閑話 照れファンクラブ、ソブラくん溢れて
おまけ その2
※ソブラは出てきません。
「打ち上げじゃーっ!!!」
「っしゃオラァー!」
「祝え祝えぇーっ!!」
「宴じゃ宴じゃああああ!!」
セカンドたちが自宅で盛大に八冠記念パーティを開いている頃、一方でそれ以上に盛り上がる集団があった。
王立魔術学校の大ホールを借りて、ジュースで祝杯をあげる女たち。「セカンド・ファンクラブ」の面々である。
大ホールの使用許可は、三ヶ月以上前から校長ポーラ・メメントへの直談判により得ていた。彼女がセカンドの親友マイン・キャスタル国王の母フロン・キャスタルと懇意であることはセカンドファンならば常識中の常識。ゆえに、きっと良い返事が貰えると踏んでいたのだ。
結果、大ホールの時間外利用許可が下り、こうして三百人以上のファンクラブ会員が集う一大イベントが執り行われることとなった。
「では、さっそく振り返って参りましょう」
ファンクラブ副会長アロマ・ヴァニラが音頭を取ると、ホール正面の壇上に設置されていためくり台がパラリとめくられた。
そこには大きな字で「一閃座戦」と書かれている。
要は、これよりセカンド・ファーステスト対ラズベリーベルの試合について語り合うということ。
つまるところ、今回の打ち上げパーティは、セカンドの試合を一戦一戦振り返って皆で心ゆくまで語り合おうという趣向であった。
「まずめっちゃ聞きたい点としては解析班の見解ですかね」
誰かの意見に、多くの者が賛同する。
「はい、解析班長です。ええと、一発目から申し訳ないのですが……多分、この試合が一番本気だったんじゃないかなと見ております」
おおおお、とホール内が俄かに騒めいた。
誰が一番本気だったのか。言わずもがな、セカンドである。
「主な根拠といたしましては、最も長い時間をかけていたこと、試合中に笑顔であったこと、理解不能な技巧が比較的多かったこと、嬉しそうに叫ばれていたこと、試合終了時に残念そうな顔をされていたこと、以上です」
「あ~納得。おぇえ!? とか叫んでましたもんね」
「チョー珍しいのでは?」
「確かに。目を潰されても叫ばなかったのに、一閃座戦では叫んでる……」
セカンドの「おぇえ!?」というリアクションは、彼女たちにとって意外なものだったようだ。
「なんか、少し上の立場から、相手を称えるような叫び声でしたけどね」
「うん、わかる。存外の成長を見せられて驚喜する、みたいな」
「あ……ラズベリーベル様、セカンド様のことを先輩って呼んでいるんですよねぇ」
「なるほど! 先輩後輩!」
「後輩の成長にびっくりしつつも、先輩としての圧倒的威厳を見せつける、と」
「謎は解けたな」
「ところで、あのお二方ってどういう関係……?」
「ご学友?」
「幼馴染?」
「後者に一票」
「いや前者の方が萌える」
「お?」
「あぁん?」
相も変わらず、皆好き好きに語り出す。
アロマは、暫く待ってから話を切り上げ、次なる議題へと移った。
めくり台には「霊王戦」の文字が出ている。
「はいはいはいはいはいはい! はい!」
めくられた瞬間、方々から元気の良すぎる挙手が連発した。
霊王戦、セカンド・ファーステスト対ヴォーグの試合には、皆なんらかの思い入れがあるようだ。
「はい、眼鏡の貴女」
「それは一言で表すなら、まさに――美の暴力」
拍手喝采。
心から賛同の拍手、であろう。
「いやマジで、なんなんすか。セカンド様とアンゴルモア様が並んでるだけで鼻血出るのにですよ、更にその横にミロク様て……ミロク様て!!」
眼鏡の女子生徒は魂の咆哮を発するや否や、ごほんと咳払いを一つ、曇った眼鏡をクイッと整える。
「……失礼。しかしあの光景は、甚だ、甚だ尊かった。この気持ち、皆さんならわかっていただけるはず」
