表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
38/47

第37話『亜弥香vsミア ③』

「――何よ、これ……何なのよ!?」


【箱庭】からの増援申請を受けて後から遅れてやってきた亜弥香は目の前に広がる赤黒い光景に声を張り上げていた。

辺り一面に散らばる人だったモノ。その頭が、手足が、胴体が――そんな人の生きていた証が散乱している世界に吐き気すら覚える。


「久遠……!! そうだよ久遠は!? 久遠は平気なの!?」


一緒にこの場に駆けつけた仲間に問い掛けるが、誰もが口を開かずに亜弥香から目を逸らした。

久遠は亜弥香よりも先にこの場所に来ている。喧嘩中とはいえ、亜弥香にとって久遠は家族のようにかけがえのない大切な存在。

万が一のことがあれば弱い亜弥香の精神なんて一瞬で削ぎ落とされてしまうだろう。


「――お願い……久遠、無事でいて……」


散乱する死体の中に久遠のモノは無いことを確認すると、安心していていい状況は無いのだが、親友の姿が無かったことに亜弥香は胸を撫で下ろしてしまう。

死が日常的になっているせいで感覚が麻痺している。

誰かが死ぬのが当たり前の日常。平和な時間こそが亜弥香たちの非日常なのだ。


『……《天使が贈る永遠の花束(フィオリスタ・アンジェ)》』


亜弥香が呟くと、それに呼応するかのように無数の花が咲き乱れる。

今この場で死んでいる人間に対する手向けではない。これから戦いに行く仲間に贈る為だけの花だった。


「全員この花を一輪持ってて。効果は一度きりだけど、即死級の攻撃を無効化してくれるから即死は免れることができる。けど絶対に油断だけはしないで。この花はあくまでも保険。それ以上でもそれ以下でもない」


説明を終えると同時に亜弥香は大きく手を振った。

地面に咲いていた花は茎の方から綺麗に切り取られ、物理法則に逆らって仲間一人一人の胸元の辺りにまで浮かび上がった。


――《天使が贈る永遠の花束(フィオリスタ・アンジェ)》――

天界に咲く花を現世に贈る能力。花には様々な効果があり、亜弥香の願うままの花を咲かせることが出来る。サポート向けの能力と思われがちだが、亜弥香が願えばどんな効果を持つ花でも咲かせることができるため、その力の底は計り知れない。

ただ《能力》にを出来ないことや限界はある。今回の花がいい例だ。


一度きりだが即死級の攻撃を完全に防ぐことができる。強いように思えるが実のところそうでも無い。

能力者たちの戦いにおいて使用されるのは何も《能力》だけではない。ナイフや銃器も当たり前のように使われる。その中で即死級の傷を負い、亜弥香の《能力》で無効化したところで次なる一撃が安易にその命を刈り取ることだろう。

一度だけ攻撃を無効化するという保険は無くなると同時に、死が目の前まで近づいてくる。人はその恐怖のせいで隙を与えてしまい、結果的に死に至る。

故に保険など無いものと考えて戦うことがベストなのだが、どうもそう思うようにいかないのが現実というものだ。


「行くよ、みんな」


仲間を引き連れて亜弥香たちは慎重に行動を始める。

歩く度に足元に広がる血の海が跳ねて、身ではなく心をじわじわと削っていた。人が生きる上に必要なモノが無造作に散乱しているのだ。常人ならば精神的がやられてもおかしくはない。


時折、校舎の中から激しい音が響いてくる。

その音が止まるたびに誰かが死んでいる――自分もこれから死の世界へ踏み込むかもしれないと考えた亜弥香は慌ててその思考を振り払う。

死ぬことを考えてはいけない。生きる未来だけを見据えて亜弥香は前に進んだ。


固く握りしめたサバイバルナイフ。いつ敵が襲撃してきてもいいように全方向に神経を張り巡らせていた。

血の海を抜けると、大勢で歩いているにも関わらず足音一つ聞こえない静寂に包まれる。今この場にいる全員、【教会】に所属する能力者の中でも飛び抜けて戦闘能力が高い者が集まっていることもあり、足音の代わりにおぞましいほどの殺気を散らしていた。


「……」


下駄箱の辺りまで辿り着くと、亜弥香は後ろにいる仲間たちに無言で止まるように指示をした。

それから一人で下駄箱に向かい、中の状況と近くに敵がいないかを確認する。

どこかで戦闘をする音は聞こえるが近くに人はいない。もし仮にいたとしても、それは生きている状態では無いだろう。


「……二手に分かれて行くよ。あなた達に神の御加護があらんことを」


その言葉をトリガーに全員が行動を開始した。

亜弥香が統べる部隊が向かった先はちょうどミアとありすがいる方向。ほかの部隊は遊馬と紅刃がいる方向へ駆けて行った。


音を消すこと無く亜弥香たちは凄まじいスピードで廊下を駆ける。途中に何人もの死体が廊下の至るところに転がっていた。

その一人一人の顔を確認するだけで止まることはしない。亜弥香が見ているのは死体が久遠であるかそうでないか。ただそれだけ。


「……近い」


戦闘音がすぐそこから聞こえてくる。

下駄箱から侵入したのであれば挟み撃ちにすることができると判断した亜弥香は走る速度を更に上げて戦闘の空間に飛び込んだ。


「――はぁぁぁ!!!」


「――!?」


跳躍から敵と思われる少女の脳天にめがけてナイフを振り下ろす。

耳を割くような金属音と手から伝わる振動に初撃が防がれたことが分かる。

更なる追撃をしようと足に力を込めるが、その瞬間目の前にいたはずの敵の姿が消えた。


『――――《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》――――』


背後に現れた殺気に亜弥香はその場に屈んだ。

直後真横に薙ぎ払われたナイフが空間を切り裂く。相手の体勢を崩そうと瞬間的に足払いを放つがそこに少女の姿は無い。


「……あなた、ミアね」


「その声はまさか……亜弥香様ですか」


真後ろから聞こえてきた声に亜弥香はナイフを振り上げる。再び金属音が響くと今度はすぐには離れず力の押し合いになった。

それによって亜弥香とミアの顔の距離は必然的に近くなり、友との感動の再会とは決して言えないほど殺気立って睨み合いをすることになる。


亜弥香の後に続いていた仲間はもう一人いる【軍】の人間――ありすと戦闘を始めていた。

それが前にミアを殺すのを邪魔した人間だと気づくと、亜弥香は仲間の無事を祈りながら目の前のことに意識を集中させた。


「まさかこんなところでまた会えるとは思ってなかった。今度は絶対に殺す」


「私も今回ばかりは油断しませんよ。この間の屈辱、亜弥香様の死で償って頂くことにします……ッ!!」



to be continued

心音ですこんばんは!

亜弥香vsミアの戦いが再び始まりました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