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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第36話『遊馬と胡桃』

「――外にいる部隊はこれで壊滅かしらね。この空間が残っているってことは《能力》を使っている人間は別にいるみたいだけど」


そう呟く紅刃の周りでは夥しいほどの血液がコンクリートの地面を濡らし、つい先程まで人間だったモノの一部が散乱していた。

屋上からこちらを狙撃していた人はミアが《能力》を使って移動して全員殺害しているから再び襲われる心配は今のところは無さそうだった。


「なぁ紅刃。お前ここが学校ってこと忘れてるわけじゃないよな? これ明日どーすんだよ。大パニックだぞ」


その辺りのことを考慮して殺していた遊馬は盛大に殺り散らかした紅刃の行動にため息を吐いた。

この状態だと掃除するのはかなり骨の折れる作業だ。まだこの場所でなければ放置することができるわけだが、仮にも学校。朝になれば生徒や職員が絶対に死体を発見してしまう。


「知らないわ。そんなことより先に進みましょう。内部にはまだまだ殺す相手がいるのだからね」


言いながら紅刃は散乱する死体を放置して先に進む。

明日のニュースにこの凄惨な殺人事件が報道されることが確定した瞬間だった。


「もうこの際、とっとと終わらせて帰ってシャワー浴びて寝るわ。中に入ったら二手に分かれる。私と遊馬、ミアとありす。いいわね?」


「……くー姉が《血染めの終焉(ブラッディ・カ)を謳いし紅焔(タストロフィー)》を使えばそれで終わりなんじゃないかな〜?」


「そんなことしたら今この場にいるあなた達も一緒に燃やし尽くすからダメよ」


「えと、力を加減する気はないのですか? 紅刃様」


「無いわ。《能力》は使うなら派手に使うって決めているのよ」


ピシャリと言い切ると、紅刃は下駄箱の前のガラス扉を刀で一刀両断する。

斜めに上下半分に切り裂かれたガラスがずり落ち、凄まじい音を辺り一帯に響かせた。隠密行動をする気がこれっぽっちも感じられない行動だが、こちらの侵入がバレてしまっている以上、開き直って思う存分暴れてしまおうという算段なのだろう。


「3……2……1……GO!!」


カウントと共に紅刃の指定したメンバーで二手に分かれて暗闇に包まれた廊下を駆け抜ける。

紅刃と遊馬の後ろから凄まじい銃声が響いた。どうやら待ち伏せ隊はミアとありすの方にしか配置されていないらしい。単純に人数が足りていないのか、それとも何かの罠なのか。どちらにせよ攻め落とすならば今が好機と言える。


紅刃たちが向かっているのは、前回遊馬たちが侵入した際に見つけた人体実験をしていた地下施設。

この場所には《開花計画》の為の子ども達が集められている。本来ならば何人か回収する予定だったが、ミアのドジのせいでそんなことをする余裕はない。おそらく、今後の脅威になる可能性を少しでも排除するために皆殺しにするつもりだろう。


「なぁ、紅刃。適当に一人回収してもいいか?」


「は? それは別に構わないけど何する気よ」


「小雛にプレゼントする」


「……あなた、普段はいい男ぶってるくせに内面真っ黒よね。私よりも性格歪んでいるわよ。助ける振りをして一時の希望を与え、刹那の瞬間で絶望に叩き落とす――控えめに言って最低よ。でも――」


紅刃の口元がぐにゃりと歪む。

その歪な笑顔には遊馬を軽蔑するような感情は込められてはいない。むしろ嬉しそうにしているように見えてしまうのが逆に恐ろしかった。


「――私は好きよ、遊馬のそういうところ。さすが私が序列一位の座を与えただけあるわ」


「お褒め頂き光栄でございます、代表殿」


「……その呼び方は気持ち悪いからやめ――遊馬伏せなさい」


返事をするよりも早く遊馬は身を屈める。

その刹那、遊馬の頭上に一陣の風が吹き抜けて斜め後ろの壁に直撃する。風がぶつかった壁は鋭利な刃物で切り裂かれたかのように傷痕が付いており、もしも風を躱していなかったら遊馬の体が真っ二つに引き裂かれていたことだろう。


「――呑気にお喋りしながら走ってくるものだから余裕です殺せるかと思ったのに残念」


凛と響く声が暗闇から聞こえてくる。

カツン、カツン――と、足音が近づいてくる度に風が渦巻くような音が激しくなっていた。

紅刃と遊馬は今の風の斬撃がいつ来てもいいように互いに武器を構え、暗闇の先に立つ敵を見据える。






『――《天翔ける瑠璃色の神風(バルドスカイ)》――』






消え入りそうなほど小さな声で呟かれた直後、紅刃と遊馬は左右に飛んだ。

風という名の不可視の斬撃は一瞬のうちに二人が元いた空間を切り裂く。攻撃速度及び殺傷能力に著しく特化した《能力》。この《能力》を使い続ければ間合いに入ることすら叶わないかもしれない。


