333 奇し者戦い、相方頼もしく
* * *
「凄かったネ……」
「……うん、凄かった」
零環とマサムネは、未だ余韻から抜け出せずにいた。
現在、ファーステスト邸の宴会場にて、打ち上げの真っ最中。
しかしマサムネたちのように、心ここにあらずという風な者は、少なくなかった。
「いやぁ……凄かった」
「Yes……凄かった」
二人は完全に語彙力を喪失し、記憶に新しいあの光景を思い出してはこう呟いてを繰り返している。
「人生観が変わるとは月並みな表現だが、いやしかし、そうとしか言い表せない感動があった」
ノヴァが噛みしめるように言うと、向かいに座るアルファが首肯して、口を開く。
「はい、本当に。私の中の、なんと言うんでしょうか、価値観が大きく変わったような気がします」
普段は口下手なアルファが珍しく饒舌になるほどで、まさに興奮冷めやらぬといった様子であった。
「知識を深めねばならん。私は些か焦りを覚えたぞ」
「焦り、ですか?」
「うむ。行く行くはセカンドの隣に立つのだ、年老いてからでは遅い。まずは知識、次いで技術、それから経験が足りない。私の目下の課題だ」
「ノヴァさん、流石ですね……私がなんとなく足りないなと思っていたことを的確に言語化したものがそれです」
「皆うずうずしているのだ。とにかく今すぐにでも何かをせねばならんと」
「わかります。この2か月で見違えるほど成長した自信がありますが……まだまだ、先は長そうです」
「クハハッ、火が点いたな?」
「皆さん、そうですよね?」
「セカンドの狙い通りといったところか」
「……なるほど」
セカンドがソロボスラッシュを皆に観戦させた理由はそこにあると、ノヴァは踏んでいた。
彼が求めるものは、いつだって“良い試合”である。オランジ王国での一件で、その意志はノヴァの心に強く刻まれた。
しかし試合とは、二人揃って初めて成立する。すなわち、セカンドが真に求めるものは――相手。
ずっと変わらない。ノヴァがセカンドを初めて目にした時の、心奪われて仕方なかったあの三冠王のスピーチ。「待ってる」という言葉の真意は、今もずっと変わっていないのだ。
「あはぁ~~! 拙者、気付いちゃった件! 気付いちゃった件ンン~~~!」
わいわいと賑わう宴会場で、珍しくいろんな人に構ってもらえてテンション爆上がり中のムラッティが、視界にセカンドを捉えた瞬間、すっくと立ち上がってそんなことを言いながら絡みに突撃していった。
「なんだおい、また面倒くさいのが来たぞ」
「つれないですなぁセカンド氏ぃ」
セカンドは露骨に嫌そうな顔をして、しかし話を聞く姿勢を取る。
「気付いたって何を」
「このままでは駄目だということですなぁ」
「今さらかよ」
「あふん」
ムラッティは体をくねくねさせて何故だか嬉しそうな顔をした。
ちっとも話が進まないと思ったセカンドは、続きを催促する。
「で、駄目だとわかってどうすんの」
「拙者、魔術大好きっ子ちゃんでしょぉ?」
「魔術やめるんか?」
「ばばばっばっばば馬鹿を言っちゃあいけませんよコレァ!!」
「痛ぇ!?」
ムラッティにとってそれは、思わずセカンドを叩いてしまうほどあり得ないことであった。
「サーセン。しかしねぇセカンド氏ぃ、拙者が魔術をやめるわきゃぁ~ないんですねこれ」
「それもそうか。魔術大好きっ子ちゃんだからな」
「そう! ゆえに! 魔術大好きっ子ちゃんな拙者は気付いちゃったというわけ!」
「はい」
「魔術のために魔術以外もやった方がよいのでは……?」
「今さらかよ」
「あふん!!」
話のオチを聞いて、セカンドは時間を無駄にしたとばかりにそそくさと席を立った。
そして、くねくねしているムラッティへ、去り際に一声かける。
「俺が一つ言えるとすれば」
「ひょ?」
「ガンガンやれ」
「ひょおお!」
「あ、セカンド! こっち来なさい! 話があるわ!」
「待っていました、セカンド八冠。意見を聞かせなさい」
セカンドは席を立ったそばからシェリィとヴォーグに捕まってしまう。
「意見?」
「そうよ。恥を忍んで聞いてやるんだから、誠心誠意答えなさい?」
「私が意見を求めているのですから、答えて然るべきでしょう?」
「なんで二人揃って上から目線なんだよ」
とても意見を乞う者の態度には見えなかったが、それでも話を聞いてしまうのがセカンドの性格であった。
「なんと言うか……おすすめの魔物っている?」
「私に合った魔物を見繕ってくれないかしら」
二人の口から出てきたのは、次のテイム対象について。
なるほどと、セカンドは二人の態度に納得する。
