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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第31話『亜弥香vsミア ②』

『――《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》――』


目が眩むほどの光量を持つ光が亜弥香の視界をホワイトアウトさせる。しかしただの目くらましくらいで亜弥香がナイフを振り下ろすのを止めるわけはなく、確実な一撃がミアに迫った。


「……なっ!?」


しかしナイフは虚しくも虚空を切り裂く。

驚くのも束の間、亜弥香はすぐ横から迫ってくる殺気を迎え撃つと、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響き、二人の視線が合わさった。


ミアは再び疑問に思う。

天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》の発動時に亜弥香はあの光量を直に食らった。しかし今、自分とこうして視線を合わせることが出来ているのは何故なのかと。


体を動かすたびに地面に咲き乱れる花が舞う。

踏んで折れても、茎を千切り飛ばしてしまおうと、瞬く間に元の姿に戻り、その美しさが永遠に続く。まさしく天使の花。天界に咲き乱れる花はきっと今目の前に広がる光景のように美しいものなのだろう。


「あなたの《能力》、まさか光を放つだけなんて言わないよね。さっきの攻撃は絶対に当たるはずだった。受け止めるならまだしも、私の真横に移動して不意討ちなんてどういうトリックなのッ!!」


突き出したナイフはミアの首元に吸い込まれていく。

普段ならば勝利を確信するタイミング。しかし先程の不可解なミアの動きが亜弥香の警戒心を最大まで強めていた。


「……」


案の定というべきだろうか。亜弥香の攻撃はあと数ミリだけ届かない。ミアの姿は数メートル離れた位置に移動していたからだ。

その動きで亜弥香はミアの《能力》の詳細を半ば把握した。そしてもし亜弥香の想像している通りの《能力》なのだとすれば――


「……最悪」


亜弥香との相性は最悪。

《能力》の力を最大まで発揮したとしても、ミアには敵わない可能性の方が高かった。


「その様子を見るに、私の《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》がどんな《能力》か分かってしまったようですね」


――《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》――

空間を支配し、操ることに特化した空間系の《能力》。似たような《能力》を使える人間は他にも何人かいるが、ミアの《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》は最強と呼んでも過言ではないだろう。


空間系の《能力》と聞いて真っ先に思い浮かぶのは自身を任意の空間に移動させる、いわゆるテレポートと呼ばれる類のものだろう。

これが空間系能力者の基本的な形。というより、それしか出来ないのが一般的と言える。しかしミアの《能力》はそれだけで収まらない。


空間の完全掌握。そして絶対支配。

ミアと対峙する時、その敵はミアだけでは無い。自分の周りの空間全てが脅威。油断はすなわち死を意味する。


「申し遅れましたね。私はミア。ミア・テイラーです。【軍】の序列第三位の座を頂いております。戦いの前に名乗り合うのは礼儀だと聞いたのを今思い出しました」


「……小波亜弥香。……序列第三位? あなたの《能力》で三位って……他にまだ二人も化物みたいな能力者がいるってことよね」


律儀に自分も名乗る亜弥香。

どんな時であろうと礼儀正しい亜弥香の姿はミアの日本人の印象を良くさせる。


「亜弥香様、残念ながら二人ではありません。三人です。【軍】の序列制度は一位がトップでは無いのですよ」


「なんで様付け……? いやそれはどうでもいいけど、それはどういうこと」


ツッコミを入れてもらえたことが嬉しかったのか、ミアは饒舌に話し始める。


「序列第零位が存在します。【軍】の最強クラスの能力者であり、私たちを統括する【軍】の代表。血のように燃えたぎるその姿から彼女は《血焔姫(ブラッドクイーン)》と呼ばれ、恐れられています。10年前、世間を騒がせた大量の死傷者を出し、当時の新聞の一面を飾り、そして歴史の教科書にも刻んだ大事件を覚えていますか?」


「学校爆破テロ……覚えてるに決まっている」


亜弥香の瞳に消えかけていた闘気が宿った。

何か事件に関わりがあるのだろうか。ミアを見つめる亜弥香から放たれる殺気は凄まじいものだった。


「あの事件の犯人。それこそが《血焔姫(ブラッドクイーン)》。あの方はほんの一瞬で1000人近くの人間を焼き殺しました。まぁでも、焼き殺したと言ってもその大半は死体すら残らず消滅しているんですけどね? 中心源がどうなったか見たことありますか?」


