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プロローグ『終わる世界と始まらない未来』

普段現実恋愛ばかり書いていたのでローファンタジーという新しいジャンルに手を出してみました。不慣れなところもありますがどうぞあたたかく見守って頂けると嬉しいです。

挿絵(By みてみん)


――街が燃えていた。


紅蓮の炎がのたうち回る蛇のように荒れ狂い何もかもを飲み込んでいく。

街の至る所から上がる人々の悲鳴は世界の終焉を歌っているようにも聞こえた。けどそれもやがては消えていく。圧倒的な熱量を前に人間など一瞬で跡形もなく溶けてしまうのだから当然だ。


「……どうして?」


炎の海に飲み込まれていく街を見て亜弥香(あやか)は力なく膝を折った。彼女が必死になって救おうとしていた街はもう見る影もない。


腐りきった街が浄化されていく。

この炎が鎮まる頃には灰で作られた黒と白の世界が新たなる街の始まりを祝福するのだろう。


そう。終わりという、始まりを――。


行きつけの喫茶店が爆風によって消し飛んだ。

歩き慣れた通学路には人ではなく火災旋風が駆け抜けていた。

何千、何万もの命が一瞬のうちに燃え尽きてしまった。


「……どうして……どうしてなのっ!?」


燃える空気が気管を焼いて悲鳴を上げる。

しかし亜弥香は叫ぶのを止めなかった。気管が焼けて声が出なくなろうとも、例え自分が今ここで死を迎えることが分かっていてもただひたすらに叫び続けた。


「どうしてこんなことをしたの!? 遊馬くん―――ッッ!!」


給水タンクに背中を預けていた遊馬(ゆうま)はゆっくりと体を起こし、ぐにゃりと口元を吊り上げた。

そして命を刈り取る死神のようなおぞましい笑顔を張り付けて遊馬は狂ったように声を上げて笑い始める。


「――暇つぶしだよ」


氷のような一言が亜弥香の心を凍てつかせる。


暇つぶし――。

たったそれだけの為に街一つが焼かれ、大勢の人間が死に絶えた。人の心など持ち合わせてなどいない。彼は人の皮を被った悪魔だ。


「まぁ流石に暇つぶしは冗談だ。お茶目なジョーク。実際のところそういう仕事だったんだよ。街一つ消し飛ばすだけの簡単なお仕事。でも本当はもっと早く消し飛ばす予定だったんだぜ? けどなんつーか、学校生活? ってのが思った以上に楽しくってさ、ついついこの街の寿命に猶予を与えちゃったんだよ」


饒舌に語る遊馬の言葉はまるで遊びの予定を決めるかのように楽しげだった。


悪魔は高らかと笑う。

狂い切った笑い声が亜弥香の思考をミキサーのようにぐちゃぐちゃに掻き混ぜていた。


心はナイフで抉れたように深く傷ついていた。

愛する街を守れなかったこと。仲の良かった友達を救えなかったこと。でも一番彼女の心を傷つけたのは信頼していた人間に裏切られたという事だった。


「大体さー? たった三人の人間を止めらなかった【教会】のせいでこんな事になってるんだぜ? もっとこう……組織の体制とか変えた方がいいんじゃないか?」


「ッ!! 【教会】は何も悪くない――ッ!! やれるだけの事はやってきたッ!! 悪いのは何もかもあなた達【軍】じゃない!!」


「ま、確かにその通りだ。悪いのは全面的に俺たち【軍】だろうな。でもよく考えてみろ? 【教会】に力があればこの街が火の海に沈むことはなかっただろうし、誰も死なずに済んだかもしれない。全部お前たちの力不足が招いた結果だろ? だから全部【軍】のせいにするのは間違っていると思わないか?」


「そんなの詭弁よッ!!そんな無茶苦茶な言い分で自分たちを正当化しようとしないで!!」


「正当化なんてするつもりは微塵もないさ。俺たちがやった事は単なる人殺し。【教会】と違って正義なんてあったもんじゃない。けどここはそういう世界だ。理不尽と常に隣合わせで生きている。なぁ、亜弥香? お前だって分かっていてこの世界に足を踏み入れたんだろ? 生半可な覚悟で、人を殺す勇気も無しで入ったんなら――お前はただの馬鹿だよ」


