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166 一閃座戦 その1

【剣術】 ダメージ:STR依存

《龍王剣術》 前方への強力な範囲攻撃+スタン

《龍馬剣術》 全方位への強力な範囲攻撃

《飛車剣術》 非常に強力な単体攻撃

《角行剣術》 素早く強力な貫通攻撃

《金将剣術》 全方位への範囲攻撃

《銀将剣術》 強力な単体攻撃

《桂馬剣術》 精密攻撃+急所特効

《香車剣術》 貫通攻撃

《歩兵剣術》 通常攻撃

(飛+桂、銀+桂、香+桂、歩+桂の複合が可能)



「――これより、第467回夏季タイトル戦を開幕する!」


 マインによる高らかな宣言。

 円形闘技場に集まった幾千の人々は、割れんばかりの歓声で応えた。


 ついに始まる。夏季タイトル戦が。


 キャスタル王国国王の御前でずらりと整列するタイトル戦出場者たちは皆、思い思いに開会を祝っている。大きく拍手する者も、静かに手を叩く者も、無言で立ち尽くす者も、その心は同じだろう。


 いよいよ――だ。

 良い意味でも、悪い意味でも、いよいよ。


 冬季よりも、確実に熱く、強く、盛り上がっている。


 さて……これは誰のお陰だろうね?



「自信は如何ほどかな、三冠」


 タイトル保持者を先頭にして一列に並ぶ中、一閃座いっせんざとして最前列にいた俺は真後ろのヘレスに声をかけられた。


「そう言うお前はどうなんだ」

「失礼。私はあるとも。少なからず、君に挑むまではね」


 金髪のイケメン剣術師ヘレス・ランバージャック。流石はあのシェリィの兄貴だ、なかなか活きの良いことを言う。



「俺は自信なんてものはない」


「ほう! 意外だ。その心は?」


「自信なんて考えたこともない」


「……ハハ。これは、一本取られたかな」



 ヘレスは小さく笑って、後ろに下がっていった。


 開会式が終われば、すぐに一閃座戦の挑戦者決定トーナメントが始まる。


 俺と顔を合わせることになるやつは、一体誰になるだろう?


 もし、ヘレスが来たら、俺に勝てる可能性は万に一つもない。今の短いやり取りで、あったかもしれないその万に一つの可能性が消えたと言っていい。それくらい重要なのだ、試合前の精神状態というのは。


 さあ、誰が来るか。


 なんとなく、もう予想はついているが……な。




  * * *




 一閃座挑戦者決定トーナメント。

 対戦表は、以下の通り。


A ヘレス・ランバージャック(前回二位シード)

B ガラム

C カサカリ・ケララ

D レイヴ

E ロスマン(前回一位シード)

F ラズベリーベル


{(C vs D) vs A} vs {(B vs F) vs E}


 このトーナメントの優勝者が、セカンド・ファーステスト一閃座とタイトルを奪い合うこととなる。



 初戦は――カサカリ・ケララ対レイヴ。



「またしても初戦を飾ることになろうとは。このカサカリ、感無量である」

「…………」


 民族衣装のような奇抜な格好で、くねくねと舞い踊る眼鏡のオジサン。

 一方、それをつまらなそうに冷めた目で見ている黒髪の青年。


 実に対照的な二人であった。


「おや、レイヴ殿。私の舞いがお気に召さないかね?」

「うん」

「正直だ。実に好印象ッ。流石はあのロスマン殿のご子息と言えよう」

「早くして」

「おっと、これは失敬」


 互いに“決闘冠”を装備し、距離を取る。


 夏季タイトル戦における決闘冠の設定は「決闘中に限り両者のHPは必ず1のみ維持され、如何なるダメージにおいてもHP維持は有効となる。また致命傷を受けた場合は強制的にスタンする」という、前回の冬季タイトル戦と変わらないもの。


 ルールもまた同様。先に致命傷を与えた方の勝利。ポーション等アイテムの使用は不可、当該スキルに準じる装備品のみ可。当該スキル以外のスキルを使用した時点で失格。決められた決闘範囲の外へ全身が出た時点で失格。制限時間一時間、最終戦のみ時間無制限。


