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259 ダサい大差だ



「――シルビア、エコ、ラズ。至急来てくれ」



 帰宅するや否や、俺は三人を呼び出した。



「む? セカンド殿、帰ったのか。今度はなんだ、ダンジョンか? 戦争か?」


「あたしだんじょんがいい!」


「まあどちらでも大差ないな。よし、では準備をして」


「待て待て待て! ダンジョンでも戦争でもない! 話を聞け!」



 全く、俺をなんだと思ってるんだ。


 シルビアは「ふふ、冗談だ」と一言、装備しかけていたグローブをインベントリに仕舞った。



「センパイと一年半も付き合うとると、こないフットワーク軽なるんやなぁ……」


 ラズがまるで動物実験でも見ているかのように呟く。どっちにも失礼だぞオイ。



「せかんど……さくせん?」


 不意に、エコが「もしかして」と期待を込めた目でこっちを見てくる。



「あっ」


 そうだわ。これ、久々の……。




「作戦会議ィーッッ!!」


「いええええーっっ!!」



「出たな」

「毎度なんやねんこれ」



 どうやら盛り上がっているのは俺とエコだけらしい。シルビアとラズは若干呆れ顔だ。


 あんまり呆れられても困るので、俺はよしよしとエコを撫でて落ち着かせ、まず状況の説明から始めた。



「諸君には、精霊を使役してもらう。これは前々から話していたと思う」


「うむ。いずれ精霊を持つことになるとは聞いていた」


「うちは、センパイに任せとったらレアなん召喚できそやったから、待機しとったわ」


「……ほ?」



 三者三様の反応。まあ、概ね予想通りだ。



「そう。そして俺は、諸君らにできるだけ良い精霊を使役してもらいたいと思い、とある精霊に相談をしていた」


「アンゴルモアだな」


「そのとある精霊は言った。全て我に任せよ、と」


「アンゴルモアやな」


「で……だ。かれこれ一か月、とある精霊からはなんの音沙汰もない」


「…………」



 駄目じゃん、と二人の目が語っている。


 そうなんだよ。駄目なんだよ。




「どうなってるんだろうねえ~? 精霊大王さ~ん?」


「――フ、フハッ」



 俺は《精霊召喚》でアンゴルモアを喚び出して、そう問い詰める。


 アンゴルモアは露骨に目を逸らして誤魔化すように笑った。



「精霊大王にとっては造作もないことよ――とか言ってませんでしたか~?」


「言っておらん」


「ガッツリ言ってっから!!!」(※60話参照)



 すぐバレる嘘をつくな。子供か。



「なあ、正直に言え、アンゴルモア。断られたんだろう? そうなんだろう?」


「……ぐ、ぬぅ……」



 アンゴルモアが声をかけて、断られなかった精霊なら、召喚の対象に指定できる。確かそういう話だったと記憶している。


 精霊界随一の嫌われ者(ウィンフィルド談)と名高いアンゴルモアなら、俺のリストアップした精霊全員に声をかけ、その全員に断られていてもおかしくはない。



「一か月も声かけてて駄目なら、もうお前じゃ無理なんだって」


「いや……我が、というか、なんというか」


「?」



 どうも歯切れの悪いアンゴルモア。


 すると、狙い澄ましていたかのようなタイミングで、彼女が現れた。




「――やあ、セカンド、さん。あのね、それ、私、私」


「…………へ?」



 自分を指差して「えへへ」と笑うウィンフィルド。


 しれっとした顔で遠くを見るアンゴルモア。



「どういうことだ?」


「大王様に、頼まれて、ね。代わりに、話をつけに、行ってたんだ」



 なるほど。



「つまり、精霊大王の自分じゃあ話をつけられるわけもないと端っから諦めて、俺からの依頼をウィンフィルドに丸投げしていたと」


「…………」


「でも俺に大口叩いた手前、丸投げしたとあっちゃあ面目を保てないから、ウィンフィルドに頼んだことは黙っていたと」


「…………」


「黙っていたということはつまり、最終的には全て自分の手柄にしようとしていたと」


「…………」


「で、ウィンフィルドはそれを全て見抜いた上で、アンゴルモアが苦しむさまを見るためにあえて自分も黙っていたと」


「いぇーい」



 ……頭痛がしてきた。



「あ、でも、勘違いしないで、ね。怠けてたわけじゃ、ないよ。ちゃんと、話は、通しておいたから。でも、皆、直接会ってから、判断したいって。ただ、今のところ、他の人の召喚に、応じないようには、してくれてる」



