79 終局近し
ながめ。
「セカンドさんっ!」
俺が壁をぶっ壊して、宮廷魔術師たちに宣言したところで、マインが駆け寄ってきた。
「来たか。奴らに俺がここにいるってバレる前にとっととズラかるぞ」
国王殺害容疑の俺が来たとなれば、逮捕のため宰相から仕掛けてくる可能性が少なからずある。そうすりゃいきなり全面戦争だ。兵力差がある今、それは避けたい。それにウィンフィルドの作戦にも狂いが出るからな。ここは予定通りトンズラの一手だ。
「はい! 付いていきます!」
マインは嬉しそうな顔で返事をする。その後ろでは、ハイライ大臣が渋い顔をしていた。おっと、しまった。ハイライ大臣の前で「ズラ」という単語はよろしくなかったかもしれない。
「バレる前にとっとと立ち去るぞ」
「え、どうして言い直したんですか?」
「バカお前、細かいことは気にするな」
「貴様! 殿下に向かって何たる口の利き方か!」
と、そこでハイライ大臣の横にいたオッサンが急に怒りだした。ビシッとした軍服に身を包んだチョビ髭のオッサンである。
「あんた誰」
「な、貴様どこまでも失礼な!」
「第二騎士団長だよ。メンフィス、この人に口の利き方とか言ってもしょうがないよ。今は諦めて」
「はっ。殿下がそう仰るなら」
チョビ髭はメンフィスという名前らしい。第二騎士団長ってことは、この人も味方だな。というかマインのやつ本当に言うようになったなこの野郎。
「よし。じゃあメンフィス団長は第二騎士団を率いて殿を頼む。既に準備はできているんだろう?」
「貴様に言われずとも私は殿下に付き従うのみ。準備の心配など必要ではない」
第一印象最悪だったみたいで、少し当たりが強い。まあいいや。今は時間がない。
「じゃあゼファー団長は宮廷魔術師全員を連れてきてくれ」
「ま、待て。それは分かったが、何処へ行くというのだ?」
「俺ん家」
「……はあ?」
久々に聞いたチェリちゃんの呆れ声。俺は何だか嬉しくなって、少し目が赤くなっている彼女の頭をぐりぐりと撫でた。
顔を真っ赤にして「やめてください」と言うチェリちゃん。それでも俺の手を振り払わないのは、彼女が丸くなった証拠だろうか。
彼女の叫びは、少しだけだが壁の向こうで聞いていた。だからこそ、彼女の頭を撫でる手が止まらない。
俺が現れ、マインが現れた今、宮廷魔術師たちは覚悟を決めざるを得なくなったようだ。チェリちゃんの演説が無駄にならずに良かったと、心底そう思う。
「これで開戦は避けられませんぞ」
宮廷魔術師たちが隊列を組んでいる間、ハイライ大臣がそんなことを言ってくる。確かにそうだ。宰相は第二王子派を一人残らず皆殺しにするため、帝国と合流して間もなく挙兵するだろう。
「分かり切ったことだ。今考えるべきは、どのようにして勝つかだろう」
「……失礼。私も少々、心乱れていたようで御座いますな」
「ところであの女は?」
「まったく貴方という人は……あちらのお方は」
大臣が呆れ顔でマインの隣に立つ謎の女を紹介しようとすると、先に女の方からこちらへ近付いてきた。
「私は亡きバウェル・キャスタルが第二王妃、フロン・キャスタルで御座います。貴方はセカンド様ですね。お噂はかねがね。マインがいつもお世話になっております」
「お、これはご丁寧にどうも。セカンド・ファーステストだ」
「ファーステスト?」
「最も一番、というような意味だ。いずれ世界一位となる俺にぴったりだと思って名付けたチーム名だが、なんか俺の知らないうちに家名になっていた」
「まあ、ふふふっ」
マインの母ちゃんだったようだ。彼女は口元に手を当てて上品に笑う。目元がマインにそっくりで、まるで歳をとったマインそのままのように感じた。性別は違うはずなのに不思議だなぁおい。
