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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
~暮春〜 変わり始める日々
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第23話『調理実習 ①』

「――はい! では皆さん、今日のお題は余り物でお昼ご飯を作る! です!」


無駄にテンションの高い家庭科の先生の言葉に耳を傾けながら遊馬は大きな欠伸をする。

それが伝染したのか左右に座る拓海と小雛も眠たげに欠伸をし、ほぼ同時に机に伏せった。


「遊馬くん達、寝不足なの?」


「ん、ああ……昨日ちょっと色々あってな」


【箱庭】から情報を持ち帰って紅刃を探していた遊馬たちだったが、拠点に行ってもいないわ、電話をかけてもメッセージを送っても返事がないわで、結局紅刃を見つけたのは朝日が昇り始めてきた時間帯だった。


「実習大丈夫? 何なら私たち二人でやっちゃうけど」


「うんうん」


亜弥香の言葉に久遠は頷く。

しかし遊馬は申し訳ないと言うように首を横に振った。


「眠くても料理くらいは作れるから心配すんな。……こっちの二人は知らんが」


ものの数秒で寝落ちている拓海と小雛。

いざ実習が始まれば起きるだろうからそれまでは寝かせておくことにすると決めたようで、今日の実習の説明をしている先生の方へ体を向けた。


「何を作るかは各班の自由です! ただし、食材はこちらが用意したものだけを使ってくださいね!」


先生がビシッと隣のテーブルを指さす。

そこには様々な食材が山のように積まれてあった。


「……余り物、とは?」


「久遠。それはおそらくこの実習において一番突っ込んじゃいけないところだ」


何故お題を、余り物で作る。にしたのか分からないほどの食材。これだけあればそれなりの料理を作ることは可能だろう。


「何か質問はありますか? 無いなら怪我には気をつけて実習を始めちゃってください! はいスタート!」


パンっと手を叩く。それが合図となって生徒たちはそれぞれ行動を始めたのだが、遊馬たちは何故か揃ってその場から動こうとはせず、じっと他の生徒たちを観察していた。

無論、拓海と小雛が起きるのを待つ間の暇潰しではなく、きちんとした理由があってのことだった。


「亜弥香。お前確か、この授業はお題に沿えば沿うほど評価点が上がるとか言っていたよな?」


「言った。あとは実際に使った料理の味、盛り付け方とか基本的なことで評価が出るよ。ただ、味と盛り付け方は共に評価点が最高で5に対して、お題クリアの最高評価点は15。つまり、お題を完璧にクリアしている時点で味と盛り付けを合わせた最高点数分以上が貰えることになる」


つまるところ、この実習で出される課題は、味や盛り付け方などは二の次で、出されたお題をどれほど完璧にこなすことが出来るかで評価が決まってしまうということなのだろう。


「みんなこの授業を料理するだけの楽な授業だし、先生も優しそうだから単位が取りやすいと思っている。けどそれは大間違い。遊馬はそれに気づいていたんだね。素直に関心したよ」


久遠はわざとらしくパチパチと手を叩く。


「それなりに注意深く見ていりゃ嫌でも気づく。あの先生、ずっと笑顔でいるだけで目はこれっぽっちも笑ってない。この学校の先生ってみんなこんな感じなのか?」


「普通より厳しめの先生が多いかな? この先生は可愛いし、面白いし、生徒からの人気は高いけど、遊馬が気づいた通りの性格をしている。ぶっちゃけかなり性格悪いよ」


今も尚、楽しそうに笑いながら生徒の動向を探っている先生を一瞥して久遠はため息を一つ吐いた。

どうやらあの先生には嫌な思い出があるようだった。


他の班は何処も調理を始めている。

それを確認した遊馬たちもようやく席を立ち、未だに山積みのまま残っている食材の元へ向かった。


「とりあえずこれでお題はクリア(・・・・・・)だろ?」


「多分ね。先生の言った余り物の捉え方が私たちの思っている通りならば、お題はクリアしてるはずだよ。純粋な意味だったとしても、メニューをどうにかすればいいだけだと思う」


解説しよう。

今回のお題は余り物をどう捉えるかによって考え方が変わってくる。今回の場合捉え方は二つ。一つ目は純粋に余り物を使う簡単な料理を作るか。例えるなら、前日にカレーを作り、余った分は次の日にカレーうどんにしたりするみたいな感じだ。

そしてもう一つ。それは言葉通りの余り物。ようするに、他の班が食材を選び終えた後、残った食材で料理を作るかということ。後者ならば遊馬たちはこの時点で最高評価点である15点を貰えていることになるし、前者だったとしてもそれはこれからどうするかという話だから正直関係は無い。


