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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
〜春〜 当たり前の日常
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第15話『お花見パーティー ①』

「――というわけで、三人の歓迎会兼、私が楽しみたいからお花見パーティーを開こうと思うよ!」


月曜日の放課後。遊馬たちは駅前の喫茶店に訪れていた。注文したドリンクがテーブルに運ばれてきて、特に理由もなく乾杯をした後、唐突に立ち上がった久遠は周りの客の事など一切考慮せずに高らかとそう宣言するのだった。


「面白い!! 明らかに後者が本音だろうがその誘い乗ったぁ!!」


そして遊馬もまた、周りを一切気にする事なくテーブルをバァンと叩いて立ち上がると拳を固めて賛成の意を表明する。

言わずとも知れていることだが、【軍】と【教会】どちらも公共の場でのルールというものを守る気は無いようだった。常識が抜けているわけではない。単に守る気が無いだけである。


「……ねぇ、拓海くん? 今日の遊馬くんどうなっているの? 無駄にテンション高いせいでキャラ崩壊してるような気がするんだけど」


コーラをチビチビと飲んでいた拓海はハイテンションを通り越した超テンションで久遠と話を進めている遊馬を見てため息を吐く。


「小波はオールしたことあるか? 人は眠気が限界突破するとああなるんだよ」


「そ、そうなんだ……」


そしてこの二人。やはり遊馬と久遠を止める気は無いらしい。こちらに何か言いたそうな店員さんを横目で見てスルーを決め込んだ。

クリームソーダのバニラアイスにご執心の小雛に至っては誰の話もまともに聞いていないだろう。今の小雛にとっては何よりもアイスの優先度が高い。


「お花見パーティーはいつやるんだぁ!?」


「明日は学校が創立記念日で休み!! ということは〜」


「明日がお花見パーティーだ!!」


「いえーい!!」


無駄にテンションの高い二人は他三人の意見を聞かずに勝手に明日の予定を決めてしまう。

アイスに夢中の小雛はともかく亜弥香と拓海は一応話を聞いていたし、何なら反論の一つ言ったところで特に問題は無い――


「お花見かぁ。確かまだ学校の近くの桜は咲いていたはず。場所はそこで決定として……時間帯はどうするの久遠。昼? 夜?」


――と思いきや反論する気はさらさら無いようだった。むしろ亜弥香も突発的にやると決まったお花見パーティーを楽しみにしているらしい。


「夜でしょ! あの公園でやるなら多少騒いでも近隣に迷惑は掛からないし、何より明日は晴れ! 月の光に照らされた桜はきっと綺麗だよね!」


「夜桜か。味があっていい。俺は散花に賛成だ」


「さすが拓海! 分かってるー! 小雛ももちろん来るよね?」


「……ゆーまとたくみがいるなら」


小雛の基準は遊馬と拓海だから二人が行くとなれば当然一緒に来る。まるで親鴨にくっついて歩く子鴨のようだ。一時も離れたくないという可愛らしい想いが伝わってくる。


「さて、そろそろ迷惑を考えて座るとしよう」


遊馬と久遠が席に着き、集まっていた視線はようやく散り散りになった。

大声で喋っていて喉が若干枯れていた遊馬はアイスティーを一気に飲み干すと、目だけでぐるりと辺りを見渡した。


「――誰か見てるな」


「……それほんと?」


「……」


周りからは自然体に見えるように平穏を装い、声を潜めて訊ねる亜弥香に遊馬はほんの少し驚いたような表情を浮かべた。その理由が分からない亜弥香は首を傾げる。


「いや、普通こういう発言をした時って反射的に周りを見てしまうものなんだよ」


「……え、そういうものなの? 普通警戒しない? もし私たちを狙っている人なら気づいていない素振りを見せた方がいいと思うんだけど」


「まぁそれが正解なんだがな。まぁそれはさておき――誰が覗き見ているんだ? 敵意は感じないが……小雛」


遊馬に呼ばれた小雛はスプーンを置くと目を閉じる。

それからすぐに無言のまま立ち上がると、すたすたと歩き始める。小雛が向かった先は――


「トイレかーい!!」


久遠の激しいツッコミが入った。

想像の斜め上の行動をされたせいで場を支配していた緊張感は一気に消えてしまう。流石の亜弥香も苦笑いしか出来ないようで行き場のない感情をコーヒーを飲むことによって緩和していた。


