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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第34話『開花』

「――あ、ようやく見つけたんだよ〜」


【軍】の序列第二位――鈴峯ありすは探し求めていた人物を見つけてほんわかと微笑んだ。

ありすが目的の人物のいるところへ向かって歩く度に足元に広がっている赤黒い水がぴちゃぴちゃと跳ね、その度に赤い斑点が真っ白なソックスを彩っていく。


「あら? ありすじゃない? その口振りだと私を探していたみたいだけど何か用かしら?」


ありすの目的の人物――神代紅刃は四肢を焼き尽くされ身動き一つ取れなくなっている男の首元に刀を突き刺しながら首を傾げた。

刺した箇所から血が噴き出すも、それは紅刃の身を汚す寸前に蒸発して消えていく。


「用があるのは確かなんだけど〜……ここかなり暑いし、血の臭いが充満してていけない気分になりそうだから、ファミレスにでも行って話をしたいんだよ〜」


ありすと紅刃のいる場所は異常なまでの熱が篭っており、そのせいか死体から漂ってくる臭いは酷いものだった。

しかし、ありすはその強烈な臭いの中でも顔色一つ変えず、むしろこの空間の暑さに参っているようで服の胸元をパタパタさせていた。


「シャワーを浴びてからでもいいかしら? 今日はこの後予定が無いから話はその後でも問題無いでしょ?」


紅く燃える刀を虚空に消し去り、紅刃はありすの元へ歩み寄る。


「うん〜。じゃあ早速移動するんだよ〜」


そう言いながらありすはポケットの中から銀色の鍵を取り出した。何の変哲もないただの鍵に見えるが、ありすはこれを使って何をしようというのだろうか。


「あら。その鍵ってミアの《能力》で創ったやつよね? 私もうストック残ってないから今度会った時に創ってもらおうかしら」


そう、この鍵はミアの《能力》――《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》によって創られた空間を自由に移動することが出来る便利な代物。一回限りの使い捨てというのが非常に残念なところだが、ミアに頼めば幾らでも創ってくれるのでさほど問題ではない。


ありすは何も無い空間に向かって鍵を突き刺し、解錠するかのように鍵を捻る。

その瞬間、握っていた鍵は溶けるように消えていき、目の前の空間が四角く切り取られると、その中に小綺麗な誰かの部屋――おそらくはありすの部屋が映し出される。

否、映し出されているわけではなく、実際に今ありす達がいる場所とありすの部屋が繋がっている。ここから一歩踏み出せば血なまぐさい空間から脱出することができるのだ。


「あ、玄関に繋ぎ忘れたから靴脱いでから入ってほしいんだよ〜」


「はいはい、分かっているわよ」


下駄を脱いで片足ずつ部屋に入っていく紅刃。その後に続いてありす自身も部屋に入る。

二人が入り終えると空間は元に戻り、暑さと臭さが同時に消え去り、春本来の穏やかな温度と甘い花のような香りが広がった。


「……女の子の部屋ってどうしてこうもいい香りがするのかしら?」


「アニメの男主人公がヒロインの部屋に遊びに行った時みたいな感想ありがとう〜。自分じゃよく分からないけど、女の子の部屋ってみんな似たようなものなんじゃないかな〜? みーちゃんの部屋もいい香りだったんだよ〜」


