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朝、6時半。
こんな早朝に電話に出て、来てくれる人がいるのだろうか。
普通だったら来ない……だろう。
無理を承知でアルバイトやパートで働いてくれている計5人のスタッフ全員に電話をかける。
電話をした内、実際に電話を出たのは2人。
「は? あんたふざけてんの?」
要件を告げた瞬間にキレ始めたのは幼馴染の東野梨香子。
スポーツ万能の空手部のエースだ。
「いや、えっと」
「あんたには言ったよね?
今日は大事な大会だって! そんな日にバイト手伝えだぁー?
ふざけてんじゃねぇっつーの!」
「あ、はい。すみませんでした」
次に会う時が普通に怖い。
そんな俺の様子を見て、腹を抱えて指を指す女に殺意を覚えたのは言うまでもない。
電話に出てくれたもう一人。
桜井佳奈。
昨日も出勤してくれていた同じ高校の後輩女子である。
実は桜井は今日も朝シフトに入ってはいる。
しかし、通常の出勤時間は朝9時半だ。
こんな朝早くに来てくれる保証は当然ない。
「朝早くにすまん。ちょっとお願いがあってな」
まずは早朝に電話したことに対するお詫びの言葉を言った後に事情を説明する。
「え? い、今からですか?」
案の定、桜井は狼狽えた。
困っている様子が目に浮かぶようだ。
「ああ、そうなんだ。勿論、無理とは言わねーけどさ」
「…………」
数秒の沈黙。
「分かりました。
今から向かいます。
これから支度して行くので30分くらいかかっちゃいそうですけど」
「い、いいのか? 本当に」
「はい。だって、先輩困っているでしょ?」
「そりゃあ、まぁね」
「だったら、行きますよ。大丈夫です」
「悪いな。じゃあ、よろしく頼む」
なんていい子なんだ。
あとでちゃんとお礼を言わないとな。
それから桜井と合流し、セール準備に取り掛かる。
急ピッチでやったこともあり、準備は開店時間の30分前の9時半には終わった。
その頃になってもう一人の今日のメンバーである飯塚将吾がのこのこやって来やがった。
「おい、飯塚! お前なんで電話に出ないんだよ」
「男のモーニングコールに出る趣味はないんだわぁ」
気持ちはなんとなくわからなくはないが、ムカついたのでぷよぷよの腹を思いっきり抓ってやった。
「男に抓られて喜ぶ趣味もないんだなぁー!」
俺は持つべき友人を誤ったとこの時心から思った。
「さてさて、準備はできたみたいだねー」
俺と桜井のセール準備を本当に全く手伝うことなく、コンビニで買ったあんまんやおかしを食べていた鞠井さんがまた怪しい袋を持ってやって来た。
「まぁ、これだけでも2倍の売上は固いと思うんだけどねぇ。
念には念を入れとかないとってね」
鞠井さんが嬉しそうな顔をする時は逆に嫌なことが起こるのだとなんとなく分かってきた。