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55 エブリワンのエブリデイ


 セカンドが暗黒狼と死闘を繰り広げている頃、シルビアとエコの二人は言い付け通りに乙等級ダンジョン『リンプトファート』へと来ていた。


 そう、特訓である。


「先に私から行こう。エコは後ろから見ていてくれ」

「りょーかい!」


 シルビアは自信満々にそう言うと、ダンジョン内へ足を踏み入れた。


 弓を構えるシルビアを出迎えたのは、6匹の「石亀」だった。リンプトファートダンジョンは殆どの場合、魔物が群れで出現する。加えてHPやVITに特化した魔物が多い傾向にある。


「……むっ」


 《飛車弓術》を使って2匹倒したところで、シルビアはふと気付く。意外にも“捌き”が難しい――と。


 現在シルビアの【弓術】は龍馬・龍王以外の全てが九段、すなわち相当な高火力になっている。それこそ高いVITを持つ石亀を一撃で屠るほどに。


 ゆえに、シルビアは驕っていた。この火力さえあればリンプトファート内に敵などいないと。


 しかし。今まで“壁役”が引き受けてくれていたターゲットが全て自分に来るということがどういうことか、今、身をもって知ることになる。


「いででででっ!?」


 4匹の岩亀がシルビアに対して総攻撃を仕掛ける。シルビアは《金将弓術》を発動して4匹を弾こうとしていたが、判断が遅く間に合っていなかった。ボッコボコに殴られたシルビアのHPは然程減っていない。だが、シルビアを“パニック”に陥らせるには十分な状況だった。


「く、くそっ!」


 作戦も何もあったもんじゃなく、手当たり次第に《飛車弓術》で仕留めていく。やはり2匹が限界で、残りの2匹が再び近づいてくる。先程より近い距離からの接近のため《金将弓術》の準備すら間に合わず石亀の攻撃を回避できない。シルビアは仕方なく殴られてから《飛車弓術》で残り2匹を倒した。とても弓術師とは呼べない、まるで鎧騎士のような戦いっぷりだった。


「うぅ……酷い目に遭ったぞ」


 なんとか戦闘を終えてエコを振り返ると、エコは口元に手をやって「ぷぷぷ」みたいな顔をしていた。頭に血が上るシルビア。だが怒ることはできない。たった今、そのエコの重要性を嫌というほど実感したばかりなのだから。


「……これは何か作戦を考える必要がありそうだ」


 当然のことにようやく気付く。百聞は一見に如かずをまさに体現していた。


 ふと、シルビアの脳裏を反省の念がよぎる。思えば今まで何も考えずセカンドの指示に従っていただけであった。目の前に来た敵をただひたすらに安全圏から倒すだけ。言わば固定砲台だ。


 セカンドの的確なオーダーがあったからこれまでは安全だった。しかし今後、セカンドの指示にミスがないとは言い切れない。特に甲等級ダンジョンなどでは一瞬の油断が命取りだろう。この特訓は「一人で最低限の安全を確保できるようになれ」という、セカンドからのメッセージに違いない――シルビアはそう確信した。


 そのことを自覚できただけで、特訓の成果としては十分であった。後は技術が追い付くだけである。シルビアは「甘ったれていたな」と一言呟いて、特訓を続けるため奥へと進んでいった。




 その後、数回石亀と戦ってからエコに交代。それから二人は交互に石亀の群れを相手に特訓をして、日暮れ頃に帰還した。


 やはりと言うべきか、セカンドの予想通りエコ単独の戦闘はかなりの時間がかかった。だが、それでもシルビアの数倍は安定して魔物たちの相手をできていた。元より【盾術】というのは一対多での戦闘を想定しているスキルのため、当然といえば当然である。


「なんだか負けた気分だ……」

「でもぜんぜんたおせない……」


 エコもエコで、一人で戦ってみて後衛の大切さをこれでもかと実感した。


 魔物たちの攻撃を【盾術】で防ぎながら、隙を窺いつつちまちま攻撃する。これには終わりの見えないダルさというものがある。加えて「いつまで続けなければならないのか」という苛立ちと退屈からくる雑念がミスを誘発してしまう。そして個人での戦闘時間が増えるため、疲労感も普段の何倍も大きかった。


「……でも」


 疲れるが、学ぶことは多い。

 シルビアとエコの二人は「あること」に気付いていた。


 それは前衛と後衛は二つで一つ、どちらが欠けても駄目だということ。そして、前衛も後衛も一人でこなせる者などいないということ。それ即ち――あのセカンドとて「前衛や後衛を必要としている」ということ。


