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06 必須スキル


 朝がきた。

 非常に清々しい気分で起き上がり、酒場で朝食をとる。


 今日は図書館へ行く予定だった。


『王立大図書館』――通称「コミケ」だ。

 多分この世界ではそんな別名などないだろうが。

 何故コミケなどと呼ばれているのか。それにはメヴィオンのスキル習得システムが関係している。


 スキルを習得する条件としては、主に二つある。


 一つが、スキル本を読むこと。

 もう一つが、スキルクエストを完遂すること。


 前者は基礎的なスキルに多い条件で、後者は応用的なスキルに多い条件だ。


 そして、王立大図書館にはたくさんのスキル本が存在する。


 もうお分かりだろう。


 初心者たちは『キャスタル王国』の『王都ヴィンストン』へ訪れたら、真っ先に王立大図書館でスキル本を片っ端から読むのだ。読むと言ってもページをパラパラとめくるだけで条件を満たしてしまうので、一番右端の棚からスキル本を取っては戻し取っては戻しと結構なスピードで順々に本棚を巡っていく。それを大勢の初心者やサブキャラが列をなして黙々とやるものだから、その様子がまさにコミケみたいだと言われその別名が付いた。中には「最後尾こちら」の手持ち看板を手作りして掲げる者や「な○は完売!」などと叫び回るお調子者もいた。嗚呼、あの頃は良い時代だった……。




 ……なんて懐かしんでいるうちに、王立大図書館に到着した。


 入館料を払って中に入る。俺はさっそく右端の棚に向かい、巡礼を始めた。


 今回覚えるのは、【近距離戦闘術】【遠距離戦闘術】の基礎スキル2つずつと、【攻撃魔術】「壱ノ型」と呼ばれるスキルを四属性分、加えて《付与魔術》と、生活系と生産系の基礎スキルをいくつかである。


 戦闘術のスキルは、各々に歩兵・香車・桂馬・銀将・金将・角行・飛車・龍馬・龍王の9種類が存在する。


 今回覚えられる基礎スキルは、《歩兵剣術》《香車剣術》《歩兵弓術》《香車弓術》の4つである。歩兵は通常攻撃、香車は貫通攻撃のスキルだ。


 次に【攻撃魔術】だが、これは単純で、火水風土の四属性しかない。それぞれ壱ノ型~伍ノ型まで種類があり、ここに置いてあるのは四属性の壱ノ型の魔導書だけだ。弐ノ型と参ノ型の魔導書は『王立魔術学校』にあり、肆ノ型の魔導書はダンジョン攻略の報酬、伍ノ型の魔導書は隠しクエスト完遂後に獲得できる。


 また魔術の中には《付与魔術》といって、装備に補助効果を付与することのできるスキルもある。序盤はあまり目に見えた効果がないが、終盤になると絶大な効果を発揮する。これも絶対に覚えておかなければならない。


 最後に生活スキルと生産スキルだが、これはいわゆる便利スキルだ。ポーションの調合や錬金術、鍛冶など。序盤は手を出さないが、いずれ必要になるスキルのためこれもここで習得しておく。


 とまあそんなところか。ここで覚えたかったスキルの本は全て読み終わった。所要時間は30分もかからなかった。そそくさと図書館を後にする。



 今後の方針としては「【弓術】→【剣術】→【魔術】→【召喚術】」の順番で育成していく。

 遠距離からの攻撃で安全性を確保しつつ経験値を稼ぎ、次にダメージ効率と使い勝手の良い剣術で地盤を固め、火力の高い魔術で格上相手の切り札を準備する。


 【召喚術】についてだが、これを比較的早めの段階で上げようと思った理由としては俺のアバターだ。このサブキャラを作る際に購入した『期間限定プレミアム課金チケット』には『プレミアム精霊チケット』が付いてくる。強力な精霊を召喚できることが約束されている現状、召喚術を上げない理由はない。ただ召喚術はそれメインで戦うには限界がある補助的スキルなので、魔術まである程度上げてから育て始めるのが良いだろうとの判断だ。



