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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第38話『亜弥香vsミア ④』

「――はぁ!!」


力で押し切ったミアは《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》で亜弥香の背後に移動する。

がら空きの背中は攻撃に絶好のチャンスと言えるが、亜弥香も馬鹿ではない。それを予測した上であえて防御を捨てて攻撃に移行した。


「――――!!」


姿勢を低く保ったまま足払いを仕掛ける。

それが幸をそうしたのか、綺麗に払われてしまったミアは大きく体勢を崩す。

亜弥香はすぐさまナイフを逆手に持ち替えて振り下ろすが、お得意の《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》によって躱される。


「――《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》がある限り亜弥香様の攻撃が私に届くことはありません……っ!!」


後ろに移動しても反撃される可能性が高い。

空間移動は非常に強力な《能力》であることに間違いはないが、行動パターンがそれなりに絞られてしまうせいで戦闘慣れにしている人間にはそれほど効果を発揮することはできない。

しかしミアの《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》は自身を軸とした空間移動をするだけの《能力》ではない。空間の支配力は自身だけでは飽き足らず、認識できる空間の全てがミアの手のひらの上に転がっているようなもの。

ミアが亜弥香と距離を取ったのは反撃を恐れたからではない。目に見える範囲の空間すべてを利用するためだった。


『――《天界へ開かれし三扉(トライアングルヘヴン)》――ッ!!』


個々の《能力》を応用した力――《奇跡》と呼ばれる力が存在する。

しかし《奇跡》は能力者であれば誰でも使えるわけではなく、言ってしまえば紅刃が使う《開花》と同等の力なのだ。

とはいえ《奇跡》が使える=強いという法則は成り立たない。あくまでも《奇跡》は《能力》の応用。それ以上でもそれ以下でもない。ホンモノの力の解放である《開花》と比べれば天と地の差がある。


『絶対防御の花――ッ!!』


何か良くないことが起こると判断した亜弥香は瞬時に自身の周りに防御の力を込めた花を咲かせる。

その刹那、亜弥香の頭上、背後、正面に禍々しい闇の渦が三つ。そしてミアの正面にも同じ渦が顕れ、自身の前の渦にミアは腕ごとナイフを突き刺す。

空間を渡った腕は亜弥香の正面に顕れた渦の中からその脅威を現した。煌めく白銀の刃が亜弥香の喉を貫かんと迫る。


「――部分だけ移動することもできるんだ」


しかし刃が亜弥香の首を貫く前に無数に舞っていた花びらがそれを防ぐ。

絶対防御の力を込めた花にはどんな鋭利な刃物であろうと、目で追えぬ速度で迫る一撃であろうと、その攻撃を完全に無効化する。

もしこの攻撃がナイフではなく、《能力》本体による攻撃だったら防ぎきれない可能性もあった。しかし亜弥香はミアが《能力》による経由での攻撃しか出来ないことを既に見抜いていた。

故に下手に避けずとも絶対防御の花を咲かせている限りミアの攻撃が亜弥香に届くことは無い。


「あなたのその《能力》がある限り私の攻撃は届かないみたいですね。けれど――」


ミアは一度ナイフを引き抜くと再度渦に向かって突き刺す。今度は背後の渦からミアの腕が現れるが当然のようにその攻撃は花びらによって防がれた。


「――ほら、やっぱりそうでした」


でもそれを見たミアは不敵に微笑む。その表情を見た亜弥香は心の中で舌打ちをした。


「腕がさっきよりも数センチ進みました。私は攻撃の速度を変えていない。もしその《能力》が正確に防御をするのであれば腕はさっきと同じ位置で止まるはずでした。つまり亜弥香様のその《能力》で顕現した花の効果は永続ではない。何度も同じことをすればいずれ崩れるってことですよね」


この世に絶対なんてものは存在しない。

絶対防御と謳おうと必ず綻びはある。その綻びを突かれてしまえば崩れるのは一瞬。亜弥香のような能力者はいかにその綻びを隠すことが出来るかで勝負が決すると言っても過言ではない。


