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「私は仏国コンサルティングファームの鞠井杏と申します。
貴店の専属コンサルタントとして、是非私を雇って頂きたいのです」
「鞠井 杏……だってぇ?」
店に戻って、ばあちゃんの寝室に入り、開口一番に布団で横になっているばあちゃんに言い放った言葉がそれだった。
「貴店が現在、危機的状況化にあるということはこちらの新藤君に聞かせていただきました。
必ず貴店の収益を改善させ、立て直しを成功させることをお約束致しますわ」
いつの間にかお嬢様モードに戻っている鞠井さん。
「ふーん。で、成功の報酬は?」
「月商の半額。
それと契約期間中の衣食住の全額負担を要求させて頂きます」
「は?」
嘘でも付くのかと思っていたのだが、鞠井さんは俺に告げた報酬と全く同じことを言った。
何事にも動じないばあちゃんもさすがに口を半開きにし、眉をひそめる。
凍るような緊張感が部屋を包む。
静寂を打ち破ったのはばあちゃんだった。
「くくくくくく。かぁーかっかっかっかっか!
面白いねぇ! いいよ、あんた! いいよ、雇おう!」
「おい、ばぁちゃん!」
「賢明なご判断だと申し上げておきましょう」
「いや、待てよ! 例え、ばあちゃんが認めても俺が認めねーぞ!」
「きみは何を言っているんだぁー?
さっきは未成年だから採用するしないを決める権限はないとか自分で言っていたよねぇ。大丈夫? 若いのにもう記憶力がそこまで落ちちゃったのかなぁ?」
突如、鞠井さんが豹変する。
というか化けの皮を豪快に脱げ捨てた。
「うるせぇ!
ばあちゃんが俺を店長代理だって言ったんだ! 俺の意見も取り入れろ!」
「勇人。では、お前の条件はなんだい。言ってごらん」
「条件……。そうだな。よーし! 2倍だ!
明日、いつもの2倍の売上をとってみろ!
そうしたら俺もあんたを認めてやる!」
ビシッと指を突けつけてやる。
「2倍?」
「そうだ! 今更できないとか言うなよな!」
「いいんだ? たったの2倍で」
にやぁっと蜥蜴のような笑みを浮かべる。
「いいでしょう、いいでしょう。君のわがままに付き合ってあ・げ・る。
その代わりー、私からも条件に君に対してだけ、追加させてもらうよ」
「?」
「もし、私が明日通常の2倍以上の売り上げを取ったら、二度と!
その生意気なタメ口を私には使うな。そして、私への忠誠を誓うこと。
いいよね?」
「いいとも!」
「楽しみにしてるぅ。ひゅっふー!」
謎で不快なダンスを一通り踊ると、鞠井さんは、ばあちゃんの部屋を出て行った。
嵐が去り、俺とばあちゃんの2人きりになる。
「なぁ、ばあちゃん。
なんであんな頭のおかしい女を雇おうとしてるんだよ。
今までだってああいう営業来たことあったけど、全部追い返してたじゃんよ」
「ただのコンサルタントだったら、当然追い返していたさ。
あたしの大事な店だ。
どこぞの馬の骨とも知らぬ輩に指一本触れさせるつもりはないよ」
「じゃあ、なんで今回に限って」
「そりゃあ、あいつが鞠井杏だからさ」
「知ってたのか?」
「あたしも商売人の端くれさ。この業界にいて、鞠井杏の噂を知らねぇ奴はいない」
「何者なんだよ、あの女」
「どんなに倒産寸前の企業も必ず――立て直す。
それが鞠井杏という女さ。金さえ払えばね」
あの二重人格で、嫌味なクソ女がそんなすごい人物だとはとてもではないが思えない。
第一そんなに有名人がなぜうちのようなちっぽけなリサイクルショップの専属コンサルタントになるなんて言い出すんだ?
考えれば考えるほど、色々胡散臭い。
おそらくは有名人の名前を偽った詐欺師だろう。
明日、売り上げをとれなかったら、今日の暴言を全て撤回し、謝罪させてやる。