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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第35話『始まり』

【箱庭】殲滅計画当日――月明かりに照らされた四つの影が以前【箱庭】の組織があると判明した学校の校門前に並んでいた。


「相変わらず警備とか何も考えてない場所だな」


「……本部が学校ですか。これは予想外でしたね」


ミアは明かり一つ付いていない学校を見上げて呟く。


夜の学校というのは不気味だ。

ただそこにあるだけで、身にまとわりつくような不安が波のように押し寄せてくるようだった。


「前に来た時は外の警備がクソレベルだったが、中はだいぶ厳しいことになってた」


「ゆー兄がいるから警備は何の問題もないでしょ〜? 授業とかあるだろうし警備システムは昼間作動してないよね〜」


「入る時は俺が《能力》を使う。警備を無効化した後は各自自由でいいんだよな、紅刃」


「いいわよ――と言おうと思ったけれど、今回だけは集団行動にしようと思うわ。【箱庭】の人間だけならともかく、【教会】の人間がいた時、面倒事になるのだけは避けたいのよ」


一応言っておくと――と、紅刃は言葉を続ける。


「あなた達の力は十分承知しているし、もちろん信じているわ。けど今回は速攻性を重視したい。理由としては二つ」


指を二本立てて紅刃は遊馬たちを見回す。

紅く燃える瞳に映るのは破壊の衝動。【軍】の代表である紅刃の絶対的な力の波動が揺らめいていた。


「一つ目は【教会】の人間と対峙した時に瞬殺する為よ。これはあなた達全員に言えることだけど、いつもいつも遊びすぎ。一瞬で殺す力があるんだからさっさと殺しなさい」


この傾向は特にありすに強かった。

嬲り殺すことが好きなありすにとって、瞬殺しろというのはあまりにも酷な事で、当の本人はあからさまに不満げな表情で紅刃を見つめている。

しかし紅刃はそんな恨めしげな目で自分を見るありすをスルーすると、伸ばしていた指を一つ折る。


「二つ目は殲滅が完了した後に【箱庭】に囚われている子どもの中から有能そうな子を選別するため。正直言うとこの作業に時間をかけたいわ。だから流れとしては、【箱庭】の人間、及び【教会】の人間がいたら速攻で片付けて、援軍を呼ばれる前に子ども達を選別す――」


それはまさしく一瞬の出来事だった。

紅刃の右手が超高速で動く。一瞬のうちで顕れた刀が振るわれると同時にキィーンと金属が弾き合う音が響いた。直後地面に二つの穴が空き、それを確認した他のメンツは瞬時に物陰に身を隠す。


「おい。どういうことだ。お相手さんに完全に気づかれているじゃねーか」


「……おかしいわね? 私調べでも外側に警備システムは無かったはずよ」


首を捻る紅刃は、分かる人はいる? と訊ねるように次の狙撃を警戒するメンツにアイコンタクトを送る。

するとミアが何か思い出したのか、ぽんと手を鳴らして申し訳なさそうに笑う。


「あ、すいません。そう言えば私さっきここに来る時《能力》を使ったんですけど、座標間違えて建物の中に入ってしまいました」


ぶっちゃけた告白に紅刃は、怒る気力すら無くなったようで盛大にため息を吐いた。

遊馬も、ありすも、そして紅刃も、ミアのドジさ加減は知っていた。しかしそれを今この場で発揮してしまうのかと嘆く。


「……みーちゃん、馬鹿すぎるよ」


「本当にごめんなさい。お詫びと言ってはあれですけど、私が責任を持って――」


言いかけた言葉は途中で止まる。

そしてその場にいた誰もが空を見上げていた。


「……《能力》だな」


星々が輝く美しい夜空は一瞬で赤く染まり、煌々と光を放っていた月は闇を圧縮したかのように黒く変色していた。それはまるで黙示録のようだった。

世界の終焉。そんなことを想像してもおかしくはないほど恐ろしい空。これが《能力》によるものだとしたら、その能力者の心もこの空と同じように禍々しいものなのかもしれない。


