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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
〜春〜 当たり前の日常
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第21話『計画』

「……小雛。なんか見つかったか?」


異様な雰囲気の漂う校長室を物色し始めて数十分が経とうとしていた。

その成果は遊馬の様子を見れば一発でダメだったと分かる。無駄な時間を過ごしたと言いたげなやる気の失せた暗い表情。遊馬程ではないが《能力》を駆使して物色を続ける小雛もそれなりに疲れきったような表情を浮かべている。


「……なにも無い」


「……となるとやっぱり、このパソコンを調べてみるしかないよな」


今まであえてスルーしてきた机の上に堂々と鎮座しているパソコンを見つめて遊馬はため息を吐く。

実はここにいる面子全員、パソコンに関してはこれっぽっちも役に立たない。初歩的な操作は出来るもののハッキングやファイル解析といった高度な技術は一切持ち合わせていなかった。


「確実に人選ミスだろ紅刃……」


パソコンを立ち上げてみたものの、案の定パスワードを入力する画面で行き詰まる。


「……帰るか」


あっさりと決断を下した遊馬はそのまま踵を返す。

自分に不可能なことはやらない主義らしい。身の丈にあった仕事だけを完璧にこなす。そんな不純なスタイルが遊馬を【軍】の精鋭メンバーに導いたのだから皮肉なものだ。


「拓海、見張りご苦労様。帰――」


言いかけた遊馬の視線が一つの本棚の前に止まる。


「……おい、小雛。この本棚調べたか?」


「? 調べたよ。でもこれといった書類とか何も無かったよ」


「いや違う。本棚自体(・・・・)を調べたか?」


「……?」


静かに首を振る小雛を片目に遊馬は本棚の前に立つ。

ざっと全体を見渡しながら遊馬は本棚に詰められている書類を読むわけではなく、押したりずらしたりしながら物色していく。

廊下の方から様子を見ていた拓海も遊馬が何をしているのか気になったらしく部屋に入ってきた。


「……やっぱり隠し扉か」


呟くと同時に遊馬はファイル留めされていた書類を思いっきり押した。

その瞬間、本棚から鳴るとは思えない歯車が回るような音が静寂を切り裂く。その様子を後ろから伺っていた拓海と小雛は終始無言だったが、目の前に現れた先の見えない暗闇の空間には流石に驚いたらしく、二人共楽しそうに笑っていた(・・・・・)


「――総員戦闘準備。こっから先は何が待ち受けているか分からない。いつでも動けるような状態にしておけ」


「「了解」」


三人の雰囲気が今までとは比べ物にならないくらい冷酷なものに変わる。今から対峙する人間はまず間違いなく命を散らす運命を辿ることになるだろう。


遊馬を先頭に先の見えない暗闇を進んでいく。

カーブもなく真っ直ぐ続く下り階段。スマホのライトでは終わりが見えないほどの闇。しかし、永遠に続くのかもしれないと思われる道もやがては終わる。


10分程度は歩いたのだろうか。

ようやく照明の明かりと思われる白い点が現れ、遊馬はスマホをポケットにしまうと、その点を目指して歩むスピードを上げる。

点に近づくにつれて微かに人の声と金属がぶつかり合うような激しい音が聞こえてきた。三人は一度顔を見合わせ、手元のナイフを固く握りしめると同時に、いつでも《能力》を発動できるように心を沈めた。


最後の一段を降り、踊り場の空けた空間に身を潜め、顔だけ出して中の様子を伺う。暗闇から明るい場所へと移動したせいで一瞬目の前が真っ白になる。

すぐに目が慣れて中の様子が明らかになると、三人は今日一番の驚きの表情を浮かべて言葉を失った。


「……何してんだ、こいつら」


やっと出てきた言葉は中から上がった劈く悲鳴によって掻き消された。

長い階段を降りたその先に広がっていたのは地下シェルターと思われるとてつもなく巨大な空間。そこには何人もの子ども達がナイフや銃器を片手に互いを殺し合っていた。


「……!? ゆーま、たくみ。こっち誰か来る」


「ちっ。隠れられそうな場所は……ここくらいか」


幸いにも階段の裏に空間があり、遊馬たちはそこに固まるようにして身を潜めた。

正面から来る人間に対しては絶対的な死角になっているからわざわざ回り込まれない限りバレることは無いだろう。


「……から、……、……」


「…………ほど。では――、……」


声と足音からして若い男が二人。まだ距離が離れており何を話しているのかまでは聞き取れない。それでも聴覚に意識を集中させて二人の会話を聞き取り始める。


「今年の能力者は素質がいい。これなら大きな期待が出来そうだ」


「それに今回からは【教会】も手を貸してくれるそうだ。これは《開花計画》において大きな進展。【軍】と殺り合う組織だからどんなところかと思っていたが心配する必要は無さそうだ」


