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遡行


男は消えない光の柱を背に両腕を水平にひろげた。十字架のシルエットがまぶしく俺たちは男を凝視できない。そのままゆっくりと倒れるように光の柱を堕ちていく男。父さん!俺たちは駆け寄ろうとするがたちまち武装した住民たちに取り押さえられる。

父さん!父さん!


河の水面にまっすぐなレールが浮かんでいる。河を行き来する鉄道の軌道だ。

そこには小振りながら本格的な機関車が停車してあり手動のトロッコを覚悟してた俺たちは思わず安堵の吐息を漏らす。こいつのエンジンはまさか…そのまさかさね。ユニゾンドライブだよ。小型だが海洋特急と同じ仕様さ。いい技師が来てくれたんでね。


俺たちは森に生かしてもらってるような気がするんだ。男は云った。こんな防護マスクひとつで人喰いの真菌を防げるはずはないんだ。おかしいと思うだろ?


ぽんこつ同然のアクアバイクを引き取ってもらう。三人も乗せてよくまあこの距離を稼げたもんだ。メンテナンスに骨が折れるな。宿番がバイクを裏に繋ぎながらひっそり毒づいた。これからはボートと鉄道と…歩きだ。まあ気にすんな。もとっからあのバイクは誰のものでもありゃしないんだ。ちょうどこの星みたいにさ。


「なあ あんちゃん俺さ

 時々ここが痛むんだよ 声がするんだ

 そうしてまでお前は生きていたいのか って

「で? お前の答えは

「イエスだよ もちろん」


客車代わりの屋根なし貨車にふたり脚を投げ出す。河幅の分だけ森が切れて青い空がみえる。豆と小麦の袋を担いだ行商人に下流の村からやって来た男がいたか訊ねるがそんな男は知らないと云う。

下流に村?そんなのあるもんか。男は吐き捨てる。管理局が残らず消しちまっただろ。あれみたいによ。そう云うと男は上流にそびえる消えない光の柱を指差した。空に溶けそうなくらいに消えない光の柱。


俺たちは河を遡る。ハクは親父さんの顔を知らないんだよな?うん。やれやれどうすんだよあんちゃん冗談じゃねえぞ。まあ…河づたいの仮宿をしらみ潰しにあたってみるさ。


「ちょっと待てよ俺たちはただ

 この子の親父を連れ戻しに来ただけで…

「あんちゃん駄目だ こいつら聞く耳持っちゃいねえ

「ピンチだな

「ああ 片腕片脚のハンパ野郎ふたり

「ぼくもいるよ

「それと棒っくいが二本

「ぼくもいるってば

「さあどうするよ キャプテン・エック

「なに いつもどおりだろ

 無駄な抵抗ってやつをしよう」


「俺はただ事故の真相を知りたかっただけだ…あいつ…あの娘は昔俺の妻だった…年格好がどんなに変わったって俺にはわかる…俺のユニゾンドライブがあいつの両脚も記憶も何もかも奪っちまった…俺たちの記憶の欠片をみつけるんだ…レジスタンスなんて正直どうでもいいさ…息子?何のことだ。ハクは俺の名前だ。ぼくがハクなんだよあんちゃん」


仮宿番の案内で地下道跡をふかく潜る。ひび割れたコンクリートから少しづつ水が漏れて俺たちは歩きながら団子状のパテを次々に埋め込んで補修していく。あんちゃんその…もしハクの親父が見つかんなかったら…どうすんだい…あの人のこと?あんちゃんの杖の音が高くひびく。


ユニゾンドライブは兵器でもあった。違うか?

機器が散乱する小屋に技師はひとり腰かける。…帰って来たらこの有様だ。おかしいことにどこのデータベースにも事故の記載がない。それどころか『内陸の宝石』さえ存在しなかったことになっている…どうして俺だけ生き残っちまったのか…生かしてもらってるんだよきっと。あんたも俺たちもおんなじさ。


冗談じゃねえよ!あんちゃんが珍しく怒気を孕んだ声で怒鳴る。俺たちがお前らの位置をチクるだと?何のために義肢を置いてここに来たと思ってんだよ。俺たちを見くびんじゃねえ。


俺とあんちゃんは技師とハクの顔を交互に振り返った。そっくりだろ…そっくりかい?あいつの方が目つきが悪いだろ…いやいやそっくりだろ。口もとの皺とか…ハクも将来こんな顔になっちまうのかなあ…お前らいったいさっきから何なんだ。俺たちは下流の村から来た。ここにあんたの息子もいる。もういいだろ還ろう。


俺たちは河を遡る。河畔の森が手を伸ばして空を隠そうとしている。あんちゃんが上流を差して何か叫んでるが防護マスクと風の音で聴き取れない。俺は顎でかるい合槌をうつ。



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