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もしもこの世界に神様がいるのなら  作者: 心音
〜春〜 当たり前の日常
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第11話『拓海と久遠』

「……あれ? そこにいるのは拓海?」


「んあ?」


気の抜けた声と共に振り返った拓海に久遠は太陽を映したような眩しい笑顔を浮かべ、手を振りながら拓海の元へと駆け寄った。


「おー、散花か。こんなところ奇遇だな」


挨拶替わりに片手を上げると、拓海は視線を元の位置に戻す。

二人がいるのは駅前にある大型のショッピングモールの一角。拓海の足元には看板が立て掛けられており、それを見て何か考えているようだった。

何を見ているのか気になった久遠は拓海の後ろからぴょこっと顔を出して覗き込んでみる。


「……クレープ?」


拓海が見ていたのはクレープのメニューだった。

偶然にも見つけた拓海に気を取られていた久遠はそこでようやく、ここがクレープ屋の前だということに気づく。


「へぇ? 拓海って甘い物好きなんだ」


「意外って思うか?」


「ううん、別に? ただ私も甘い物好きだから好感持てちゃった。ということで私もクレープ食べよっと。うーん、どれにしようかな」


一緒になってメニューの載っている看板を眺める二人を、クレープ屋の店員は微笑ましい様子で見つめていた。

もしかしたらこの店員の目には二人の姿が恋人同士にように映っているのかもしれない。今さっきの会話を聞いていたのだとすればまた違った解釈になるだろうが、どっちにしろ仲が良いように見えるのは確かだ。


本当は――二人が絶対に交わることのない敵同士であり、お互い人を殺すことに躊躇が無いなんて想像もできるはずがない。

ましてや、この街が(・・・・)、そして自分の命が(・・・・・)があと数ヶ月もしないうちに消滅してしまうなんて考えもしないだろう。


「今ならタピオカをセットで付けると安くなるみたいだね。拓海はタピオカも飲むの?」


「ミルクティーのやつ。オススメらしい」


「じゃあ私もそれにしよっと」


タピオカのラインナップで一番オススメと宣言してくるミルクティータピオカを選び、メインのクレープに再び悩み始める。


「シンプルにチョコバナナクレープもいいけど、このイチゴとクリームチーズのクレープも捨て難い……。かといって二つ食べるのは女の子として問題が……うむむ」


「あー、なら俺が片方頼むから半分ずつ食うか?」


「え!? いいの!? じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな!」


るんるん気分の久遠を横目で見ながら拓海は店員さんに注文を伝えていく。

お金を払い、クレープとタピオカの完成を待ちつつ拓海はスマホを弄ろうとポケットに手を伸ばすが、パシッと突然手を掴まれ、頭に疑問符を浮かべながら拓海は久遠の方へ振り向いた。


「女の子と一緒にいる時はスマホはNGだよ? 折角二人でいるんだからさ、女の子を退屈させないようにするのが男の子の役目」


「……小雛なら気にしないんだが」


「他の女の子の話はもっとNG!! 拓海くんはデートってものが分かってないね」


「……俺はいつの間にお前とデートしていたんだ」


もっともな疑問である。

出会って数分。待ち合わせをしていたわけでも何でもなく、ただ成り行きのままこうしてクレープを食べることになっただけで果たしてデートと呼べるのか。


「男の子と女の子が二人揃えばデートでしょ」


「……いや待て。それはいくら何でも考えが安直すぎないか」


「そう? あ、クレープ出来たみたいだよ?」


受け取りカウンターから店員さんが呼んでいた。

拓海は喉から出かかっていた言葉を飲み込んでクレープを受け取りに行く。

ふんわりと甘い匂いに包まれたクレープとタピオカ入りのミルクティー。二人は店内の空いている席に移動し、どうせ半分ずつ食べるのだからとそれぞれ自分の前にあったクレープを食べ始める。


