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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~初夏~ 崩れ始める日常
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第46話『誠士郎』

「――ここが今回の任務の街か」


遊馬たちが肝試し大会をすることを決定したその日の夜、一人の男が街に降り立った。

バスと電車で合わせて約五時間の道のり。しかしその男は長旅の疲れなど一切表に出さずに道行く人たちを観察し始める。

道行く人たちと言っても、この男が見ているのは女の子――特に高校生か大学生に焦点を定め、値踏みするようにじっくりねっとりと目を凝らしていた。


「やっぱり都会は可愛い子が揃ってるなぁ……。田舎町とは大違いだ。こんなんならもっと早くに来ておけば良かった」


ただの女好きであるこの男の名前は――風原(かぜはら) 誠士郎(せいしろう)。【軍】の序列第四位に君臨する男だ。

誠士郎がこの街に来た理由はただ一つ。紅刃たちが起こそうとしている計画に参加する為だ。遊馬たちがこの街に来てから1ヶ月以上も遅刻してきたのは単に自分の任務が終わっていなかったからである。


「……女の子が欲しい」


根っからの女好きである誠士郎は人の往来が激しい街のど真ん中であれ、自分の欲望に忠実だった。

のんびりと歩き出した誠士郎が足を向ける先にあるのは繁華街。初めてくる街でも女の子がいそうな場所は察知できるという、あっても損の方が圧倒的に多そうな感のおかげで誠士郎の足取りは弾んでいた。

本来なら街に到着したことを紅刃に伝えなければならないのだが、今の誠士郎の頭には女の子より優先すべきことは無い。


誠士郎が任務を行っていたのは若い子がほとんどいない田舎中の田舎だった。任務を遂行するにあたり、誠士郎に女の子は必須と言っても過言ではない。

しかし、いてもいなくても、与えられた任務は最後まできちんと終わらせる。ただ、女の子がいないとそのスピードが極端に遅くなるだけなのだ。

だから今回、この街に来るのが1ヶ月以上も遅れたというのが事の顛末である。


「……あれ? せい兄?」


女の子を求めていた誠士郎はその声に瞬時に振り向いた。

そこにいたのは夜だというのにも関わらず、光を吸収したように輝くゴールデンイエローの髪の少女。驚いたように誠士郎を見つめる瞳は雲一つ無い空のように美しいスカイブルー。童話の世界のアリスを連想させる少女は誠士郎を見つめてにっこりと微笑んだ。


「ありす様? どうかしたん――あら」


そしてすぐ横のコンビニから時期外れのおでんを持って現れたアッシュグレイの髪の少女も、誠士郎の姿を見て驚きの色を見せる。


「ありすにミアじゃねーか!! おー!! 久しぶりだなー!!」


女の子――もとい、何ヶ月かぶりに再会した仲間たちの姿を見て、誠士郎はご機嫌に二人の元へ歩み寄ってくる。


「久しぶり〜、せい兄。元気そうで何よりだよ〜」


【軍】序列第二位――鈴峯ありすは見るだけで癒されるほんわかとした笑顔を浮かべて誠士郎に小さく手を振る。


「これはこれは誠士郎様。おでん片手に失礼します」


【軍】序列第三位――ミア・テイラーはおでんの大根をもぐもぐと食べながら会釈する。


旗から見れば友達同士がたまたま偶然再会した場面に見えるが、この街の寿命がまた少し縮まった瞬間でもある。

これで【軍】の精鋭メンバー全員がこの街に揃った。【軍】が起こそうとしている計画が本格的に動き始めるまで間もなくといったところだろう。


「いやー、それにしてもこんなところでお前たちに会えるなんて思ってもみなかった」


「そうだね〜。暇ならこの後一緒する〜? みー姉とのんびり過ごそうと思っていたんだけど〜」


「セックスしようぜ」


会話の流れも何もかもぶった斬る誠士郎の発言は辺りを歩いていた人の視線という視線の全てを集めた。

しかし、ゴミを見るような冷めた目で見られても誠士郎はうんともすんとも言わず、期待の眼差しをありすとミアに向けたまま離さなかった。


「せい兄って本当にデリカシーの欠片も感じられないほどのクズ人間だよね〜」


ありすは呆れ顔でミアの持つ袋の中から肉まんを取り出して一口食べる。

小さな一口だと中身の方まで辿り着けないようで、それから続けざまに二口、三口と食べ進める。


「誠士郎様、女性を誘いたいのなら時と場合を考えてください。ヤリたい気持ちは分からなくもありませんが」


「あ、みー姉はしたいんだ」


流石のありすもミアの発言には苦笑いだった。

ほんのりと紅く染まった頬を掻きながらミアはチラチラと誠士郎の方を見る。


「まぁ誠士郎様となら何度か肌を重ねたことはありますし、その……気持ちいいのを知っていますから。というか、ありす様だって誠士郎様としたことあったはずですよね?」


「あるよ〜」


あっさりと答えるありす。

この三人、ここが街のど真ん中だということを忘れているのではないだろうか?


