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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第30話『亜弥香vsミア ①』

18時ちょっと過ぎのショッピングモールの食料品売り場。ショッピングカートを押しながら亜弥香はメモと睨めっこしていた。


「……夕飯の材料はこれとこれ……あとはどうしようかな? ねぇ久遠――」


自然な流れで久遠に話しかけようとして止まる。

そこに久遠の姿はない。朝に喧嘩してから一回も会っていないことを思い出して亜弥香は再び泣きそうになる。


自分のつまらない意地のせいで、大切な友達を傷つけ激昴させてしまったこと――後悔しても時間が戻るわけではない。

鎖で締め付けられるような胸の痛みは一体いつ治るのだろうか。【教会】という接点がある以上、久遠との縁は切っても切れない。しかしこのまま仲違いを続けていたらいざという時、任務に支障が出てしまう。下らない意地で【教会】に迷惑をかける訳にはいかなかった。


「どうやって仲直りすればいい――きゃ!?」


考え事をしながら歩いていたせいで角から出てきた少女に咄嗟に対応出来ず激突してしまう。

反動で尻餅をついてしまった亜弥香は臀部に走る痛みに耐えながらゆらゆらと立ち上がる。


「――大丈夫ですか?」


中腰の姿勢になったところでぶつかった少女が亜弥香に手を差し伸べた。


「すいません……こちらの不注意で。あなたも怪我はありませんか?」


少女の手を取り、闇のように深く黒い瞳を覗き込んで亜弥香はそう訊ねる。


「はい。私は大丈夫です。それよりも一つお尋ねしたいことがあるのですが」


亜弥香を引っ張りあげると、アッシュグレイの髪の少女――ミアは口元を僅かに吊り上げて笑った。

ぞわりと、亜弥香は全身の毛が逆立つような恐怖を覚えるも、平然を装ってなるべく普通に言葉を返す。


「はい? 何ですか?」


「先程倒れた際、スカートの一部の動きが不自然でした。何かそれなりに重さのある細長い物を仕込んでいますよね? そう例えば――ナイフ、とか」


「――――っ!?」


それは一瞬の判断だった。

咄嗟にミアの手を振り払うと亜弥香はその場にしゃがみ込む。その刹那、ミアが真横に薙ぎ払ったナイフが亜弥香の頭上を通過し、数本の髪の毛を切り裂いた。


「やっぱりそっち側の人間でしたか。普通の人間だったらどうしようかと思っていましたけど、そんな心配をする必要は無さそうですね」


「くっ……!!」


転んだ拍子に転がった玉ねぎをミアに投げつけて亜弥香は駆け出す。

こんな人の多い場所で戦闘を行ったらどれだけの一般人に被害が及ぶか分かったもんじゃない。【教会】に所属している以上、無駄な犠牲を払うのは方針に背くことになってしまう。


「あら? 何処に行くんですか? ……はっ。なるほど、黙って私に付いてこい。そういう事ですね。日本の文化は奥が深いです」


何やら変な誤解をしているようだが、人気を避けられればそれでいい亜弥香にとって好都合だった。

ショッピングモールを出て繁華街の方へ進む。時間が時間なだけに道はかなり混んでいたが亜弥香の身体能力があれば大した問題にはならない。それはもちろんミアも同じで一定の距離を保ったまま亜弥香の背中を追っていた。

途中で撒くことが出来ればそれが一番だったのだが、もう確実に戦闘は避けられないだろう。繁華街に着くとすぐに路地裏に駆け込んでそれなりに広い空間がある場所へ向かった。


