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168 一閃座戦 その3

【剣術】 ダメージ:STR依存

《龍王剣術》 前方への強力な範囲攻撃+スタン

《龍馬剣術》 全方位への強力な範囲攻撃

《飛車剣術》 非常に強力な単体攻撃

《角行剣術》 素早く強力な貫通攻撃

《金将剣術》 全方位への範囲攻撃

《銀将剣術》 強力な単体攻撃

《桂馬剣術》 精密攻撃+急所特効

《香車剣術》 貫通攻撃

《歩兵剣術》 通常攻撃

(飛+桂、銀+桂、香+桂、歩+桂の複合が可能)



 一閃座挑戦者決定トーナメント準決勝第一試合、レイヴ対ヘレス・ランバージャック。


 俺は出場者席から対峙する二人を観察していた。


 どちらかというと気になるのはレイヴの方だが……審判の号令と同時に二人が構えた瞬間、俺の興味はヘレスへと移った。


 ヘレスのやつ、アレ・・は、まさか。



「ツヴァイヘンダーやな」

「だな。両手剣か……あぁそうか、なるほど」


 隣に座っていたラズが、ヘレスの武器を目敏く見抜く。


 ツヴァイヘンダー、鋼鉄製の両手剣だ。これは大剣とまではいかないまでも、重く、長く、取り扱いの難しい剣である。


 ……冬季では、ヘレスは長剣を使っていたはずだ。何故、この半年でがらりと武器を変えてきたのか。理由はハッキリしている。



 俺の『セブンシステム』に、リーチ・・・で対抗しようと考えたんだろう。


 悪くない戦法だ。あいつは“攻めっ気”が強い。俺の初手にカウンターで無理矢理決めに来ようとしていたあたり、まさにと言える。だからこそ、リーチを活かして常に先手を取り、俺のペースを乱そうとしていたんじゃなかろうか。



「なんや、センパイ楽しそうやな?」

「あ? 笑ってたか」

「そらもう! めっちゃ良い笑顔やん」

「……ヘレスがめっちゃ進化してたんだ。笑顔にもなる」

「ほ~ぉ」


 あいつ、常識をかなぐり捨てやがった。


 後手有利という常識を、綺麗サッパリ。


 武器も、戦法も、常識も。持てる全てを一度捨て、ゼロから新たなことに挑戦する。


 シルビアとエコが通った地獄の道を、ヘレスもまた独自に通っていた。


 それもこれも、俺に勝つため。勝ちたくて、勝ちたくて、何がなんでも勝ちたくて、その一心で、地獄の半年を過ごしたのだろう。


 ああ。それってさ、やっぱり愛だよな。



「――始め!」


 試合開始の合図。


 レイヴは相も変わらずセブンシステムの初手、《歩兵剣術》《桂馬剣術》複合をヘレスの右足先目がけて突き立てた。


 一方、ヘレスは……



「お、ええんちゃう?」


 下段の構えから、カウンター気味に横方向へステップを踏んでいる。


 そうだ。ラズベリーベルの言う通り、良い動きだ。


 長剣でカウンターを狙い《銀将剣術》を振り下ろせば、セブンシステムの餌食となる。しかし、長剣ではなく両手剣となれば話は別。そもそものリーチが違いすぎるため、セブンシステムの初手が届く前に両手剣が先に届き、呆気なく返り討ちにあってしまう。


「なんか笑てまうな」


 一気に間合いを詰める二人を見て、ラズがそう口にした。


 言わんとしていることはわかる。これはつまり、定跡覚えたての初心者が全然使いどころじゃない場面で無理に定跡を使おうとしている図。微笑ましいというかなんというか……つい、笑みがこぼれてしまう。



 でもな、実は続き・・が、あることにはあるんだ。


 さて、どうするレイヴ君。


 ヘレスも、ラズさえも、気付いていないようだぞ。


 君が俺の動きをただ単に丸パクリしているだけなら、これで終わりだが。


 その“先”まで準備をしているのなら――



「!?」


 二人がぶつかる寸前。



 レイヴは突如、スキルをキャンセル。


 そして、ヘレスが振り下ろすツヴァイヘンダーに背を合わせるようにして、前進しながらクルクルと反時計回りに二回転、一瞬にしてヘレスの背後へと回り込んだ。



 やはり、こうなったか……!