聞き慣れない単語に遊馬は首を傾げ拓海と小雛を見る。しかし二人も分からないらしく申し訳なさそうに首を振った。

男二人の声がすぐ近くで聞こえる。遊馬たちのいる踊り場に入ってきたらしい。バレた時に備えてナイフを構えるが心配は杞憂に終わりそうだった。男二人は遊馬たちの存在には一切気付かず、そのまま会話を続けながら階段を登っていく。


「《開花計画》が成功すれば裏社会に革命が起きる。僕はね、その時が来るのが楽しみで仕方ないんだ」


「ああそうだな。とりあえずいつも通りあと30分ほど子ども達には殺し合わせておこう。生き残った者を次の実験に移行させる」


不穏な会話を続けながら男たちは闇の向こうへ消えていく。声と足音が完全に消えてから遊馬たちは再び踊り場へ出る。


「紅刃への報告が出来ちまったな。《開花計画》――詳細は不明だが、ろくでもない人体実験をしているってことは確かみたいだ。それにしても……よくこれだけの能力者を集めたもんだな」


見渡す限りざっと100人近くの子ども達がいる。

その大半は既に事切れているようだが、遊馬はそのことに関しては何も思っていないらしく言葉を続ける。


「これはあくまでも俺の勘だが【箱庭】って組織は紅刃が認識している以上にやばいところかもしれない。お前らも知っての通り能力者ってのはそうそう見つかるものじゃない。なのに今この場にこれだけの能力者が集まっているんだ。しかも全員子ども。さっきの二人の話を聞く限り、何度かこうして殺し合いをさせているような感じがする」


「……何か、裏がありそう」


「確実にあるだろうな」


小雛の呟きに遊馬は即答する。

拓海は特に会話に参加することも無くただただ子ども達が殺し合う様を見つめていた。


「どうした拓海、お前も参加したいのか」


「……別に。ただ……」


「ただ?」


「惨めだなって思っただけだ」


遊馬と目を合わせようともせずに拓海はそう答える。

それっきりずっと無言で、これ以上何か言うつもりは無いと背中が語っていた。

だから遊馬もそれ以上の追求はせず、スマホの無音カメラを立ち上げて中の様子を何枚か写真に収めた。


「んじゃ帰るぞ。さっさと紅刃に報告して寝たい」


「早めに戻らないと、あの人たち、戻ってくるかも」


階段を登り始める遊馬と小雛。

しかしすぐに足を止めて振り返る。


「おい拓海? 帰るって言ったのが聞こえなかったのか」


「……あ、悪い。今行く」


何か考え事でもしているのか、拓海の反応はいつもに増して薄いものだった。


「たくみ、大丈夫?」


「おー」


「……そっか」


何か思うところがあるようだが、小雛はそのまま口を閉ざす。


帰りは行きと比べて断然楽なものだった。

唯一心配していた先程の男二人と遭遇することもなく、難なく【箱庭】の本拠地から脱出に成功し、遊馬たちはそのまま紅刃の待つ場所へと足を進めた。


草木も眠る丑三つ時。

痛いほどの静寂が無言を際立たせる。それでも遊馬たちが何か喋ることはなく、ただただ足を動かし続けていた。


長くなるだろうと予測していた夜は思った以上に呆気なく幕を下ろした。



to be continued

心音です、こんばんは。

次の話で第一章は終了となります。

《開花計画》とは一体何なのか。【箱庭】と【教会】の狙いは? 第二章では物語がより複雑に絡み合います。そしてその一片にある平和な日常。歪んだ物語をどうか最後まで見届けてください。

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