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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第33話『胡桃』

「……」


風に流れて揺れるアメジスト色の髪の毛。楽しげに踊る髪とは正反対に、久遠は不機嫌さを表情にもろに出しながら朝日が照らす道を歩いていた。


先ほど掛かってきた電話。それは【教会】からのものであり、内容は亜弥香が【軍】の人間に襲われたという事ともう一つ。【軍】が今現在何をしようとしているのか判明したというものだった。


「……ほんと最悪」


亜弥香と顔を合わせるのが嫌だというのはもちろんのこと、最悪のタイミングで告白を邪魔されたことが一番久遠を不機嫌にさせていた。

とは言え【教会】に所属する以上、当たりの前のことが当たり前に出来ないことくらい久遠も身に染みて理解していた。

これまでに何度もこういうことはあった。けど、今回の事だけはどうしても許せないものがあるらしい。


「……お腹空いたな。朝ごはん、食べ損ねちゃったよ」


本来ならば小雛がきちんと目を覚ましてから朝食を作る算段だった。昨日の夕飯の美味しさから朝食を食べるのを楽しみにしていたこともあり、コンビニとかで何か食べ物を買う気にもなれず、久遠は足早に指定された場所へと向かう。


駅を抜け、その先のショッピングモールも通り過ぎ、繁華街へ出向くとある程度進んだ地点で路地裏に入り込む。無数に聳え立つビル群を通り、一つの廃ビルへ入り込むと一度辺りの確認を行ってから地面に手を触れた。


「何でよりによってここを使うかなぁ……」


砂埃で覆い隠された取っ手を掴み、ふんすと気合を入れて一気に引き上げる。

ここは【教会】の拠点の一つ。最も人気が無く、比較的安全ということもあり、極秘の話をするのに良く使われる場所だった。


開け放たれた鉄扉の中から冷たい空気が溢れてくる。

壁に添え付けられている梯子を使わずに久遠は冷気の中に飛び込んだ。

数秒の浮遊感。最小限の衝撃に抑えて地面に降り立ったところは酷く廃れた場所だった。舗装されていたはずの地面はコンクリートが剥き出しになっていて、申し訳程度に設置された電球が明滅を繰り返している。


電球の光に導かれながら長い通路を歩いていく。

薄暗くて狭い。一歩進む度に自分の足音が反響して頭の中を掻き乱すようだった。

数分歩いてところで目の前に大きな壁が現れる。行き止まりかと思われるがそうではない。久遠はまたこれなのかとため息を吐きながら右足を振り上げた。


「――なんでぇ!!」


そのまま身体を回転させ、遠心力を利用して回し蹴りを放つ。


「毎回こうなのかなぁ!!」


鋭い回し蹴りが壁に直撃すると、いとも簡単に粉々に砕け散る。しかし瓦礫が飛び散ることは無く、光の粒子となって消え去った。


「――あ、久遠っちだ」


「久遠っちだ。じゃない!!」


開けた空間。そこは通路とは違ってきちんとした内装が施されており、部屋の中心にある大きなテーブルを囲むように相当数の人間が集まっていた。


「なんで毎回毎回私が来るたびに壁を作っておくかな!? 毎回壊すために右足を振り上げてパンツをさらけ出す私の気持ち考えたことある!? 本物のコンクリートじゃないとはいえかなり痛いんだよ!!」


