276 観覧団欒か
第十三章、はい、よーいスタート。
シルビア・ヴァージニア:元女騎士のポンコツ金髪弓術師
エコ・リーフレット:筋肉僧侶のかわいい猫獣人(かわいい)
ユカリ:元奴隷の毒舌ダークエルフ鍛冶師メイド長
ラズベリーベル:元プレイヤーで元聖女の関西弁
アカネコ:クソ真面目ミニスカ侍(背筋ピーン)
アルファ:眼鏡巨乳猫背の引っ込み思案エルフ魔術師
ニル・ヴァイスロイ:元貴族のツンデレ男エルフ魔術師
精霊界からの帰還後、皆は久々に家でリラックスしながら一晩を過ごした。とはいえ、こっちの時間では半日しか経っていない。
朝になると、精霊界へと付いてこなかったアカネコとアルファがリビングに下りてきた。
「師よ、あまりじろじろ見るな。食べ辛い」
「あ、すまん。なんか久しぶりな感じがして」
「……???」
アカネコは訝しげな顔で首を傾げ、相変わらずピンと背筋を伸ばしたまま綺麗に焼き魚を食べる。
彼女は、暫く経験値稼ぎの日々だ。夏季は毘沙門戦にフォーカスしていたからよかったが、更なる躍進を考えると、とにもかくにも経験値が足りていない。
「……え、ええと?」
隣のアルファへと視線を向けると、困惑気味に眉をハの字にされてしまった。
彼女は、アカネコより更に経験値が足りていない状態だ。【魔魔術】の習得は必須のため、次のタイトル戦まではかなり頑張ってもらわないとな。だが、その前にまずは……猫背と魚の食い方をどうにかした方がよさそうだ。
「あ、あのっ、エルフは、あまり、その……魚を食べる習慣がなくて……」
「いや、気にするな。アカネコ、兜跋流焼魚食いを教えてやれ」
「師よ、そんなものはない」
「そうだったか」
「全く」
ちなみに俺は骨をあまり気にせず食べるから食い方もクソもない。
それにしてもアカネコめ、色々厳しく教え過ぎたからか、俺にツンケンしているな。
でもケンシンに教わっていた頃よりは、師匠に対して文句を言える風通しの良い関係になれている気がする。師弟っぽくはないが、これはこれでいいかもしれない。
「――ご主人様。観覧会の準備が整っておりますので、アリーナへの移動をお願いします」
食後の紅茶を飲んでいると、ユカリがそんなことを伝えにきてくれた。
「観覧会?」
はて、なんだったか。
「センパイ、ほら、アレ。アレ撮ったやん」
「ア……レ……?」
「なんでわからへんねん!」
おお、わりと高度なボケだったのに、流石だ。じゃあ――。
「思い出した。リンリン先生との試合か」
「ぃいや間違わへんのかい!」
素晴らしい。
「腕を上げたな、ラズ」
「やかましいわ!」
「「どうも、ありがとうございました~」」
「……私たちは何を見せられてるんだ?」
「おおぉー! いきぴったり!」
呆れるシルビアと、拍手するエコ。
「なるほど、早押しクイズだけでなく、漫才もまた試合の訓練に……?」
「アルファさん、師のやることは半信半疑で見ているくらいが丁度良いと思われる」
「そ、そうなんですか、勉強になります」
いちいち律儀にメモを走らせていたアルファへ、アカネコがなかなか失礼なアドバイスをする。いや、その通りなんだけどもね……。
「アカネコは私より真面目だったからな。本気なのか冗談なのかわからないことを言うセカンド殿に振り回され過ぎて、今や半信半疑どころか一信九疑くらいではないか?」
「真面目に学ぶのが戯けらしく感じたのは人生で初めてのことでした」
溜め息まじりにアカネコが返すと、シルビアは「ははは」と笑う。なんだか貫禄さえある、全てを悟ったような笑いだった。
「流石、第一被害者は貫禄が違いますね」
ユカリも俺と同じことを思っていたようで、ぼそりと毒舌を振るう。
「ありーなーいきたいーなー」
「おっ、上手い上手い」
エコは最近ラップにハマっているのか、やたらと韻を踏みたがる。
俺が褒めると、ご満悦といった表情でこっちを向いて笑った。
「よし。じゃあ、午前中は皆で観覧会だな」
「――セカンド殿、変身が早くないか?」
一度通しで見てからの、二周目。シルビアがビシリと指摘する。
「…………」
「な、なんなのだその笑顔は」
俺はなんだかとっても嬉しくなり、一時停止してシルビアに笑いかけた。
その指摘、実にイイトコを突いている。
「ここで早めに変身することの狙いはなんなのか、そしてリンリンさんがどういった読み筋でそれを咎めにいったのか、皆も一緒に考えながら見てみよう」
やはり思った通り、アーティファクトの威力は絶大だ。パルムズカムとプロジェクター、この二つ。辺境伯のスチームに借りを作ってしまったとはいえ、手に入れてよかった。
ああ、教えやすいったらないな。基礎のできてないやつにいきなりこの映像研究をやらせると頭でっかちになってしまう印象だが、ある程度まで体を動かせるようになってからこれをやらせると、劇的に伸びるやつが多いと感じる。特に若者は。
捗るぜ、これからグ~ンと。
……それから暫く放置して、俺は皆がどんな風に研究するのかを観察していた。
「ああ、そうか、精霊を狙えば……へぇ~」
シルビアは、納得と感心が中心で、しきりに頷いていた。理解はできていそうだが、自分の型へ落とし込む時に苦労しそうな感じだな。
「…………」
エコは、黙々と見入っていた。傍から見てもわかる、凄い集中力である。彼女は感覚的に理解してそうだから、無理に言語化して伝えると逆効果になりそうだ。