「私に続きなさい、遊馬」


態勢を低く保ちながら紅刃は飛び出した。

狭い空間において紅刃の行動はあまりにも無謀と言える。しかし彼女を甘く見てはいけない。

神代紅刃――精鋭メンバーの序列第零位にして、【軍】全体を統べる代表。そして《血焔姫(ブラッドクイーン)》の異名を持つ最強の能力者。そんな彼女が策もなしに突貫するなどありえない。


まだ姿も見えない風の能力者が《能力》を使う。

決して目に見えるはずのない神速の斬撃。しかし紅刃にはまるでそれが見えているかのように獄炎を纏う刀を振るった。


「――!?」


くぐもった声が微かに聞こえた。それもそのはずだ。確実に息の根を止めようとしていた風がその一太刀で両断されて効力を失ったのだから。


「――私の刀に切れないものはないわ」


まさしく一瞬で間合いを詰めた紅刃の瞳に能力者の姿が映る。焦りと恐怖で彩られた表情。だがその瞳はまだ決して諦めてはいなかった。

紅刃の太刀筋を予測し、その軌跡上に圧縮した風の塊を生み出してコンマ数秒の余裕を作る。


「――っっ!!」


完全に回避することは叶わなかったものの、上半身と下半身を両断するはずだった紅刃の一撃は服と腹の辺りを軽く切り裂くだけで済んだ。

この間合いにいるのは危険。能力者は紅刃との間合いをもっと取るために無数の風を紅刃にぶつけて体勢を立て直そうとした。


「――チェックメイトだ」


だかしかし、能力者は忘れてはいけないことを一つ忘れていた。敵は紅刃一人だけではないということを。いつの間にか自分の背後に回り込んでいた遊馬の存在をすっかり失念していた。


「――ぐっ!!」


背中に突き刺されたナイフから伝わる冷たさ。

それはやがて焼かれるような痛みに変わり、込み上げてきた血反吐が服を汚す。

強烈な痛みによって《能力》の発動がままならなくなり紅刃を襲っていた風も止む。この隙を逃す理由も無く、紅刃はそのまま能力者を切り捨てた。


「――――」


肩から腰の辺りまで切り裂かれた能力者は夥しい量の血を撒き散らしながら床に倒れていく。

呆気ない幕開け。《能力》こそそれなりに強い部類だったものの、やはり紅刃たちには到底及ばないものだった。


「……あん、た……どうやって……私、の……後ろに」


即死を免れてはいるが、もはや戦える状態でないのは明らか。放置してもそのうち息絶えるのが目に見えていた。


「知ったところでもはや何の意味もなさないだろ。じゃあな」


遊馬は能力者の頭に銃を向けた。

引き金を引くと同時に能力者の頭は吹き飛び、気持ちの悪い脳漿が散乱する――はずだった。


「……ちっ」


突如能力者を覆うように現れた岩の塊がそれを防ぐ。

殺すのを邪魔された遊馬は舌打ちをして何も無い空間に向かって予備のナイフを二本立て続けに投擲する。

それらはすぐに硬い何かにぶつかるような音を響かせて床に落下した。


「恐ろしいほどの察知能力だね、名前も知らないイケメンさん」


「お褒め頂き光栄だ、名前も知らないツインテール」


暗闇から姿を見せたのは遊馬の発言通りのツインテールの少女。見た目だけならば何処にでもいそうな普通の少女だが、体の周りに浮かぶ無数の岩片が普通じゃないことを証明していた。


「悪いけどそこの死にかけは回収させてもらうよ。【教会】としては亡くしたくない人材だから」


「なら今すぐにでも治療しないとな。だけどそんなことさせると思う――お?」


遊馬は足元を見てそんな声を上げる。

そこにいたはずの能力者の姿がいつの間にか消え去っていたのだ。


「便利な岩だな? どういう原理か分からないが……とりあえず次の相手はお前でいいのか?」


「お前じゃない。私の名前は胡桃。如月胡桃。あなたの言う通り次の相手は私がさせてもらうよ」


「なるほど。おい紅刃。ここは俺が引き受けるからお前は他のところを頼む」


「別に構わないけど、一応私の方が上司ってことを忘れないで欲しいわ」


あまり納得していない様子の紅刃だったが、踵を返して来た道を戻って行った。


「さて、これでお前――胡桃と俺の一騎打ちという訳だ。楽しませてくれよな――ッ!!」



to be continued

心音です、こんばんは!!

アップが遅くなってしまい申し訳ございません。なるべく早く書き進めるようにしますのでこれからも応援お願いします。

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