 何一つ変化はない。

 しかし、出場者の変化は、明確に、あるだろう。



「――始め!」


 審判の号令と同時に、カサカリは片足で立ち、レイピアを構えた。剣術戦においては有利と言われる後手に回りやすい、彼の独特な戦闘スタイルだ。


 以前、セカンドとの試合で見せたものと同じ、舞踏剣術とでも言うべき変わった型である。


 そして……



「何!?」


 カサカリが驚きの声をあげる。



 レイヴは号令と同時に一瞬で距離を詰め――カサカリの右足手前に向けて《歩兵剣術》と《桂馬剣術》の複合を突き刺すように放った。



「このっ……!」


 カサカリは足を引いて対応する。

 直後、カサカリの突き出た左手を、レイヴの《歩兵剣術》が鋭く狙う。


「やはりか!」


 バランスを崩しながらも躱し、距離を取るカサカリ。


 その呟きは、少しでも【剣術】を嗜んでいる者ならば誰もが抱いた感想であった。



 ――やはり。レイヴは、セカンドの【剣術】を、『セブンシステム』をなぞって・・・・いる。



「…………」


 無言のまま《飛車剣術》を準備し、カサカリの懐へと突き入れるように突進するレイヴ。その瞳は、やはり何処か冷めていて、退屈そうであった。



「否! 無策と思うなかれ!」


 六手目。以前、カサカリはここを《金将剣術》で対応して、セカンドに敗北を喫した。


 ……彼の本音としては、とてもそうは見えなくとも、悔しくて悔しくて仕方がなかった。恥を忍んで本人に教えを乞い、ボロクソに言われ、口の中に血の味が広がるほどの悔しい思いをした。それでも新一閃座の誕生を本心から称え、決して礼を失さず、彼の鮮烈な剣術に一種の憧れすら抱き、なんとかして破る方法はないかと、この半年間の全てを剣術に注いだのだ。



 カサカリは、静かに怒っていた。


 絶対に負けてはならない、と。この私を、このカサカリ・ケララを破った彼の「真似っこ」などに、絶対に敗れてはならない――と!



「刮目せよ! これが私の答え・・だッ!」



 半年間の答え。

 半年間をかけて準備に準備を重ねた、六手目の打開策。


 それは――棒立ち・・・


 カサカリは勝負を諦めたわけではない。ギリギリまで引きつけるという手を選んだのだ。


 早いうちに《金将剣術》で対応を見せれば、《角行剣術》での投擲が来る。そこからはセカンド対ロスマン戦の手順と合流し、後手が不利は明らか。であれば、先手の《飛車剣術》キャンセルからの《角行剣術》投擲ができないであろう限界まで引きつけてからの対応ならば、《金将剣術》で受け切れるのではないかと、カサカリはそう考えていた。


 これは実に巧妙で、本筋に限りなく近い選択。


 ここで先手が飛車キャンセルからの角行投擲ならば、後手は飛車キャンセルの瞬間に距離を詰め始めることで相手に投擲する暇を与えることはない。かと言って飛車のまま突進をしてくれば、ギリギリの金将準備からの対応で反撃を用意していた。


 見事に切り返せている。カサカリの、渾身の一手。



「そっか」


 レイヴは、小さく一言こぼした。


 それはまるで……「ああ、その変化ね」とでも言いたげな、余裕のある呟き。



 直後。


「!?」



 《飛車剣術》キャンセル、からの――《飛車剣術》、準備。



「あ、ああっ!」


 カサカリは情けない声をあげながら、間合いを詰めていた足を止め、《角行剣術》による投擲を阻止せんと準備していた《銀将剣術》を慌ててキャンセル、焦って《金将剣術》の準備を始める。



 ……しかし、間に合わない。距離はもう、十分に詰まってしまっている。



「詰め、甘いね」


 レイヴは嘲笑しながら、カサカリの顔面に《飛車剣術》を叩き込んだ。


 クリティカルヒットが発動し……勝負は決する。



「――勝者、レイヴ!」




  * * *




「セカンド殿、セカンド殿!」

「なんだなんだうるさいなシルビア」

「見たか!? あの若者をっ!」


 静かに観戦していると、シルビアが憤りの表情を浮かべながら俺の肩を揺すってきた。


「ぱくってる!」

「な! 真似だぞ、あれは!」

「おろか!」

「そうだ愚かだ! エコの言う通りだ!」


 エコも納得がいかないのか、トゲのある口振りだ。


 なるほど、二人はレイヴが『セブンシステム』っぽい動きをしていることに怒っているんだな。


「いや、パクリって言われてもなあ」

「なんだ、セカンド殿は怒っていないのか?」

「別に」

「せかんど、やじゃない?」

「嫌じゃない嫌じゃない」

「なーんだっ」


 二人の気持ちもわからんでもないが、これで怒るってのは、自惚れ・・・だろう。


「うーむ……てっきり私は怒り狂っていると思っていたが」

「逆になんでそう思ったんだよ」

「己の力で戦わないなんて反吐が出るな、てめぇはなんのために一閃座戦に出場してんだよ! のようにな」

「しるびあ、にてる!」

「フフン、だろう?」


 散々な言われようだ。


 確かに、そんなことを言う場合もあるだろう。特に、セブンシステムの上辺だけを真似ているような輩には。


 だが、レイヴは違った。あの少年にほど近い歳の青年は、きちんと研究・・していた。



 定跡じょうせきとは、そういうものである。一度でもお披露目した時点で、研究されて、対策されて、採用されて、当然。


 彼は、よくわかっている。タイトル戦というものを、よく。



 カサカリもまた、よく頑張った。六手目の先手を引きつけるという選択は、決して悪くない。その後に呆気なく決まってしまったのは、手が続かなかっただけ、手を続けるだけの実力がなかっただけだ。