「ほぉぉ……」
アカネコは、ただただ圧倒されているという感じ。んー、映像研究は、あまり向いてないかな。自分でガンガン体を動かしてどんどん覚えていくタイプだろう。少し俺に似ている。
「つまり、精霊を失うと二対一で不利になるので、憑依で回避するしかなく、ええと、だからその前に槍を投げておいて、えー……」
アルファは、ぶつぶつと思考を口からダダ漏れにしながら爆速でメモをとっていた。典型的な言語化タイプだ。悪く言えば、頭でっかち。本来ならPvPに向いていないが、彼女の場合は勝負勘の良さがそれを補い、強みにさえ変えている。
四者四様、それぞれ強みがあっていいね。皆の展望が見えたというか、将来的なPSの伸ばし方がなんとなく掴めた気がする。
「そしたらラズ、あとは任せた。俺ちょっとアルファと学校行ってくる」
「はいよー。ほななー」
「せかんど、ほななー!」
「ほななー」
何周か見たところで、ラズ教官に丸投げして、俺はアルファと“王立魔術学校”へ向かうことにした。
アルファが見つかったことをニルへ伝えに行くのだ。あいつ、口ではなんだかんだ言いつつも心配していたようだからな。
ニルは今、王立魔術学校で教師の研修中らしい。教育実習的な感じだろうか? まあいい、アルファの生存報告ついでに冷やかしに行こう。
「師匠、なんだか悪い顔をしてませんか……?」
あんこに頼んで、王立魔術学校の目と鼻の先に転移召喚してもらった、その数分後。隣を歩いていたアルファにそんな指摘をされる。何故バレた。
「あいつリアクション面白くてさあ」
「あ、もう、ヴァイスロイ家の方では、ないんでしたっけ……いや、そもそも師匠には、家名など関係ありませんでしたね」
「なんだ、俺がまるで誰彼構わず噛み付く狂犬みたいな言いぐさだな」
「あの……現皇帝陛下に説教されてましたよね?」
「……冷静に考えたらヤバイな」
「ですよね」
しかし、俺にも時には譲れないものがあるのだ。仮にまた同じ状況になっても、俺は説教するだろう。
「まあ、ここだけの話……ニルのやつ、俺が揶揄うとさ、怒りつつさ、なんか嬉しそうな顔するんだよな」
「えっ」
「あいつ寂しいんじゃね、多分。だから今日もサプライズしてやろうと思って」
「……え、え、ちょっと待ってください」
アルファがはたと足を止める。
「もしかして、学校訪問の約束、してないんですか?」
「勿論」
「 」
俺が首肯すると、アルファは大口を開けて絶句した。心なしかメガネが曇っている。
「た、た、た、大変なことになりますよ! 師匠っ!」
「そうかな?」
「だって、三冠……じゃないっ! 八冠が! 学校に! いきなりって! パニックですよパニック!」
「そうかなあ」
「絶対そうです!!」
大人しそうなアルファがここまで力を込めて言うってことは、そうなんだろう。
でも、もう学校の目の前まで来ちゃったからなあ。
「アルファ」
「な、なんでしょうか」
「覚悟決めろ」
「……アカネコさん、こういう場合、私はどうすれば……」
「この場にいねぇやつに助けを求めんな」
なんか、暫く会わないうちに随分と馴染んだみたいだな、アルファ。ファーステスト色に染まってきたというか、無遠慮になってきたというか。いいことなんじゃないかな、多分。
「まあまあ、死ぬわけでもないし気にするなって。最悪、謝っとけばなんとかなる」
「いや、師匠、極端なんですよ考え方が……」
ここの校長のポーラ先生は、確かマイン派で、マインの母親の友達だったはずだ。つまり、なんだ、多少の無茶は利く。
「ほら、言ってる間に着いたぞ」
「……はぁ。そうですね、わかりました。私も覚悟を決めましょう」
「そう来なくっちゃな」
俺は指をパチンと鳴らして、笑った。こういう要所要所の勝負強さというか、芯のある決断力が彼女の魅力だ。
折角なので、俺は普段の装備から、懐かしのレア服とローブにチェンジする。学校の雰囲気に合った落ち着いた身なりだ。アルファは元より魔術師の装いなので、何も問題はない。
「よし、行こうか」
「はい」
目指すは、ニルが授業を行っているであろう教室だ。
「――へ? はぇ!?」
校門から中へ入り、警備員さんにニッコリ笑って挨拶すると、大層驚かれた。
結果、素通りである。警備はどうした、おい。
「ザルだったな」
「仕方ないと思います」
現在、午前の授業時間中。
校内は誰も歩いている様子はない。
ニルの教室は何処だろうな?
「覗いて回ってみるか」
「わかりました」
俺とアルファは、ローブの裾をはためかせ、コツコツと靴音を響かせて颯爽と廊下を進んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
☆★☆ 書籍版6巻、発売中! ☆★☆
☆★☆ コミックス3巻、発売中! ☆★☆
面白かったり続きが気になったりしたそこのお方、画面下☆から【ポイント】評価★を入れて応援していただけたら最高です! そうすると作者が喜んで色々とよい循環があるかもしれません! 【ブックマーク】や《感想》や《レビュー》もとてもとても嬉しいです! 「書籍版」買ってもらえたり「コミカライズ」読んでもらえたり「宣伝」してもらえたりしたらもう究極に幸せです!! 何卒よろしくお願いいたします!!!
次回更新情報等は沢村治太郎のツイッターにてどうぞ~。