「わたしの初めての相手がせい兄だからね〜。ゆう兄とたく兄ともしたことあるけど、初体験的な意味でせい兄との印象は大きいかな〜。せい兄、見た目に反して優しくしてくれたからね〜」


恥じらいもなく語り始めるありす。誠士郎は昔を懐かしむように話を聞き、ミアも興味ありげにおでんを食べながら耳を傾けていた。

人がそれなりに集まるコンビニの前での堂々とした猥談は、している側よりも、それを聞かされる側の方が圧倒的にダメージが大きいらしく、いつしか三人の周りから人の姿が消えていた。


「遊馬と拓海ともしていたのか。とんだビッチだな!」


はっはっはと高笑いする誠士郎。しかしありすは全く気にしていない様子で口を開く。


「他の人とはしたことないからノープロブレムだよ〜。というか、そんなこと言ったらせい兄なんてただのヤリチンだよね〜。女の子なら誰でもいいんでしょ〜」


「それは心外だな。俺だって人は選ぶ。自分がヤリたいと思った女の子しか誘ったりしない」


キメ顔でそう告げるが、言っていることはただのクズ発言である。


「本当ですか? 私の情報だと【軍】の女性とは全員関係を持っていると聞いたんですけど」


「ほえ。くー姉ともしてるの? せい兄ってやっぱり誰でもイケる口なんだね〜」


感心しているのか呆れているのか、判断が付けづらい発言だが、おそらくは前者だろう。

ありすは別に誠士郎が誰と肉体関係を持っていようが関係ない。というより興味が無い。付き合っているわけでも何でもないし、【軍】の仲間の延長戦で肉体関係を持っているだけなのだから当然と言えば当然だ。


「紅刃は俺から誘ったことはない。向こうが誘ってくるから俺はそれに応えていた。あと、ミア。それ誰情報だ? 流石に全員とは肉体関係持ってないぞ」


「仮にそうだとしても、精鋭メンバーの女性全員とはしたことがあるのでしょ?」


「小雛としたことない」


あー。と、二人は同時に納得する。

小雛は遊馬のことが好きだ。だから誠士郎が誘ってもそれに応えることはない。


「小雛と遊馬って今どうしてるんだ?」


「変わらないよ〜。ゆう兄、たく兄、小雛の三人で暮らしてる〜」


「年頃の男女が同じの屋根の下で生活しててどうして間違いが起こらないんだろうな? というか、遊馬は小雛の気持ちに気づいていないのか?」


小雛の好き好きアピールをことごとくかわし続けている遊馬。遊馬に限って気づいていないということは無いのだろうが、何も答えずにスルーを続けるのはほんの少しだけ小雛が可哀想だったりする。


「遊馬様は変なところで拘りがありますからね。誠士郎様と違って誰でも抱けるわけではないのですよ」


「この際もう誰でも抱くってのは否定しない。てか、話振ったのは俺だけど、遊馬と小雛の話はやめておこうぜ。これは俺たちが話したところでどうにかなるような問題じゃない。これはあいつら自身の問題だからな」


「せい兄もせい兄で変なところで真面目だよね〜」


全く以てその通りである。


「とりあえず誠士郎様? これからどうするんですか?」


「お前らとホテル行く」


「本当にぶれないね〜。仕方ないから付き合うよ〜」


何だかんだでノリノリなありすは誠士郎の手を取る。

それを見たミアも対抗しようとしているのか、反対の腕に抱きついてその豊満な胸を押し付けた。


「む……。わたしに無いモノでせい兄を誘惑するのは反則だと思うんだよね〜」


「自分の武器を最大に活かすのが女の強さですよ、ありす様」


謎の火花が二人の間でバチバチと爆ぜていた。

女として負けられないプライドというものがあるのだろう。


「俺は大きい胸も小さい胸を好きだから気にすんな!」


「そういう問題じゃないんだよね〜……と言っても、せい兄には分からないか〜」


「誠士郎様だから仕方ありませんね……」


「おいおいおい!? 二人揃って俺をディスるのやめてくれよ!?」


賑やかな会話が夜の街に響き渡る。

文字で書いたような平和な時間。この平和の猶予はあとどれくらい残っているのだろうか。



to be continued

心音です。こんばんは

アップが遅れてしまい申し訳ありません。

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