今回のスタンピードに合わせて、二人には一度テイムした魔物を全て放棄させていた。
そういった経緯を考えれば、二人の要求は当然の権利とも言える。
「そうだなあ」
セカンドは考える素振りを見せながら、しかし心の中ではもう既に答えが決まっていた。
否、この2か月の間に準備を済ませていた。
「うちの図書館、もう行ったか?」
「いいえ、興味はあったけど、まだ行ってないわ」
「そんな時間、とてもではないけれど、なかったもの」
日々訓練に明け暮れていた二人は、図書館を訪れたことがない。
そうだろうなとセカンドは頷くと、微笑んで口を開いた。
「プリンター、重宝しててさぁ。うちの使用人が、俺の言ったことを纏めて本にしてくれててさぁ」
「!!」
「まあ、読んでみて、それから自分で考えてほしい。それが俺の答えだ」
セカンドの口から、強力な魔物を3匹指定することは簡単である。
だが、召喚術とはそのように単純なものではない。
見据えるは霊王戦か、世界戦か、それともダンジョン攻略か。目的によって、使役すべき魔物は大きく変わってくる。
戦闘スタイルによっては特化させてもいいし、バランスを重視してもいい。
二人に足りていないのは、何よりもまず知識であった。
そして、知識をつけると見えてくる。魔物の構成とは召喚術の要であり、最も楽しい部分だと。
セカンドは、二人からその楽しみを奪うような真似はしたくなかった。
「お前らなら出入り自由だ。召喚術以外の本も読み放題だ。泊まりたかったらいつでも泊まってっていいぞ」
「ちょ、ちょっと、何よ、やけに気前いいじゃない?」
「敵に味方なんてしていていいのかしら?」
そんなことをして、セカンドに微塵も得などないと二人は考える。ゆえに理解ができない。
セカンドは、独りずっと違う場所を見ていた。それは、二人にはまだ見ることのできない遠い景色のようだった。
「いずれわかると思うが……決して敵なんかじゃない。同じものを共に作り上げる、なんというか、相方だよ。掛け替えのない、な」
「…………」
セカンドの言わんとしていることが、二人にはなんとなくわかったが、しかし真の意味で理解はできていない。
何処か寂しそうな顔をしてそんなことをいうセカンドに、二人は掛ける言葉が見つからなかった。
「――暗殺術には不意打ち特効と急所特効がありまして、そのダブル特効を活かすにはやはりターゲットされていない状態で攻撃しないといけない、その条件をクリアするため無理やり敵に見失わせるという発想! 紙吹雪を燃やすことでそれが可能となるなんて思いもよりませんでした。魔物が魔術の残渣に気を取られているうちに死角へ回り込む、ああ、一体どれだけ工夫を凝らして研究したのでしょうか……!」
身を乗り出し、やたらと早口で、興奮した様子で語るレイヴ。
その対面には、クラウスが同じく興奮の面持ちで座っていた。
「フェンリル戦も実に鮮やかだったように思う。“ジャンプ攻撃”に着目して火力を確保したその優れた構成には舌を巻いた。数々の攻撃を見切り右前足に張り付き続けた立ち回りは見事の一言だった。しかしそれよりも何よりも、激流破に対して飛車盾術で突破し、二撃を食らわせる時間を稼いだところだ! あれはあえて激流破を誘発させたのではないかと零環殿は考察していたが、オレも同意見だ。実に鮮やかな決め手だった」
「はい。そして、アジ・ダハーカに対しての立ち回りはフェンリル以上に気の抜けないものだったように思います。ですが、セカンドさんがやるととても簡単なことのように見えてしまいます。あれは本当はもっと恐ろしいやり取りです。攻撃の手数も多彩さも、今思えばですが、フェンリルの比ではありませんでしたから。おまけに全ての攻撃に毒が付いていましたし」
「そのようだ。だが、不死龍の顛末を見せられては、アジ・ダハーカも霞んでしまった……あれは、未だにオレも理解が追い付いていない。果たして人間が到達し得るダメージなのか? 1224万とは」
「僕も未だによくわかっていません。ですが、僕らは、ひょっとしたら、それを学べるかもしれない」
「……見よ、手が震えている」
「でも、顔は笑っています」
「気付いていないのか? それは、君もだ」
「……そうみたいです」
レイヴは自分の顔を触って確かめて、それからゆっくりと頷いた。
畏敬の念と好奇心が、彼らをそうさせている。
二人はよく似ていた。セカンドに惚れ込み、己もセカンドのようになりたいと強く思っている。
違う点は、そうして得た力の使いどころくらいのものだ。