繁華街とは言えどこの辺り一帯は廃ビル地帯。

表側の賑やかさが、この場所の寂しさをより一層際立たせている。冷たい空気の漂う空間。夜空に浮かぶ月が広場の中央に止まった亜弥香を照らし上げている。


「――なるほど。移動したのは無駄な犠牲を出したくなかったからですか。となるとあなた……【教会】の人間ですか?」


「……知ってて襲ってきたんじゃないの?」


「いえ全く。買い物をしていてたまたまあなたとぶつかっただけですから……はっ。これを棚から柏餅と言うのですね」


パンッと手を合わせて、日本のことわざを使えたことの嬉しさからか笑顔を見せるミアだったが、亜弥香は表情一つ変えることなくミアを睨みつける。


「それを言うなら棚からぼた餅よ。というか、あなたはどこの所属なの」


「【軍】です」


その答えに亜弥香はあからさまに顔を歪める。

亜弥香の戦闘スタイルは主にサポート。《能力》もサポート向けの為、戦闘に特化した【軍】の人間と一人で殺り合うのは自殺行為と言っても過言ではない。


援軍を呼ぶべきなのだろうがミアに隙が無い。

おそらく意識を別に切り替えた途端に襲い掛かってくるのは明白な事実だった。

【教会】に所属している以上、いつ死んでもいいという覚悟でこれまで亜弥香は戦ってきた。でも一人で戦ってきたわけじゃない。

亜弥香の隣にはいつも久遠の姿があった。二人で協力し、戦い、共に死地を乗り越えてきた。亜弥香が今の今まで生きてこれたのは久遠がいたから。でも今日は頼りになる久遠は自分の隣にいない。亜弥香には一人で戦うという選択肢しか残されていなかった。

スカートの中に隠していたナイフを抜き取り、その鋭利な切っ先をミアに向け、いつでも動けるように意識を集中させる。


「――迷いがありますね?」


「……そんなことない」


「いえいえ、そんなことありますよ。でも、私を殺すことを迷っているわけでは無いようですね。もっとこう……精神的な方面で迷っています」


「迷ってないって――言ってるでしょ!!」


地面を蹴って亜弥香は飛び出した。

陸上選手も顔負けのスタートダッシュはミアとの距離を一瞬で詰めて懐に入り込み、ナイフを首元に向かって振り上げる。脅しではない。確実に殺すための一撃。


「くっ……!!」


しかしその刃は一歩届かずミアのナイフで受け止められてしまい、ミアの右足がカウンターで放たれる。

咄嗟に反対の手を使って衝撃を和らげるも、鋭い痛みが脳に警鐘を鳴らした。

折れてはいないだろうが、おそらくヒビが入っている。左手はもう使い物にならないだろう。だがこの程度の怪我であれば亜弥香にとってそこまで害は無かった。






『――《天使が贈る永遠の花束(フィオリスタ・アンジェ)》――っ!!』






刹那、コンクリートとアスファルトだけの殺風景だった空間に色とりどりの無数の花々が咲き乱れる。

春の訪れを祝福するような美しい光景に、ミアは戦闘中だということを忘れて思わず魅入ってしまう。


「――はぁぁぁ!!」


その隙を突いて亜弥香は再び攻撃を仕掛ける。

流れるような動きで連撃を繰り返す亜弥香。その動きは先程までとは明らかに別人だった。攻守交代を許さない凄まじい連撃にミアは防御に徹するしかない状態だった。


ミアは亜弥香の攻撃を捌きながら考える。

亜弥香の動きが途端に良くなったのは《能力》のおかげなのだろう。だが《能力》の詳細が分からない。身体能力を底上げするだけの《能力》ならば不可解な点が一つあったからだ。


「……おかしいですね? 折るまではいかずとも、ヒビくらいは入れたような気がするんですけど、どうして普通に動かせているんでしょうか?」


そう。確実にヒビが入ったはずの左手を駆使して亜弥香は攻撃を行っていた。普通ならば動かすことはもちろん、全身を使って激しく動くことなんて出来るはずがない。


「さぁどうしてでしょうね!!」


振り下ろした一撃がミアのナイフを叩き落とす。

その決定的瞬間を見逃す理由はなく、逆手に持ち替えたナイフを振り上げた。


「これで――終わりッ!!」


防ぐ術もなければ、躱す術もない。

亜弥香は勝利を確信していた。だがそれは束の間の夢。【軍】の序列第三位であるミアがこの程度の攻撃で終わるわけがなかった。






『――――《天界へ続く栄光の扉(ヘヴンズ・ドアー)》――――』






to be continued

心音ですこんばんは!

ついに戦いが始まりました。果たしてこの戦いはどのように決着がつくのか!楽しみにして頂けると嬉しいです!

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