多くの人間が注目する中、久遠は全く気にした様子もなく目の前に座る少女に怒鳴りつけた。


「わりと文章が繋がっていないような気がするけど、スカートで回し蹴りする久遠っちの自業自得だと思う」


「うるっさい!!」


「……今日の久遠っちは怒りっぽいね? 何かあったの?」


物理的に煽るだけ煽った少女――如月(きさらぎ) 胡桃(くるみ)はそこで初めて笑顔を崩した。

久遠の中にある色褪せてしまった部分。そこに気づいたのだろう。


「別に。何も無いよ」


「亜弥香っちと喧嘩でもしたみたいだね」


「何も無いって言ってるよね」


「そんなバレバレな反応されても。亜弥香っちなら向こうにいるよ。話してくれば?」


「話すことなんて何も無い」


「亜弥香っち、昨日死にかけたみたいだよ」


「……」


胡桃の言葉に久遠は押し黙る。

その事に関しては今朝の電話で話は聞いていた。しかし、こうして他の人にも同じことを聞かされると、その事実が鉛のように背中にのしかかってくる。


「ペアなんでしょ? ちゃんと話してきたら? 別に私は仲直りしろって言ってるわけじゃないんだよ。一緒に戦う者同士、情報のやり取りは大切だって言ってるの」


「……その情報の為に今日こうして集められているんでしょ。だったら今個別で話す必要なんて無い」


「意固地だね。まぁ座りなよ。実のところ久遠っちが最後だったから」


「? まだ空席が結構あるけど?」


大多数の人間が集まっているとはいえ、埋められていない席がまだ多数ある。いつもこの部屋に集まる時は全席が埋まるのが基本だ。こうして空いた席があるなんて今回が初めてかもしれない。


「さぁ、死んだんじゃないの?」


冷たく言い放たれた言葉に久遠は無言を返した。

そのまま胡桃の隣に座ると、久遠がそうするのを待っていたかのようにマイクの電源が入り、キィーンと耳障りな音が響き渡った。


『こんな早朝に集まってくれたことに感謝する。前置きを長くするつもりは無い。早速だが本題に入らせてもらう』


マイクを通して部屋に響き渡る声は【教会】の主に諜報面に関する役職に就いているこれまで何度も聞いてきた男の声だった。


『まず皆も気になっているであろう空席についてだが、半ば察している通り死亡した』


衝撃的な事実だが、部屋の空気は変わらない。

死と隣り合わせで生きている以上、これまでに数多くの死を目の当たりにしている。故に、死についての感覚がおかしくなっているのかもしれない。


『運がいいと言ったら死んだ人間に対して失礼かもしれないが、殺されたのは《能力》がさほど強くない人間。つまり弱者だ』


何の悪びれる様子もなく淡々と告げる男に反論する者はいない。当然だ。弱い者は殺され、強い者だけが生きる。ここはそういう世界なのだから。


『今回の件はほぼ間違いなく【軍】による武力介入かと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。その事を昨晩【軍】の人間と接触した小波から報告してもらう』


マイクが亜弥香渡される。

その様子を見て露骨に舌打ちをする久遠を、まぁまぁと落ち着いてよと胡桃は宥める。


『昨晩【軍】の序列第三位と名乗るミア・テイラーという少女と接触しました。彼女とは交戦の末、引き分けという結果になりましたが、途中から介入してきたもう一人の少女が気になることを話していたので報告させてもらいます』


一同黙って亜弥香の言葉を待つ。

ごほんと咳払いを一つして亜弥香は再び口を開いた。


『【箱庭】という組織をご存知でしょうか? 彼女たちの狙いは私たち【教会】では無く【箱庭】の殲滅だと言っていました。またその際に【教会】と【箱庭】が繋がっているようなことも口にしていたのですが、この事に関して何か知っている方はいますか?』


そこで初めて空気がざわつく。

誰一人として【教会】と【箱庭】の繋がりが分かっていない様子だった。


「胡桃、【箱庭】って聞いたことある?」


「無い。少なくとも有名所じゃないのは確かでしょ」


明らかに何かがおかしかった。

何故同じ組織に属しているのに情報が伝わってこないのか。


『報告は以上です』


亜弥香自身もこれ以上何も情報は得ることが出来ないと判断したらしく、マイクを司会に返した。


『今、小波が報告してくれたことに関しては諜報班の方で上に確認を取ってみる。今日は解散だ。各自警戒を怠らずに』


そう告げると同時に息を吹き返したようにミーティングルームは喧騒に包まれた。


「……死ぬほど苛立ってきた。たったこれだけの為に集められたの私たち」


「まぁまぁ機嫌直してよ久遠っち。カルシウム足りてないんじゃない? 煮干し食べる?」


「いらない。帰る」


「つれないなぁ」


来る時よりも苛立ちを露わにして久遠はミーティングルームを後にした。



to be continued

心音です、こんばんは!

さらっと新キャラ登場です。そして何やらおかしな方向に進み始めている物語。【教会】と【箱庭】の繋がりを知らない人が大勢いるのは何故か。何を隠しているのか。そろそろ暮春編も完結となります。どのように物語が幕を閉じるのかお楽しみに!

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