「ちょっと、セカンドさん! そんなのんびりしてる暇ないですよ!」
しばらくフロンさんと談笑していると、マインが焦ったような表情で怒鳴ってきた。そんな怒らんでも……。
「おーし。じゃあ行くぞー」
俺の適当な号令で、第二王子派全軍は出発する。
我らが拠点、ファーステスト邸へ向けて――。
* * *
「一時はどうなることかと思いましたが、やっと出ていきましたな。宰相閣下」
「ああ。武力行使するまでもなかったか」
第三騎士団長ジャルムは、壁の爆発に驚きつつも、去りゆく第二王子たちを見ながらホッと胸をなでおろす。彼はこれで「事実上の勝利」だと、そう勘違いしていた。
一方で宰相も、少々の安心を覚えていた。まだこちらの兵力が万全ではない状態であちらとやり合うのは、宰相としても避けたいところであったからだ。潰すのなら、確実に潰せる状態で。その半生をかけて王国の懐に潜り込んだ男らしい考えである。
「これで次期国王はクラウス殿下のもの。後はいつ即位するかという問題でしょう」
「早い方が良い。そして力を増強し、奴らを根絶やしにせん限り、私の目指す揺るぎない政治は実現せぬ」
「力を増強するとは?」
「帝国の力を借りるのだ。既に援軍の要請は済ませてある」
「なんと! 帝国兵を招き入れるということですか? しかし、それでは我が王国は……」
「違うぞ、ジャルム。王国は新時代へと突入する。帝国と共に歩む時代へと、な」
「……帝国の属国となろうともですか?」
「形はどうあれ、だ。我らが甘い蜜を吸えればよい。そうではないか?」
「は、ははは! その通りです! 流石は宰相閣下でございますな!」
「ああ、クラウス。ついに、ついに貴方が王となるのですよ!」
「……ええ。そうですね、母上」
「私は鼻が高いわ! ほら、見てご覧なさい! あの妾の子め、尻尾を巻いて逃げてゆきます!」
「…………」
窓の外に見える光景に、クラウスは何故だか胸を締め付けられる思いでいた。
父を殺した憎き相手セカンド。その彼の隣で楽しそうな笑みを浮かべるフロンの姿を見ると、心がざわついて仕方なかったのだ。
その上。考えれば考えるほど、宰相に対する疑念はより大きなものとなり。彼の中にある正当性は酷くぐらついていた。
「母上……あの男は、本当に父上を」
「何を言っているのです、クラウス! 貴方は王となることだけを考えていれば良いと、あれほど申したではありませんか!」
この女は、バウェルの死を何とも思っていない――クラウスは早々に分かっていた。
そして、それは。宰相も、第三騎士団長も、同じこと。
「少し、頭を冷やしてきます」
いつものようにそう言って、母親から逃げるクラウス。彼の相談に乗ってくれる相手は、もう王宮の何処にもいなかった。
* * *
「セカンドさん。ボクがこんなこと言うのもおかしな話なんですけど、今までよく問題になりませんでしたね」
「何が?」
「いや広すぎなんですよ貴方の家が。王宮より広いってどういうことですか?」
「すごいだろ?」
「……ええまあ」
第一宮廷魔術師団と第二騎士団、合わせて三千人以上がファーステスト邸の敷地内に余裕で収まる。家屋は少し足りていないが、十分に何とかなるレベルであった。
呆れているのはマインだけではなく、ハイライ大臣やメンフィス第二騎士団長、ゼファー団長やチェリちゃん、果てはフロン第二王妃までぽかんとしている。
「家と使用人の数が不足してるみたいだから、その辺は自分たちで何とかしてくれ」
「第二騎士団は野営するから大丈夫だと思うけど……ちなみに使用人は何人なの?」
「俺もこの前聞いて驚いたんだがな、三百人はいるらしい」
「何でそんな嬉しそうに言うんですか」