それに気づいているのかいないのか。まだまだ語ろうとするミアに、亜弥香の我慢の限界はついに突破したらしく無言で右手を天に伸ばす。

その手には先程から使っているナイフが握られており、話に夢中になっていたミアは訝しげに亜弥香の不可解な行動を見ていた。


「『絶対に外さない花』」


呟かれた言葉は雫となって落ちる。

それがまだ蕾にしかなっていない部分に当たると、波紋を広げるかのようにゆっくりと開花していく。やがて満開となった花は自ら茎を切り、亜弥香の左手の方へゆっくりと上っていく。

その花は亜弥香の左手に収まると、淡い光を放ちながら弾けるように消えていった。


「私は絶対にあなたを倒す――ッ!!」


その刹那、ナイフを持っている右手が動く。

警戒心を強めていたおかげでミアはすぐに反応することができ、すぐさま回避を試みる。

投擲されたナイフはミアがつい一瞬ほど前までいた位置を貫いた。


「残念。外れみたい――!?」


すぐさまその異変に気づいたミアは《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》で自身の座標をずらした。

その判断は正解で、次の瞬間背後から迫ってきていたナイフが再び空間を切り裂く。

ナイフを目で追い始めたミアはその異常な光景に目を見開いた。


「どういう仕組みですか!?」


まるで自らの意思を持っているかのように飛翔している。それは獲物を見極めた鷹のように鋭くミアの元へ再び迫ってきていた。


ミアは一瞬の思考の末、躱すのではなく受け止めるという選択を選ぶ。

あのナイフがもし亜弥香の言う通り、絶対に当たる――ようするに当たるまで止まらないのであれば避け続けるのは得策ではない。

自分を殺すために迫る脅威を弾き返そうとミアはナイフを構え、タイミングを見極めて振り抜いた。


「…………え?」


「――終わりよ」


ミアが驚きの声を上げると、亜弥香が冷たくそう言い放つのは同時だった。

意志を持ったナイフ。であればミアの攻撃を避けることくらい容易い。一瞬思考がフリーズしたせいで《能力》の発動もままならず、鋭い殺意のこもったナイフがミアの首に吸い込まれていく。






「――何やってるのかな〜、みーちゃん」






それはまさに一瞬の出来事だった。

確かにミアの首に刺さるはずだったナイフが忽然と姿を消し、その代わりに呑気な声が広場に響き渡る。


「誰ッ!?」


亜弥香は廃ビルの屋上に座ってこちらを見下ろしている少女に向かって声を荒らげる。

夜空に浮かぶ月が映す幼い少女――【軍】序列第二位、鈴峯ありすの姿は見た目だけならばこの場にあまりにも不釣り合いだった。


「みーちゃん。その人って【教会】の人間なんだよね〜?」


ありすは一瞬だけ亜弥香と視線を合わせるも、質問に答えるつもりは無いらしく、驚き戸惑っているミアに話しかける。


「わたし達の任務は【教会】の殲滅じゃないよ〜? 確かに【教会】と関係はあるみたいだけど、今は【箱庭】のことを最優先にしないと怒られちゃうと思うな〜」


ありすはビルの屋上から何の躊躇いもなく飛び降りるとミアの隣に並びその手を取った。

氷のように冷たいありすの手は、ミアの心を凍りつかせる。


「帰るよ。こんな奴相手に油断して死にかけるなんて馬鹿らしい」


のんびりした口調は冷酷なものに変わる。

ミアは何も反論出来ず、悔しそうに亜弥香の方へ向き直った。


「……今度は油断しません。あなたの名前、覚えましたからね」


そう吐き捨てるとミアは指を鳴らした。

次の瞬間にはもう二人の姿は無く、その場に残された亜弥香は安堵の息を吐いて《能力》を解除した。


「……【箱庭】? なんの話よ」



to be continued

心音ですこんばんは!

ありすの《能力》とは?そして何故亜弥香は【教会】に所属しているのにも関わらず【箱庭】との関係を知らなさそうなのか。

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