「くっ……!!」


ミアの連撃を受ける前に亜弥香は《能力》を使って自身の身体能力を上昇させて渦の範囲外に逃げようと試みる。


「それで逃げた気になってもらっては困りますね亜弥香様――ッ!!」


目の届く範囲の空間はミアの支配圏。

亜弥香が常人を上回るスピードで駆けようともミアに目視されている空間にいる限りその脅威が消えることはない。


「逃げるだけでは私の攻撃は止まりませんよ!!」


天界へ開かれし三扉(トライアングルヘヴン)》は三つの空間の渦をミアが任意で出現する場所を選択し、自由に自分の目の前の空間と繋げることができる《能力》の応用。

自身は体力を消耗することなく相手を追い込むことができる一方、複数人との戦闘ではそれほど効果を発揮することができないのだが、逆に一対一ならば圧倒的有利に立つことができる。


じわじわと亜弥香を追い詰めていくミア。

絶対防御の花の効果ももう長くは持たない。効果が完全に切れる前にと亜弥香が取った行動はミアの視界から消えることだった。

近くの教室のドアを蹴破って入ると、鬱陶しく付き纏っていた三つの渦が消える。どうやらこの《奇跡》はミアの視界から外れた時点で自動的に解除されるものらしかった。


「……なら、まだ私に勝ち目はある」


呟いた直後、亜弥香の目の前にナイフを振り下ろしてくるミアが現れる。

ある程度その行動を予測していたこともあり、その一撃は難なく受け止めることができた。


「先程から防戦一方ですけど、攻めに転じないと私を殺すことなんてできませんよ亜弥香様」


「そうだね。でもあなたの《能力》にも弱点はある」


「弱点? 私の《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》にそんなものはありません。強気なことを言ってこちらを惑わせようとしてもそうはいきませんよ」


「強気な発言じゃないってことを教えてあげるよ。この間の夜みたいに屈辱を味わってもらおうかな――ッ」


「……」


亜弥香のあからさまな挑発にミアはほくそ笑む。

やれるもんなやらやってみろ――鋭く細められた瞳はそう言っているようだった。


「……私の《天使が贈る永遠の花束(フィオリスタ・アンジェ)》の力を甘く見ない方がいいよ。やろうと思えばミアと同等の力を使うことだってできるんだから」


「……!?」


亜弥香の姿がモヤのようになってボヤける。

ミアは視界を奪われているのかと思ったがそうではない。亜弥香以外の物ははっきりと映っている。ボヤけて薄れていくのは亜弥香の姿だけだった。




『――見えなくなる花』




無数の花びらが舞い上がり亜弥香を覆う。

色とりどりの花びらで埋め尽くされた視界が元に戻ると、ミアの前から亜弥香の姿は消えていた。

危険を感知したミアは余裕を持って《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》で教室の隅へと移動し、何処から亜弥香に仕掛けられてもいいように全神経を索敵に回した。


「――そこですねッ!!」


自身のすぐ近くで膨れ上がる殺気を敏感に察知したミアは先制攻撃を仕掛ける。


「……ッ!?」


くぐもった声は亜弥香から発せられたものではない。

殺気に向かってナイフを突き出すもただ宙を切るだけの結果になってしまったミアがあげた声。


「これで終わり――っ!!」


「させません!!」


しかし同じヘマを二度もしない。

先日の失敗を活かして警戒を怠らなかったミアは真横に移動していた亜弥香の攻撃に機敏に反応する。


『《天界へ開かれし三扉(トライアングルヘヴン)》――っ!!』


ナイフが振り下ろされる位置に空間の渦が現れる。

ナイフの切っ先が渦に飲まれる。その瞬間に亜弥香は無理矢理手を止めた。


「……あっぶな」


もう一つ展開していた空間の渦は亜弥香の首のすぐ側に開かれていた。

そしてそこから亜弥香のナイフの尖端が見えており、もし手を止めなければ自分自身で首を切り裂くという最悪な結末が待っていただろう。

亜弥香の手が止まった隙に《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》で適当な距離を取って再度対峙する。


「殺気で位置を誤認させるなんて器用なことするんですね」


「ミアは馬鹿そうだから引っかかってくれるって信じていたよ。殺せなかったけど」


余裕ぶっているように見えるが、亜弥香は内心かなり焦っていた。

しかしそれはミアに致命傷を与えられなかったからではない。廊下の方から音が一切聞こえなくなったからだ。


「……ごめんね、みんな」


小さく呟いてナイフを握る手に力を込めたのだった。



to be continued

心音ですこんばんは。

今回新しく《奇跡》という単語出てきましたね。《奇跡》は今後の戦いにおいてよく登場します。

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