることにする。


 なんてことをシルビアに話すと、彼女は驚きすぎて困惑し始めた。


 何故そんなに困惑しているのか聞いてみると、シルビア曰く「スキルの習得条件をここまで詳細に把握している者など聞いたこともない」らしい。


 いや、こういう世界なんだから、スキル研究者みたいな学者がいて、スキルの習得条件を研究しててもおかしくないんじゃないか?


 俺の疑問に対して、シルビアはこう答えた。「習得条件を絞り込めたとしても、それを公表して何の得があるんだ?」


 ……仰る通りだわ。利権を手放す人なんて、実際の世界ではほとんどいないね。



「しかし、今日は一生分驚いたような気がする」

 日が傾いてきた頃、シルビアはそんなことを言った。


「まだ最後にひと驚きあるぞ」

 俺は悪戯心からそう言うと、シルビアに大量のポーションを譲渡する。


「なっ、こっ、こんな高価なポーションを……あんなにたくさん買っていたのか!?」


 ポーション専門店で大量購入している時にあまり驚いていなかったのはそういうことか。俺が店員とあまりにも和気藹々と喋りながら買っていたから、あれが何千万CLの取引とは思わなかったのだろう。


「まだ驚くのは早いぞ。これをどう使うと思う?」

「……待て。怖くなってきた。まさかこれ全部を尻から入れろなどとは言わないだろうな?」

「言わねえよ。俺を何だと思ってるんだよ」

「変態だ」

「即答するな!」


 失礼な奴だ。これから大量に経験値を獲得させてやろうというのに……。


「まあいいや。行くぞ」

 鉱山裏の大洞窟へと向かう。


 洞窟中に今日一番の「なななぁ!?」が響き渡ったことは言うまでもないだろう。



お読みいただき、ありがとうございます。

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[良い点] 尻から入れろは草
[良い点] コミカルで良いね [一言] やっぱ貴族ってクソだな まあ戦闘なんてしても死ぬ危険があるだけで、敵がダンジョンから出て来るわけでも無い世界で、何人もの犠牲を払ったであろう知識だと思えば分か…
[一言] シルビアはお前のことを「イケメンって得だなぁ」と考えてると思うぞ。
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