「うるさい――ッッ!!」


「おっと」


凄まじい速度で放たれたナイフを紙一重で躱すも遊馬は涼しげな顔のまま亜弥香をじっと見据えていた。


「お前今、本気で俺のこと殺しに来ただろ? よくもまぁ友達を躊躇いなく殺そうとすることができるな? これが友情崩壊ってやつか。寂しい世の中だ」


「あなたなんて友達なんかじゃない!!」


「……そうか。残念だな。亜弥香は俺がこの街に引っ越してきて初めてできた友達だったのに。それで? 友達じゃなくなった俺のことをどうするつもりなんだ?」


「そんなの――殺すに決まってるッ!!」


そう叫んで取り出したのはピルケース。

中に入っていた白い錠剤を一粒噛み砕くと、口の中いっぱいに苦い林檎の味が広がった。

同時に亜弥香の瞳に変化が訪れる。空を映したような綺麗な蒼い瞳は血で染められたように紅く妖美な輝きを放つ瞳に変わる。


「……【殺戮の天使】か」


劇薬【Bad Angel】――。

通称【殺戮の天使】と呼ばれているこの薬は服用者の身体能力及び《能力》を大幅に向上させる代わりに強烈な副作用を与える薬のことである。


「その薬を使うのはやめておけ。下手したら死ぬぞ」


「あなたを殺せるのならこの身が朽ちたって構わないっっっ!!」


たった一回の跳躍で遊馬との距離を詰めた亜弥香は隠し持っていたナイフを首もとに突き立てる。


「……!!」


しかし回避不可能なタイミングで放たれたはずの一撃は呆気なく宙を切った。そこにいたはずの遊馬は姿を消しており、次の瞬間、亜弥香は背中に強い衝撃を受けてみっともなく地面に転がった。

亜弥香の一撃を回避した遊馬が背中を蹴り飛ばしたのだ。


「やめておけ。お前じゃ俺には勝てない」


地面に転がる亜弥香を見下ろして遊馬はそう告げる。

圧倒的な戦力差。そんなのは分かりきっている。実力じゃ遊馬には絶対に敵わない。

それでも亜弥香は立ち上がる。そして強い眼差しで遊馬を睨み付けた。


「勝つ勝たないの問題じゃない……。殺さないといけないの!!この街を――この世界を救うために、あなた達【軍】をこの手で消し去る!! それが【教会】の目的なんだからッ!!」


紅い瞳に炎を灯し亜弥香は地面を蹴る。

【殺戮の天使】の効力によって跳ね上がっている脚力のせいでアスファルトの地面が抉れて弾ける。

いくら薬で身体能力を向上させているとはいえ、生身の人間には耐えきれないほどの負荷が亜弥香の体に掛かっているはずだ。


常人の域を超えた一撃が遊馬の体を切り裂かんと迫ってくる。しかし遊馬は避けようとするどころか、ため息を吐いて呆れ返っていた。

そのため息は亜弥香の体を心配してのものなのか、それとも全く意味の無い攻撃に対するものなのか。


「……やめようぜ。こんな事しても無駄だ」


そう呟く遊馬は亜弥香の背中を取っていた。

攻撃を躱されたことをすぐさま察した亜弥香は遠心力を利用して振り向きざまにナイフを振り抜く。


「亜弥香。お前じゃ俺の《時計仕掛けの時空回廊(クロック・オブ・クロック)》を破る事はできない。投降するのであれば命までは取らない」


気づけば亜弥香の首元にナイフが押し当てられていた。完璧なタイミングの攻撃はことごとく躱され、終いには己の死が目と鼻の先にある。これを滑稽と言わずなんと言えばいいのだろうか。


よく研がれているナイフは少し当てるだけで亜弥香の白い肌を切り裂いていた。遊馬がその気になれば亜弥香の命など一瞬で刈り取られる。


「……早く殺してよ、遊馬くん」


「なぜ? 投降すれば命は助けると言ったのが聞こえなかったのか?」


「こんな惨めな思いをしてまで生きろっていうの? もう……どうでもいい。【教会】のことも、この世界も、私の意思も」


「……そうか。もう少し見どころのある奴だと思ったんだがな。残念だよ」


遊馬の手に力が込められる。このまま死ぬんだなと理解した亜弥香は目を閉じた。

その瞬間、頭に様々な思い出が映像となって浮かび上がってくる。走馬灯というやつだろう。


春先に皆で行ったピクニック。

花より団子だったけど楽しかった。


テスト対策のために遊馬の家でした勉強会。

結局勉強をしたのは最初だけで夜通し遊んだ。


夜の学校に忍び込んでやった肝試し。

ただの肝試しじゃなかったけど盛り上がった。


近所の神社で行われた年に一度の七夕祭り。

いっぱい食べて、いっぱい遊んで、最後には花火を見た。


次々とあふれてくる思い出が亜弥香の頬を涙で濡らす。もう二度と戻らない日々。あの楽しかった日常は永遠に訪れることはない。


「……じゃあな、亜弥香。地獄で会おうぜ」



to be continued

心音です。こんばんは。

え?クライマックス?そう思われた方は多いかと思いますが、これは始まりであり、そして終わりです。

今後の展開がどうなるのか。おそらくですが、次の話を読んだ時の感想は『おいwww』だと思われます。


それでは次のお話でまたお会いしましょう。

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