「禿げ上がるほど同意ですね。セカンド様とアンゴルモア様のクソ美形コンビ、あの長年連れ添った相棒感、互いに心から通じ合っているからこそ多くの言葉を必要としない信頼関係、ここに寡黙で忠実な長髪美青年のつよつよ魔人が加わるとか……これで捗らないやつおるんか?」
「おらん」
「主、斬ってもよろしいか? って確認するのてぇてぇ。許可が出て恐悦至極とか言って喜んじゃうの、もっとてぇてぇ」
「ミロク様の奥義にセカンド様が感心してた時、アンゴルモア様ちょっとムッとしてた気がするんだよなぁ」
「やびゃあああああ! やめろ! その情報は私にクリティカルヒットォ!!」
段々と収拾がつかなくなってくる面々。
一方で、真面目に議論している者もいた。
「試合運びを急いでいたヴォーグさんからして……恐らく、あんこ様は夜でなければ出せないのだと思います」
「なるほど。過剰戦力ゆえに召喚しなかったわけではない、と思ってはいましたが」
「しかしヴォーグさんは今後厳しい戦いを強いられますね。ミロク様を超える魔物を用意するだけでも限りなく不可能に近いと思いますし、最終兵器あんこ様は余裕で温存されていますし、生身でもセカンド様を上回らなければならないとすると……」
「ドラゴンを三体揃える、とかどうでしょう」
「仮にその無理を奇跡的に成立させたとして、まだ全く届いてなさそうなのが……」
考えれば考えるほど、何故かしんみりとしてくる。
見かねたアロマは、次なる議題へと移った。
めくり台の文字は「千手将戦」である。
「私、セカンド様とスチーム辺境伯は、あり寄りのありだと思うんですよ。主にスチ×セカで」
「寝言は寝て言え」
「いやいやいや、考えてもみてくださいよ。近隣諸国との外交、国境防備、領地運営で忙しい辺境伯のような存在が、狙い澄ましたかのように出場するでしょうか?」
「んっふ……セカンド様の色男っぷりも、困ったものです」
「いや明らかに邪推なんだよなぁ」
「でも、スチーム様はセカンド様と仲良くなりたそうだよね。ご自身でも口にしちゃうくらいだし」
「まあ、それも国防上の観点からじゃない? セカンド様を味方にしておきたいって皆考えるでしょ」
「逆のような気もするよね。味方は無理でも、最低限、敵に回したくはないって」
「あー……」
皆、その意見に納得した。
次いで、話題はセカンド対グロリアの試合へと移る。
「ありゃあ、マジでゾクった……」
「私も。鳥肌立った」
「ええ」
ここで珍しく、アロマが語り合いに参加した。
一つ、思うところがあったようだ。
「私のお父様も観ておられたのですが、あの試合が一番印象的だったと仰っていました」
「副会長パパの最推しかぁ……気持ちはわかるなぁ」
「一発喰らってからの、怒涛の圧倒だもんね」
「一瞬、怒ったようにも見えたんだけど……めっちゃ笑顔だったしなぁ」
「セカンド様、ラズベリーベル様の時くらい本気だった気もする」
「ええ、そうですね」
「副会長パパはなんて言ってたんですか?」
「……スッキリした、と」
「あー、わかりますわかります」
会話の中、アロマは暫し逡巡した後、言おうと思っていた言葉を飲み込んだ。
本当は、アロマの父親はこう言っていたのだ。「天賦の才を木っ端微塵に叩き潰すその強い悦びに共感できた」――と。
それは強大な権力を持つ貴族であるがゆえに理解できた感覚なのだろう。
逆に、そのような立場や経験がなければ、決して味わえない悦楽でもある。
改めて考えれば、この場で出すべき意見ではなかったと、アロマは人知れず反省した。
「では、次です」
そして誤魔化すように、議題をめくる。
次は、「四鎗聖戦」について。
「これこそスッキリでしょ」
「十秒で終わった試合って、もしかしてタイトル戦史上初なのでは?」
