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262 覚めゆく夢さ


繁忙期と体調不良とプライベートのごたごたが見事なハーモニーを織り成し地獄の交響曲を奏でていたため更新遅れました。





 こっちの一日は、あっちの約四十分?


 いやいやいや、そんなにウマイ話があってたまるか。


 でもウィンフィルドがそう言っているのだから間違いではないのだろう。



「何か裏があるな?」

「大王様の、言葉を借りると、そうだね、停滞・・、しちゃうんだよ、ねぇ」



 停滞。


 意味はよくわからないが、やっぱりそんなにウマイ話じゃあなさそうだ。



「まあ、夢を見てるんだと、思っておけば、いいよ」



 ウィンフィルドは何やら意味深なことを口にして、パチリとウインクした。


 夢を見ている、か。眠ってここに来ていることを考えれば、的確な表現かもしれない。


 しかし夢とは思えないくらいハッキリとしたこの現実感、果たしてこれは本当に夢なのだろうか? 目が覚めたらどんな夢だったか全然思い出せなかったりするんだろうか? 気になる。一度どんな感じか確認しに戻ってみたくなるくらいには。



「じゃあ、やることないし寝るか。メシも食えないんだろ?」


「セ、セカンド、さんっ!? ね、ね、寝るって、皆の前で、そんな……わ、私は、いいケド……っ」


「セカンド殿、このエロ精霊をなんとかしてくれ。少し話がある」



 勝手に勘違いして勝手に赤くなっているウィンフィルドをジト目で見ながら、シルビアが言った。



「話?」


「うむ。狙いの精霊について知っている情報を私たちに教えてほしいのだ。どうせ詳しいのだろう?」


「そこそこ詳しい」


「やはりな。では頼む」



 読みが当たったと、シルビアは白い歯を見せる。可愛い。


 それにしても、私たちに、か。優しくて真面目な彼女なりの気遣いだろうが、多分エコは例の如く途中で眠くなって脱落するし、ラズはそもそも知っているから教える必要がない。てなわけで、結局シルビアにだけ教えることになりそうだ。


 なんだか懐かしいな。王立魔術学校の図書館でそうやって魔術の使い方を教えたっけ。


 あの頃のシルビアは追い付いてくるのに必死という感じだったが、今のシルビアは自分から食らい付いてくるまでに成長した。今も昔も、なんとも教え甲斐のあるやつだ。


 エコは自分でじっくり考えたいタイプだから、俺があーだこーだと解説するのはノイズでしかないだろう。簡潔に、一言二言で伝えなくてはいけない。


 そういう工夫が上手いのは、ラズだ。頭が良いやつは人にものを教えるのが上手い。


 ということで、俺とシルビア、エコとラズで分かれて作戦会議といこう。



「嗚呼、主様あるじさま。あんこも主様とゆるりと話しとう存じます」



 あっ、ヤベェ、あんこもいたんだった。いつもは《送還》しているもんだから、考慮から外していた。


 仕方ない。作戦会議中、あんこは「待て」だ。



「アンゴルモア、とりあえず二部屋貸せ」


「我がセカンドよ! 我を召使いか何かと勘違いしておらんか?」


「してないしてない」


「精霊大王がッ! わかるか? この精霊大王が! この精霊大王の城に! 人を泊めるのだぞ!? しかも我が手ずから部屋まで案内するのだ! なんッ、たるッ、栄誉かッッ! 我がセカンドはそれをわかっておらん!」


「わかったわかった」



 自分で言ってりゃ世話ないわな。



「……フン、まあよいわ。このアンゴルモア、二人一部屋などとケチなことは言わんッ。一人一部屋、否、一人二部屋、否、一人三部屋与えて――」


「三部屋もいるか! 部屋が余ってて仕方がないんだな? そりゃそうだわ、こんな広い城にお前とウィンフィルドだけだもの」


「ちなみに、私は、お城で寝てない、よ」


「マジかよ……ここに一人とか逆に心配になってきた」


「憐れみの目を我に向けるでないわッ!」



 なんでこんなにバカでかい城を後先考えずに建てちゃったんですかねぇ……?