「あいつは己の力で戦ってるよ」

「しかし、気分の良いものではないだろう?」

「そんなこと言ったら、お前らも定跡使ってるじゃないか」

「う、うむ……しかし、あの若者とは違い、セカンド殿の許可は得ているぞ」


 許可。許可か。その発想はなかった。


「……実はな、お前に教えた弓術の定跡のレールを最初に敷いたのはMOSASAURUSUモササウルスさんだ」

「もささ……?」


 別名『発掘師』、最高レート2672の世界四位。


 ランカーたちが口を揃えて「終わった」と言っているような時代遅れの化石戦法を、最新定跡に勝るとも劣らない戦法へと昇華させ続ける、まさに定跡づくりの天才である。


 俺含めこういった天才たちによる発見とブレイクスルーの繰り返しの中で、定跡というものは時々刻々と変化し、それが大勢の中に放り込まれた瞬間から、じわりじわりと成長していくものなのだ。



「許可とかそういう問題じゃない。定跡ってのは、長い月日の中で地道な進化を重ね、今の形になる。常識は時代とともに移り変わる。常に新たな発見がある。その都度、定跡は形を変える。生み出したのは一人でも、作り上げるのは何十人何百人の研究者たちだ」


「では、私の覚えた定跡は」


「いわゆる“新モサ流弓術”を、更に俺なりに改良し、そしてシルビア向けにアレンジした形だな」


「そ、そうなのか」


「ああ。定跡ってのは、個人の財産じゃなく、タイトル戦の財産だ。出場者全員で、そのタイトルをより価値あるものに育成していく。そんな熱い意志の上に成り立った全員の技巧の結晶と言っていい」


「……うむ。なんだろうな。少し、感動したぞ」


 ようやく納得してくれたのか、シルビアは晴れやかな表情をしていた。



「ちなみに、その凝集された技術の塊をたった一人で超越し続けないと世界一位にはなれない。そして俺は、誰がなんと言おうと世界一位だ」

「は、ははは」


 注釈しておいてやると、引き攣った顔で呆れたように笑われる。


「なんだよ」

「いや、な。セカンド殿と出会ったばかりの頃は、ただ単に凄いなあと感心していたものだが……自分がその世界に一歩でも足を踏み入れた途端、こう言ってしまっては失礼かもしれないが、セカンド殿をとても怖ろしいと感じることがある」

「それ、わかる。せかんど、たまにこわい」


 横で話を聞いていたエコまでもがシルビアに加勢した。

 更にその横では、ラズベリーベルが「うんうん」と深く頷いている。


「お前もかラズ……」


 ちょっとショック。


「うち、センパイと試合する時は今でも怖いで。心臓を真ん中に、背中から全身が震えるんや。なんで毎度毎度そんなんなってまうか、理由もちゃーんとわかっとるのにな」

「何? 理由があるのか。私にも教えてくれ」

「簡単やで。センパイの前で、下手な真似できへんやんか。緊張や、緊張」

「……なるほど。セカンド殿の前で、無様は晒せない……か」

「おっかしいよなぁホンマ。センパイやない相手と試合する時もな、センパイが見とるって意識した途端、手が震えるんやで」


 ラズが静かに右手を前に出す。確かに、その白魚のように美しい指先は小さく震えていた。


 そうか、次の試合は――



「ほな、そろそろ行ってくるわ」



 ――ラズベリーベル対ガラム。


 彼女もまた、一閃座戦出場者。


 出場できているということは、彼女のことだ、恐らくカラメリア治療薬の開発は既に成功している。

 しかしまだ俺に直接的な報告はない。つまりは最終確認の段階、臨床試験中か何かで、彼女が時間を割かなければならない状況ではないのだろう。


 流石は最高128位の元ランカーと言うべきか、短い時間でこうもすんなりと、どちらも間に合わせてきやがった。


 特筆すべきは、彼女は俺より何年か遅れてプレイを始めたはずなのに、最終的に世界ランキング128位にまで順位を上げてきていたということ。


 加えて当時は大学にも通っていたと聞く。その要領の良さ、まさしく尋常ではない。



 白と赤の長髪を風になびかせて歩く超絶美形の背中を見送りながら、俺は期待に胸を躍らせた。


 彼女が、当時の彼女よりも成長できているのなら。

 その剣が俺に届く日も、そう遠くはないだろうから。



お読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公に諭されて理解していく仲間たちなところ。 人間は結局完璧じゃないんだから、良い方向に変わっていければそれで良いんだと思う。 [気になる点] 一番駄目なのは、成長する機会がありながら、…
[気になる点] 自分たちが定石を主人公に教えてもらって使うのは良くて、他の選手が研究して真似るのには目くじらを立てる。褒められた性格ではないし、小物っぽい。
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