「ミア、あなた当分の間移動する際に《能力》使うことを禁止するわ。異論は認めないわよ」


「……胸に刻んでおきます」


グラウンドの方から大多数の人間が押し寄せてくるような足音が響いてくる。

能力者か、武装集団か、あるいはその両方か。何にせよ当初の予定通りに動くことはもう出来ないだろう。


「作戦変更よ。子ども達を選別するのはもうどうでもいいわ。この学校にいる全員皆殺しにしなさい。一人も残すんじゃないわよ」


全員の無言の頷きを確認すると、紅刃は物陰から飛び出し、その後を追うように残りのメンツも戦場へと足を踏み入れた。



-【箱庭】殲滅計画――二時間前-



「……」


遊馬たちの家でくつろいでいた久遠は、スマホに送られてきたメールを読んで表情を固めた。

内容はあまりにも単純で、あまりにも唐突すぎるものだった。


「……どういうこと」


呟いた言葉は胸に落ちると同時に、疑惑の波紋が大きく広がった。

これまで何度か似たようなことはあった。でもそれは事前の情報通達がしっかりとされていたから受け入れることが出来ていただけで、今回の内容は腑に落ちないところがあまりにも多すぎたのだ。


「……【箱庭】と【教会】による共同戦線? 【軍】の侵攻を阻止する為に協力せよ? 何を言ってるのか意味が全く理解できないんだけど」


前回の緊急会議において【箱庭】の話題は上がっていた。しかし、その会議以降に【箱庭】に関する情報は何一つ久遠には届いていなかった。

【箱庭】がどんな組織か分からない上に、共同戦線を張る理由も何も知らない久遠にとって今回のこのメールの内容は疑問しかない。


「まぁでも――そんなことはどうだっていいかな」


スマホをポケットにしまうと、久遠はリビングを後にして借りている自分の部屋に向かう。

部屋に入ると拓海や小雛に万が一でも見られないように施錠をし、キャリケースに掛けていた南京錠とダイヤル式のロックを解錠する。


軋むような音と共にゆっくりと開いていくケースの中身が明らかになる。

そこに入っていたのはきちんと整備された銃火器と予備の弾薬。そしてメインで使っている小型のナイフに、その倍近い長さのあるサバイバルナイフが丁寧にしまわれていた。


久遠はそれらを全て取り出すと、武器が入りやすく調整されたショルダーバッグにナイフを二本と予備の弾薬を移し、銃火器は故障が無いかを軽く確認してからベルトケースを腰に巻き、すぐに取り出せる位置に収納した。


「あとは……これでいいかな」


それから上に大きめのパーカーを羽織り、忘れ物が無いかを最終確認して久遠は部屋から出る。


「――どこか行くのか?」


階段を降りようとしたところで拓海が声を掛けてくる。


「ちょっとね。夜には戻ると想うから心配しないで」


「お前もか」


「も? どういうこと?」


久遠は首を傾げると同時に、そう言えば昼過ぎくらいから遊馬の姿が無かったことを思い出す。


「いや、遊馬も出掛けてて夜まで帰ってこないらしくってな。散花は夕飯どうする? 遊馬は家に帰ってきたら食べるから作り置きしておくんだが」


「あ、じゃあ私の分もお願いしてもいいかな?」


「分かった。気をつけろよ」


「? 何に?」


「最近この町は事件が多いからな。変なことに巻き込まれそうになったらすぐ連絡してくれ」


拓海は片手に持っていたスマホを掲げる。

何かあったらすぐ俺に。そういう拓海の気遣いが伝わってくる。


「……うん、ありがとう。でも私は大丈夫だよ。それじゃあ、ご飯楽しみにしているね、行ってきます」


「おう」


会話を終えて久遠は階段を降りていく。

一歩一歩進むたびに拓海の優しさ(対して申し訳ないと思う気持ちが溢れてくる。

久遠がこれから何をしに行くのか知らないからこそ言える優しい言葉。これから死ぬかもしれない久遠にとってはあまりにも残酷な言葉だった。


「……生きて帰ろう」


小さな決意を胸に久遠は家を後にした。



to be continued

心音ですこんばんは!

ミアのズッコケから始まった【箱庭】殲滅計画。どのような結末を迎えるのか。そこに希望はあるのか。

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