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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
〜春〜 当たり前の日常
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第20話『潜入』

「――紅刃の送ってくれた地図が確かなら……ここなんだが……」


スマホから顔を上げた遊馬の困惑とした表情を画面の明かりが照らしあげていた。

目の前にそびえ立つ巨大な建物。学生であればほぼ毎日見るであろうその建物も、夜中に見るとまた違う雰囲気を出していた。


「どこからどう見ても……学校だよな?」


「学校だな」


「学校だね」


拓海と小雛も口を揃える。

遊馬の気のせいではなく、ここは確かに学校のようだった。


「えーっと? たしか俺たちは【箱庭】の本部に来たはずだよな? 紅刃のやつ送る地図間違えたんじゃねーの」


「無いだろ」


「無い」


「お前ら今日素っ気なくね?」


とまぁ冗談はここまでにして。と、遊馬は警戒を更に強めて辺りを見渡した。

監視カメラといったセキュリティシステムは遊馬の目の届く範囲には見当たらないしその気配も感じない。住宅街のど真ん中にあるからかこの時間は人通りが少ないようだった。

潜入すること自体は苦にならないだろう。問題は外からじゃ分からない中の様子の方。こればっかりはどう頑張っても何に入らない限り分からない。


「――行くぞ」


音も無く駆け出した遊馬は軽く跳躍して壁を乗り越える。それに続いて拓海と小雛も動くと、ものの数秒で敷地内に三人の影が降りた。

降り立った箇所はちょうどグラウンドだったらしい。突然ように無人だったわけだが、こうも見晴らしがいいともう校舎の方に人がいた場合見つかってしまう可能性がある。

それを瞬時に判断した遊馬は身を低く保ち、壁際を沿って一気に駆け出した。


「……セキュリティが甘すぎる」


走りながら遊馬はボヤく。

組織の本部を置いている場所にしては警戒心というものがこれっぽっちも無かった。

しかし遊馬たちが警戒を解くことはない。仮にも敵の本拠地にいるのだ。死と隣り合わせと言っても過言ではない。


グラウンドを抜け、下駄箱と思われる場所に辿り着いた遊馬は一瞬だけスマホに視線を落として何かを確認すると、ガラス扉の鍵穴がある辺りに手を翳した。

次の瞬間、カチャンと音がしてきちんと施錠してあったはずの扉が開く。

遊馬が合図をすると拓海と小雛は無言で頷き、そのまま校舎内へ侵入し、辺りの様子を伺っていた遊馬も二人の後に続いて校舎に入ると一度扉の施錠をし直した。


「中の様子はどうだ?」


「下駄箱抜けた先、廊下から赤外線センサーが張り巡らされてあるな。念のため可視化ゴーグル付けておいて正解だった」


「サーモグラフィーは無いみたいだよ。可視化ゴーグル付けておけば大丈夫だと思う」


なるほどと、遊馬はトートバッグの中から可視化ゴーグルを取り出して装着した。すると遊馬の視界いっぱいにアトランダムに伸びた赤い線が現れる。


「……中に入った途端これか。紅刃の情報もたまには外れるんだと思ったが……これは何かあるな」


ただの学校であればここまで厳重なセキュリティを置いたりはしない。何か隠したいことがある証拠だった。


意識すると同時に薄暗い校舎の空気が重くなる。

目に見えない恐怖、肌に張り付くような不快感が押し寄せてきた。だがそれはあくまでも一般人の感覚であり、遊馬たちのような非日常に生きる人間には慣れた感覚だった。


「なんで、外だけ、ガバガバなのかな?」


「さぁ? 中に金を使いすぎて外にまで手が回らなかったとかそんなオチじゃないか?」


「ゆーまの言う通りなら、【箱庭】ってところ、かなりバカだね」


愉快そうに笑う小雛を片目に、遊馬は顎に手を当てて考え込む。


「……小雛の言う通りだ。あまりにも馬鹿すぎる。【教会】はこんな組織と組んで何をしようとしているんだ? 俺たち【軍】に対抗する為に策を練っているんだろうが……単体でどうにかした方が早いと思うぞ」