 セカンドに必要とされる……その事実に疲れ気味の二人の顔が綻ぶ。一人で苦労しながら戦ったことで初めて目に見えたそのゴールは、二人にとって極上の飴だった。


「よし、頑張るぞ!」

「がんばろー!」


 この特訓、頑張れば頑張るだけ収穫がある。

 特訓初日を終え、そう直感した二人のやる気は、セカンドの予想以上に盛り上がっていた。






 セカンドがアイソロイスへ旅立ってから、約二ヶ月が経過した。


 東の豪邸に集まった三人は、いつものように定例会議を開いている。

 週一回のペースで開かれるこの会議は言わば報告会。三人が一週間で得た情報を共有し合い、今後のチームの方針を検討するための場だ。加えて、全員分のメッセージを全員がそれぞれ思うがままにセカンドへ送っては確実に邪魔になるので、この定例会議で伝えるべき最低限の情報をまとめて週間報告とし、チーム限定通信で送っている。言わずもがな、ユカリの発案である。


「私は必要ないと思うぞ」

「あたしもー」

「いえ、私も必要だとは毛ほども思いませんが。しかし実際に人手が」

「よし。では男の奴隷にしよう」

「おとこのじゅうじんがいいとおもう」

「……男は男でまた嫌ですね」

「私だって嫌だ。だが敵が増えるよりマシだろう」

「ましだろー」

「ええ、まあ」


 会議は珍しく荒れていた。議題は「使用人の人員補充」についてである。三人はどうやらこれ以上他の女をセカンドに近付けたくない様子であった。

 しかしユカリには何か事情があるのか、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔で口を開いた。


「ただ、中央・南のセカンド城(仮)を除く5つの豪邸が完成するまで後ひと月と半。できる限り私の暗さt、失礼、万能メイド部隊の練度を上げつつ、規模を拡大しておきたく存じます」

「それは何故だ?」

「現在、万能メイド部隊は10名。これはつまり、些か劣化ではございますが私の分身が10人と思っていただければ」

「ひぇ、こわい」

「失礼ですよエコ」

「ごめんなさい!」


「ううむ……確かに恐ろしいが、それ以上に頼もしくもあるな」

「でしょう? 彼女たちの下に人員を補充すればご主人様の居城は盤石です。しかし逆に言えば、彼女たちには部下が足りていません」

「指揮官だけいても仕方がない、ということか」

「ええ。人員さえ補充してしまえば、後は教育から統率まで全て任せておけるでしょう。しかし彼女たちができる教育はメイド教育のみ。ゆえに補充はなるべく女の奴隷が良いというわけです」

「なるほど、ではしょうがないな。メイド部隊は全て女の奴隷にしよう。だがその他の奴隷は全て男の奴隷だ。ここが妥協点だろう」

「そうですね、それが良いかと。私が見繕って手配をしておきましょう」


「……やっと肩の荷がおりるといったところか? どうだ、そろそろ私に交代してみては」

「あら、嫉妬しないでいただけますか? 私がご主人様から任された大切な仕事です。そのような口車に乗せられてホイホイ譲り渡すとでも?」

「嫉妬などしていない、単純に興味を持っただけだ。ただ、そのトゲトゲしさをセカンド殿には見せない方がいいぞ。間違いなく引かれる」

「心配ご無用です。シルビアさんのような阿呆にしか見せませんよ」

「そいつは光栄だ。しかしまぁなんだ、猫かぶりに必死だな」

「何が悪いのです?」

「外面ばかりが良くてもな?」

「貴女も週一回の協定を破ってまぁ随分と可愛らしいメッセージを送っているようですが? そうそう、お互いを花に例えたポエムは笑えましたね」

「貴様こそ夜な夜な声がうるさいぞ。もっと静かにやったらどうだ? あぁん、ご主人様ぁ~ん、早く帰ってきてぇ~ん」

「……脳筋め」

「……むっつりが」

「やっぱりこわい……」


 こうして日々は過ぎていった。




  * * *




「あっぶね!」


 やり始めてから三ヶ月ほど経った頃だろうか。


 いよいよ“例のパターン”が出やがった。


 俺が暗黒変身に合わせて《龍王剣術》を準備していた時、フッ――とあんこの影が消えたのだ。


 《虚影》状態である。状態中に攻撃を加えてしまえば、こちらの攻撃は完全に無効化される。そして隙だらけのところへ何らかの攻撃を確実に食らうことになる。あんこの攻撃は今の俺にとって全てが致命傷レベルのものばかり。ゆえに、絶対に虚影中は攻撃してはいけない。