「自慢の使用人だからだ。皆、なかなかに強いぞ」
「ちょっと待って怖い。それって第一宮廷魔術師団の特訓みたいなことをセカンドさんが毎日施してるってこと?」
「いやまだそこまではやってないけど、行く行くは」
「ほ、ほどほどにお願いします。ホントに」
三百人の猛者集団ともなれば王国としても無視できないってことだろう。「国王としての自覚が出てきたな」とからかってやると「そんなことより会議です」と話を逸らされた。
「あ、セカンドさん。お帰り。準備は、どう?」
「おう、ウィンフィルド。見ての通りだ」
俺が主要メンバーを連れて湖畔の家に入るや否や、ウィンフィルドが現れた。
リビングにはシルビアとエコ、ユカリの姿もある。執事のキュベロはどうやら、三千人を超える客人の対応に奔走しているみたいだ。
「では到着して間もないですが、会議を開きましょう」
円卓を囲むと、ハイライ大臣が真っ先に口を開く。チェリちゃんは豪邸が珍しいのか、席についてもまだ辺りをキョロキョロと見回していた。
「うーん。会議って、いっても、ねー」
ウィンフィルドはハイライ大臣の言葉に首を傾げる。
しかし、ここにいる俺以外の全員がこう思ったはずだ。「首を傾げたいのはこちらの方だ」と。
「明日の、午後、奴らを、殲滅します。以上」
「…………は!?」
皆、一様に驚愕した。
それもそうだ。たった今、尻尾を巻いて逃げてきたばかりだからである。にも関わらず、早くも明日に打って出るなど、誰が考えるだろう。
だが――「向こうもそう思っている」からこそ、チャンスは今しかない。
「ま、待って。上手くいくとは思えません」
マインが尤もなことを言う。ハイライ大臣もメンフィス第二騎士団長も、ゼファー団長もそれに同調した。
「ウィンフィルドさん。何か考えがあるのですか?」
冷静なのはフロン第二王妃であった。話を先に進めるため、ウィンフィルドの策を促す。
「当然。今の戦力のままで、あっちを殲滅なんて、できっこないから、ね」
「! なるほど、戦力を増強するのだな。しかし何処から……」
ゼファー団長の気付き。すると、不意にチェリちゃんが俺の方を向いて挙手をした。
「ん、どうした?」
「いえ。もしかしたら関係のないことかもしれませんが……」
彼女はそう前置いて、もう一度リビングを見回してから、口を開く。
「シェリィ様、こちらにいらっしゃるはずでは?」
鋭いな、チェリちゃん。その通りだ。
シェリィ・ランバージャック。伯爵令嬢の彼女は、国王が暗殺されたその日から、ここにはいない。それが誰の指示かなど、言わずとも明白だろう。
「当たり。セカンドさんが、どうやって、このお家を買う、お金を儲けたか。それは、ランバージャック伯爵家の伝手で、ミスリル合金を、超大量に、売り捌いたから」
「ミスリル合金……そうか、プロリンダンジョンの……」
ウィンフィルドの種明かしに、チェリちゃんが一人納得する。他の面々は、まだ核心に気付いていない様子だ。
「伯爵も、切れ者、だよね。こうなることを、見越して、ミスリル合金の、武器防具産業を、領地で行っていたの、かも」
「まさか、ランバージャック伯爵家の兵は……」
「そう、だね。整えるなら、まず、自分のとこの兵士、だよね」
その言葉の意味するところは。
二千人は下らない“ミスリル合金装備”の援軍が、こちらに加勢するということ。
単なる兵士の援軍ではない。ミスリル合金装備の援軍である。その頼もしさは、比較にもならない。
「スピード勝負、だよ。明日の午後中に、全部、殲滅する。でないと、あっちの援軍が来て、人数差で、負ける」
