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23 リンプトファートダンジョン


 優勝賞品の『追撃の指輪』を受け取り表彰式を終えた俺たちは、逃げるようにして王立魔術学校を後にした。


 マインとの約束については、こっちが落ち着いた頃に俺の方から王宮を訪ねると言っておいた。


 不思議なことに、ポーラ校長や司書長のシルクから問い詰められることもなく、ノワールさんや騎士団から問い合わせが来ることもなかった。おそらく俺が第二王子直属の魔術師となったから、滅多なことではちょっかいは出せないのだろう。


 こうして、俺の魔術習得計画は一先ず成功した。肆ノ型と伍ノ型はのちのち覚えればそれでいい。




「さて諸君。当面の目標を発表する」


 俺の言葉にシルビアとエコは背筋を伸ばした。「いよいよ」という気持ちが窺える。


 とんとん拍子に【弓術】【剣術】【魔術】ときて、お次は【召喚術】……と行きたいところだが。


「とにかくひたすらダンジョンで経験値稼ぎだ。特にエコが中級者くらいに成長するまではずっと周回するぞ」


 俺は現状覚えているスキルの水準を上げることがまず何より優先だと考えた。ゆえに、今日からしばらくの間ダンジョン周回に精を出すことにする。3人での連携も練習しないといけないし、シルビアとエコを強くするというのも大切だ。ついでに何か攻略報酬を狙えればそれもまた一興。一石四鳥のよくばりセットである。


「むっ。またロイスダンジョンか?」

「だんじょん!」

「ロイスではない。今回は乙等級ダンジョン『リンプトファート』を周回する」

「ふむ。まあ乙等級ならば……」

「おつ!」

 エコはただ復唱しているだけなのだが……いいのかそれで。いいんだろうな。


「リンプトファートダンジョンは魔物が複数で出現しやすいが、索敵範囲が狭いから上手く引き付ければ一体ずつ相手できる。立ち回りの良い練習になるな。加えて、防御力は高いが攻撃力は低いから、ちょっとは安全だ。それにボスの岩石亀からは『岩甲之盾』がドロップする。エコの装備にちょうどいい」

「そうか……ん? 待て、盾だと? エコに盾?」

「エコは前線で魔物からの攻撃を防御する役割に適しているから、今日から【盾術】を上げていこうな」

「うんわかった!」

「待て。待て待て待て! セカンド殿!」

「盾で防いでもダメージが通る時がある。そのために【回復魔術】も取得しておこう」

「りょーかい!」

「おい! こ、こんな幼気いたいけな少女を、前線に立たせる気か!?」

「大丈夫だ。近いうちにビクともしなくなる」

「そういうことじゃなくてだな!?」


 ガミガミとうるさいシルビアと従順なエコを引き連れて、俺は武器防具屋へと向かった。


 そこでエコの身長程もある大盾を迷わず購入。防具はエコの体に合った鎧がなかったので、代わりに高級レザー装備を買った。全身セットで400万CLと俺の装備より高い。店主のおっさんはホクホク顔である。


 その後、コミケへ行って《歩兵盾術》と《香車盾術》の2つを覚えさせた。エコはスキル本を辞書を使って1冊あたり30分ほど読んだだけで覚えられた。やはりこいつメチャクチャ優秀なのかもしれない。


 それからコミケを出て『カメル教会』へと向かう頃には、シルビアも静かになっていた。エコのポジションについて納得したのかと聞くと、図書館と教会だから仕方なく静かにしているだけらしい。教会を出たらまたうるさくなるのか……。


「よし、エコ。回復魔術の魔導書を見せてもらうぞ」

「いいの……?」

「大丈夫だ。シスターに言えば見せてもらえるはずだ」


 正面から教会に入り、シスターに目的を話す。シスターは快諾し、すぐに【回復魔術】《回復・小》の魔導書を持ってきてくれた。


 エコは魔導書を受け取ると、辞書を片手に黙々と読み始める。その様子がどこか必死なように見えて、俺は少しばかり不安だったのだが……。


「おぼえたっ! せかんど、ありがとう! あたしおぼえられた!」


 エコは魔導書を読みだしてから20分と経たずにそう言うと、俺に抱き着いてきた。


 教会なのに大声で。人目など気にしないストレートな感情表現。シルビアが「よかったな!」とまるで自分のことのように喜びながら言った。俺はエコの頭を撫でながら、シスターに向けて困ったように笑う。シスターも微笑ましいものを見るように笑顔で頷いてくれた。


「よし、じゃあ行くか」

 目的は達成した。もう教会に用はないな。


「ちょちょちょ、待て! え、そのまま帰るのか!? お祈りくらいしていけ!」


 ……出たよシルビアお母さんが。


「はぁ~」

「はあー」


 俺が溜め息をつきながらカメル神の像の前まで戻ると、エコも俺の真似をして後を付いてきた。「まったく仕方ないな」という視線を俺とエコに向けられたシルビアは「あれぇ……?」と首を傾げながらも共に祈りを捧げていた。




 王都から馬で片道4時間。

 農業の町『ペホ』から更に30分ほど進んだ先に『リンプトファートダンジョン』はある。


 飛龍で移動しないとこんなに時間がかかるのかと辟易したが、この世界に来てからそもそも飛龍で移動している人を見かけた覚えがない。こりゃ飛龍をテイムしたところでそう簡単に移動できるわけじゃなさそうだ。


 ちなみにエコにも馬を買ってやった。名前は「リーフインパクト」だ。速そう。

 ふと気になったのでシルビアの馬の名前は何だと聞いてみると、彼女は自信満々に「白銀号だ!」と答えた。白銀って、どう見てもその馬は茶色なんですが……シルビアのセンスが分からない。