 虚影は発動から必ず3秒間。俺は《龍王剣術》を準備中にキャンセルして、あんこから距離を取った。


 あんこは暗黒変身が終わってすぐさま暗黒召喚を発動する。強力な武器の召喚だ。《龍王剣術》によるスタンをとれなかった今、最早その召喚を止める術はなくなった。


 こうなったらもう祈るしかない。どうか『黒炎之槍』じゃありませんよーに!! と。



「……よし」


 第一関門突破。召喚されたのは『影杖』だった。これより、あんこはダウンするまで「杖術モード」へ突入する。


 問題はどうやってダウンをとるか。足に《飛車弓術》をクリティカルで2発、もしくはクリ1発通常2発、クリなしなら通常4発でダウンする。


 ――そして、来た。暗黒魔術。


 触れるとHP残量を強制的に1にされる極悪の黒い霧だ。しかも相当な広範囲に渡る攻撃。「これを回避できるかできないかは運と言っても過言ではない」なんてwikiでは言われていたが……口だけは達者なトーシロばかりよく揃ったもんである。ことメヴィオンにおいてはwikiを信じちゃあいけない。全くお笑いだ。


「(――何をしておる!?)」


 憑依中のアンゴルモアの驚く声が聞こえる。俺は暗黒魔術の霧を目の前に見ながら《飛車弓術》を発動して、あんこの足を攻撃した。クリティカルヒット! ナイスな展開じゃないか。


「(回避できんぞッ!)」


 そう、間違いなく当たる。《飛車弓術》なんて撃ってる暇あったら全力回避すべきだった、と。傍から見れば初心者がやりがちなミスのように見えたことだろう。


 だが待ってほしい。発想の転換である。こんな広範囲の攻撃、わざわざ避けようと考えるのがそもそも間違いなのだ。



「変身!」


 第二関門はこれで突破する。変身中の無敵時間8秒で。


 難点は保険がなくなること。加えて次の一手が難しいこと。だが切り札は切らないと意味がない。切り時は間違いなくここだった。


 変身回避……俺と似たような発想に至った者は少なくないと思う。では何故wikiに書かれていないのか。簡単だ。そういう人はwikiを訪れないのである。「暗黒狼の暗黒魔術は変身で回避すると良いよ」なんて人に教える暇があったら一匹でも多くテイムかけて試行回数を増やしているだろう。


 ネトゲとは。ある領域を超えると一瞬にして、数千人が犇めき合って臓物を喰らい合い己の血で返り血を洗わざるを得ないクソッタレた戦場と化す。情報戦は当然、常に周囲を出し抜こうと全員が全員必死だ。目に見えるキャラクター全てが憎くて憎くてしょうがないライバルだった。逃げ場はたくさんある。だが逃げたら終わりだ。今までの全てがパーになる。ゆえにフォールドは絶対にできない。俺なんかは人生賭けてたし尚更ね。まあ永遠に終わりのない孤独な戦いってなもんだな。それが良かった。肌に合っていた。だから全てを注ぎ込んだ。誰もが諦めるその魔窟で一位に君臨する愉悦は何ものにも代え難かったんだよなぁ……。


 ……なんて余計なことを色々と考えつつ6秒間過ごし、俺は影杖をびゅんびゅん回して接近してくるあんこの足に再び《飛車弓術》を放った。クリティカルは出ず。ダウンをとるにはもう一発当てなければならない。


 だが、もう心配は無用だ。「あと一発で確実にダウンをとれる」と分かっている現状、暗黒魔術を受けても問題はないのである。


 ゆえに、俺は仁王立ちで暗黒魔術を発動せんとするあんこの足に《飛車弓術》を撃った。ちょうど暗黒魔術の発動と被る。当然食らう。そうして俺のHPが1になるのと引き換えに、あんこのダウンをとった。


 従来ならここで影杖の追撃がくる。しかしダウンをとれているため、俺はゆっくり安全に回復できるってな寸法だ。これで第三関門突破。乗り切った――。


 さて。あんこは起き上がると、いつものように暗黒変身から突進だ。俺も既にいつものポジションへと戻っている。


 そしてまた“作業”の日々が始まる。一体いつまでかかるんだろうな……?


お読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
鉄の!ナイスな展開じゃないか こんなところでラインバレル。うん、この頃のスパイキーは神だった
[気になる点] やっぱ前と同じで5千回くらいかかるんですかね [一言] 必要のない土地を大量に買って、大量の人材費を使って維持する 金が余ってるからと言って教会(孤児院)に寄付するような気は、 僕にも…
[一言] ネトゲが戦場は流石に笑う
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