05 決定的な差異
「止まれ、何者だ!」
王都に差し掛かると、聞き覚えのある凛とした女性の声が聞こえてきた。
確か、シルビアとかいうおつむの弱い美人の女騎士だ。
「あー……昨日はどうも」
馬から降りて、挨拶する。なんか恥ずかしい。
「むっ、昨日のセカンドとかいう輩か。こんな夜更けに何をしている」
シルビアは覚えていたみたいだ。それに、対応も少しだけ、ほんの少しだけ柔らかくなっている気がする。多分あの上司にこってり怒られたんだろう。
「ちょっと鉱山の方へ」
「鉱山だと? 貴様が? 一体何をしに?」
訝しむ目。なるほど、職務質問的なやつだこれ。王都の警察様はご苦労なことだ。
「経験値稼ぎだよ。鉱山の裏手にある大洞窟だ」
「……貴様、嘘も大概にしろ。あのような危険な場所へわざわざ魔物を倒しに行っただと? 意味不明だ」
「ん……?」
よく分からない。
「どういう意味だ? あそこのヴァイパーゾンビは結構おいしいと思うんだが」
「ふむ。そうか、分かった。貴様には常識というものがないのだな。もしくは頭がイカレているかだ」
残念なものを見るような視線。殴りてぇーこいつ……。
…………。
……いや、待てよ。
こいつ、さっき「危険」と言ったか?
俺は不意に予感する。もしかして……
「なあ、ひとつ聞きたいんだがいいか?」
「……構わん」
ものすごく渋々という感じで頷くシルビアに、確認するように質問を投げかける。
「ダンジョンって21個あるよな?」
メヴィオンの醍醐味とも言えるダンジョン、その数は全部で21だ。プレイヤーは皆こぞって攻略に挑戦し、情報を共有して各々が楽な周回方法を模索していたのだが……。
「何を言っている? 現在見つかっているダンジョンは19個だ」
やはり。ということは――
「そのうち何個攻略されている?」
「13個に決まっているだろう」
う、うわぁ……嘘だろ……。
「分かった、ありがとう。もう行っていいか?」
「ふん、とっとと行け」
シルビアの「変な奴だな」的な視線を背中に浴びながら、宿屋へと馬を走らせる。
……なるほどな。だいたい分かった。
この世界では「死=死」なのだ。
何を当たり前のことを……と、5分前の俺なら笑うだろう。
いや、笑いごとじゃねぇ。
つまりは――「わざわざ死の危険を冒してまで強くなる人は少ない」のだ。何故かって「死んだら終わり」だから。
そして――「何千回何万回と死の危険を冒さなければ知り得ない情報を俺は知っている」ということ。
それはつまり。
「は、ははは、ははははははっ!」
笑いが止まらない。
世界一位。
思ったより早く到達できるかもしれない。
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