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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第39話『ありすと久遠』

「――なんだかな〜」


数人の男女の死体を積み上げ、その上に躊躇いもなく座り、教室内で戦う亜弥香とミアを観察しながら、ありすは退屈そうに呟く。

ありすの相手は【教会】の中でもそれなりに強い部類に入る能力者たちだったのだが、ありすが《能力》を使うまでもなく戦いは終結していた。


ありすの戦闘スタイルは超が付くほどの攻撃特化。

特に狭い空間を利用した戦闘が得意で、持ち前の身体能力で壁や天井を移動する、空間立体移動と呼ばれる移動方法での予測不可能な攻撃で相手の命を刈り取っていく。

ありすの椅子に成り果ててしまった【教会】の人間は運が無かったとしか言えない。せめて広い空間で戦っていれば数分は命に猶予を持たせることが出来たかもしれないというのに。


「……で、いつまで隠れてるつもりなのかな? 気づかれていないと思っているの?」


暗闇に向かってそう声をかけるありす。

すると、物陰の方からアメジスト色の髪の少女が姿を現す。酷く疲れきった表情をしている少女に、ありすは首を捻った。


「なんかすごいお疲れみたいだね〜。顔色すっごく悪いけど大丈夫なの〜?」


「大丈夫――と言いたいところだけど、どうもダメみたい。全然乗り気にならない」


少女――久遠は盛大にため息を吐いた。

告白を邪魔されるわ、一緒に過ごす時間も削られるわ、仕方ない事とはいえ、久遠は精神的に酷く疲れきっていた。


「一応聞いておくけど、あなた【軍】だよね。私のこと殺さなくていいの?」


「お互い様じゃないかな〜? あなたは【教会】のくせにわたしを殺す気ないでしょ〜?」


敵同士が対面しているにも関わらず、これっぽっちも戦いに移行するビジョンが見えない。

久遠のやる気が無いのは分かるのだが、人を殺すことが好きなありすが敵を目の前にして動く気が皆無な理由が分からない。


教室の中からは激しい戦闘音が響いている。

状況的には五分五分と言ったところだろうか。どちらも牽制しあっているせいで状況は停滞していた。

ありすと久遠のどちらか。もしくはどちらも戦闘に介入したら激化することは間違いないのだが、二人とも見ているだけで動こうとはしない。


「あなたの仲間、助けなくていいの? 見た感じ空間能力者みたいだけど何も進展しないじゃん」


「いいんだよ〜。追い詰められたら本気出すだろうしね〜。だから〜」


ありすは自分の隣に友達感覚で座る久遠を見た。

何を考えているのか分からない黒い瞳を見据えると、満面の笑みを浮かべた。


「早く加勢しないと殺されちゃうかもしれないよ〜?」


「その時はその時でしょ。ここで殺されるのならそれだけの実力しかない人間だった。ただそれだけ」


ピシャリと言い切る久遠にありすは苦笑いを浮かべる。


「酷い言い様だね〜。仮にも親友なんでしょ〜?」


「……親友?」


怪訝そうに眉を潜める久遠。

友達や仲間と言われるならばまだしも、ありすの核心をつくようにな発言に久遠はほんの少しだけ戸惑いの色を見せた。

けれどありすは久遠の様子など気にせずに言葉を続ける。


「そう親友〜。あなたのあの子を見る目、仲間よりも、友達よりも深い関係にわたしは見えるんだよね〜。あ、でももし違うようならごめんね? わたし思ったことをすぐに口にしちゃうタイプだったりするんだ〜」


「あまりいい性格とは言えないね。まぁでも、そうだね。あなたの言う通り亜弥香とは親友。絶賛喧嘩中だけど」


「喧嘩中だから助けないのかな〜? わたしが言うのもあれだけど、そんな下らない理由で手助けしないで、もし死んじゃったら一生後悔することになると思うな〜」


「なら私もあえて言わせてもらうけど――」


久遠はそこで一旦言葉を区切り、たっぷり五秒間を置いてから口を開いた。






「あなた――どっちかが死にかけた途端に止めに入るつもりでいるでしょ」






その発言にありすは目を見開いて驚く。

けどすぐに体裁を立て直すと、興味ありげにありすは久遠に問いかける。


「……へぇ? どうしてそう思ったのか参考までに教えて欲しいな〜」


口調はほんわかしたままだが、その表情からは笑顔が消えていた。

殺意でも、狂気でもない――ただただ背筋が凍るほど鋭く、おぞましい視線に、久遠はありすという少女がどれほど危険な人間なのか身をもって体験する。そして同時に察したのだろう。まともに殺りあって勝てる相手ではないと。