「セカンド様がラデン元四鎗聖を十秒で吹き飛ばしたの、多分シャンパーニさんへの思いが関係してる気がする」
「あ、わかっちゃった。銀将?」
「そうそうそう」
「シャンパーニさん、最後の銀将、相殺? を狙おうとしたんだろうね、きっと」
「あー、あの、一閃座戦とか、闘神位戦で出てきた」
「シャンパーニさんを侮ってたラデン氏に、あえてシャンパーニさんが失敗しちゃった技を使って吹き飛ばすっていう」
「いやぁ、すこだ……」
「そういうところ、ホントすこ」
ここ好き、あそこ好き、と各々の好きポイントを語り合い始め、例の如く脱線する面々。
アロマは無言でぺらりと議題をめくった。
「あ、さてさて、次ですか」
めくり台には「天網座戦」の文字。
「まず、名勝負賞の試合についてでしょう」
「あー、私、セカンド様の目が潰されて……あれ、この目にした時、なんていうか、その、失礼なんですが、フフ……ガッツポーズ、しちゃいましてね」
「わかるわー。普通なら心配するところだけどさ、なんだろう、セカンド様なら絶対に喜ぶ場面だって、なんか確信めいた直感があってさぁ」
「事実、めっちゃ楽しそうでしたもんね」
「目から流れた血が頬を伝って鎖骨に落ちていってさ……あの辺がセクシー……エロい……」
「それでもしっかり勝ち切るっていう。そりゃ名勝負ですわ」
皆、納得の名勝負賞であった。
そして、セカンド対プリンスの試合はというと。
「カッパ大先生、呼べばよかったなー」
「流石に学外の方は呼べませんからね」
「しかし、カッパ大先生の遺産には一理も二理もある」
「セカ×プリは、あり寄りのあり。当たり前だよなぁ?」
「あのお互い子供に戻って無邪気に楽しむ感じ、すこすこのすこ」
「プリンス君のクソガキ感、嫌いじゃないぜ」
「セカンド様の新たな一面を引き出している。+364364点」
「あの野郎の自作自演のせいでアロマ副会長がセカンド様から多大な恩恵を得ている。-931億万点」
「判決、ギルティ」
何故か次第に矛先がアロマへと向き始める。
アロマは「やれやれ」と一言、抗議の声を無視して議題をめくった。
次は「叡将戦」だ。
「あれ、どう見ても待ち合わせでしょ」
「わかる。気合入れておめかししてきたムラッティ氏と、いつだって準備万端のセカンド様が、叡将戦で待ち合わせて、一緒に遊びに出かける……的なね」
「セカンド様、まだまだ待ってそうですけどね」
「本当の意味でデートできるのは、何年先になることやら」
「前はセカンド様って付き合い良いなぁ~と思ってたんですけど、実はムラッティ氏の方が付き合い良いんじゃないかなぁと最近思い始めました」
「魔術師にあるまじき辛抱強さという名のVIT」
「魔術師はMGRなら高いから」
「辛抱強さならSPなのでは」
「それだ!」
再度、脱線。
仕切り直して、次の議題は「闘神位戦」である。
最初は、セカンド対ダビドフについて。
「まず、全力を出してとお願いされて、クッソえげつないサマソで死体蹴りかますセカンド様マジセカンド様」
「流石に失礼でしょ。死体蹴りじゃなくてオーバーキルと言え」
「そもそもキルしてねぇよ」
早々に、話題はセカンド対キュベロへと移る。
「堪らん」
「堪りませんな」
「タマランチ会長」
「誰だそれ」
この試合はファンクラブ的にツボだったようだ。
「主人と執事なのに、対等な友人でもあって、師弟のような深い信頼もあって、家族のような絆もあって……はぁ~~、良いわよねぇ……溜め息出ちゃうわよねぇ……」
「元は義賊の若頭らしいですよ、キュベロさん。レンコさんとの試合の時もそうでしたけど、普段は物腰柔らかな方なのに、結構、怖いところもありますよね」
「そんな凄い人なのにセカンド様を前にすると緊張しちゃうあたりがシコい」