各地の貴族が第一王子第二王子どちらに付くか、それすらもまだ決め切れずに旗揚げできていない現状が、まさに勝負所だった。第一王子派の貴族が援軍をよこすより何倍も早く動いて大本を絶てば、勝利はこちらのものだ。
「凄い作戦です……しかし、そうなると帝国が怖いですね。セカンドさんの言うように、宰相はきっと既に通信で援軍の要請をしているはずです」
マインの指摘。だが、ウィンフィルドは余裕の笑みで一言こう返す。
「来ない、よ」
何故? 皆の疑問に答えるように、彼女は言葉を続けた。
「カメル神国を、利用する、からね」
皆の頭の中にハテナが大量に浮かんだことだろう。俺も彼女の策略を初めて聞いた時は、カラメリアを知っていながら理解しきれなかった。カラメリア蔓延の事実を知らない彼らからすれば、もう何を言っているのかわけが分からないに違いない。
「帝国の暗躍の、裏で、神国も、仕掛けてたんだよ。王国内で、カラメリアっていう、薬物が蔓延してる。神国としては、今まさに、仕掛け時。神国は、きっと今頃、国境付近に、兵隊を集めている、はず」
「なんですと!?」
大臣が大声をあげた。
そりゃそうだろう。ただでさえ国内はこれほど危機的な状況なのに、更に帝国に加えて神国まで相手取らなければならないとなると、最早危機どころの話では済まない。
「あっちは、こっちの隙をついて、戦争を仕掛けてから、講和条約で、カラメリアの輸入を、ふっかけようって、魂胆。そうなると、王国内は、薬物でズタボロ、お金もむしり取られて、もう最悪だね」
「…………」
沈黙が流れる。
今、王国がどれほどマズイ状況か、嫌というほど理解したようだ。
「それは、王国を我が物にしようという、帝国としても、避けたいところ。だから、カメル神国が、仕掛けようとしてるって情報を、得た帝国は、援軍を渋るはず」
「何故です?」
「神国に、お尻を噛まれた状態の王国を、神国から護りながら落とすのは、ハイリスクローリターン。一旦、様子を見て、それから、神国との戦争で疲弊した王国に、協定を持ち掛けた方が、ローリスクハイリターン」
「侵略に旨みがなくなるということですか」
「そう。それ以前に、王国の機密は、宰相を通じて、筒抜けだったから。もう十分、利益は得てる。ここで無理して、援軍を送る理由は、帝国にはないよね。宰相は、用済みって、やつさ」
かわいそうだけど、と付け加える。宰相に同情する者は、この場に一人もいなかった。
さて。こうなると、目下の問題は帝国ではなく神国となる。帝国の援軍が来ないと知って安心している暇など一瞬たりともない。
「……まずは、カラメリア取締法の制定が必要ですな。次いで、専門の騎士隊を組ませ、国内を警らさせましょう」
ハイライ大臣は実に大臣らしい考えを口にする。しかし、それもこれもカメル神国の仕掛けに対応できた場合の話だ。このまま開戦させてしまえば、国境が変わることすら覚悟しなければならないだろう。
「失礼。こちらから仕掛けない限り、あちらから開戦してくることはまずないのでは?」
メンフィス団長から声があがる。軍人らしい指摘だった。
そうだな。戦争とは、いついかなる時も“仕掛ける理由”が必要だ。
「はい、ここで、問題です。仕掛けるための、正当な理由は、今のところ、ありません。でも、内戦中、ひいては、帝国とやり合ってる間の、その隙を、どーしても突きたい。さて、君が神国なら、どうする?」
ウィンフィルドの急な出題に「あっ」という顔をしたマイン。「どーぞ」と当てられて、解答する。
「大義名分をでっちあげます」
「んー、半分、正解」
もう半分は? という疑問に、彼女は矢継ぎ早に答える。
「私なら、先に、相手側に、仕掛けさせるように、仕組む。かな」
皆の「なるほど」という納得とともに、新たな疑問が浮かぶ。一体どうやって……?
