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165 集結!!



 長い梅雨が明けた。


 ここのところ雨続きだったため、久々の朝の陽射しがなんとも心地良い。


 顔を洗って、ぐーっと伸びをして、窓辺の椅子に腰かける。外は少し蒸し暑いが、良い風が吹いていた。



 ……タイトル戦開幕まで、後少し。準備は、整いつつある。



「おはようございます、セカンド様。一つご報告が」


 そろそろ部屋を出ようかというタイミングで、キュベロがやってきた。


「おはよう。報告?」

「ええ、それが……」


 キュベロが苦笑いしながら口を開く。


 なんでも、朝っぱらから正門の前を右へ左へ行ったり来たりうろついている不審人物がいるらしい。


 俺はそいつの名前を聞いて、「ああ」と一言、リビングまで連れてくるように言った。


 そうか、そうだな。

 もう、そんな時期だろう。




「――久しぶりだなセカンド。また来いと言うから仕方なく来てやったぞ」


 その後しばらくしてリビングに姿を現したのは、水色の髪をしたやたらと偉そうな美形の男エルフ、ニル・ヴァイスロイだった。


「勘違いするなよ? 僕は叡将えいしょう戦に出るために王都ヴィンストンを訪れた。ホテルの部屋だってきちんと取ってある。そこへ向かう途中、たまたま貴様の家の前を通りがかったんだ。だからちょっと寄っていってやろうかと気まぐれを起こしただけさ。勘違いするなよ?」

「はいはい」

「か、勘違いするなよ!」

「してないしてない」


 こんな朝早くにこんな郊外の高級住宅街をたまたま通りがかったんだとさ。


 ニヤニヤする俺に対してニルが四回目の「勘違いするなよ」を言いかけたところで、ユカリが朝メシを運んできた。何故かちゃっかりニルの分まである。


 今日の朝メシは普段より少し豪勢なものだった。来客用だな。多分、正門前でうろつくニルを見かけた時点で、使用人たちはこうなることを予見していたんだろう。流石の気配りだ。