 さて、方針が決まったら、さっそく習得したスキルに経験値を割り振って上げよう。


 《歩兵弓術》を16級→三段に、《香車弓術》を16級→初段に。これが弓術のみで戦える最低ラインだと思っている。


 四属性の【攻撃魔術】壱ノ型は全て16級→5級まで上げて、ここで止めておく。壱ノ型は5級から発動準備時間が短縮されるのだ。


 他は16級のままでも問題ないと思うが、一応《歩兵剣術》だけ9級に上げておく。近距離戦の保険だな。


 ここまで上げて配分できる経験値が底をついた。まあこんなもんか。

 基礎は一先ずこれでいいだろう。後は必要になったらまたコミケに行って覚えればいい。




「さて、弓術の必須を覚えなければ」

 【弓術】の必須スキルは、歩兵と香車に加えて桂馬・銀将・金将・角行・飛車である。ほとんど全てだ。ただ、龍馬と龍王だけはいらない。無駄に派手で強力だが、使いどころがないうえにコストがバカ高い実用性皆無のクソスキルだと俺は思っている。


 それぞれ、《桂馬弓術》は精密狙撃、《銀将弓術》は強力な単体攻撃、《金将弓術》は範囲攻撃+ノックバック、《角行弓術》は強力な貫通攻撃、《飛車弓術》は非常に強力な単体攻撃という特性があるスキルだ。


 特に《桂馬弓術》と《金将弓術》と《飛車弓術》の3つは必須中の必須、これらを覚えているだけで取れる戦法の数が一桁も二桁も変わってくる。


 ただ、これらのスキルは歩兵や香車の基礎スキルとは違い、スキルクエストの完遂が必要だ。とは言ってもそれぞれの習得条件を満たすだけでクエストの受注などを行う必要はない。


 俺は武器屋に立ち寄り弓を買った。購入した弓はロングボウ。シンプルでスタンダードな大弓だ。


「よし行くぞー、セブンステイオー」


 宿屋の馬小屋へ戻り、セブンステイオーにまたがって出陣。向かう先はまたも鉱山である。


 その道すがら、少し森へ寄り道。出てきたスライムに馬上からロングボウで歩兵弓術の一撃を加える。


 スカッと外す。そりゃ一発で当たるわけがないなと思いながら、もう一発、もう一発と当たるまで繰り返した。


「ぴきぃ!」という断末魔の叫びとともにスライムが飛び散る。俺は森を後にして、街道に出てからステータスを確認した。


「よしよし」


 習得条件を満たしたため、弓術のスキル欄に《桂馬弓術》が加わっていた。条件は非常に簡単で「馬上から魔物を仕留めること」ただそれだけ。


 その後も鉱山へ向かうまでに《銀将弓術》と《金将弓術》の習得条件を満たしスキルを習得した。それぞれ「20回連続一撃で魔物を仕留める」「3メートル以内にいる魔物を10体連続で仕留める」という簡単な条件である。



 次に覚えるのは《角行弓術》。こいつは少し面倒くさい。というのも、「《香車弓術》を用いて魔物を5体同時に仕留めること」と「《香車弓術》と《桂馬弓術》を複合して用い25メートル以上の距離から魔物を2体同時に仕留めること」の2つの条件を満たさなければならない。


 俺は鉱山に入ると、カエンアリの群を探してうろついた。

 カエンアリという下級魔物は個々の力は弱いが、何十匹という数の群で行動しチームプレイで攻撃してくることが多い。特にその巣には何百匹という数が固まっており、囲まれたら非常に厄介である。ただ、距離さえおいてしまえば取るに足りぬ相手だ。超遠距離から《香車弓術》をぶち込めば、2つの条件を同時にクリアすることができる。


「おっと、いたいた……」


 俺はカエンアリの群を発見すると、息をひそめて距離をとった。目算で30メートルほど離れてから、《桂馬弓術》を使って狙いを定める。


 バシュッ――という小気味良い音とともに、弓矢は赤と白のエフェクトを纏って飛んでいく。赤が香車、白が桂馬のエフェクトである。


「……よっしゃ」

 小さな声でガッツポーズ。矢はカエンアリを十匹以上も貫いた。作戦は一発成功、スキル欄に《角行弓術》が増えていた。


 俺はカエンアリに場所がバレないうちに、さっさとその場を後にした。



 さて。

 最後は《飛車弓術》である。


 これが最も面倒くさく、そして最も強力なスキルだ。


 何故強力かって、こいつは火力の花形「倍率攻撃スキル」なのである。16級でも純火力の250%の威力で単体攻撃が可能で、九段まで上げればその倍率はなんと600%にまで跳ね上がる。【弓術】において最も火力が出せる実用性抜群の単体攻撃スキルなのだ。


 しかしその習得条件の面倒くささときたら、他の面倒くさいスキル全てを含めてもワースト10入り確実というほどである。


 その条件とは、まず「《銀将弓術》で1000体の魔物を仕留める」こと。これはまあやっているうちに自然と満たすからいい。次に「《銀将弓術》でクリティカルヒット500回」これもまあ自然と埋まる。