 流石は軍師、そういう大事なところに抜かりはないな。


 これで一先ず、早い者勝ちを心配する必要はなくなった。


 仕事を全部押し付けてメンツばっかり気にして何もしない大王と、可能な限りの仕事をこなしてついでに仕返ししておく軍師。情けないほどの大差である。



「ウィンフィルド、ありがとう。じゃあ結局、俺たちが直接会いにいって、話をつけるしかないってことだな」


「そう、だね~」



 十分だな。素晴らしい働き。流石軍師、略してさすぐん。


 よし、アネモネはもうリンリンさんに取られてしまっているから、ラズは第二候補で、エコとシルビアは第一候補で、話をつけに行こう。


 何処へ話をつけに行くかって、決まってる。あそこだ。



「アンゴルモア」


「……我がセカンドよ」


「一言いいか」


「うむ」



 今回の件、多分この一言に集約されると思う。




「ダッッッッッッッサwwwww」



 おっと失礼、草が。


 意気消沈していたアンゴルモアは、トドメを刺されたようにガックリと項垂れた。


 まあ、反省してもらって……。



「しかしアンゴルモア、ウィンフィルドに頼むという判断は実に素晴らしかった。おかげで話が上手くいった」


「ッ! そうであろう!」


「依頼を受けてくれたことと、そこだけは評価してもいい。ありがとう」


「フワハハハハ! そうであろうそうであろう! 我に感謝するがよいぞ!」



 そして、ちょっと褒めるとすぐこれだ。


 こいつ単純だよなあ……。




「じゃー、セカンド、さん。さっそく、行っちゃう?」


「おっ、そうだな」



 ウィンフィルドが、手に持った三枚の紙・・・・をヒラヒラとさせながら言った。


 さすぐん。しっかり人数分用意してあるんだな。そりゃ一か月もあったんだから、彼女にとってはこのくらいの先読みは当然か。



「待て、セカンド殿。何処へ行くのだ? 精霊と話し合いに行くのだとして……何処へ?」



 シルビアが困惑の声をあげる。


 まあ、もっともな疑問だろう。精霊が何処に住んでいるのかなんて、漠然としかわからないと思う。



「簡単だ、すぐに行ける。行き方は、ウィンフィルドの持っているこの紙を一枚と、1CL小銅貨を十二枚、枕の下に入れて、昼の12時に眠っているだけでいい」


「???」


「場所は……行けばわかる」



 シルビアの困惑、その理由はわかる。


 そこ・・へ、本当に行けるのかどうか……それが気になっているのだろう。


 大丈夫、百聞は一見に如かずだ。今ここでいくら説明しても、大した意味はない。



「アンゴルモア」


「どうした、我がセカンドよ」


「俺の分、出してくれ」


「フワハハよかろう!」



 ウィンフィルドの三枚は、シルビアとエコとラズへ。俺の分は、アンゴルモアから。


 紙には「渡航許可証」と書かれている。


 これは精霊が一日に一枚出すことができる特殊なアイテムだ。



「せかんど、ところでさくせんは?」


 おっと、エコが待ちくたびれたというように聞いてきた。いつまで経っても作戦が発表されないもどかしさからか、心なしか流暢に喋っている。



「よし、話をまとめよう。と、その前に……」



 俺はラズにアイコンタクトを送った。


 すると、ラズはニッと笑って頷く。



「うちらもこの一か月、クイズばっかりやっとたわけやないで~」



 そして、インベントリから二枚の“精霊チケット”を取り出した。



「グッド!」


 思わずサムズアップする。ラズに任せてよかった。



「シルビアはんが一枚、エコはんが一枚。見事にドロップしよったわ」


「ラズベリーベルのアドバイスで、トレオダンジョンを延々と周回したのだ」


「でるまでやった! たいへんだった!」


「うむ……大変だった。実に」



 なるほど、トレオか。あそこは魔物の湧き数が凄まじいから、確かに低確率ドロップの精霊チケットを狙うにはもってこいである。


 ちなみにラズは、プレミアム精霊チケットを持っているはずだ。あいつも俺と同じくプレミアム課金アバターだから、キャラ作成時にセットで受け取っているだろう。ゆえに、精霊チケットはシルビアとエコの分の二枚でいい。



 さて、準備は万端だな。



「では、作戦を発表する!」


「!」



 よーく聴きたまえ。



「俺たちはこれより、精霊界・・・へと殴り込みに行く」


「!?」


「そこで、目当ての精霊と話をつけるぞ」



 狙いはもう決まっている。




「シルビア。お前は、決して懐かない青炎の鳥、火の精霊ブレ・フィニクスを捕まえろ」


「りょ、了解した」



「エコ。お前は、四大精霊最強、水の大精霊ヘカトと話せ」


「まっかせて!」



「ラズ。お前は、アレだろう?」


「せやな。うちはネペレーにしよか思とる」


「いいチョイスだ。じゃあお前は、風っていうか雲の精霊、ネペレーを口説け」


「よっしゃ、やったるで」



 彼女たちのプレイスタイルから見て、これらの精霊が現状のベスト。




「皆、枕の下に渡航許可証置いとけよ。12CLも忘れんなよ。精霊チケットも持っとけよ。歯ぁ磨けよ」



 時間だ。





「それじゃあ、就寝――!」




お読みいただき、ありがとうございます。



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[良い点] 『おっと失礼、草が。』 めちゃくちゃ笑ったwwww
[気になる点] 要はこれ、全ユーザー共通BOXガチャとかいう闇システムで更に最高レアリティの何体かを、一チームが排出絞って実質独占してたってことでしょ? なかなかゲスイことしますね。
[良い点] 面白い! [気になる点] バルテよりラズベリーを3番目の彼女に! バルテはキュベロに(次回の闘神位でキュベロに勝つとか) [一言] お体に気をつけてこれからも面白く楽しい展開をお願いします…
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