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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
ハジマリの出会い
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第08話『もしもこの世界に神様がいるのなら』

「――ご機嫌だね、亜弥香」


昼休み。いつも通りお昼ご飯を一緒に食べる目的で亜弥香の席にやってきた久遠は鼻歌交じりに机に教科書をしまう亜弥香の姿を見てそんな感想を口にする。

時折見せる冷たい感じの口調だったが、喧騒に包まれたこの教室に久遠の言葉を聞いている人は亜弥香くらいしかいなかった。


「何かいい事でもあった? 私は朝から気分最悪なんだけど。てか亜弥香は何とも思わないわけ?」


捲し立てるように言葉を並べ、久遠は苛立ちの混じったため息を吐く。

【教会】の男の死は無論、久遠の耳にも入っている。久遠にとって今回のこの事件は【軍】からの宣戦布告だと捉えているようで亜弥香以外の人に勘づかれない程度にずっとピリピリとしていた。


「何とも思ってないわけないよ。すごく悲しい。でも、いつまでもウジウジしている訳にはいかないから。私たちの生きている世界ってそういうところだよね?」


「……そうだね」


亜弥香の言うことは正論だった。

【教会】という組織に所属している以上、常に死と隣り合わせで生きている。死ぬのが1年先かもしれないし、10年先かもしれない。はたまた明日死ぬことだって十分ありえる。


「暗い話はさておき、久遠。昨日の約束覚えてる?」


「昨日の約束? ……あ、編入生二人と話してみるってやつ?」


一瞬、何のこと? と素の表情を浮かべていた久遠だったが、記憶を昨日の昼頃まで遡ってようやく思い出す。


「そうそれ。今から一緒にご飯食べるから久遠もちゃんと来てくれるよね?」


「約束したからね、ちゃんと行くよ。ただ、私が言ったことはちゃんと覚えてる? もしあっち側の人間だったら――」


「ストップ、久遠」


最後まで言い切る前に亜弥香は手を使って久遠の口を塞ぐ。この賑やかな教室には似合わない不穏な単語を口にしようとしていたのを止めたのだ。

久遠は猛犬ですら怯みそうな眼光で亜弥香を睨みつけるが、当の本人は全く以て気にしていないらしく、とびっきりの笑顔を作って立ち上がると雑談をしていた遊馬と拓海に向かって手を振る。


「遊馬くん、拓海くん。お昼一緒に食べよ。私の友達がどうしても一緒に食べたいって言うから」


「は!? 私そんな――むぐっ!?」


再び口を塞がれた久遠を見て亜弥香たちの方へ振り向いていた遊馬と拓海は訝しげに首を傾げるも、とりあえず呼ばれたから行くかみたいなノリでやって来る。


「――ゆーま、たくみ。来たよ」


そして昨日と全く同じセリフを口にしながらタイミング良く教室に入ってきた小雛も合わさり、偶然か必然か、互いに違う信念を貫く二つの組織が今こうして一つの場所に集まってしまった。

ならばこれはなるべくしてなってしまったのだろう。偶然なんてものはこの世界には存在しない。定められた運命の道を人を歩んでいくだけなのだから。

それぞれの運命を分岐していた道が今この瞬間、一つに繋がった。しかし辿る道は同じと言えど、その結末だけは決して同じになることはない。

運命は分岐していく。分岐を繰り返して、繰り返して、繰り返して――その人の人生は確定させられていく。だから今は繋がっているこの5人の道もいつかは必ず分岐し、そして途絶えていくだろう。


【教会】と【軍】――。

この関係が無ければもしかしたら最高の友達同士になれたのでないだろうか。普通の人が当たり前のように手にする幸せを得ることが出来たのではないだろうか。


世界はどうしようもなく理不尽だ。

神様なんてきっとこの世界には存在しない。

人々は皆、平等でなければならない。そう謳った人間ですら周りの人を不幸にしていた。本当の幸せを掴み取ることができるのはほんの一握りの人だけ。そしてその一握りの中にこの5人が含まれることは決して無い。