「……勘だよ。私と話している時もずっとチラチラと向こうの様子を伺っているよね。その時のあなたの目を見て何となく察しただけだよ」


久遠の答えを聞くとありすは愉快そうに笑う。

的を得ていない回答だったのだが、ありすにとってはそれで満足のようだった。


「洞察力があると言うべきか、勘が鋭いと言うべきか悩むね〜。でも――どっちでもいいか」


それは目に見える変化だった。

仮面のように表情を殺し、纏っていた雰囲気は鉄のように重くなる。おおよそこんな小さい子が出すとは思えないほど冷たい声色に変えたありすは射抜くような鋭い視線を久遠に再び向けた。


「ねぇ、名前なんて言うの? あなたとかじゃ呼びづらくて」


「……急に雰囲気変わったね。私は久遠。あなたは?」


「ありす。くーちゃんさ、この戦いに疑問を抱いているんじゃないかな」


「……くーちゃん? まぁそれはいっか。疑問を抱いていないと言えば嘘になるね」


「詳しく聞かせてもらってもいい?」


「……」


核心的な質問に久遠は言うべきか悩む。

仮にも【教会】の指示で動いている以上、敵であるありすに話していいのかと。しかしそんな迷いは一瞬で消えていた。


「まず私たち【教会】が【箱庭】とかいう組織の為にあなた達【軍】を相手に命懸けで戦う理由が分からない」


「【教会】と【箱庭】の接点が分からないって捉えてもいい感じ?」


「その認識で間違いないよ。そもそも【箱庭】がどんな組織なのかすら私たちは知らされていない。今日だって唐突に【箱庭】を守るように上に指示された。もちろん理由なんて聞かせてくれなかったよ」


「わたし達が持っている情報だとね、【教会】と【箱庭】は協力して《開花計画》を進めていることになっている」


「……《開花計画》? 何それ」


聞き慣れない単語に久遠は首を傾げる。

ありすはというと、久遠のその反応で何か確信することが出来たらしく、やっぱり。と呟いた。


「予定変更だよ、くーちゃん」


死体の山から飛び降りると、ありすはスマホを取り出して誰かに電話を掛け始める。

相手にはすぐ繋がったらしく、二三言会話を交わすとそのまま電話を切って久遠の方へ振り返る。


「くーちゃん、そこで戦ってる親友を連れて今すぐこの学校から出てって貰ってもいいかな?」


「は?」


当然の反応だろう。

ありすは今すぐにこの場から逃げろと言っている様なものなのだから。仲間ならまだしも、敵にこんなことを言うなんて何を考えているのか分かったもんじゃない。


「わたし達の任務は【箱庭】の殲滅であって【教会】の殲滅じゃない。今回は見逃してあげるよ。くーちゃんだって気づいているんでしょ? くーちゃんじゃわたしには絶対に勝てない」


「……」


断言されるが久遠は何も言い返せない。

言われるまでもなく分かっていたからだ。


「いい? 今回わたしがくーちゃんを助けるのはれっきとした理由があるからだよ。それを忘れないで。だから次に会った時は――」


それは刹那の出来事だった。

いつの間にかありすの手に握られていたナイフが久遠の首の薄皮を切り裂いていた。


「――多分、わたし達は殺し合うことになる」


何が起きたのか理解が追いつかない久遠はありすの言葉にただ頷くことしかできない。

うなずきを確認したありすはナイフを下ろし、仮面を剥がすように満面の笑みを浮かべる。


「それじゃあくーちゃん。また何処かで会おうね〜」


言いながら教室内を指さす。

早く亜弥香を連れて逃げろと言うことなのだろう。


「……」


これ以上会話は不可能と判断した久遠は無言で教室内に飛び込んだ。



to be continued

心音ですこんばんは。

さて謎展開になってきましたね。ありすが何を考えているのか全く分かりません!(うちは分かってます)


次回は唐突にクライマックスを迎えます。

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