「それにしても、リッチとの戦いはまさにこの世のものとは思えない光景だった。槍馬の相殺を決めた瞬間には思わず声が出た。あっという間に戦術を確立し危なげなく立ち回る様に、オレは神がかり的な何かを感じた」
「同感です! 僕が仮に相殺を絶対成功させられる腕を持っていたとしても、あそこで相殺してダメージを稼ぐ隙を作ろうなんて発想は浮かぶわけもありません。もし浮かんだとしても、やるかどうかはまた別です。もっと安全策を取るに決まっています。そう、それができるとするならば、まさしく神の如き存在か、セカンドさんくらいのものではないかと――」
似た者同士、話が尽きないようであった。
* * *
「よいしょ」
喋って歩き回ってたら疲れてきた。
俺は自分の席に戻って、背もたれに体重をかける。
「せかんど、たのしかった?」
おや、珍しく起きてらぁ。
楽しかったか、か。
「……うん、まあ、楽しかったな。忙しかったけど」
「そっか、よかったね!」
「ああ」
楽しかったから、よかった。
その通りだな。
とても単純で見逃しがちなことだが、真理かもしれない。
エコから学ぶことは多い。本当に。
「エコ、お前なんかまたデカくなったか?」
「ほ?」
ふと思った。背が伸びている気がする。
獣人の成長ってのは、人間と比べてどんな感じなのか知らんが、エコの場合は晩熟タイプなのかと勝手に思っていた。
だが、こうもグングン成長している様を見せられると、流石に錯覚ではないような気がしてきた。
こいつ何歳だったっけ? 16か17だったか? にしては成長遅くないか? ……にしては短期的な成長が早くないか?
わからん。この世界は不思議が山盛りだな。まあいいや。
「大きくなれよ」
「おおきくなる!」
俺が頭を撫でつつ言うと、エコは挙手しながら元気いっぱいに頷いた。
「ね、せかんど、まただんじょんとか、いきたいねー」
そのまま膝にのせてしばらく撫でていると、エコがくるっと俺の方を向いてそんなことを言ってきた。
「今度行こうか」
「ほんと!?」
「そろそろアイソロイスじゃ物足りなくなってきただろ? 次の甲等級ダンジョンが俺らを待ってるぜ」
「たのしみだね!」
「だな!」
次はシスティにしようか、フェリルアランにしようか。
どっちも面白そうだと考えていると、シルビアが席に戻ってきた。
「なんだか恐ろしい話をしているな? セカンド殿」
「次のダンジョン、システィかフェリルアランで迷ってて」
「もう驚かんぞ私は。どうせ一人で行けとか言うのだろう?」
「やめとけ。一分で死ぬ」
「そ、それほど難易度が跳ね上がるのか……」
ちょっぴり大げさに言うと、シルビアは顔を青くして顔を引きつらせた。
「嘘嘘。お前なら五分は持つ」
「それは、なんだ、死刑宣告か何かか?」
「おいおい、愛しのシルビアちゃんに俺がそんなこと言うわけないだろう」
「いとっ……いや待て、何十と前科があるからな?」
「愛ゆえにだ」
「そ、そうか」
シルビアは照れているのか、視線を逸らして頬を薄く染めた。
チョロ過ぎて心配になる。いや、本心だけども。
「ご主人様、あまり飲み過ぎてはなりませんよ」
シルビアとなんだか良い雰囲気になっていると、ユカリがやってきた。
そうだ、スタンピードも終えたことだし、ユカリの方も一段落ついて余裕があるだろうから、聞いておこう。
「ユカリ、前に頼んでいた“道着”は、どうだ、作れそうか?」
道着――これは【合気術】習得において必要不可欠な装備アイテムだ。《歩兵合気術》は道着なしでも覚えられるが、《香車合気術》からは基本的に道着がないと覚えられないシステムになっている。
「……ご主人様、それが」
おおっと、珍しく歯切れが悪いぞ。このパターン、前にもあったような。
「素材か」
「はい、ご明察の通りです」
ユカリに刀の作製依頼をした時も、素材の玉鋼を刀八ノ国が独占していたため全く手に入らず、ユカリが似たような表情をしていた。
じゃあ、なんだ? 道着の素材も、どっかの誰かが独占していると?
俺の無言の問いかけに、ユカリは首肯して口を開く。
「恐らくは――ヴァリアント王国王家が独占しております」
王家と来たか。
まあ、別にどこでもいい。やることは一つだ。クラウスにも【合気術】教えるって約束しちまったしな。
「俺ちょっと行ってくるから、ダンジョンは帰ったらにしようか」
皆の呆れるような視線が突き刺さった。
お読みいただき、ありがとうございます。
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