「台無しだなテメェ」
「……というか、皆さんの中で気付いていた方いらっしゃいます? 使用人さんたちが集まっている席の一角で、試合中ずっと号泣していたボサボサ髪で無精ヒゲの眼鏡をかけた男性なんですけど」
「ああ、それなら」
「知っているのか副会長!」
「流石だ副会長」
「うるさいですね。それなら、ソブラ兄さんです」
「ソブラ兄さん?」
「ファーステストの料理長ですよ。兄さんは、愛称みたいなものです。体調不良から復帰されてから、非常に涙脆いらしいです。涙を溢れさせていたのも、同期のキュベロさんがセカンド様と渡り合う勇姿を見てのことでしょう」
「うわあ……」
「何故そこまで知っているのか」
「副会長、流石にキモイです」
「……照れますね」
「いえ、褒めてません」
一同、アロマのあまりの知識にドン引きする。
次いで、話題はセカンド対ノヴァの試合について。
「アーアーアー、知りませーん」
「セカンドさまがたのしそうでよかった」
「惜しむらくはノヴァ元闘神が男ではなかったことただ一点」
「わたしゃあ、セカンド様が笑顔でおってくれるんなら、それでええんや……」
ファンクラブ一同、何故か遠い目をして語った。
オランジ王国陸軍大将によるセカンドへの猛烈アプローチは、どうやら遠い過去のことにしたいようである。
「さて、最後です」
宴もたけなわという頃、めくられた最後の議題は「毘沙門戦」だった。
「あーこれ、いざ始まるまでいまいち謎だったんですよねぇ。始まったらもっと謎でしたが」
「でも何か熱いものは感じたね」
「解析班的にはどうですこれ?」
「はい、解析班長です。注目するならば、セカンド様が出場されているタイトル戦の中では最も平均水準が高いように思われる点でしょうか」
「それは私も感じましたね。少なくとも、誰が誰と戦っても勝負が成立しそうでした」
「セカンド様としては、勝負を成立させてあげているのでは?」
「勝負が好きなら、勝負を拒否する理由はないでしょ」
「あーね」
「逆に、最も差が出ているのが霊王戦だと思います。あくまで、素人目の考察ですが」
「当たっていると思いますよ。だって……いや、無理でしょ、常識的に考えて。アンゴルモア様ミロク様あんこ様がいて、まだ後一人増える可能性もあるんですし……」
「セカンド様ご自身のステータスも八冠分ですものねぇ」
「その点、毘沙門戦には希望が」
「ないです」
「あ、ない……」
「アカネコさんは頭一つ抜きん出ていましたが、それでもセカンド様を心の底から笑わせられなかったと考えると、差は明らかです」
「確かに、一閃座戦と比べると、少しアッサリしていました」
「お二人って師弟関係なんでしたっけ?」
「試合終了直後にメッチャ駄目出しされてましたし、そうなんじゃないんですか?」
「えっ? セカンド様とミロク様に挟まれて、手取り足取り腰取り……?」
「全くけしからん」
「けしからん、けしからんったら、けしからん」
「ケシカランチ書記長」
「だから誰なんだよ」
こうして、一頻り語り終え。
お開きかと思えば、もう三周ほど語り合い。
その後も好き好きに語り合い。
心ゆくまで語り合い。
女たちの夜は、更けていった――。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は約一年半ぶりに【登場人物紹介】です。
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書籍版第3巻、発売中!
コミックス第1巻、発売中!!
皆!! 言わんでもわかるな!?
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