「ん。このクレープ当たりだな」


クレープの定番メニューということもあって人気はそれなりに高いチョコバナナクレープ。生クリームは甘すぎず、くどさを感じないから食べやすい。


「散花、お前も食ってみろよ」


「それじゃあお言葉に甘えて……はむっ」


「……おい」


受け取れ。という意味で突き出したクレープ。

久遠は何を思ったのか拓海の手から受け取ることなくそのまま齧り付いた。

同時に周りの席から小さな歓声が上がる。無表情キャラでしかもイケメンの拓海と男女共に認める可愛さを持つ久遠。そんな二人が揃えば注目を集めるのは当然のことだった。


「ん〜、甘くて美味しい! 拓海、こっちのクレープも食べてみなよ。すごく美味しいよ」


口元まで突きつけられたクレープ。

言葉は無くともそのまま食べてと言っているのは明らかだった。


「……あむ」


何を言っても無駄だと判断した拓海は素直に突き出されたクレープを食べる。小さな歓声に包まれながら甘酸っぱいイチゴと舌の上で溶けるクリームチーズの味を楽しむ。


「どう? 美味しい?」


「めっちゃ美味い。今後この店をリスペクトする」


「ほほ〜。それはいいこと聞いたな〜。実はここ、私もお気に入りでよく通ってるんだよ。また今日みたいに偶然ばったり一緒になっちゃうかもね! どうだどうだ〜、恥ずかしいよね〜?」


「そうなったらまた半分ずつ食えるな」


「……えっ」


からかうつもりで言った言葉を、まさかの不意打ちで返された久遠は呆然と拓海を見つめていたが、次第に恥ずかしさが込み上げて来たようで、赤くなった顔を隠しながらクレープを食べ始めた。

そんな久遠を見ながら拓海は何食わぬ顔でタピオカを飲んでいるが、この状況を楽しんでいるらしく口元がほんの少しだけ笑っているように見える。


「そういや、散花はどうして此処にいたんだ? クレープを食べに来たってようには見えなかった」


「ああ。私は逃走中だよ」


「……それは奇遇だな。俺も逃走中なんだよ」


実はこの二人、ほぼほぼ同じ理由で逃げては身を隠すを繰り返している真っ最中だったりする。そこでたまたま偶然、逃げるのに疲れたからと小休憩する為に立ち寄ったこのクレープ屋で拓海と久遠は遭遇したというわけだ。


「お互い苦労してるねー。この後はどうするつもりなの?」


「見つかったらとりあえず逃げる。見つからない限りここで体力回復してる」


「私も似たような感じかな。捕まったら荷物持ちさせられるから意地でも逃げないと」


「なんだ。そこまで一緒なのか。俺も捕まったら荷物持ち」


今頃大荷物を持って血眼でこの二人を探している遊馬と亜弥香の顔が目に浮かぶ。まぁ遊馬の場合、小雛がいるからまだマシなのかもしれないが、見つかったらタダでは済まないだろう。


「クレープ、半分になった」


「こっちもちょうど半分。はい交換」


大体半分になった頃合いを見て当初の予定通りクレープを交換する。関節キスになるのだが、この二人はその辺の感覚が鈍いのか特に気にした様子もなくクレープに口を付けていた。


それからしばらくしてクレープもタピオカも無くなり、二人はそれなりにいっぱいになったお腹を擦りながら他愛ない話に花を咲かせていた。

普段あまり喋らない拓海も久遠の前では遊馬や小雛と会話する時のように楽しげ。時間はあっという間に流れていく。


「さて、何も無い状態で居座るのもあれだしそろそろ帰るか」


「そうだね。亜弥香も来ないしきっと諦めて帰ってくれたかなー」


「こっちは小雛がいるからな。一人じゃない分マシなはずだ」


自分が悪いとは全く思っていないこの二人。

後ほど鉄拳制裁を食らうことになるのが、それはまた別の話。



to be continued

心音です、こんばんは。

今回の話は拓海と久遠がメインでした。この二人の関係がこれからどうなるのか少し楽しみにしていてください!まぁでも……最後は絶望が待ち受けているかもしれませんけどね。

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