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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
〜春〜 当たり前の日常
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第16話『お花見パーティー ②』

「……え″?」


それがお花見パーティーをする場所となっていた公園を見た久遠の第一声だった。亜弥香に至っては言葉が出ないほど驚いているらしく、餌を待つ金魚のように口をぱくぱくさせていた。


見慣れた公園はもはや中央に聳え立つソメイヨシノ以外の原型を留めてはおらず、天然芝の地面には五人で使うには余るほどの色鮮やかなブルーシートが敷かれており、その上にはご飯やお菓子、飲み物が大量に置かれている。

それだけではない。桜の木をライトアップするかのように公園の四隅に置かれた舞台などで使う照明が設置されているわ、どこから持ってきたのか桜の木を経由して四方に張り巡らさたロープには提灯がぶら下がっているわ、若干近所迷惑にもなりそうな綺麗な音楽が流れているわでとにかくツッコミどころが多すぎた。


「ん? あら二人共早いわね。ささ、準備は出来ているからこっちに来なさいな」


そして桜の木の下。一升瓶を片手に一人で呑み始めていた紅刃は手招きで未だに立ち尽くしている亜弥香と久遠を呼ぶ。

流石にいつまでも突っ立っているわけにもいかず、二人は靴を脱いでレジャーシートの上に上がった。


遊馬、拓海、小雛の三人の姿はまだない。

亜弥香たちは約束の時間よりも30分近く早く来ているから当然と言えば当然のことだった。

それよりも紅刃だ。ここまでの準備をするのに一体どれだけの時間と労力が掛かったのだろうか。


「ジュースとお酒どっち飲む?」


「私たち未成年ですよ……」


「いいわねぇ、学生は未成年って言えば呑みを回避することができて。私みたいな年になるとね、仕事の付き合いってものがあるのよ。そこで興味もないジジィの話を笑顔で相槌を打ったり話を合わせたり……地獄よ」


ガラス製のおちょこに酒を注ぎ、紅刃は嫌なこと全部飲み込むように一気に煽った。

小さな喉がゴクゴクと鳴る。注いだ分を飲み干してぷはーっと息を吐く紅刃はそこらにいる酔っ払いと大差ない。


「――あれ? お前ら早いな……って、何だこりゃ」


遅れてやってきた遊馬は公園の有様を見て苦笑いする。


「……パーティー」


遊馬の後ろに隠れていた小雛は小さく呟くと、大量のお菓子の入った袋のある場所へとスタスタ移動して早速中身を物色し始める。


「みんな揃ったわね。それじゃあ早速乾杯しましょうか。ほらほら好きな飲み物を注ぎなさい」


紅刃に促されて遊馬たちは紙コップにジュースを注いでいく。全員が注ぎ終わったのを確認すると、紅刃はその場で立ち上がり、酒がなみなみと注がれたおちょこを天に掲げる。


「それではーっ!! 第一回ーっ!! 良く分からない面子のお花見パーティーを始めるわよーーーっ!! かんぱぁぁぁぁぁい!!」


先に呑んでいたせいなのか紅刃のテンションは既に最高潮を迎えていた。そのテンションに乗っかるように次に飛び出たのはやはりと言うべきか久遠だった。


「いえーーーい!! かんぱーーーーーい!!」


紙コップとおちょこ激しくぶつけ合う。当たり前のように中身が飛び散ったわけだが、二人は何も気にすることなく残った分を飲み干していく。

既にこのテンションについていけなくなった他四人は余り者同士仲良く乾杯する。


「あ、私お弁当作ってきたんだけど食べる?」


「お。手作り弁当か。紅刃が市販の色々揃えているみたいだがやっぱりこういう時は手作りに限るよな」


「口に合うといいんだけど」


手提げ袋の中から二段重ねの重箱を取り出す亜弥香。

入れ物からして気合い十分な弁当が不味いわけないと遊馬は確信する。先程から何も喋らない拓海と小雛も気になってはいるらしくジュースを飲みながら亜弥香が弁当箱を開けるのを今か今かと待ちわびていた。


「一段目は定番どころでおにぎりを詰めてきたの。中身は梅干しと鮭。あとツナマヨ」


重箱の大きさに合わせた俵状に握られたおにぎり。均等に切られた海苔が丁寧に巻かれていて指に米が付かないように配慮されている。


「二段目はおかず。みんなの好みが分からなかったからとりあえず久遠の好みで作ってきた」


玉子焼きにソーセージ。唐揚げの定番メニューは一通り揃っていて、残り半分のスペースには久遠の好みと思われるポテトサラダに色とりどりの野菜を包んだ肉巻きなどが入っていた。

