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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
ハジマリの出会い
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第02話『亜弥香』

朝のホームルームは無事終了した。

クラスメイト達は足早に自分の取っている授業の教室へと移動を始める一方、遊馬と拓海は自分の席に座ったまま動こうとはしなかった。


だがそれは無理もない。今日編入してきたばかりの彼らが授業やカリキュラムを選んでいるはずがないのだから。

担任からの伝言はたった一つ。1限の間に1週間の予定を決めておいてほしいとのこと。遊馬と拓海と関わるのを避けたいのか担任は授業の資料だけ二人に渡すとそそくさと教室から出て行ってしまった。


「拓海、お前授業どうするよ」


担任から受け取った資料をパラパラと眺めながら遊馬は机に伏せって寝る気満々の拓海に話しかける。

拓海は気だるげに体を起こし、頬杖をつきながら欠伸をする。


「考えるのがめんどくさいし、何より俺たちには必要ない(・・・・)


「必要ない、ね。まぁ確かにその通りだが、今の俺たちは(・・・・・・)あくまでも学生だ(・・・・・・・・)。学生は学園のルールに従う必要がある。それに滅多にない機会だし、少しくらい楽しんでもバチは当たらないだろ?」


「まぁそれはさておき、今夜どうすんの」


明らかに授業の話題から話を逸らしたかった拓海はまた一つ欠伸をしながら遊馬にそう訊ねる。炎が灯ったような紅い瞳はこれから起こる何かに期待するかのように爛々と燃えていた。

拓海にとってはどうでもいい授業よりも、今晩の予定の方がよっぽど楽しみらしい。


「あー。どうするかね。やることやっておかないとヤバイもんな」


資料を放り出して遊馬は考え込む。

彼にとっても今晩の予定は今のうちに決めておかないといけない授業よりも大事のようだ。

しばらく悩んだ末、遊馬は床に落としていた視線を上げて拓海に合わせる。


「昼に小雛(こひな)がこっち来るそうだからその時に決めるか? まぁ俺としてはこの街での初陣くらい三人でやってもいいと思っているんだがな」


「おー、奇遇だな。俺もそう思ってた」


「なら小雛も俺たちに合わせるだろうな。なんたって俺たちは三人で一つなんだから」


遊馬は不敵に笑って握り拳を作り、拓海の方へ向ける。拓海も遊馬に似たような笑みを浮かべコツンと拳をぶつけ合った。

男の同士の友情……と言うよりはもっとそれ以上の信頼性を感じられる一面だった。今はこの場にいないが先程遊馬がチラッと口にした小雛という名の少女を合わせて遊馬たちは三人で一つと言える存在なのだ。


「んで、授業はどうするよ? ぶっちゃけると俺も何を取っても構わないんだよ」


「てきとーに取ってサボってればいいんじゃね? 俺はその方が嬉しい。寝れるし」


「お前は何が何でも寝たいんだな」


呆れたように遊馬はため息を吐く。

拓海の発言と言うよりも、拓海の存在自体にため息を吐いているようだった。


「睡眠はいいぞ、遊馬。人間の三大欲求にも含まれている至福の時間だ。この時間無くしては人間は生きていけない。他の二つは無くてもいい」


「性欲はともかく食欲は無けりゃ生きていけないだろ……。睡眠欲だけ満たしたところで腹が膨れなきゃ死ぬわ」


「昼寝をする授業はないのか?」


「ねーよ。ただ料理研究ってやつならある。一つはこれでいいだろ?」


「いいけど。そういやこの学校の授業は全学年混合になっていたりするのか?」


「あー……ちょっと待って。そういう事か。……そう、みたいだな。授業によっては取れる学年が決まっているみたいだ。まぁほとんど全学年共通みたいだぞ」


二人が気にしているのは小雛の事だろう。

本名は高坂(こうさか) 小雛(こひな)。学年は一つ下で、これまた同じく今日から御陵学園に編入した生徒の一人である。無口であまり感情を表に出さない子だが遊馬と拓海には懐いている事もあり人並みに良く喋る。