「――ゆーま、こいつ」


だらけた雰囲気になったところで小雛の声が響く。

一同揃って振り返ると、そこには小雛ともう一人、襟首を掴まれて苦しそうにしている炎のように紅い髪の女性がいた。


「こ、小雛……私に向かってこいつって……というかそろそろ息が、キツいわ」


「……うるさい」


何故か妙に苛立っている小雛は楽な体勢にしてあげるどころか、より息がしづらいように締め直す。


「遊馬ぁ……。見てないで、助けなさいよ……っ」


「あ、すいません。アイスティーお代わりお願いします」


「スルーしないで!?」


全力の訴えに遊馬は面倒くさそうにため息を吐く。


「……こんなところで何してんだよ紅刃」


「知り合いなの?」


状況についていけない亜弥香と久遠は答えを求めるように遊馬を見る。

遊馬は紅刃を助けるのが先か答えてあげるのが先か悩んだ末、もがき苦しんでいる紅刃を見捨てることにした。


「俺たちが育った施設の人。まぁ言ってしまえば姉みたいな存在だな」


親と言ったら怒られるような気がした遊馬は多少でも紅刃が若く見えるように言葉を選ぶ。


「……施設?」


「あれ、言ってなかったか? 俺も拓海も小雛も施設育ちなんだよ。物心つく前に親に捨てられた」


「……なんかごめん。余計な詮索した」


亜弥香と久遠は申し訳なさそうに遊馬から視線を逸らす。しかし当の本人はこれっぽっちも気にしていないようであっけからんと笑っていた。


「何も二人が落ち込むようなことじゃないだろ? ほらほら笑え笑え。今はお花見パーティーの計画を立てている真っ最中なんだからな」


「そ、そうだね! とりあえず時間は20時くらいでいいよね?」


空元気であることは誰の目から見ても明らかだったが、変に落ち込まれるよりはこっちの方がマシだと遊馬は割り切ることに決めたらしい。


「ゆーま、その前にこれどうするの?」


「……それくらいにしておけ。死ぬぞ」


「……分かった」


パッと手を離すと紅刃はびたんと床に突っ伏す。

遊馬も大概だが、小雛も紅刃の扱いが相当雑だった。仮にも【軍】の代表なのにどうして紅刃はこんなにも悲しい扱いを受けているのだろうか。


「んで、何の用だ」


「はい! 私もお花見パーティー参加希望よ!」


「は?」


その「は?」は完全に素で出た一言だった。

さすがに拓海と小雛もその回答は予想できていなかったらしく氷像のように固まっていた。

三人の脳内の言葉を代弁するならば、何ふざけたこと抜かしてるんだこのクソアマ。と言ったところだろうか?


「……お前、何考えてる?」


が、やはり切り替えの早さは瞬きするよりも速い。

何か裏があることは目に見えていた。射抜くような鋭い視線を紅刃に送り、遊馬はその真意を探ろうとする。


「何も考えていないわよ。強いて言うなら三人がちゃんと学園生活を送っているか心配になっただけ。あなた達、施設にいた時は他の子と一切喋らなかったじゃない。今もそうなんじゃないかって思うのは当然のことよ」


最もらしい理由を口にする紅刃。

それを聞いて先程から黙り込んでいた久遠がおそるおそる口を開く。


「えーっと……紅刃さん? 私が言うのもあれですけど、遊馬たちは真っ当な学生やってますよ? 私たち一応友達ですし、少なくとも紅刃さんが心配するようなことはないと思います」


「あなたは?」


「あ、私は散花 久遠って言います。遊馬たちとは仲良くさせてもらってます」


ぺこりと軽く会釈する。普段適当な感じの久遠もこういう時だけは常識を弁えるらしい。


「そう。ありがとう。扱いにくい子たちだと思うけど、一緒にいる間だけは仲良くしてもらえると嬉しいわ」


妙に含みのある言い方だったが久遠は気づかなかったらしく、目上の人と話すことで緊張していた体をホットコーヒーで温めていた。


「くれは。本当に来――」


「行くわ」


即答だった。

もはやこちら側に拒否権が無いほど気合の入った返事に遊馬たちは苦笑いを返すことしか出来ない。

そして今までの経験上、【軍】の三人は察していた。もう何を言ったところで紅刃が止まることは無いと。



to be continued

心音です。こんばんは!

今回はお花見パーティーの企画を立てる話でしたが、ここでまさかの紅刃の参戦。何を考えているのでしょう?

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