全体的に茶色い感じだが、適当な大きさにカットされたキャベツが重箱の底に敷かれていて色合いはさほど悪くないし栄養バランスも丁度いい。隅の方にあるプチトマトがワンポイントになっている。


「すげぇ……。めっちゃ美味そう。いただきます!」


「はい、召し上がれ」


遊馬は箸を取って黄金色の玉子焼きを摘む。

口に運んで数回咀嚼すると、その表情が見る見るうちに蕩けていった。


「美味!? 何これめっちゃ美味い!! 玉子焼きって冷めたら少し残念な印象があるけどこれはなんて言うか……美味い!!」


遊馬には語彙力が無かった。

ここできちんと美味しさをアピール出来ればグルメリポーターも夢じゃない。


「はむはむはむはむはむ」


小雛は無心でおにぎりを頬張っていた。その様子はさながら向日葵の種を食べるハムスターのように可愛らしい。

特にツナマヨのおにぎりがお気に入りらしく、既に重箱の中から四つ小雛のお腹の中に消えていた。


「……小波は料理美味いんだな」


唐揚げを食べながら拓海は亜弥香を褒める。

亜弥香は照れ臭そうにしながら馬鹿騒ぎしている久遠を見つめた。


「私が料理しようと思ったきっかけは久遠なんだよね。あの子は三人とも知っての性格でしょ? 一人にしておく色々面倒くさくてね」


昔を振り返るように亜弥香は桜の木を見上げた。

風に乗って桃色の花弁が舞い散る。それが舞台照明に照らされて幻想的な光景を創り出していた。

一片の花びらが亜弥香の持っていた紙コップの中に入る。水面に揺れる桜色。亜弥香は紙コップを回しながら言葉を続ける。


「久遠は何でも一人で抱え込むところがあるの。誰にも相談しないで突っ走って。今まで大きな失敗は一度も無いからどんどんエスカレートしていく。私はそれを見ていられなかった。いつか失敗をした時、久遠は立ち直ることが出来るのかなって」


「……」


遊馬たちは黙って亜弥香の話に耳を傾けていた。

話の内容自体は正直なほとんど分かっていないかもしれない。遊馬たちが今分かっているのはただ一つ。


「……亜弥香は久遠のことを大切にしているんだな」


「大切だよ。久遠は私にとってたった一人の家族みたいなものだから。だから私は久遠の帰る場所になるって決めたんだ」


「……それで料理か」


「そう。美味しいものを作って待つの。どんな時でも料理を作って久遠が帰ってきたら一緒に食べる。そう決めたからには不味いものなんて出せないからね。必死になって覚えた。おかげで料理のスキルはそんじゃそこらの子には負けないくらい上手くなれたよ」


話を聞きながらも食事の手を止めなかった三人。

その美味しさはいつの間に半分以下まで減っている中身を見れば一目瞭然だった。


「……散花は幸せだな。こんな美味い料理が毎日食えて」


聞きたいことは他に(・・・・・・・・・)あったはずなのに(・・・・・・・・)拓海はあえてその事に触れなかった。


「こ〜〜〜ら〜〜〜!! なにしんみりしてるのよぉ!! もっとフィーバーしないさいよっ!!」


「……っ。くれは、臭い」


完全に酔っている紅刃が小雛に絡みついて来る。

若干離れている遊馬にもその臭いが届くのだ。引っ付かれている小雛はたまったもんじゃないだろう。


「あ〜〜〜や〜〜〜か〜〜〜!!」


「っ!? 久遠!? あなた酒臭いんだけど!?」


「……おい。紅刃。お前まさか久遠に酒飲ませたな……?」


「そんなことよりも〜!! みんなで野球挙しましょうよ〜!! はい決定!! いえーい!!」


「いえーい!!」


ハイテンションでハイタッチを交わす久遠と紅刃。

遊馬はこの瞬間に何もかも諦めた。もはや何を言ったところで今の二人には届かない。


星が会話をするように瞬く夜空を眺めて遊馬は盛大にため息を吐いたのだった。



to be continued

心音です!こんばんは!

ついに始まりましたしっちゃかめっちゃかなお花見パーティー!次回はマジで野球挙です!お楽しみに!


……え? 戦わせろ? 安心してください。お花見パーティーが終わったあとに裏サイドでも話が動きます。

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