02 サブキャラ
「――あれ?」
気が付けば、俺はメヴィウス・オンラインの中にいた。
そこは王都ヴィンストンの大通り、俺がよく利用する食料品店『アイシクル』の前。
久々に見た中世ヨーロッパ風の町並み。親の顔より見ただろうこの剣と魔法の世界に広がる風景を、もう二度と見ることはないと思っていた。だが、やはり何度見ても良いものは良い。帰ってきたなぁと感じる。
しかし……いつの間にログインしたんだっけ?
「ちょっと、邪魔! 店の目の前でぼーっと突っ立ってんじゃないわよ!」
背後からアイシクルの看板娘アイスちゃんの声がかかる。
聞き慣れた声優さんの声だが……あれ、このセリフは聞いたことがない。知らないうちにアップデートがあったのか?
「っ……! あ、の……ごめん。うちの店になんか用?」
俺が振り向くと、アイスちゃんは目を見開いて驚き、何故か急にしおらしくなった。
よく見ると、頬が薄らと赤く染まっている。
「おおー、可愛い!」
俺は思わず声に出した。これは良い。とても良い。神アップデートと言っても過言ではない。
「な、なんっ、なに言ってんのよ、もうっ!」
すると、アイスちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、そのまま恥ずかしそうに店の中へと去って行った。
素晴らしい挙動! 俺がしばらくログインしていなかった間に好感度システムかなんかが導入されたのかもしれない。こっち路線も良いじゃないかクソ運営。これ目当てに相当数のプレイヤーが増えて市場が潤いそうだが――……
……ん?
あれ、なんか今……
「――――っ!」
俺は食料品店のショーウィンドウに映った俺の姿を目にした。
ああ、やっぱり。
違う。
『seven』ではない。
これは――
「……セカンドか」
頬を触り、顔を確かめながら、そいつの名前を呟いた。
メインキャラ『seven』と時期を同じくして作成したサブキャラ『セカンド』。まだ何の育成もしていない、経験値ゼロの倉庫キャラクター。
青黒い髪と銀色の目に透き通るような白い肌、長身細身で超絶美形の期間限定課金アバターが、ガラスの中で驚愕の表情を浮かべていた。
「そうか、そういえば」
随分前に、食料品店の前でログアウトしたのを思い出した。
正月のイベントでもち米を大量購入してメインキャラのインベントリが満杯になったから、こいつにも買わせてそのまま放置していた気がする。
「…………はぁあああ」
クソでかい溜め息が漏れる。
sevenが復活したのか、と無意識に一瞬でも期待した俺がバカだった。
俺のsevenは、世界一位は、もう何処にも存在しないんだ。
何度も何度も噛みしめたはずのことなのに、思い出すだけで泣きそうになる。
駄目だ。
今さらもう一度メヴィオンをやり直す気にはなれない。
とっととログアウトだ。
…………。
………………。
……………………。
「ん?」
ログアウトがない。
というか、管理画面が開けない。
バグったか?
とりあえず緊急停止ボタンを押して「現実」に――?
……あ。
いや、待てよ。
「――――ああ、そうか」
そうだ。現実なんてねーよ。なんで忘れていたんだ。そうだよ。そう。俺はもう
「死んだんだった」