同時期に、しかも知り合い同士が編入してくるということに教師陣は疑問を抱いているかもしれない。

しかしどれだけ疑問に思おうともその答えを知ることは叶わない。そもそも教師陣のほとんどは遊馬たちがどういう経緯で編入してきたのかすら知らないのだから。


「なぁ遊馬。昼に小雛が来るならその時に今晩の予定と授業の内容を一緒に決めればいいんじゃね?」


「二限どうすんよ」


「寝る」


「……俺も寝るわ」


遊馬は決して折れたわけではない。

二限をサボると決めた上にやることが無いなら寝るしかないと判断したまでの事である。


「――残念だけど寝かせないよ?」


「あ?」


気持ちよく睡眠に入ろうした拓海は教室の入り口の方から聞こえてきた声にあからさまに顔を顰める。

長年の付き合いである遊馬はこの時点で拓海の機嫌が最大級まで悪くなったのを理解したが、特に触れることなく声の主へと視線を移した。


「誰、お前」


「お前じゃない。私は亜弥香。小波(さざなみ) 亜弥香(あやか)。一応クラスメイト兼クラス委員長だから名前は覚えておいてくれると嬉しいかな?」


敵意剥き出しの拓海の言葉に一切臆することなく亜弥香と名乗る少女はそのまま教室へと入って遊馬たちの元へ歩み寄ってきた。


小波 亜弥香。

彼女の言う通り遊馬と拓海のクラスメイトであり、クラス委員長という高い地位に立っている。故にクラス内での人望は厚く、教師陣を含め数多くの信頼を得ている俗に言う頼りになる系の少女である。


「それで、クラス委員長さんが俺たちに何の用だ」


「まぁそう殺気立つなって拓海。喧嘩腰じゃ話が進まない」


遊馬の言い分はもっともであり、自分じゃいつまで経っても状況が進展しないと判断した拓海は手をひらひらと振って遊馬に全て任せるとジェスチャーした。


「悪い奴じゃないんだ。ちょっと大目に見てやってくれないか? クラス委員長さん」


口下手という訳では無いのだが、拓海は遊馬や小雛以外と話す時は口調がキツくなる傾向がある。


「それは分かったとして、その呼び方はやめてよ。固い固い。もっとフレンドリーにしようよ、遊馬くん」


「いきなりファーストネームか。なら俺も亜弥香って呼んだ方がいいようだな。それで亜弥香。お前は今授業中じゃないのか? どうしてこんなところにいる?」


「今日の授業は自習なんだ。私の中では」


「つまりサボりか。いいのかよ委員長がそんなことして。他の連中に示しがつかないだろ」


「模範的な行動ばかりしてたら疲れるだけ。程よく適当にやるのがちょうどいいって私は思ってる」


亜弥香は腰のあたりまである亜麻色の長い髪をサッとかき上げてキメ顔を作る。それに苦笑いを返した遊馬は半目でこちらの様子を伺っていた拓海と一瞬だけ目を合わせてすぐに視線を外す。


「……」


それからすぐに拓海は無言のまま立ち上がり、亜弥香の横を通り抜けて教室から出ていこうとした。

薄ら笑いを浮かべている拓海。彼はこれから遊馬が何をしようとしているのか分かっているようだった。そしてそれが自分のためにもなるからこそ止めはしない。


「あ?」


拓海の歩みが唐突に止まる。

亜弥香が拓海の腕を掴んだからだ。


「……」


無論、振りほどけない訳ではない。と言うより、拓海の場合振りほどくだけでは済まされない。

拓海の力を持ってすれば亜弥香など瞬きしたその瞬間には床に押さえつけられているだろう。


しかしそうしない理由があった。暴力行為に値するその行動は良くて停学。最悪の場合退学になってしまう。そうなってしまえばこの学園に編入してきた意味が無くなってしまう。

彼らの目的の為にも目立った行動――特に退学になるような事だけは何としても避けなければならなかった。


「――悪いけど二人には今日一日、私の取っている授業に付き合ってもらうから」


そう言って亜弥香は、困惑する遊馬と拓海ににっこりと笑いかけるのだった。



to be continued

心音です!こんばんは!

新キャラ登場です!と言ってもプロローグには出ていましたけどね(汗


遊馬と亜弥香。この段階ではまだ何もありません。今後どうなっていくのか……お楽しみにしててください。


それでは次のお話でまたお会いしましょう。

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