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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
ハジマリの出会い
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第03話『心の闇』

「……おい、遊馬」


あからさまに苛立ちを露わにしている拓海は隣の席で堂々とスマホを弄っている遊馬に話し掛ける。

その低い声は静まり返っている教室には良く響き、近くに座っている生徒はビクッと身を震わせた。黒板の前に立つ教師も拓海にビクビクしながら授業を進行させているせいか進むスピードがやたら遅かった。


「……お前の気持ちは重々把握しているが、とりあえず今は抑えてくれ。特にその殺気。周りの連中が怖がってるぞ」


「知るか」


一喝すると拓海は机に伏せた。授業に集中する気は当然のように無く、この時間の全てを睡眠に費すつもりなのだろう。


現在二人は亜弥香に強制連行されて一緒に授業を受けている。拓海もそうだが、教師の目を気にせずにスマホを弄っている遊馬も常識外れなところがある。

もっとも、この二人の辞書に常識という二文字がある訳もなく、今の状況はなるべくしてなったとしか言えない。


そしてこの状況を招いてしまった張本人である亜弥香は怒りと呆れを混ぜたような曖昧な表情でシャーペンを握りしめていた。

先ほどから聞こえていた何かが軋むような音の正体は壊す勢いでキツく握られたこのシャーペンがあげていた悲鳴だった。


「あ、あのさ……二人共? あなた達は授業を何だと思っているの……?」


「何って……聞くものじゃないのか?」


「それが分かっているならどうして堂々とスマホで遊んでるの。私もそのアプリやりたいの我慢しているのに……」


遊馬が遊んでいるのは最近リリースされた童話をモチーフにしたコマンド式のアクションRPG。リリースされた当初サーバーがダウンする事件が起き、メンテを繰り返していたゲームだが今はようやく安定してプレイ出来るようになっている。


「変なことを言うんだな。やりたいならやればいいだけの話じゃないか?」


「あのね……普通授業中にスマホなんて弄っちゃいけないの。当たり前のことじゃん……」


ため息を吐いて板書を始めようと亜弥香。

しかしシャーペンを動かすその手は次の瞬間止まることになる。


「――今この教室には教師を除いて86人の生徒がいる」


「……え? あなたわざわざ人数なんて数えていたの?」


「数えていたわけじゃない。今数えたからな(・・・・・・・)


「……は?」


遊馬の発言に亜弥香は戸惑うばかりだった。

そして人数申告は間違っていない。この授業を今現在受けている人数は遊馬の言う通り86人。

一番後ろの席に座っているとはいえ、たった数秒で教室にいる生徒の人数を正確に数え抜いたのだ。驚くなと言う方が無理がある。


「そして亜弥香の言う当たり前が出来ていない生徒は俺を含めて29人いる。約3分の1が授業をまともに受けていないようだがいいのか? ちなみにガチ寝、うたた寝も含めればその人数は――」


「ちょ、ちょっとストップ!!」


思わず立ち上がって遊馬を制止する亜弥香。

その声と椅子を引く音のせいで結果的に教室中の視線を集めることになってしまったが、亜弥香はそれらを一切気にすることなく遊馬を見下ろしていた。しかし遊馬はあくまでもスマホから目線を外すことはなかった。


「……バカが」


横目で二人の様子を伺っていた拓海は小さく呟いてそっと目を伏せた。そしておそらくこの言葉は立ち上がった亜弥香に向けてではなく遊馬に向けられた言葉なのだろう。


「とりあえず座ったらどうだ? 目立ってるぞ」


「……分かった」


亜弥香は困り顔でこちらを見つめていた先生に向かって頭を下げると静かに席についた。


「あなたどんな観察眼しているの……。確かに数えやすい配置に人が座っているのは分かるけど流石に早すぎる」


「まぁ……あれだ。俺は頭の出来がそこらの人間よりいいからな」


ナチュラルに頭良いですアピールをする遊馬に亜弥香は眉間に皺を寄せて低い声で唸った。


「……喧嘩売ってんの、遊馬くん?」


「あれー……喧嘩売ったつもりはないんだけどな」


「悪意しか感じなかった。はぁ、もういい。私は授業に集中するからこれ任せる」


任せると言って亜弥香が渡したのは自分のスマホだった。ロックが解除された画面には遊馬が今やっているゲームと同じ画面が表示されている。

授業中に弄るものではないと言っていた張本人にスマホを渡された遊馬は喉まで出かかった言葉を飲み込み二台持ちでゲームを始めた。


二人が喋らなくなったことで教室内は平穏を取り戻していた。

黒板とチョークが奏でる音、書かれた内容を必死に板書する音。外から微かに聞こえてくる鳥の鳴き声が合わさって良い感じの雰囲気が出ている。


授業という時間を初めて(・・・)経験した遊馬の表情はゲームをしているという点を除いても楽しげだった。拓海にとってこの音たちは子守唄にしかならなかったらしく、すっかり夢の世界へと旅立っていた。


あまりにも平和な時間。きっと大半の生徒はこの時間が当然のものだと思っているに違いない。

眠いのを我慢して朝起きて、バスや電車に揺られつつ登校し、こうしてそれぞれの形で授業を受ける。昼休みになれば仲のいい友達と昼ごはんを共に食べ、眠気に耐える午後の授業を乗り越えたあとに待つのは楽しい放課後。喫茶店に行ったり、カラオケやボーリングで遊んだり、恋人とデートしたりと青春を謳歌する。


それが普通。誰も描く当たり前の風景。

表向きしか知らない情弱共が考える何とも平和ボケした世界。彼、彼女らは何も知らないのだ。この温い現実に隠された真の闇を――。

この世界は嘘で満たされている。何が真実で、何が嘘なのか分からない。真実の中にほんの少しの嘘を混ぜるだけで騙し通すことが出来てしまう。


誰もが心に闇を抱えている。

その闇の大きさや深さは人によって違うけれど、一つだけ確かに言えることがある。それは目に見えているものだけが真実だとは限らないということだ。

人柄や外見がよく誰にでも優しい人がもしかしたら快楽殺人者かもしれない。普段から何も喋らず一人でいるような人間が実は街でボランティアをしている優しい人間かもしれない。


人は見た目だけで判断することができない。

だからこそ抱えている闇に周りの人間は気づくことができないのだ。

その人のことを知りたいと踏み込んでみても本人がそれを隠してしまえば何も分からない。いつだって気づくのは手遅れになった時。もうどうしようもなくなってしまったその瞬間に人の本性は明らかになる。


「……」


スマホを二台操作して遊んでいる遊馬。


完全に居眠りに没頭している拓海。


真面目に授業を受けている亜弥香。


この三人だって誰にも言えない闇を抱えている。

それが表に出るのはもしかしたら……そう遠くない未来かもしれない。何故なら遊馬たちがこの学校に編入した今日から終焉へのカウントダウンが始まってしまったのだから。


「……ん?」


遊馬のスマホが一件のメッセージを受信した。

ゲームをやりつつその件名を確認した遊馬はそっと顔を伏せる。そして誰にも気づかれないように一人笑う。その時の笑顔を例えるならそう――






――命を刈り取る死神のようだった。






to be continued

ここねです。こんばんは!

え?なんで名前平仮名かって? よく間違えられるのでたまにはこうしてみようかと思いまして!


さて、今回のお話ですが、実際問題意味不明ですよね。人は誰でも心に闇を抱えている。その闇こそが人の本性なのです。このシナリオに登場するキャラクターは皆普通の人とは比べ物にならないものを抱えています。それがいつ顕になるのかお楽しみにです。

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