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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
〜春〜 当たり前の日常
23/47

第22話『血焔姫』

同時刻:某所



真っ赤に燃える紅い髪を風に靡かせながら紅刃は一人歩いていた。下駄が奏でる乾いた音は静寂に包まれたこの場所に良く響く。


「……【教会】と【箱庭】。全く接点が無いはずの二つの組織が何を企んでいるのかしらね?」


【教会】の活動理念。

それは至って単純なものだ。正しい世の中を作る為に行動する。ようするに世直し。世界を正しい方向へ導くため、そして平和な世界を築くために【教会】は存在するのだ。

それこそが【教会】にとっての正義。

そしてその正義に犠牲は付き物だと理解しているからこそ【教会】は裏社会で生き残ることができている。


殺さずして平和を守ることは出来ない――。

時には殺すことで守られる平和もある――。


【教会】の最終的な目的は【軍】を壊滅させること。

裏社会において最も恐れられている組織――それが【軍】。紅刃率いる最凶の能力者が集う組織。

【軍】に喧嘩をふっかけた組織は【教会】を除き、これまで例外なく壊滅させられた。組織として成り立たなくなった訳ではなく、文字通りの壊滅。組織の構成員は一人残らず皆殺し。家族がいるものなら、その家族すらも例外なく殺された。


中でも最も危険人物として挙げれるのは紅刃だ。

《能力》、戦闘技術に関する詳細は一切不明。ただ一つ言えることがあるとすれば、紅刃と対峙して生きて帰ってこれた者はいないということだった。


「……」


そんなバケモノのような力を持つ紅刃も時には考えることもある。


「……繋がりが全く見えない。何が目的なのか分からない。私たち【軍】を壊滅させるために手を組んでいるのだとしても納得がいかない」


カツン――と、一際大きく下駄の音を響かせて紅刃はその場に立ち止まる。


「――隠れてないで出てきなさい。気配を消しているつもりみたいだけどバレバレよ」


呆れたように紅刃は呟く。

会話するくらいの声量で放たれた声だったが、場所が場所ということもあって凛と響いた。

同時に漆黒の影が動き、闇の中から男二人、女一人の合わせて三人が姿を現す。その途端、今まで抑えていたのであろう黒くてドロドロとした殺気が空気を穢していく。


「あなた達どこの人間かしら?【教会】の人間ないのは確かみたいだけど」


常人ならばこの殺気だけで意識を失ってしまいそうなものだが、紅刃にとっては痛くも痒くもない軟弱なものだった。


「お前、神代紅刃だな?」


「質問を質問で返すのはマナー違反よ?」


「常識なんてどうでもいい。質問に答えろ」


「……」


瞬間、紅刃の表情から笑顔が消え失せる。

紅蓮の瞳に激しく燃え上がる炎が灯り、紅刃は溢れんばかりの殺気を顕にした。

それでも対峙する男女は怯むことなく紅刃を睨みつける。それなりに戦闘慣れしている者のようで、紅刃は嬉しそうに嗤った。


「――ええ、そうよ。私が神代紅刃。何処かの組織の人間なのか、ただ金で雇われただけの殺し屋なのか知らないけれど、私に喧嘩を売って生きて帰れるとは思わない方がいいわよ」


刹那、何も無い空間に紅蓮の炎が踊った。

紅刃は何の躊躇いもなく炎の中へと手を突っ込み、長細い何かを取り出した。


「人を殺していいのは殺される覚悟のある人間だけ。あなた達も勿論理解しているのよね?」


紅刃が取り出したのは日本刀だった。

刀全体にまとわりつくように揺れている炎が白銀の刀身に反射して紅い影を落とす。


男女数人は無言のまま各々の武器を構えた。

殺しの世界において紅刃の言ったルールは暗黙の了解と言える。そして互いが武器を構えれば、それは生者と死者を決める殺し合いの始まり。


「――――」


最初に動いたのは紅刃に話しかけた男。それに続いて残りの二人も動いた。三人の揃った動きを見れば腕の立つ刺客であることは明確な事実。

10m程空いていた間合いを一瞬で詰め、紅刃の懐に入り込んだ男は迷いなく下からナイフを振り上げる。


「――いい動きね」


それを紙一重で躱した紅刃は男を蹴り飛ばし、同時に左右から迫ってきていた斬撃を目にも留まらぬ速さで捌く。

日本刀で捌かれたはずなのに紅刃の手の位置は先程から動いていない。否、動いていないのではなく、光速で捌いた後に元の位置に戻しただけ。しかし左右から攻撃を仕掛けた二人にその動きは見えておらず、ここに来て初めて戸惑いの表情を見せた。


しかしそれも一瞬。熟練の殺し屋がこの程度のことで怯むようならば、この社会では生きていくことができない。

すぐに体勢を整えて次の攻撃の機会を伺う。しかしそれは紅刃にとって隙でしかなかった。目にも留まらぬ速さで動く紅刃相手に止まるということは自殺行為にしかならない。


「――――!?」


三人の前から紅刃の姿が消える。

次の瞬間、銀の一閃が空間を裂き真っ赤な血飛沫が上がり、ゴトンと重たい物が地面に落ちる。

それは首だった。最初に攻撃を仕掛けた男の生首が地面に転がっていた。


「――はい。一人目」


首を切り落とした日本刀には血の一滴付着していない。つまり、尋常でない程のスピードで首を切り落としたという事になる。

紅刃は軽々と片手で日本刀を構えているが、日本刀というのは大の大人の男ですら両手でやっと扱える代物。それを女である紅刃が涼しい顔で片手で操る様は残った二人に格の違いというのを見せつけるのに十分な効力を持っていた。


「……」


流石に相手が悪すぎると判断したのか、二人は半歩身を引く。隙をついて逃げようとしているのだろうが、当然紅刃が隙を見せるはずない。


「言っておくけど――逃がさないわよ? 私は最初に確認しておいたはずだし、あなた達も無言で了承した。故に生きるか死ぬか。その選択しか残されていないわ」


冷たく紅刃は言い放つ。

この世界は無情だ。覚悟のない者から順番に消えていく。生き残れるのは覚悟した人間だけ。それ以外はみんなこの世界に殺されてしまう。


「あなた達みたいな雑魚、私の《能力》を使うまでもない。でもね、少しだけ期待しすぎてしまったみたいなのよ」


言いながら紅刃は自分の体を抱きしめる。


「身体が火照って仕方ないの。私の炎が暴れたいと叫んでいる。何もかも燃やし尽くしたいと懇願している。だから――あなた達には私の火照りを収めるための犠牲になってもらうわ」


大きく両手を広げる紅刃。

隙だらけな行動なのに二人はその場に貼り付けられてしまったかのように一歩たりとも動くことが出来ない。


これが紅刃の実力。【軍】の代表に君臨することができる絶対的な支配力。

最強の名は伊達ではない。燃え上がる紅蓮を纏う紅刃の存在を知らない人間はこの裏社会において存在しないと言えるだろう。


そして、その紅き姿から紅刃はこう呼ばれていた。






『――――《血染めの終焉(ブラッディ・カ)を謳いし紅焔(タストロフィー)》――――』






紅き姫君――。《血焔姫(ブラッドクイーン)》――と。



to be continued

心音ですこんばんは!

今回の話で第一章は終了となります!

第二章も日常と非日常の落差を楽しんでいただけると幸いです!

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