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135 威厳肝心歓迎


「日ノ出島……?」

「あれ? 知らない?」

「ええ。聞いたこともありません」


 ピンとこない様子のユカリ。


 おかしいなぁ。日ノ出島、メヴィオンでは確かにあったと思うんだけどなぁ。


 あ、そうだ。同郷に聞いてみよう。


「なあラズ。お前さ、日ノ出島知ってるだろ?」

「もち、知っとるで。クーラの港からずーっと東に行ったとこやろ? お日様の昇ってくる方にある島やから、日ノ出島呼ばれとんねんな」

「そうそう!」


 やっぱりあった。


 俺が「ほらね」という顔をすると、ユカリは顎に手を添えて「むむむ」という顔をしてから口を開く。


「クーラから東の方、ですか」

「ああ。ちょっと調べてみてくれ」

「畏まりました」


 頼んでみた直後、ユカリがリビングのテーブル一杯に地図を広げた。俺が見たことのない地図。つまりは、この世界の地図だ。


 ……なんだろうか、この地図。違和感・・・が凄まじい。

 地形が違ったり、国境がズレていたり、そこにあるはずのダンジョンが書かれていなかったり、微妙に名称が違ったり。


 こっちの世界ではこれが正しいのか、それとも単に間違っているのか。


「ユカリ。この地図は?」


 気になったので尋ねてみる。


「王都で入手したものです」

「これが一般的なのか?」

「いえ、ここまで大きく精巧な地図はなかなか。一般的なものとなると、この8分の1ほどの大きさでしょうか」

「ちなみにいくら?」

「198万CLです。経費で購入しました」


 高っ。

 いや、だがそれほど高いということは、地図が間違っているという線は薄くなったな。というかそもそもユカリに偽物を掴ませるなんて、俺なら怖くてとてもできない。


「まあいいや。それで、日ノ出島はどうだ?」

「少々お待ちください」


 ユカリが地図をテーブルの左に寄せ、畳まれた右端をパタリと展開した。

 俺たちは地図の右の方を見る。クーラの港から海に出て、右へ右へ、更に右へ。



「……おかしいですね。刀八島・・・なら御座いますが」


 極東の海にあったのは、刀八島という小さな島が一つだけ。


 刀八島。やはり聞いたことがない。

 ラズも首を傾げている。ということは、メヴィオンにはなかった島で間違いないだろう。


 メヴィオン勢が知らない刀八島、そして、この世界の人が知らない日ノ出島。



 ……もしかしてさぁ。


 刀八島=日ノ出島、なんじゃねえの?