 そして、ニルはというと……律儀にも俺が食べ始めるのを待っていた。


 以前のこいつなら「ヴァイスロイ家の僕が云々」とか言って当然のように先に食べ始めていたところだろうに。


「お前……」

「……なんだよ」

「いや、なんでもない。食べようか」



 この半年で、ニルも色々とあったようだ。


 俺は少し嬉しくなって、ユカリの持っていたピッチャーを借り、ニルのグラスに水を注いでやった。


 ニルは照れ臭かったのか「フン」と鼻を鳴らし、少しだけ頬を赤くしながら、話を逸らすように口を開く。


「ところで、後の二人はどうした」

「朝練中」

「貴様はいいのか?」

「俺の場合はしっかりと朝メシを食う方が重要だ」

「フン。精々、足をすくわれないよう気を付けるんだな」

「ご忠告どうも」


 ニルの「僕がその足をすくってやる」とでも言いたげな口ぶりに、思わず口角が上がる。


 人間的に成長したことで、魔術の方も成長したのだろうか。そうかもしれない。今のニルからは、以前のような焦りや不安が感じられなくなっていた。




「セカンド。出場者一覧はもう見たか?」


 朝メシを食べ終わり、紅茶を飲んでいると、ニルが唐突にそんなことを口にする。


 俺はなんとなくこれが本題なのではないかと思い、ティーカップを置いて正面から向き合い返事をした。


「まだだ」

「そうか……」


 ニルはしばしの逡巡の後、言葉を続ける。


「叡将戦出場者に、アルファの名前がなかった」

「……何?」

「それだけではない。この半年間、音沙汰がないんだ。もっとも、僕だからかもしれないが」

「そりゃそうだろ」

「き、貴様……まあ、いい。アルファは貴様の弟子になるんだろう? 何か知らないのか?」

「俺は、家のごたごたが片付いたらここを訪れる、とだけ聞いている。つまりは……」

「プロムナード家で何かがあったかもしれない、ということか」


 俺はてっきり夏季叡将戦で再会し、その流れでファーステストに来るんじゃないかと考えていた。


 だが、半年間も音信不通の挙句、不参加というのは……流石におかしいな。


「わかった。俺の方でも調べてみる」

「フン。勝手にしろ」

「ありがとな」

「……チッ」


 ニルは舌打ち一つ、ばつの悪そうな顔で去っていった。



 ……アルファの行方、か。


 タイトル戦が終わるまでに、手がかりの一つでも掴めるといいが……。




  * * *




「いやはや参りました。これほど勝ち筋の見えない相手も珍しい」


 今年の夏もまた、王都ヴィンストンを訪れる男の姿があった。


 前一閃座いっせんざロスマン――歳は四十半ば、短い黒髪に後退した前髪、中肉中背、皺のある目元と、恐ろしいまでの眼光をした男――は、馬車から降りると溜め息まじりにそう呟く。


 彼はこの半年間、普段の生活の中でも、移動の馬車の中でも、延々とセカンドを破ることばかり考えて暮らしてきた。


 しかしながら、ついぞあの男を破る方法は見つからず、王都へと到着してしまったのだ。


「父上。三冠打倒は、そう簡単じゃない」

「相も変わらず、レイヴは彼の味方ですか」

「ごめん」

「結構。剣に正直であれ、とは私の教えですよ」


 ロスマンの隣には、黒髪黒目の青年が一人。


 彼の実の息子、その名をレイヴといった。


 レイヴはまだ若干幼さの残る顔つきながらも、その眼光は父に勝るとも劣らぬ鋭さで、寡黙なことも相まって、齢十六にして既に剣豪の風格が漂っている。



「ロスマン先生。ご無沙汰しております」

「ああガラム君。元気そうで何よりだ」


 そこに、一人の大男がやってきた。


 第二騎士団副団長ガラム。身長2メートルはあろうかという筋骨隆々の体型が特徴的な、一閃座戦出場者。


 ロスマンの王都入りを迎えるのは、長年彼の役目であった。


「しかし君に一閃座ではなく先生と呼ばれるのは、はてさて何年振りか」

「ハハハハ……おや、そちらは」

「ああ、私の息子です。挨拶なさい」


 ガラムが目を向けたのは、ロスマンの隣で退屈そうに佇んでいるレイヴ。


 彼はロスマンによって一歩前に突き出されると、面倒くさそうに二言だけ発した。


「レイヴ。よろしく」


 ……この世界における十六歳とは、若いからと失礼の許される年齢ではない。


 それも、王国騎士団最強と謳われる剣術師を相手にそれでは、喧嘩を売っているようなもの。


 しかし、ロスマンは何も注意せず、ガラムもまた何も言えなかった。


 このレイヴが、その失礼が許されるほどの何かを持っていると、知っているから。



「彼が噂の秘密兵器……ですか」

「まだまだ完成には程遠いですがねぇ、我が子ながら恐ろしいものがありますねぇ。私としては後一年温めるつもりでしたが、レイヴがどうしてもと言うものですから」



 二人の会話を無視して、ぼうっと何処か遠くを見つめるレイヴ。


 二十年間一閃座に君臨し続けた稀代の剣術師をもってして「恐ろしい」と言わしめるその青年の視線は、一体何を見据えているのか――。






「ディー、ジェイ。足元に気を付けなさい」


「うるさいわね、わかってるわよ」

「姉さん、お師匠様は親切で言っているのだと思いますよ」

「その親切がいちいちうるさいのよ。ジェイもそう思うでしょ?」

「え、いや、まあ、それは確かにそうですが」


「ほら二人とも、無駄口を叩いてないで早く馬車から降りなさい。御者の方に迷惑だ」


「はいはい」

「はい、今すぐ」


 王都ヴィンストンに到着する馬車が一台。


 中から姿を現したのは、癖のある鈍色の長髪を風になびかせた壮年の男アルフレッド。その後ろから、エメラルドグリーンの長い髪が特徴的なつり目の女エルフ、ディー・ミックスと、その妹で姉によく似た顔立ちと髪色をしたショートカットの女エルフ、ジェイ・ミックスであった。