「さて……何を作るとするかね。亜弥香、久遠。何か食いたいものはあるか? これだけありゃ、昼飯くらいなんでも作れるぞ」


牛豚鳥の肉はもちろん、鴨肉や桜肉まである。魚は捌かれているから見た目で判断しろってことなのだろうがそれなりの種類があるし、野菜も新鮮なものが揃っていた。

金持ちの学校はやることの規模がいちいち大きすぎる。こういった所が人気の出る秘密なのかもしれないが。


「んー……確かに何でも作れそうだけど、お題に沿うのなら炒飯とかでいいんじゃないかな」


「ま、それが妥当な判断か。肉は何使う?」


「豪華に牛!! と言いたいところだけど、豚肉にしておこうかなー」


久遠は手頃なサイズの豚肉を遊馬に手渡す。

豚肉を受け取った遊馬はくるりと振り返ると、テーブルで眠っている拓海を呼んだ。


「拓海ー! パース!!」


次の瞬間、遊馬はフルスイングで豚肉を投擲した。

無論、拓海は目を覚ますどころか身動き一つ取っていない。このままではまだ半ば凍っている豚肉が拓海の頭にクリーンヒットしてしまう。


「ほえ!?」


その腑抜けた声は久遠から。

確実に命中すると思っていた豚肉は拓海の手の中にきちんと収まっていた。しかも拓海は顔を伏せたまま。飛んでくる豚肉を見ないで受け止めたのだ。


「それレンジで軽く解凍しておいてくれー」


「……おー」


眠たげに身を起こし、拓海はレンジへ向かった。

このやり取りで小雛も目を覚ましたらしく、猫のように目元を掻きながら小さな欠伸をかく。


「小雛ー。お前は野菜切ってくれー」


「んー」


小雛は小さく頷くと手を構える。

投げて。という意味らしい。人参とピーマンを二個ずつ選んだ遊馬は等間隔で野菜を投げていく。巧みなコントロールで放たれた野菜は何一つぶれることなく小雛の手に吸い込まれていった。


「ゆーま、切る物も欲しい」


「ういうい」


軽い返事をして遊馬は包丁を手に取り、当たり前のように投擲した。


「ちょ!!!!??」


その様子を見ていた亜弥香と久遠は流石に青ざめる。しかし、回転しながら飛翔する包丁を見ても小雛は顔色一つ変えずに手を伸ばした。

無造作に手を伸ばすその行為は、傍から見れば目を背けたくなるような惨状が待ち受けているのは明確。だが互いを信用し合っている二人にそんな心配は無用だった。


「――ありがと、ゆーま」


何事も無かったかのように小雛は包丁の柄を掴み、そのまま初めに受け取った人参とピーマンを流しで洗い始める。


「亜弥香、久遠。何か入れたい具材あるか?」


「……その前に一ついいかな、遊馬くん」


「ん?」


真面目な表情を浮かべて近寄ってきた亜弥香は、手を振り上げると遊馬の頬を叩いた。

乾いた音が家庭科室に響く。しかし誰も亜弥香の行動に気づいてはいなかった。いやそれ以前に、遊馬が野菜と包丁を投げたことすら気づいていない。

まるで遊馬たちの姿が誰にも見えていないかのように自然な時間が流れていた。


「……何を考えているの、遊馬くん」


「……」


亜弥香は本気で怒っていた。

何故自分が叩かれたのか分からない遊馬は唖然とした表情でジンジンと痛む頬を押さえていた。


「ちょっと亜弥香。悪いがあってやったわけじゃないんだからやめなよ」


流れが悪くなったと判断した久遠が亜弥香を止めにかかるが、亜弥香はそれを一蹴する。


「そういう問題じゃない。ねぇ遊馬くん。危ないって分かっているよね? 下手したら小雛ちゃん、死んでいたかもしれないんだよ」


「……悪いな。俺たちは少しばかり常識ってものが欠けているんだよ。今後は気をつけるから怒りを収めてくれると有難い」


「あのね――」


何か亜弥香が言いかけた瞬間、その顔が強ばる。


「?」


何が起きたのか分からなかった。

ただ一つ分かったことがあるとすれば、亜弥香は口を故意で閉ざしたのではなく、閉ざさる負えなかったということ。


「――やめなよ、亜弥香」


凛とした久遠の声が響いた。

それはいつものような明るい口調ではない。しかし怒っているわけでもない。何を考えているのか分からない。久遠は亜弥香の元へ歩み寄ると肩にぽんと手を置くと――破顔した。


「ほらほら! 折角の楽しい実習の時間なんだからそんな顔してると台無しだよ? スマイルスマイル!」


「う、うん……ごめん。遊馬くんもごめんね。ちょっとムキになりそうになってた」


「いや、悪いのは俺の方だから気にすんなよ」


「はい! 仲直り終了! それじゃあ私たちも作業に戻ろう!」



to be continued

心音ですこんばんば!

とりあえず皆さん!包丁は投げてはいけません!危ないので絶対にやめましょう!

今回一番気になる点は久遠が何をしたのかということだと思われます。それはおいおい分かりますのでどうか楽しみにしていただけると幸いです。

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