閑話 バーサス黒光り
おまけ その3
『書籍化&コミカライズやったぜSS』
※第一章06話と07話の間くらいに起きた一幕です。
転生してより数日、だんだんとこちらの生活にも慣れてきた。
ほぼメヴィウス・オンラインと同じ世界だ。ゆえに適応までそう時間はかからなかったが、“微妙な違い”に難儀することもしばしばある。
たとえば睡眠・食事・排泄・痛覚といった、ゲームに存在しなかった要素。何もしていなくとも、眠くなるし、腹は減るし、トイレに行きたくなる。タンスの角に小指をぶつけたら痛い。現実では当然だったそれらがゲームそっくりなこの世界の中でも当然となると、脳が少々混乱するのだ。
「まあでも、これほど最高な現実はないなぁ」
俺はいつものように宿屋一階の酒場でほどほどに酒を嗜み、良い感じで酔っ払いつつ二階の部屋へと戻った。
気分は上々だ。つい、この世界に対しての感想を口にするくらいには。
……ゆえに、すっかりと忘れていた。未だ見ぬ“微妙な違い”が、身近な何処かにひっそりと存在している可能性に。
「ん?」
視界の端で、何かがちらつく。
なんだろう? 俺は大して深く考えず、ベッドの置いてある方の壁へ視線を向けた。
「……………………」
ソイツと、バッチリ目が合う。
そ、そんな、まさか……!? いや、しかし、アイツは確実に……!
「うっ――!」
蛇に睨まれた蛙とでも言うべきか、俺はぬめぬめツルツル黒々と光るソイツと見つめ合ったまま、ピシリと硬直した。
……あり得ない。聞いていない。ここはゲームの世界だ。アイツが、あんなやつが存在していいはずがない!!
「カササッ」
「うお!?」
動いたッ! 動きやがった!! ちくしょう間違いない本物だッッ!
「く、くそっ……!」
一旦、撤退するか……? いや、否だッ! ここで臆してはならない。一度でも見失えば、もう二度とこの部屋には入れなくなる。幸いアイツはまだ視界の中にいるんだ……勝負を仕掛けるなら、ここしかない。
「…………そうだ」
冷静になれ、元・世界一位。お前は世界一位だったんだ、自信を持て! あれしきのスピード、屁でもないだろう? 世界ランカーたちはもっと鋭くえげつない攻撃を放ってきたじゃないか。ビビるな。逃げるな。いつだってそうしてきたように、コイツだって世界一位らしく打倒するんだ!
「くぅっ!?」
動いてるぅううう……ッ!
だッ……だが、俺は負けん! 転生前は幾度となく敗北を喫した強敵だが、この世界では勝つ!
……そう、そうさ! ハハッ! 残念だったなァ、黒光り野郎。この世界ではな、必殺の遠距離攻撃が、スキルが使えるんだよ!
「銀将弓術だ! その身をもって味わえッ!!」
五段の《銀将弓術》をぶちかます! 丙等級の魔物程度ならこれで一撃だオラァ!!
「や、やったか……!?」
ズガン! という爆音とともに、破裂した枕から飛び出した大量の羽毛が宙を舞う。
羽毛が晴れると……そこには、バッキバキに変わり果てたベッドの姿。
「………………」
ヤッベェ。
「い、如何なさいましたか!?」
宿屋の人が駆け付けてきて、弓を構える俺と、粉砕されたベッドを見て……一言。
「な、何やってるんですか?」
…………いやホント、何やってんだろうね俺。
その後、しっかり謝罪と弁償をして、なんとか許してもらった。
次は《歩兵弓術》にしておこうと、そう反省する俺であった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回から『第十章 タイトル防衛編』です。
書籍版第1巻ただいま絶賛発売中&コミカライズ大好評掲載中なので、よかったら買ってね&読んでね。