「如何いたしましょう」


 判断を仰いでくるユカリ。


 俺の答えは既に決まっていた。



「行こうか、刀八島」







 翌日。

 行きたい行きたいと駄々をこねるエセ女騎士と猫型釣人と関西弁を黙らせて、ユカリと二人で港町クーラまでやってきた。


 久々にユカリと二人きりで旅行だ。しかも珍しいことに遠出である。


「ご主人様、あちらを」

「ん?」

「かつて二人で宿泊した宿屋で御座います。あの二階の部屋です。覚えておいでですか?」

「懐かしいな。お前のイビキがうるさくて眠れなかった」

「…………」

「痛てててて! ごめん冗談!」


 ユカリと組んでいる腕が雑巾のようにねじられて、堪らず謝った。


 頬を薄く染めつつ下唇を少し出して怒り顔をするユカリ。普段は表情変化に乏しい彼女だが、意地悪を言うとこういう顔もするのか。なるほど可愛い。


 なんか新鮮な気分だ。こんな穏やかな気持ちでユカリとのんびり歩くなんて、ひょっとすると初めてかもしれない。



「さて、刀八島行きの船は……」


 船の停泊している場所は、昨日の釣りの時に発見している。


 確か15時出港だったか。予約が必要だろうから、とりあえず船長と思しきオッサンに話を聞いてみることにした。


「なあ、ちょっと聞いていいか?」

「何をだい」

「刀八島行きの船って、予約できるか?」

「構わんが、あと1ヶ月は先だぞ」

「1ヶ月先!?」


 衝撃事実発覚。

 マジかよ。1ヶ月は待てねえわ。


「なんとかならん?」

「なんともならんな」


 駄目そうだ。


 じゃあもう船を買っちまおうか……と、そんなことを考えていると、唐突に俺たちの背後から声がかかった。



「わいが送ってっちゃろか」



 知らないオジサンだった。


「サンベエさん、危ねえぞ」

「大丈夫や、昨日の乗せ忘れ言うときゃ大目に見てくれっちゃろ」

「しかしなぁ」


 オジサンはサンベエという名前らしい。サンベエさんは「わいに任せとけ」と胸を叩く。

 対して船長のオッサンは、サンベエさんに心配そうな言葉をかけていた。


「何が危ないんだ?」


 俺が聞いてみると、オッサンが口を開く。


「あの島はな、余所者に厳しいんだよ。1ヶ月に1回、決まった者の出入りしか認めねえ。それを破るってなるとな……」

「心配せんでもよか! なんとかなるなんとかなる」

「はぁ。もうどうなっても知らんよサンベエさん」


 オッサンは呆れた様子で、サンベエさんの背中をぽんと叩くと去っていった。


「さ、邪魔者は行きよったけん、兄ちゃん姉ちゃん、わいの船乗んね!」

「悪いな、助かる」

「よかよー。そん代わり……」


 おっと、えらく親切だと思ったら対価の要求か。なんだろう。



「……これにサイン書いとくれん? “釣具屋サンベエさんへ”でいっちょ頼む!」



 サンベエさんが出してきたのは、1メートルくらいある大漁旗だった。


 ああ~、なるほどあの店の……。


「はいはい」


 俺はでっかくサインを書いて、おまけに「爆釣!」と入れて手渡した。昨日はお宅の道具使ってボウズでしたけどね。


「うわ嬉しかー! こら繁盛間違いなしや!」


 サンベエさんはウッキウキの様子でスキップしながら俺たちを船へと案内する。


 恐らく彼が釣具屋の店長その人なのだろう。従業員のねーちゃんに負けずとも劣らない濃さだ。



「さー出発するよー!」


 船に乗り込むと早速動き出した。


 すいすい進んで、あっと言う間に港が小さくなっていく。



「ご主人様。今後は店舗等へ気軽にサインを送られるなどなさいませんよう」

「え、なんで? サインごとき」

三冠王の・・・・サインです。ご主人様がお考えになるよりも、何百倍も何千倍も価値のあるものです」

「そんなにか」

「ええ。下手をすれば人死にが出るほどに」

「……そんなにか」


 やべえな。そりゃ確かに軽率だった。


「現在、ご主人様と契約してその人気を利用したいと考える企業は後を絶ちません。私たちメイド隊でできる限り食い止めてはおりますが、いずれはご主人様がお一人の時を狙って押しかけてくる場合もありましょう」

「人気だな」

「ええ、人気なのです。今、この王国で、最も。ゆえにどの企業もご主人様の人気を欲しがります。ゆめゆめお忘れなきよう」

「わかった、気を付ける。だがどんなしがらみがあろうと、俺がサインしたい時はサインするぞ」

「……はあ。全く」


 困った人だな、という冷たい視線で俺を見るユカリ。


 俺は「まあまあ」と誤魔化すように笑って斜め後ろから肩を抱く。

 ユカリは「仕方がありませんね」と一言、俺の胸に後頭部を当ててもたれかかった。


 気が付けば、視界は全て海ばかり。

 刀八島は、まだまだかかりそうだ。





「おお、見えてきたか」

「へえ! 目ぇ良かねぇ兄ちゃん!」


 3時間ほど進むと、刀八島が見えてきた。


 間違いない。あの見覚えのある形、俺の知る日ノ出島だ。やはり刀八島は日ノ出島のことであった。


「さ、何処に降ろそか? こっそりと裏磯か、安全に海岸か、堂々と港か」


 おいおい、そう聞かれたらこう答えるしかないぞ。


「港のど真ん中でよろしく」

「よっ! 男前!」






「――何者だ」


 とんでもねえ島。

 それが、第一印象。


 刀八島の港に到着するやいなや、着物を纏った男三人に立ちはだかられたのだ。

 なんとも手厚い歓迎である。


 そして、男たちの腰には“刀”。

 ……そう、お目当ての、刀。



「何者って言われてもねえ……」


 俺は首を傾げてなんと言おうか考えながら、背中の後ろでこっそりとジェスチャーを出した。


 サンベエさんに対してだ。

 逃げろ――と、船の方を指差す。


 何故かって、男三人は出くわした時からずっと戦闘態勢・・・・なのだ。常に殺気が迸っている。いつ斬りかかられてもおかしくない。



「兄ちゃん、すまねぇ……幸運を祈るッ!」

「なっ、逃がさぬ!」


 踵を返し船に乗り込んだサンベエさんを、着物の男のうちの一人が追いかけた。


 男の左手の親指が、つばをぐっと押す。

 あいつ、抜く・・つもりだな。


 野蛮なやつめ。そうはさせない。


 俺は即座にアンゴルモアを《精霊召喚》し、男の足止めを――



「フワハハハハ! 久しいのう! 久しいのう我がセカンドよ! えぇ!?」



 ――あ、駄目だ。めっちゃ怒ってる。



「な、何奴……!?」

「動くでないわ小虫が! そこで寝ておれ!」


 アンゴルモアは肩慣らしとばかりに着物の男三人を“這い蹲らせる風”で思い切り地面に叩きつけ、それから俺の方を向く。



 黄色のシャツに青い星の柄、そして同じ柄のズボンと、ナイトキャップ。


 ……よく見るとこいつ、パジャマ姿なんだけど。



「我がセカンドよ。我は随分と長いこと放置されておったなぁ?」

「はい」

「ゆえにである。まだ暫くは召喚されぬだろうと思うておった。それは当然のことと言えるな?」

「はい」

「…………」

「…………」

「……ゆ、油断しておったのだ」

「はい……」

「仕方がなかろう!?」

「はいそう思います」


 精霊界でのこいつの生活がどうなっているかは知らないが、どうやら喚ばれないだろうと油断してマジしていたらしい。


 おかげで顔を赤くしながらあーだこーだ説教していても、肝心の威厳が全くない。こりゃ大王としては致命的だな……。



 それから15分ほど。

 アンゴルモアの溜まりに溜まった文句を粗方聞いてやって、ようやく《送還》の許可が下りた。「また近いうちに召喚するから」となんとか宥めて、隣のユカリに白い目で見られつつ《送還》する。


 ……その間、かわいそうなことに着物の男三人は地面に這い蹲ったままであった。



「きっ、貴様、異国の妖術師か!」

「面妖な……っ!」

「なんたる禍々しさ!」


 そら見たことか。何か変な勘違いをされているぞ。



 ……ん? 異国の妖術師?


 …………異国?



「おい、ここはキャスタル王国じゃないのか?」


 俺の質問に、男たちは刀に手をかけながら答えた。



「何をおかしなことを!」

「ここは刀八ノ国トウハチノクニ!」

「抜刀術発祥の地であるぞ!」



お読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大王様、最高やな!
[一言] ウィンフィルドが1人で致している時に召喚とかなったら大変だな
[一言] 稲妻かな?w
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