「遊馬、とりあえず先に進まないか?」


「ん。そうだな。とりあえず赤外線センサー切るわ」


そう言って遊馬は両手を大きく広げた。拓海と小雛はそんな遊馬をただ黙って見届ける。

遊馬の《能力》は戦闘向きではあるが、実際のところオールマイティーに使える便利な《能力》だ。先ほど下駄箱の鍵が開いたのもこの《能力》があったからこそだ。






『――――《時計仕掛けの時空回廊(クロック・オブ・クロック)》――――』






小さく呟くと同時に可視化ゴーグルに嫌というほど映っていた赤外線の赤いラインが消滅する。

無論、赤外線センサーを破壊した訳ではない。そんな事をしたら一発で侵入したのがバレてしまうから当然だ。なら遊馬は何をしたのか。答えは単純で、赤外線センサーを起動する以前の状態に戻しただけだ。


――《時計仕掛けの時空回廊(クロック・オブ・クロック)》――。

簡単に説明すれば時間を自由自在に操る《能力》。自由自在とは言っても生命の理に反するような操作をする事はできない。極端な例を挙げるなら、死んだ人間を生前の状態まで戻すことはできないし、対象の寿命まで時間を進めることもできない。要するにこの《能力》単体では人を殺めることはできない仕組みになっているのだ。


「目に見える範囲は解除しておいた。小雛、お前は可視化ゴーグルを付けたままにしてセンサーを見つけたら随時報告。拓海は……特に何もしなくていいや」


「……」


不満げな拓海だったが文句を口にすることは無かった。


「さて……虱潰しに探るのも馬鹿らしいよな。情報がありそうな場所と言えば……職員室とか?」


「まぁ可能性としては高そうだな」


「んじゃ第一目標は職員室で。特に何も無かったらその時また考えよう」


かなり適当に行き先を決めた遊馬たちは校内の見取り図を見ながら職員室を目指す。

薄暗い校舎に響く三人の足音。閉鎖的空間にその音は良く反響し、まるで他にも人が歩いているのではないかと錯覚してしまいそうだった。


目当ての職員室は一階にあり、遊馬たちが侵入した箇所からそう時間も掛からずに辿り着く。

扉に手をかけると、驚くことに鍵が掛かっておらずあっさりと侵入することが出来てしまう。

念には念を入れて入る前に職員室内を《時計仕掛けの時空回廊(クロック・オブ・クロック)》を使用して昼間の状態に戻してからゆっくりと足を踏み入れた。


「……ハズレっぽい」


数分間、中を物色していた遊馬たちだったが、不用心に開けたままだったこの場所で得るものは無いと早々に切り上げることにしたらしい。

廊下に再集合した三人は次はどこを探るかと話し合いを始める。


「……あ」


ふと上を見上げた拓海が素っ頓狂な声を上げる。

何事かとその視線の先を追ってみると、そこには『校長室』と書かれたプレートが貼り付けてあった。


「なるほど校長室か。こっちの方がワンチャンありそうだな」


「ゆーま、待って」


校長室の木製のドアに手をかけようとした遊馬を小雛が制する。


「そのドア、何かあるよ」


「? 何かってなんだよ」


そう訪ねると小雛は静かに首を振る。

何があるかまでは分からないようだった。


「たぶんだけど《能力》が働いてる。迂闊に触らない方がいいかも」


「……ますます怪しいな。まぁ俺の《能力》が働いてるかもしれないなら俺の《能力》で発動前まで戻せばいいだろ」


手を翳して《能力》を解除しドアを開ける。

ギィと軋む音と共に開かれるドア。中から冷房をガンガンに効かせているかのような肌を刺す冷気が流れ出てきた。


「……」


異様なまでに寒い部屋。

冷房が付いているわけでは無いらしい。中に人の気配も無く、遊馬たちはそのまま部屋に侵入する。


中は漫画やアニメで見るような校長室の風景だった。

高級そうな赤いカーペット。壁には歴代の校長の肖像画が貼り付けてあり、応接用のガラステーブルとソファーが部屋の真ん中辺りに置かれている。その少し奥には校長席があり、丁寧に整理された机にはノートパソコンが鎮座していた。

身を縮こまらせるほどの冷気が溢れているという点を除けば有り触れた校長室であることに違いはない。


「拓海、その見張りを頼む。小雛は《儚き夢を映す鏡の世界(アナザー・ミラージュ)》を使ってくれ。さっさと調べあげて帰るぞ」


長い夜の始まりの幕が今開けた。



to be continued

心音です。こんばんは!

第一章はそろそろ幕を下ろします。この章の最後に何が判明するのか、お楽しみにしていてください!



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