 クリティカルヒットとは、ステータスのひとつLUKの高さと《クリティカル》スキルのスキルランクと装備の追加効果に依存して発生率の変動する倍率上乗せ現象で、発動すればクリティカルランク16級で150%、九段で300%もダメージが上乗せされる。習得は簡単で、一度でもクリティカルヒットが発生すれば覚えられる。


 現在の俺のクリランクは16級。LUKの数値が31で、装備効果はなし。よって、発動率は16級の補正+10%に加えてLUK31を10で割って、約13%となる。ちなみにクリランク九段だと+40%の補正がもらえる。こりゃ経験値が上がり次第優先して上げていくべきかな……。


 話がそれた。《飛車弓術》の習得条件に戻ろう。


 とにもかくにも、先に述べた2つの条件は時間さえあれば余裕でクリアできる。何が問題かって、最後の1つの条件なのだ。


 それは「《桂馬弓術》と《銀将弓術》を複合して用い15メートル以上の距離から他プレイヤーのHPを50%以上減少させる攻撃を行った魔物を3回連続一撃で仕留める」というもの。


 もう考えるだけで面倒くさい。


 まず誰かが魔物に襲われている状況に出くわさなければならない。その上そいつのHPが50%以上削られるまで待たないといけない。加えて一撃で仕留めなければならないので敵が強い魔物だと困る。そして一回でも失敗すればまた最初からやり直し。最悪だろこれ。


 ここがまだネトゲの中なら、誰かに頼んでHP50%削られるまで待ってもらって……と比較的簡単にこなせるかもしれないが、ここはもう実際の世界だ。HPが50%も削られるという状況は、すなわち「命の危機」だ。頼んでも無理だろう。じゃあそんな状況に3回出くわせと? そっちの方が無理だ。


 しかし、《飛車弓術》はどうしても欲しい。【弓術】には決して欠かせないスキルである。


「……まあ、観念して他を埋めておくしかないか」


 仕方がないので、俺は銀将1000発と銀クリ500発を埋めておいて機会を待つことにした。


 その機会は、思いもよらぬ形で訪れることとなった。




  * * *




 王立大図書館。

 館長であるパロマは、その日の執務を終えて休憩していた。


「パロマ様、少しよろしいですか」

「うむ、どうした」


 パロマのもとに一人の司書が訪れる。彼女は一礼と共に口を開いた。

「本日ですが、不審な男が一人」

「ふむ」


 司書の女性はそう言うと、パロマに書類を一枚手渡した。

 パロマは白髪の混じるあご髭を撫でながら、報告書に目を通す。


「……ほう、スキルの書ばかりを」

「恐らくですが、読んではおりません。手に取り10秒ほど目を通しては戻しを繰り返しておりました。他に何か目的があるものと考えられます」

「なるほど」


 報告書には、その男が「25分で出て行った」とあった。


「読んではいない、ね……気に留めておこう。その男がまた本館を訪れたら必ず報告したまえ」

「かしこまりました」


 司書の女性はお辞儀をすると、パロマの執務室を出て行った。


 パロマは足を組み、紅茶をひとすすりすると、小さく呟く。一体何のために――?


 彼の独り言は、ティーカップの中へと静かに消えていった。



お読みいただき、ありがとうございます。


【弓術】スキル一覧

《龍王弓術》 着弾地点に強力な範囲攻撃

《龍馬弓術》 強力な範囲貫通攻撃

《飛車弓術》 非常に強力な単体攻撃

《角行弓術》 強力な貫通攻撃

《金将弓術》 範囲攻撃+ノックバック

《銀将弓術》 強力な単体攻撃

《桂馬弓術》 精密狙撃

《香車弓術》 貫通攻撃

《歩兵弓術》 通常攻撃


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― 新着の感想 ―
馬上から歩兵弓術でスライムを狙うところ、Sevenなら絶対外さんやろって思ったけど、超序盤やしステも色々体感違うし仕方ないのかな。4週目やけど毎回ここで詰まる
[一言] やっぱり将棋の駒でランク付けしてるのに疑問持ってる人いるな。今2週目してて1週目は自分も疑問だったけど、続きを知った上でで改めて読むと、ああ確かに将棋の駒の方が合ってるなって納得したわ。 作…
[一言] 龍王と龍馬はゲームでは使えなかったけど現実では使う機会ありそう
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