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49 盤石の構えに向けて

はいどうも!

バーチャルなろうユーザー沢村です。

年末色々と世知辛くて更新遅れてしまいました、誠に申し訳ございません。

アー、呼吸してるだけでお金が貰える仕事ってないですかね?

 


 明くる朝、というかそろそろ昼。


 頭の痛みを解毒のポーションでやわらげ、リビングへと下りる。


 コーヒーでも飲もうかと思いキッチンへ目を向けると、“メイド服”を着たユカリが昼食を準備していた。


 …………んっ?


「おはようございます、ご主人様」


 こちらに気付いたユカリは綺麗なお辞儀で朝の挨拶をする。


「お、おはよう」


 俺が挨拶を返すと、彼女は「もう少々お待ちください」と言ってキッチンへと戻っていった。


 ……なんだろう。すげぇ似合ってる。メイド姿が板に付きすぎていて全く違和感がない。でも何故にメイド服? おかしいよなこれ? おかしいんだよなこれ?


「――なぁっ!? やったなユカリ!」


 後から起きてきたシルビアがユカリを指さして怒鳴った。やったなってどういうことだ。


「やったもん勝ちです」


 ユカリは一瞥もせずに一言。シルビアはぷくっと頬を膨らませてなんだか悔しそうな顔をしていた。



「あっ! せかんど! にわにねみがねこんなおいしそうなねおっきなねみがねあってねおっきいんだよ!!」

「おおなんだなんだ落ち着け!」


 外で遊んでいたらしいエコが戻ってきて尻尾をブンブン振りながら捲し立てる。それにしても元気だ。


「みが! おっきいみ! み!」

「み……? ああ! ヤシの実か」

「やしのみ!」

「中身は食えるぞ。でもすげー硬い」


 教えてやると、エコは「へぇー」と言って目を輝かせていた。後で割る気だなこいつ。


「昼食ができあがりました」


 ユカリの声で、俺たちはリビングに集まり席についた。


 テーブルにはサンドイッチやサラダなどユカリ手作りの美味しそうな料理が並ぶ。大きな窓から日が差し込み、涼しい風が吹き込むテラスからは庭とプールが一望できる。広いリビングと高い天井は解放感に溢れていて、隣にはナイスバディのダークエルフメイド、向いにはプラチナブロンドの凛々しい美人、その隣には可愛らしい獣人の女の子。


 勝った。俺勝ったわ。

 世界一位を獲らずして既に勝利している。


 まあそれでも世界一位は獲るんですけどね。





「手紙、か」


 昼食の後、コーヒーを飲みつつユカリから事の顛末を聞いた。


 そうかそうか、どうやら亡きルシア・アイシーン女公爵は俺に何かをさせたいらしい。


「しかし、ご主人様は何故あの時フィリップを大丈夫だと判断されたのですか?」

「ああ。あいつは多分洗脳されてんだろ」

「……なるほど」


 ユカリは一発で理解したようだ。ダークエルフの奴隷や一通の手紙のために大商会の長がここまで直々に動くというのはどうにもおかしい。女公爵によって洗脳されていたと考えて間違いないだろう。


 さて。となれば手紙の内容が気になる。


 女公爵がそこまでして俺に引き継ぎたかったこととは何なのか。いざ――



「………………ワォ」


 書かれていたのは予想以上にヤバイ情報だった。とんだ代物だ。


「如何ですか?」


 ユカリも気になるのか俺の様子を窺っている。


「こいつぁ厄介だわ。容易に話せん。ただ……」

「ただ?」

「まあ、なんだ。俺に任せとけ」

「っ……はい、ご主人様」


 ユカリは嬉しそうに頷くと、口を閉じた。気になるだろうに、俺に全てを託してくれている。俺はその熱い視線を感じながら、女公爵の手紙に目を通した。


 手紙に書いてあった情報は4つ。


①信頼できる人間のリスト

②信頼できない人間のリスト

③キャスタル王国の内情

④《洗脳魔術》の習得方法


 どれもえげつない。①~③から分かるのは、バル・モローというキャスタル王国の宰相がマルベル帝国の人間であること、王国内部に帝国の工作員が大量にいて民意を誘導していること、この事実に気付いている王国の人間は既に劣勢であること。


 王国は帝国に乗っ取られる寸前だろう。宰相主導のもと『改革派』の頭として担ぎ上げられたクラウス第一王子が国王になれば、王国は帝国のものになる。彼らが謳っている改革は「帝国と共に歩む新時代」というなんとも聞こえの良いものだが、その実は帝国の属国になるということだ。クソみたいな条約を一方的に結ばれ後は搾取されるのみ。帝国周辺にもそうやって吸収され干からびた小国が数多く存在するというのに、王国内メディアに潜り込んだ帝国工作員がその事実をひた隠す。


 一方で、真実を知る王国の人間はマイン第二王子を頭に据えて『保守派』として戦っている。しかしどうにも劣勢だ。軍拡を唱えるも軍備は縮小するばかり。王国民の間では「戦争反対」の声が非常に大きかった。このままでは戦うことすら許されず侵略される運命とも知らずに。


 と、そのような王国の現状を踏まえたうえでの④だ。


 アイシーン家が何百年にも渡って秘匿し続けてきた《洗脳魔術》の習得方法をここに書き記した理由。いくら俺でも分かる。「私の代わりにキャスタル王国の行く末を何とかしろ」と、そう言いたいのだろう。