 ……あ、いや、なんか、なんだ、やめとこ。凄いブーメランな気がしてきた。うわ、危なっ。似たような城、俺も建ててんじゃん。それもバカ広い敷地に。



「ま、まあ、お前の気持ちもわからんでもないな。良い城だと思うぞ」


「で、あろう! フハハッ! もっと褒め称えるがよいぞ!」


「凄い凄い。よし、じゃあ皆! それぞれ好きな部屋を選ぶか! オーラァイ!」


「うむ、うむ! 選ぶがよいッ!」



 高速手のひら返しからの、とにかく勢いで誤魔化して、締めに謎の英語。よし、なんとかシルビアとラズから白い目で見られるだけで済んだ。


 アンゴルモアは俺たちに部屋を使われるのが嬉しいのか、部屋を物色している間ずっと上機嫌だった。


 それにしても凄まじい城だ。豪華絢爛という言葉では足りないほどだ。若干、悪魔城のように見えなくもないが、そんなことを言うとまた機嫌が悪くなるので黙っておいた。



「ところで、メシが用意できないと言っていたが、どうしてだ? こんだけ広けりゃ食堂も調理場もあるだろう?」


「フハハハァン! そんなこともわからぬのか我がセカンドよ! ならば我が教えてやろう!」


「…………」



 すぐ調子に乗ってマウントを取ってくるこの感じ、精霊たちから嫌われる理由がよくわかる。狙ってやってる時もあれば天然でやってる時もあるから尚のこと始末が悪い。



「彼方の者が此方の物を食べてしまえば、心身を囚われてしまうのだ」


「へぇ」


「逆も然り。精霊は彼方の物を食えぬ」


「へぇ」



 ……ん? いや待て。



「じゃあ俺たち何を食えばいいわけ?」


「腹など空かぬはずだ」


「なんでよ」


「摂理である」



 摂理。



「世界には摂理がある。我がセカンドの世界にもあったであろう。陽は東から昇り西へ沈み、光が差せば影は映り、夏は暑さに汗を流し冬は寒さに凍え震える。彼方の世界では、魔物を打ち倒せば経験値を得て、HPを失えば死神によって誘われる。どのような世界にも必ず摂理はあり、それに則って我々は暮らしておるのだ」


「うーむ、スピリチュアルな話のようで、当たり前な話のような気もする。面白いことを言うな」



 ゲームにおいて、ルールに則って活動する、これは当然のこと。


 スキルの準備時間もクールタイムも、摂理といえば摂理だ。俺たちはその限りの中で切磋琢磨している。


 そう考えると、世界ってゲームでもあって、ゲームって世界でもあるんだなあ。捉え方次第ってやつだな。



「ちなみに眠くもならぬはずだ。眠ろうと思えば眠れるがな」


「マジかよ」



 なんと便利な!


 いや、しかし停滞するとウィンフィルドは言っていた。喜ぶのはまだ早い。



「フハハ! ろくにメシも食えぬわ、眠くもならぬわ、死んだも同然であるな!」



 アンゴルモアは指をさして何やら煽ってきているが、俺にとっては、それこそ転生する前の俺にとっては、まさに理想的な環境と言える。


 一日二食ゼリーで、短時間睡眠で、死んだようにメヴィオンをやっていた俺にとっては、ゼリーも睡眠も削れるなら、そんなに便利なことはなかった。


 加えてトイレの必要もなければ文句なしなんだが……。



「……そういえばションベンもしたくないな特に」


「うむ。排泄も必要ではない。しようと思えばできるがな」


「どういうことだよ」



 凄い世界観だな。



「囚われておる者は、そうせざるを得ぬということよ。排泄せねばならんと囚われておれば、せっせと排泄するのであろう。排泄の必要がないと悟った者は、排泄などしなくてもよい」