「嘘やろっ」


 思わず立ち上がるラズ。


 ははは! 笑えるな。



 大剣も両手剣も、接近されるのが一番怖い。つまり、攻撃が目的じゃない。接近こそが・・・・・目的。



 ここで焦って攻撃する旨みはない。ここでわざわざ攻撃を当てに行く必要性もない。


 初手で“有利ポジション”を奪取することこそ、セブンシステムにおける対両手剣変化の第一の目的なのだ。



「いやぁ、あいつ最高」


 レイヴ君、凄くいい。

 ひょっとしたら天才かもしれない。



「このッ!」


 焦ったヘレスが、《歩兵剣術》を背後のレイヴに向けて大きく振り抜く。


 しかし、その重量ゆえあまりにも動きが遅い。加えて長いため、旋回にも時間がかかるわ、思い切り振らないと攻撃できないわで、良いところが全くない。ツヴァイヘンダーの弱点がこれでもかと出まくっている。



「終わり」


 一言、レイヴが呟いた。



 ああなれば、ヘレスの《歩兵剣術》より先に、レイヴの《銀将剣術》が間に合ってしまう。


 それは、火を見るより明らか。



 レイヴの剣が、ヘレスの側頭部へと襲い掛かる。



 勝敗は、決した……








「終わらん!!!!」


「――っ!」




 ……かに、見えた。



 ヘレスが叫んだ刹那、火花が散る。


 レイヴの《銀将剣術》を、ヘレスは《歩兵剣術》で受け止めたのだ。


 直後、ガチャンと大きな金属音が鳴った。ヘレスのツヴァイヘンダーが地面・・に落ちた音だ。




 あの野郎……やりやがった。



 両手剣を捨て、インベントリから短剣・・を出しやがった!