「私には特定の部屋ってのが今は無いから、こういう生活感のある香りは新鮮なのよね。まぁとりあえずまともな生活をしているみたいで安心したわ」


「まともじゃない生活をしているように思われていたのかな〜?」


「あなた小雛と同じで殺戮衝動が強いじゃない? そういう人って家具も何も置いていない殺風景なところで暮らしているイメージがあるのよね」


「今の小雛ちゃんの部屋を見てないから何とも言えないけど、少なくとも前に遊びに行った時の部屋はわたしと同じで普通だったよ〜? 偏見は良くないな〜」


「小雛の場合、すぐ側に遊馬と拓海がいるんだから普通になるのは当たり前よ。あの子は何でも遊馬たちに合わせる傾向があるじゃない」


小雛は人を殺す時以外は基本的に何でもかんでも遊馬と拓海に合わせて行動する。そこに自分の意思が現れることは滅多にない。


「と、こんな話をしてる暇があるなら早くシャワーを浴びたいわ。あと下駄、玄関に置きたいんだけど」


「それならわたしがやっておく〜。シャワーはそこのドアからどうぞ〜」


「そう、ありがとう。ならお言葉に甘えさせてもらうわね」


紅刃はありすに血だらけの下駄を渡すとそのままシャワーを浴びに行った。

衣服が擦れる音が微かに聞こえてくる。紅刃は常に着物を着ているから脱ぐのにそう時間は掛からない。すぐにシャワーの音が聞こえてきた。


ありすはその間に下駄に付いた血を泡立てたスポンジでせっせと擦っていく。シンクで下駄を洗うという奇っ怪な光景だったが、当の本人はこれっぽっちも気にしていない様子だった。


それなりに綺麗に血を落とし、ドライヤーを使って水気を取っていると、シャワーを浴び終えた紅刃が生まれたままの姿でリビングにやって来る。

女同士だから気にしないのかもしれないが、いい大人が素っ裸でリビングに立つ姿がシュールだった。


「ドライヤー借りてもいいかしら?」


「うん。いいよ〜」


電源をオンにしたままありすは紅刃にドライヤーを投げ渡す。持ち手の部分をしっかりと掴んだ紅刃は温風を髪に当てながらタオルを動かしていた。


「それで? 私に用って何なのかしら?」


「【箱庭】の殲滅計画のことだよ〜。近日中ってくー姉言ってたよね? もう一週間は経とうとしてるけどいつ始めるの〜?」


「三日後よ」


「あ、決定事項なんだね〜。みんなにはその事伝えないの〜?」


「今日の夜に集合をかける予定だったのよ」


「ありゃ? わたし先走っちゃった感じだね〜」


反省の色を見せずにありすはニコニコと笑う。

普通に笑っているだけのはずなのに、紅刃にはその笑顔が悪魔のように恐ろしく見えてしまう。

戦闘能力、運動神経、《能力》において紅刃はありすよりも圧倒的に優位に立っている。しかしありす自身が持つ特有の異質さだけは紅刃であろうと辿り着ける領域ではなかった。


「一応夜に詳しく説明するつもりだからこの間と同じ場所に集まって頂戴」


「了解〜。あ、それともう一つ気になっていたことがあったんだよね〜」


「気になっていたこと? 何かしら?」


言葉を返すと、ありすのスカイブルーの瞳が濁る。

口元が軽く吊り上げられ、得体の知れない感覚がこの場を支配していく。


「――《開花計画》」


ありすが呟いた単語は【箱庭】と【教会】が行っている人体実験の名称だった。

口調からはいつものほんわかさが消えており、氷のように冷たい声色でありすは話す。


「確か《能力》を武器として具現化する計画だよね? 話を聞いた時、そして今日。ずっと気になっていたんだけど、くー姉の使っている武器って何?」


「――ふふっ、あはははっ!!」


何が可笑しかったのか、紅刃は突如笑い始める。

思えばそうだ。紅刃の使う炎を纏った刀。あれは現実のものではない。となると考えられることは一つしか残されていない。


「察しがいい子は好きよ」


「わたしだけじゃない。みーちゃんもゆー兄も気づいてる」


でしょうねと紅刃は再び笑う。


「《能力》を《開花》させるのはね、何も難しいことじゃないの。ぶっちゃけると【箱庭】の行っている計画は命を無駄にするだけなのよ」


「だから潰すの?」


「ええそうよ。【軍】の未来を導いてくれる能力者がいたら確保しておきたいじゃない?」


本心なのかどうなのか、正直判断がつかない。

とりあえず聞きたいことが聞けたありすはそれで満足したらしく、表情を切り替えてその場でぐーっと伸びをする。


「わたし達にも《開花》の仕方教えてよね〜」


「ええもちろん。さてと――」


話し終えると同タイミングで髪を乾かし終えたらしく、紅刃は脱衣所に戻って着替えを始め、数分もしないうちに戻ってくる。


「お腹が空いたわ。ファミレスにでも行きましょ」


「賛成〜」


今度はきちんと玄関を使って外に出ていく二人。

開け放たれたドアから太陽のあたたかい光が出迎えてくれた。



to be continued

心音ですこんばんは!

【箱庭】殲滅計画まで残り三日!ですが!次回の話から戦いが始まります!お楽しみに!

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