優馬にも、亜弥香にも、拓海にも久遠にも小雛にも――ハッピーエンドなんて優しい結末は待っていない。待ち受けているのは凄惨な現実と希望の無い未来だけ。

5人が立つ世界は光に満ちた明るい世界ではなく、血と闇で染められた絶望の世界。夢も希望も未来すらもない。それでもただ一つ、強い信念があるからこそ今をこうして生きている。

例えその信念がぶつかり合う結果になろうとも、止まるわけにはいかない。貫き通さなければならない。でなければ何の為に今まで己の手を血で汚してきたのか分からない。

全てはこの世界の為。譲れない信念を今更捻じ曲げることは己の生き方を否定しているのも同義。


だから断言しよう。この5人は必ず衝突する。

【教会】と【軍】は水と油。光と闇。決して交わることは無い。こうして笑っていられるのも今だけ。いつか必ず互いの信念を貫くために殺し合う。言葉で解決出来ないことを知っているから、血を流し合うことしかできない。


「……ゆーま、この人たち、誰?」


見知らぬ人を警戒するように視線だけは逸らさずに遊馬に訊ねる小雛。


「俺と拓海の友達。片方は知らないけど」


「……ともだち? なんで?」


本気でなんで? と、聞いてくる小雛に遊馬は頭を掻く。


「なんでって……友達だから?」


「……それは答えになってないぞ」


拓海がツッコミを入れると、小雛はそこで初めて亜弥香と久遠から視線を外して拓海を見上げる。

ガラス玉のように無感情な瞳に今だけは強い意志が宿っていた。拓海はそれを素早く見抜くと非常にめんどくさそうにため息を吐いた。


「たくみ、説明して」


「簡潔でいいか?」


「うん」


「実はあーしてこうしてこうなった」


「理解した。ありがとう」


ぱぁんとハイタッチを交わす。あまり多くは語らない二人の間に無駄な言葉な不要だった。

小雛は亜弥香と久遠の方へ向き直ると、何事も無かったかのようにぺこっと可愛らしくお辞儀をする。


「高坂 小雛です。よろしくお願いします」


「私は小波 亜弥香。よろしくね、小雛ちゃん」


「あ、これはどうもご丁寧にありがとう。私は散花 久遠だよ……って、ちょっと待ってくれないかな!? なんでそれで通じるの!?」


「いいか、久遠。この世には興味本位で聞いていい事と悪い事があるんだ。あ、知ってると思うが俺は有塚 遊馬だ。よろしくな」


「い、いきなりファーストネームで呼ばれるとは思わなかったから驚いたよ。ならお返しに――よろしくね、遊馬。あとツッコミは無かったことにしてくれるかな?」


「今回は目をつぶっておいてやる。おい、拓海。お前も自己紹介しておけ」


「えー……」


会話に参加する気がなかった拓海は遊馬に促されてしぶしぶと口を開く。


「……藤原 拓海。よろしく、散花さん」


「君は苗字で呼ぶんだね。遊馬と小雛のことは名前で呼び捨てなのに」


「まぁ……二人とは昔からの付き合いがあるから」


「へぇ〜。その辺のこと詳しく聞きたいな」


わいわいと会話が盛り上がっていく。

これがあるべき学生の姿というものだろう。友達を作って、友情を深めて平穏な日々を面白おかしく過ごしていく。男女ならば恋にも落ちるかもしれない。好きあうもの同士で付き合って、友達に祝福してもらい、恥ずかしく思いながらも幸せを実感する。


それは夢のような時間――。


誰もが望む平和な世界――。


あるべき本来の日常の形――。


今だけは……今だけは、何の隔たりもない、当たり前の日常をどうか彼、彼女らに与えてください。

その中で何でもいい。何か一つでも氷に覆われた心を溶かしてくれるようなきっかけを与えてください。






もしもこの世界に神様がいるのなら、どうかお願いします。

当たり前の幸せを彼、彼女らに与えてください。






to be continued

心音です。こんばんは!

タイトル回収しました。物語はここから本格的に始まります。

当たり前の日常を、そして闇に覆われた非日常をどうか見届けてください。

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