「この時を待っていたッ!!」


 ヘレスは《銀将剣術》にパワー負けしながらも、弾かれる勢いを使って横方向に体を倒し、レイヴの側面へと体を密着させる。



 ……立場が、逆転した。


 接近戦は、両手剣より長剣、そして、長剣より短剣の方が、有利。



 読んでいたのだ。両手剣を使っている限り、相手は接近戦を狙いに来ると、ヘレスは読んでいたのだ。



「……やるやんか」


 ラズベリーベルの呟きが全てを物語っている。


 魅せたんだ、あいつは。


 この試合の一番の盛り上がりを、見事に掻っ攫っていった。


 そう。真剣勝負にこそ現れる、見る者全てを魅了する瞬間の煌き。それは時に、勝敗を超えた熱を生む。




「甘いよ」


 レイヴの冷静な呟きが、ヘレスに一瞬早く敗北を覚らせた。


「な、に……ッ!?」



 蹴り・・だ。



 ただの、蹴り。


 スキルすら使わない、前蹴り一発。たったそれだけで、ヘレスとレイヴの間合いは、離れてしまう……長剣の適正距離へと。



「残念」


 無慈悲な宣告。


 レイヴの《角行剣術》が、鋭くヘレスを狙った。


 ああ、本当に、残念だ。リーチが違いすぎる。あれを防ぐのは、至難の業。


「くっ!」


 そう、そうだろうな。ヘレス。お前はそういうやつだ。


 ここで《金将剣術》での対応を選ばず、《銀将剣術》で刺し違えようとするやつだ。


 でもな、金将なら投擲で、銀将ならリーチ負けで、終わってしまう。


 いずれにせよ、お前にはもう、活路は残されていないんだ……。



「――そこまで! 勝者、レイヴ!」





  * * *




「あんたの息子はん、えらい熱い勝負するやん」

「おやおや、なんとも嬉しいお言葉です。聖女様に褒めていただけるとは、私も鼻が高いですよぉ」

「うちらも熱い勝負せんとあかんなぁ?」

「……へぇ。これは楽しみ甲斐がありそうだ」


 一閃座挑戦者決定トーナメント準決勝第二試合、ラズベリーベル対ロスマン。


 闘技場中央に歩み出た二人は、表面上、にこやかに言葉を交わす。



「絶望しとるんちゃうか?」

「おかしなことを仰る。一体何にです?」

「自分、もう二度と戻れへんで。一閃座」

「は……はっはっは! はっはっはっはっは!」

「なに笑とんねん」


 ロスマンはぴたりと笑いを止め、無表情で口を開く。


「ふざけるのも大概にしろよ」


 それは、悔しさも怒りも、なんの感情も含まれない、至ってナチュラルな表情。

 微笑みの仮面が剥がれた、ロスマン本来の顔と言えた。


「おー怖。それがあんたの本性かいな」

「こうしていたずらに挑発するのも貴女の戦術ですかな、腹黒聖女」

「大当たりや。あんたはん、こうでもしないとうちのこと見てくれへん・・・・・・やろ?」

「はは。確かに、ですねぇ……」


 ロスマンはちらりと出場者席の方を見やる。


 その視線は、半年前からずっと固定されていた。


 彼の二十年の天下を終わらせた張本人、セカンド・ファーステスト一閃座へと。



「互いに礼! ……構え!」


 長剣をゆらりと構えるロスマンと、相変わらず棒立ちのラズベリーベル。



 ロスマンは、彼女と勝負をするつもりでいた。


 挑発は効いていない。しかし、おかしなことに、「良い勝負をするつもり」にはなっていた。


 普段の彼ならば、「圧勝するつもり」のところを。



「――始め!」


 号令がかかる。


 直後……ラズベリーベルは、インベントリから長剣・・を取り出した。



「ほう!」


 ロスマンは嬉しそうな顔をする。


 大剣ではなく、長剣。それはつまり、ラズベリーベルは本気ということ。


 ……と、錯覚したのだ。



「当たると痛いでー」


 次の瞬間、ラズベリーベルは《角行剣術》を発動し――長剣を投擲・・した。



「ふむ、下らないですねぇ」


 それは、セカンドを相手に一度見た技。それも、この半年間ずっとセカンド対策を続けてきたロスマンにとっては、まさにあくびが出るような小手先の技に見えた。


 ロスマンは《香車剣術》で軽く弾きながら、間合いを詰める。


「次行くでー」


 すると、ラズベリーベルは、二本目の長剣を取り出し、再び投擲した。


 次いで、三本目、四本目、これは《銀将剣術》で、五本目は《香車剣術》で投げる。


 挙句の果てに、《歩兵剣術》で投げた六本目と七本目は、狙いを僅かに外し、ロスマンを飛び越えていった。



「……なんですかねぇ、これは。私を馬鹿にしているのですか?」


 危なげなく対応したロスマンが、苛立たしげに口にする。


「おっと、ここや、ここ」


 一方、ラズベリーベルは、左に三歩だけ移動して、こくりと頷く。


 何が「ここ」なのか。



終わり・・・や」



 ラズベリーベルがインベントリから取り出したのは、やはり、大剣。


 そして《飛車剣術》を準備し、ロスマンとの間合いを一気に詰める。



「はてさて何が終わりなのか」


 ロスマンは、ギリギリまで引きつけながら、《金将剣術》での対応を選ぶ。


 それは、カサカリが見つけ出したセブンシステム六手目の対策。ロスマンもまた、ここに着目し、半年の間に対策を立てていたのだ。



「大剣、舐めたらあかんで」


「……? なっ!?」



 その言葉の意味が瞬時に理解できなかったロスマンは……致命的状況になり、初めて思い知った。



 ラズベリーベルは、その大剣をも投げた・・・のだ。



 振りかぶり、振り下ろすモーションと同時に、大剣はまるでギロチンのように刃を半回転させてロスマンへと襲い掛かる。



 ――間に合わない。


 《金将剣術》が、間に合わない……!



「馬鹿な!!」


 ロスマンは即座にスキルをキャンセルし、回避しようと必死に体をねじり、しかしそれすら間に合わないと感じ、咄嗟に防御のため長剣を体の前に出した。


 バキン! と、大きな音が鳴り、ロスマンは遥か後方へと吹き飛ばされる。




「!?!?!?」



 直後……全観客が、度肝を抜かれた。



 そして、ラズベリーベルの「ここ」という呟きの意味を知る。


 彼女が序盤に投擲した、七本の長剣。それらがまるで道しるべのように、ロスマンの吹き飛んだ先へと等間隔に配置されていたのだ。



「なんッ!?」


 着地、と同時に、ロスマンは長剣を踏み、バランスを崩す。


 ダウン・・・――その隙を、ラズベリーベルが逃すはずもない。


 追撃のため全力疾走で間合いを詰め、インベントリから長剣を取り出し、《銀将剣術》をゴルフのように振り抜く。



「ぐはっ!」


 再び吹き飛ばされ、着地した先には、長剣。


 またしても、ダウン。


 そして、またしても、追撃。


 またしても、ダウン。

 またしても、追撃。


 またしても、ダウン。

 またしても、追撃。


 またしても、またしても、またしても……。



「……えげつねー」


 出場者席のセカンドが、半笑いで呟いた。


 着地点に特定アイテムが設置されている場合、ダウン判定となる。これは、その特性を存分に活かした“ハメ技”。


 セカンドは、もう笑うしかなかった。


 ラズベリーベルは、この一閃座戦の舞台で、元一閃座を相手に、見事ハメ技を成功させてしまったのだ。


 だが、セカンドは呆れ笑いをしながらも、同時に、今すぐ立ち上がり「凄い!」と褒め称え拍手したい気分でもあった。


 このハメ技、仕組みは単純でも、実際に人間を相手に行うのは、あまりにも難しい。


 それをこうも鮮やかに成功させたのは、後にも先にもラズベリーベルだけと言えた。


「こんなに綺麗に決まることがあるのか」と、一種の感動さえ覚える鮮やかさである。



 そう、彼女は、端っから「熱い勝負」などするつもりはなかったのだ。


 熱い勝負をしようという誘いは、全くの嘘。下手な挑発で自分に注目させようとしたのは、熱い勝負へとロスマンの意識を誘導するため。そして、熱い勝負を意識するのなら、ロスマンは下手な小細工などなしに真っ直ぐラズベリーベルへと向かっていくだろう。


 ロスマンが少しでも横方向へ移動したら、全てがパーだった。まさに針の穴に糸を通すようなセッティング。しかし、それでも成功させたのは、ラズベリーベルの盤外戦術あってのこと。


 やはり、全てが、緻密に計算されていた。



「――場外! そこまで! 勝者、ラズベリーベル!」


お読みいただき、ありがとうございます。


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