「今、あっちが、何か言いがかりをつけつつ、挙兵すれば、こっちの辺境伯が、仕方なく、食い止めることに、なる。国境で、睨み合う形で。そこで、あっちは、辺境伯側に仕掛けさせるような挑発を、行うんじゃない?」
辺境伯の兵力は、やはり国防の要ということもあり、非常に大きい。だが、それだけでカメル神国の総攻撃を受け止めきれるほどのものではない。必ず援軍が必要となる。だが、その援軍を送る余裕は、今のところこちらにはない。
もし、カメル神国に、ウィンフィルドのように優秀な軍師がいたとすれば。予め兵を隠し、睨み合いの中で仕掛けを誘い、辺境伯側に「勝てる」と思い込ませ、先に手を出させたところで、伏兵を集めて殲滅する。といったような戦略を立てている可能性がある。ウィンフィルドはそれを警戒していた。薬物を使って計画的に王国を弱らせ暴利を貪りながら機を待って仕掛けるその狡猾さと慎重さと抜け目のなさに、優秀な軍師の存在を疑わざるを得ないのだ。
「バレル卿の援軍を割り、カメル神国側へ……いやしかし」
「明日の午後中に全てが片付いたとして、それから儂らが援軍へと向かえば」
「だが、それでは間に合わない可能性も」
メンフィス団長とゼファー団長が議論する。しかし良い答えは出ない。
カメル神国の動きが速すぎるためだ。こっちがスピード勝負なら、あっちもスピード勝負なのである。ことが起こってから動き出しても、全てが遅かった。
「まあ、もう、答えは出てるんだけど、ね」
ウィンフィルドが余裕の表情で言う。「終局まで読み切っている」と言わんばかりの、自信満々の顔だった。
そして、次の発言に全員が注目する中。彼女が放った言葉に、皆は度肝を抜かれることとなった。
「辺境への、援軍は、セカンドさんが、行きます」
「…………」
誰もが言葉を失う。
言っていることは分かっても、意味が理解できていない様子だ。
その後数秒経ち、マインが代表して、沈黙を破った。
「え……一人で、ですか?」
俺が笑顔で頷くと、マインはあごが外れるんじゃねえかってくらいの大口を開けて絶句した。王子がしていい顔ではない。
「皆殺しにはしない。少しビビらせてやるだけだ」
「び、ビビらせるって、無理ですよそんな! 一人で何千人を相手にするなんて、無謀すぎます!」
まあそりゃ、俺単独で戦場を立ち回るったって、いくら何でも限界がある。《精霊憑依》九段だってステータス4.5倍だ。それが1000倍ってなら話は別だが、やはり単独では無理があるだろう。
ただ、俺は一人のようで、一人ではない。ウィンフィルドにすら全てを明らかにしていない、切り札が“いる”のだ。
こいつさえ手に入れりゃ世界一位は盤石だと、ついそう思ってしまうような、全幅の信頼を置いている切り札が。
「大丈夫だ任せておけ。対宰相には、ミスリル合金の援軍も来るし、何よりシルビアとエコを向かわせる。二人がいりゃ負けようがない」
「それは、そうかもしれませんけど……あっちにも、タイトル戦出場経験者とか、いるかもしれませんよ。そんな簡単じゃありません」
「違う。シルビアとエコという強力な駒が、ウィンフィルドによって動かされるんだ。お前にもその意味が分かるだろ?」
いくら駒が強くとも、それを使う者が弱ければ意味がない。
メヴィオンの『チーム戦』でもそうだった。いくら個人能力の優れた人がいても、数の前には無力。特にチーム戦の上手いランカーは、相手の主力を封じ込める戦法をいくつも持っていた。
将棋も、チェスも、そしてチーム戦も、「王を取ったら勝ち」のゲームなのだ。「駒の強い方が勝ち」というゲームではない。
そう。言わばこれは、ウィンフィルドと宰相の対戦なのである。
どっちが勝つかって? 俺ならウィンフィルドに持ち金をオールインするね。
「マイン。人の心配ばっかしてないで、お前は王になった後のことでも考えてろ。そうだなぁ、俺の要望としては、今年度のタイトル戦を何としてでも開催してほしいところだな」
多分、こいつは不安なんだろう。俺は元気づけるように笑いかけ、そう言ってやった。
「……えへへ、そうですね。ボクはボクの仕事を頑張ろうと思います。はぁ、全てが終わった後のセカンドさんの処遇、考えただけで今から頭が痛くなりますよ」
すると、ユーモアを交えて返せるくらいには元気になったようだ。こいつこんな単純で果たして国王が務まるのだろうか。打って変わって俺の方が少し不安になる。ハイライ大臣は苦労しそうだな。バーコード部分が抜け落ちるのも秒読みかもしれない。
「では、行動開始だ。お前らはウィンフィルドとよーく作戦を練っておけよ」
まあ、大臣がハゲる前に、カメル神国とマルベル帝国の誰かさんがハゲる方が先だと思うが。
お読みいただき、ありがとうございます。