「自分で決められるのか?」


「精霊はな。死霊は、囚われ停滞せし存在。抗える者もおれば、抗えぬ者もおる」



 不思議だ。まあ、そういう摂理なんだな。


 ウィンフィルドも性別を自分で決めたと言っていた。性別さえ自分で決められる存在なのだから、食事・睡眠・排泄など自由自在なのだろう。




「よし、そしたら作戦会議を始めるか。やることないし」


 皆それぞれ部屋が決まったところで、音頭を取る。



「さくせんかいぎ!!」


「エコはラズと一緒に作戦会議だ。俺はシルビアと二人で会議する」


「りょ!」


「うちが教えたったらええねんな。任しとき。ヘカトやったっけ?」


「そうだ」



 四大精霊最強、水の大精霊ヘカト。これがエコの狙う相手。


 今のうちから彼女がどんな精霊なのかを知っておけば、第一印象のインパクト・・・・・に、負けずに済むかもしれない。そういった意味でも、この作戦会議は重要だ。



「主様、あんこはどうしておればよいですか?」


「夜になったら散歩に連れてってやるから、それまで大人しく待っててくれ」


「はいっ! あんこは大人しゅうしておりますっ」



 あんこに「待て」を指示したら、稀に見る良い返事をくれた。


 わかる。夜の精霊界をあんこと散歩たぁ乙なもんだな。俺も楽しみだ。




「さて」


 シルビアの部屋に二人で入って、置いてあった椅子に腰掛ける。



「じゃあシルビア、何から聞きたい?」


「むっ、さっそく始まったな。ちょっと待て」



 机を挟んで対面に座ったシルビアは、パラパラと持参したメモをめくって質問を吟味し始めた。ああ、砂海豚の背の上で何やら書いていたのはこれか。相変わらず真面目だ。



「そうだな、まずはブレ・フィニクスとはどういった精霊なのか聞きたいぞ。火の精霊なのだろう?」


「ああ、火の精霊だ。しかし色は青い」


「何っ……?」



 シルビアが怪訝な顔をする。


 まあまあ、そう焦りなさんな。お前、絶対好きだから。



「ブレ・フィニクスは、全身が青い炎でできた鳥だ」


「……ほう」



 ほら、もう食い付いた。


 軽度の中二病患者のお前なら、こういうの好きなんじゃないかな~と思ってたんだ。



「性能は凄まじくピーキーだな。そしてギャンブル性が高い」


「ぴーきー? とはどういう意味だ?」


「ええと、ダメな時はダメダメだが、やる時はメチャメチャやる感じのやつだ」


「なるほど。うむ、私はそういうのも好きだな。それに、セカンド殿もぴーきーだな?」


「かもなあ」



 いや、間違いないな。


 しかしお前はそれを使いこなさにゃならんのだ。



「ところで、ギャンブル性が高いというのはどういうことだ?」


「単純だ。こいつの固有スキルの一つに四秒間バフをかけるスキルがあるんだが、それの倍率がランダムで1.2倍~3.0倍だ。上振れすると強いが、下振れすると残念だな」


「ほう、四秒限定の強化スキルか。面白そうだな」


「面白いぞ。更に面白い要素も色々とあるが……これは追い追いだな」


「むっ……まあ、わかった。楽しみにしていよう」



 シルビアは聞きたそうな顔をしていたが、それ以上の質問を飲み込んだようである。


 あ、そうだ。じゃあ、おまけにもう一つだけ。



「ちなみに、こいつを使役したその瞬間から、火属性魔術の色が全て青色になる」


「何!? そ、それは本当か!?」


「えっ、あ、ああ。本当だけど」



 嫌だったか?



「……カ、カッコイイな……!」



 あ、そういう……。


 好きそうだな~という俺の予想はバッチリ当たっていたようである。



「ま、あとは使役してからのお楽しみでいいんじゃないか」


「うむ、そうだな。参考になったぞ、ありがとうセカンド殿」



 シルビアはパタンとメモ帳を閉じて、微笑みながらお礼を言ってくれた。


 俺はテキトーに返事をしつつ、席を立つ。



「それにしても、凄く詳しいな。セカンド殿は、なんでも知っているな」



 続いて席を立ったシルビアが、俺を引き留めるように口を開く。


 なんだか彼女が話したがっているような気がして、俺はベッドに腰掛けて返事をした。



「そんなことはない」


「いいや。セカンド殿は、そうなのだ。なんでも教えてくれて、何処へでも連れていってくれる、不思議な人だ。私にとっては」



 シルビアは、頬を赤く染めながら俺の隣に腰掛ける。


 夕暮れ時、大きなお城の豪華な部屋に二人きり。なんだか意識し始めた途端、急にロマンチックな雰囲気に思えてくる。


 シルビアもそう思っていたようで、恐る恐る俺に体重を預けながら、上目遣いでこんなことを口にした。



「ここは、夢の中なのだろう?」



 ウィンフィルドが言っていた「夢を見ているんだと思っておけばいい」という言葉。シルビアも聞いていたのか、彼女は俺を挑発するように言葉を続けた。



「散歩に出るまででいい。そこで覚めてしまっていい。だから……セカンド殿。私に、夢を見せてくれないか……?」



 彼女の精一杯なのだろう。とても緊張しているように見える。


 ……シルビアは、滅多にこんなことを言わない。いつも、いつも、俺の夢を優先してくれる。


 だが、一日が四十分になるこの世界でなら、ほんの一晩だけなら、私も――と、そう思ってくれたのだろう。


 良い女だ。心底そう思う。俺にはもったいないくらいだ。


 都合が良いという意味ではない。本当に惚れている。出会ってから何回も惚れている。こんなにも俺はお前に惚れているのだ。



「シルビア」



 伝わっていると思いたいが、伝わっていない可能性もある。


 俺は彼女の名前を呼びながら、ベッドに押し倒した。


 あとは行動で示すのみ――。



お読みいただき、ありがとうございます。



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次回更新情報等は沢村治太郎のツイッターにてどうぞ~。



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[一言] ノクターンはよ
[一言] シルビアやったぜ
[気になる点] あんこは金平糖食べてましたよね?あれ?
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