 そんなこんなでペホの町に到着した俺たちは、宿屋を拠点にして翌日から早速リンプトファートダンジョンの周回を開始した。


 最初の2~3周はエコの【盾術】スキルの習得を優先しながらまったりと進む。


 【盾術】で覚えておきたいスキルは6つだけ。基礎の《歩兵盾術》と《香車盾術》に加えて、《桂馬盾術》と《金将盾術》と《角行盾術》と《龍馬盾術》である。


 その他はどちらかというと盾を使った攻撃スキルなので、防御に徹するためのスキルならばこの6つで十分なのだ。


 エコは《角行盾術》と《龍馬盾術》以外を難なく習得した。効果はそれぞれ《歩兵盾術》が通常防御、《香車盾術》が貫通反射、《桂馬盾術》が防御+ノックバック、《金将盾術》が範囲誘導防御+ノックバックである。


 中でも《金将盾術》が【盾術】の要とも言える使い勝手の良いスキルだ。範囲誘導防御というのは、スキル発動時の一定範囲内に侵入した攻撃を自動的に自分の盾へと誘導し防御してしまうことを言う。「吸い込み」とか「ダイ○ン」とか呼ばれていた。そのうえノックバックまでしてしまうのだから、スキルの有用性が見て取れる。




 それから何日か経ち、10周目くらいになると、エコの筋肉僧侶としての頭角がめきめきと現れ始めた。


「なっ、エコ! 大丈夫か!」


 バコーンという大きな音。


 リンプトファートダンジョン内でも特に攻撃力の強い魔物である『ヨロイリザード』の一撃が、盾を構えたエコにクリティカルヒットする。


「ほ……?」


 ド派手なエフェクトにビビったシルビアが駆け寄ると、エコは「え、なんかあった?」みたいな顔で振り向いた。


「…………あれっ?」


 混乱するシルビア。

 まさか、ヨロイリザードの攻撃をクリティカルで受けて、そんなはずはない――そう思っているのだろうが、そのまさかである。


「盾術のおかげでHPとVITがかなり上がってきたみたいだな」

「そ、そうなのか……」


 エコのHPは5%も削れていなかった。


「よいしょっと」

 エコは自分で《回復・小》を発動し、HPを回復する。


 だんだん壁役として頼もしく成長してきた。


「そろそろ角行盾術かな」

 俺はそう呟いて、ダンジョンの最奥、ボスを目指した。



「いいかエコ。俺の声に合わせてスキルを発動させて防御しろ。ストレートでも大体15分はかかる。ミスったらまた最初からだ。できるか?」


 岩石亀と対峙する前に指示を出す。


「……うん。できる」 


 エコは珍しく口を閉じた真剣な表情で頷いた。


「行くぞ」


 俺の声とともに、岩石亀の前に躍り出る。


 これまで10匹ほど倒してきた岩石亀。今まではエコが前線で防御を引き受けながら俺とシルビアが後方から【弓術】でボッコボコにして秒殺していたが、今回は違う。


 《角行盾術》の習得条件は「【盾術】を用いて自分より強いボスの攻撃を100回連続で完全に防御する」こと。

 ネックなのは「完全に」という部分だ。たったの1ポイントもダメージを受けてはならない。ゆえに、防御方法は限られてくる。


 遠距離貫通攻撃を《香車盾術》で弾き返すか、《桂馬盾術》もしくは《金将盾術》で『パリィ』しつつノックバックさせるかだ。

 パリィとは敵の攻撃に合わせてタイミング良く防御した場合に発動する現象で、ノーダメージ+弱ノックバックの追加効果をもらえる。

 ちなみに《歩兵盾術》でパリィした場合、弱ノックバックしかしないので追撃までの猶予が少なく即座に防御せざるを得なくなり、ダメージを受けてしまう確率が大幅に増してしまう。


 こうなると、もはやリズムゲーと化す。

 慣れるまでは大変だ。しかしタイミングさえ身に付けてしまえば、常にパリィで防御ができるようになり、非常に有利に戦闘を行うことが可能となる。

 今回は《角行盾術》の習得条件を埋めながらタイミングの練習をしてもらうことも狙いの一つだった。


「桂! 金! 桂! ……香!」

 我ながら完璧な指示。ばっちり付いてきているエコも大したものだ。


 比較的単調でゆっくりとした攻撃をしてくる岩石亀だが、それでも初見でパリィのタイミングを掴むことは難しい。このためにリンプトファートダンジョンを選んだのだが思った以上に難航しそうだ。


「あうっ!」


 エコがパリィを失敗し、攻撃を受けてしまう。


「今のは少し遅かった。もう一度できるか?」


「できる!」


 エコは力強く頷いた。自分で《回復・小》を2回ほどかけて、また立ち向かっていく。


 それから1時間ほど。俺たちは岩石亀と対峙し続け、エコはついに《角行盾術》を習得した。


お読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この時のエコの覚悟と成功した気持ちを考えると涙が…
[気になる点] すぐ馬乗れてんの草 [一言] いやあのー、主人公って乗馬経験者ですか?素人で馬なんか、まともに乗れないでしょ。歩く状態でも大変なのに、走ってる馬なんか絶対乗れない
[良い点] 話が面白い。 [気になる点] 将棋の駒の名前がわざと強さに紐つかないのでピンとこない。 [一言] 話の流れが面白いのに、スキルを連呼するところは読めないです。飛ばしちゃいます。
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