 何故よりによって俺がと考え、すぐさま答えに至った。ユカリの洗脳状態を見抜きそれを解決できるような“異常に優秀な人間”に《洗脳魔術》を渡す、なるほど理にかなっている。もし俺が失敗していたら手紙は渡されず、ユカリはまたフィリップのところへ戻り新たな主人を探しと繰り返されていたのだろう。理想の後継者探しってなもんだな。


 いやー、正直キャスタル王国の今後が云々とか心底どうでもいい。だがユカリとの約束もあるし、マインのやつも心配だ。ちゃちゃっと解決するとしたらバル・モロー宰相とホワイト第一王妃をぶっ殺せばいいのか? でもそうすると工作員の扇動で俺が悪者みたいに印象操作される気がする。理想はマインが政権を握って膿を出し切る感じかな。


 色々と考えたが答えは出なかった。


 まあ一先ず“第四の目的”を済ませて、盤石の構えになったら首を突っ込もうと思う。


 まだ準備は完璧ではない。俺は勝てない勝負はしない。世界一位とは常勝無敗でなければならない。たった一度の敗北も許されない。誰もが認める世界一位でなければ意味がない。それが俺であり、俺の世界一位である。


「よし。方針が決まった」


 とりあえず《洗脳魔術》の習得は後回しだ。見たところ結構、いやかなり面倒臭い。それより先に俺の準備を整える。世界一位への準備を。


「俺はシルビアとエコを連れて変身スキルを覚えに行く。ユカリには使用人について頼んでいいか?」

「はい。私にお任せください」

「別行動ばかりですまんな」

「いえ、お気になさらず」


 ユカリは快く頷いてくれた。「使用人の教育をしたい」と言い出した時からなんとなく気付いていたが、どうやらユカリは“使用人”に何か思うところがあるようだ。メイド服もその気持ちの一つの形なのだろうか?


「メイド服、似合ってるぞ」


 別れ際、褒めておいた。

 ユカリは「どうも」と言ってぺこりと頭を下げ、そそくさと去っていった。言わずもがな耳が赤くなっていた。褒めて良かったなぁとしみじみ思う俺であった。





 昼下がり。

 ユカリを除く俺たち3人は王都ヴィンストンと鉱山の間にある『スライムの森』へとやってきた。


「私たちにも覚えられるのか?」


 隣を歩くシルビアは釈然としない様子で質問してくる。


「覚えられる覚えられる」

「いやしかし、変身スキルなど聞いたこともないぞ……?」


 もしかするとこの世界ではまだ見つかっていないスキルなのかもしれない。確かに条件がちょいと特殊だ。


「条件は4つある。結構ややこしいから順を追って説明するぞ」


 俺がそう言うと、シルビアはインベントリからメモ帳を取り出した。ややこしいと聞いて即座にメモる体勢を整えるあたりがシルビアらしい。一方エコは鼻歌交じりに俺と繋いだ手をブンブンと振ってスキップしていた。我が道を行ってるなぁ。


「1、同一種の魔物に1111~9999の4桁ゾロ目ダメージをそれぞれ一回以上与える。2、ダンジョンボスに1111~9999の4桁ゾロ目ダメージをいずれか一回以上与える。3、この1と2を一週間以内に完了する。4、ポーズをとりながら変身っと声を出す。以上だ」

「ちょっと待て。最後のはいるのか?」

「いる」

「いるのか……」


 若干呆れながらもしっかりメモをとるシルビア。エコは「へんしーん!」と言いながら腕をクロスさせてポーズをとっている。なかなかセンスが良い。


「なるほど。先ほどセカンド殿が買っていた武器はこのゾロ目ダメージのためか」

「そうだ。今の俺たちがメインスキルで1111なんてへなちょこダメージを出すには甲等級くらい硬い敵じゃねーと無理だからな」


 スライムの森に来るまでに、王都の武器屋で槍を3本買っている。また、コミケで【槍術】の《歩兵槍術》のスキル本を読んで覚えてきた。カスダメージを出す準備は万端だ。


 どうしてこのスライムの森に来たのかというと、スライムは攻撃力は低いが防御力が高い特徴があり、そんなスライムたちがピンからキリまで揃っているのが他ならぬこの森だからである。選り取り見取りの獲物、4桁ゾロ目ダメージの上から下まで全てをこの森だけで狙えるのだから、《変身》の第一条件埋めにおいてはここ以上の場所はないだろう。


「出したゾロ目ダメージは忘れずにメモっておけよ。エコもだぞ」

「うむ」

「うん!」

「さぁ、みんな槍は持ったな?」

「おー!」

「お、おー」


 ノリノリのエコと、いまいちノリきれてないシルビア。今はこんなんだけど多分こいつ《変身》覚えたらどハマりしそうなんだよなぁ……夜な夜な名乗り口上とか必殺技名とか考えてそうで怖い。

 まあいいや。


「よし! では、ゾロ目狩り開始!」


お読みいただき、ありがとうございます。


本年は大変お世話になりました。

来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
丸太は持ったな?
[気になる点] 世界1位は常勝無敗でなければならない。 数話前の盗賊達に油断して剣を胸に刺されてなければ、説得力があるのに....
[気になる点] せっかく家も買ったんだしもっとヒロインとの関係進展して欲しいなぁ [一言] 変身の条件厳しすぎるだろ。これ現実は勿論ゲームでもよく見つけられたな。どんな廃人が見つけたのやら。
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