 三人はなんだかんだと言い合いをしながら、賑やかに馬車を降りる。



 しっかりと前を見据え、迷いなく歩く三人――彼らを知る人から見れば、それは以前では考えられなかった姿と言えた。



「セカンド三冠には、きちんと挨拶するように。これは師からの命令と思いなさい」


「何回言うのよそれ。十回以上聞いたわよ、もう。わかったって言ってるでしょ」

「お師匠様。私たちに信用がないのはわかりますが、流石に言い過ぎでは」


「信用していないわけではないが……ともかく、彼には最大限の敬意を払ってほしい。私の、恩人なんだ」






「クッ、クハッ! クッハハハハハ!!」

「か、閣下、如何なされましたか……?」


 とある王国の、とある城内の、とある一室。


 身長180センチ、赤黒い髪の、素手で何人も殺していそうな眼光をした、とある人物が、使用人の持参した書簡を読みながら大口を開けて笑っていた。


「やはり来た、セカンド・ファーステスト! 私の目に狂いはなかった!」


 人は、この恐るべき将軍・・を「闘神とうしん」と呼ぶ。


 その手に握られたるは、闘神位戦出場者一覧表。


 闘神が見据えるは、たった一人の男の名前。



「このノヴァ・バルテレモン、逃げも隠れもせんッ! 狼煙を上げろ! 今より此処を発つ!」



 オランジ王国陸軍大将ノヴァ・バルテレモン。


 王国最強の切り札と謳われる闘神が、その燃え盛る闘志を剥き出しにして、あの男の前に立ちはだかろうとしていた――。






【第467回夏季タイトル戦出場者一覧】



【剣術】<一閃座いっせんざ戦>


☆セカンド・ファーステスト一閃座

A ヘレス・ランバージャック

B ガラム

C カサカリ・ケララ

D レイヴ

E ロスマン

F ラズベリーベル



【弓術】<鬼穿将きせんしょう戦>


☆エルンテ鬼穿将

A シルビア・ヴァージニア

B アルフレッド

C ディー・ミックス

D ジェイ・ミックス



【魔術】<叡将えいしょう戦>


☆セカンド・ファーステスト叡将

A ニル・ヴァイスロイ

B ゼファー

C チェリ

D ケビン

E ムラッティ・トリコローリ



【盾術】<金剛こんごう戦>


☆ロックンチェア金剛

A エコ・リーフレット

B ゴロワズ

C ジダン

D ドミンゴ



【召喚術】<霊王れいおう戦>


☆セカンド・ファーステスト霊王

A ヴォーグ

B カピート

C ビッグホーン

D シェリィ・ランバージャック



【体術】<闘神位とうしんい戦>


☆ノヴァ・バルテレモン闘神位

A セカンド・ファーステスト

B ダビドフ

C レンコ

D キュベロ



【槍術】<四鎗聖しそうせい戦>


☆ラデン四鎗聖

A セカンド・ファーステスト

B カレン

C シャンパーニ



【杖術】<千手将せんじゅしょう戦>


☆グロリア千手将

A セカンド・ファーステスト

B スチーム・ビターバレー



【糸操術】<天網座てんもうざ戦>


☆プリンス天網座

A セカンド・ファーステスト

B イヴ



【抜刀術】<毘沙門びしゃもん戦>


☆ 不在

A アカネコ

B カンベエ

C マムシ

D アザミ

E マサムネ

F セカンド・ファーステスト


お読みいただき、ありがとうございます。


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[良い点] タイトル戦出場者、いいメンツしてんねぇ!特にラズベリーベルとセカンドの転生者対決と、シルビアとエルンテの因縁の対決が楽しみ それはそれとして、セカンドがほぼ全部の部門にエントリーしてて笑っ…
[気になる点] タイトル戦の出場者一覧に知り合いしかいないのは、こう、そこはかとなく変な感じするね?オリンピックの出場者が全員身内みたいな。現状でも登場人物数エグいしそもそも九段にあげるのが難しいんだ…
[一言] 抜刀術はもう身内の戦いやんw
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