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 部屋を出て、ばあちゃんの言葉を反芻する。


 力のある人間。 

 どういうことだ? よくわからん。


 悶々とする気持ちを消化できないまま、階段を降りる。


 1階は店舗。

 現在の時刻は16時だ。

 今日のシフトだとこの時間は桜井と飯塚だったはずだ。


「おつかれー」

 

 売り場にいる桜井と飯塚に声をかける。


「あ、お疲れ様です」

「うっす! 店長大丈夫か?」


 2人が振り向き答えてくれた。


 一人は高校1年生の少女。

 桜井佳奈(さくらいかな)

 背中まで伸びている黒髪は、綺麗で柔らかそう。そして、いい匂いがしそう。


 身長は低く、中学生(稀に小学生)に見間違えられることはよくあるそうだ。

 アイドル顔負けの美少女で、性格・容姿どこを取ってもまさにやまとなでしこという感じの「あげいん!」の看板娘である。


 もうひとりは桜井とは真逆の巨漢の男。

 飯塚将吾(いいづかしょうご)

 高校2年生の俺の同級生。

 170cm程の俺とさほど変わらない身長だが、

100キロ以上ありそうな肥満体型。

 分厚い黒縁メガネの典型的なオタク顔。そしてオタク。

 非リア充。


「いや、3ヶ月くらいは無理そうだ。店には出られそうにない」

「え、じゃあお店はどうするんです?」


 桜井の問いに俺は躊躇いながらも、言葉を紡ぐ。


「お、俺が代理店長だそうだ」

「え?」

「は?」


 きょとんと小動物な仕草で首を傾げる桜井と、

あからさまに理解不能と言った怪訝な表情を浮かべる飯塚。


「俺だって訳がわからねぇけど、そういう話になったんだよ!」

「そうなんですね……」

「いや、無理だろ、お前馬鹿じゃん」


 2人からは明らかな不安の色が伺えるが、一つ言いたい。

 一番不安なのは俺だ。


 本来ならたくさんの客で溢れているはずの夕方の時間帯。

 客は誰ひとりとしていない。

 実に寂しい光景だ。

 

 店内を見回す。


 リサイクルショップ「あげいん!」


 人から不要となったものを引き取り、綺麗に加工する。

 そして、それらを安価で販売する中古ビジネス。

 簡単に言うとそれがリサイクルショップだ。


 「あげいん!」の商品は全て捨てられそうになったものを譲ってもらったり、買い取った中古品である。


 書籍、CD、DVD、ゲーム、楽器や置物、テレビや冷蔵庫、自転車etc…

 それらが綺麗に陳列されているわけでもなく、ただ乱雑に置かれ、店内には立錐の余地もない。


 この店で売り上げをどう取れというのだろうか。


 頭痛がするよる頭を押さえながら、打開策を考えるべく、店内を当てもなく歩き回る。


 そんな時だった。

 一人の女性客が店に入ってくる。


 思わず目を見開き、凝視してしまうほどの美しい女がそこにはいた。


 金髪のショートボブ。

 瞳は大きく、端正な顔立ち。柔らかな笑みを浮かべている。

 服は白い清純そうなワンピース。

 どこかの金持ちのお嬢様だろうか。

 あまりブランドなどの知識があるわけではないが、身につけているものも豪奢な装飾品なのは間違いない。


「すみません。お店の方でしょうか?」


 女は温和な声音とおっとりとした口調で言った。

 やはりどこかのいいところのお嬢様なのだろう。


「ええ、そうです」

 

 俺は接客用の笑顔を作り、応対する。


「このお店の責任者の方はいらっしゃいますか?

 ちょっとお話したいことがございまして」

「あぁ、すいません。責任者は今怪我で表に出られなくてですね。

 一応、今は俺が代理ってことになっています」

「あぁ! そうだったのですね。これは失礼しました」


 女は破顔一笑し、俺の右手を両手でギュッと掴む。


「うおっ!」

「私、あなたのお役に立ちたいと思っているんです!」


 何を言っているんだ、この女は。

 状況が読み込めない。


「は? ちょっと待ってください。あなたはどちら様なんですか?」

「申し訳ございません! いきなり失礼でしたよね?」


 女は恥ずかしそうに頬を朱に染めると手を離し、一歩後ずさる。


「私、仏国総合研究所というコンサルティングファームの鞠井杏(まりいあん)と申します! よろしくお願いいたします」

「こ、こ、こんさる?」


 いきなり横文字を言われても頭に入らない。


「まだ、学生さんだとご存知ないかもしれませんね。

 コンサルティングというのはわかりやすく申し上げますと、

 あなたのお店を盛り上げるお手伝いを一緒にさせて頂くお仕事です。

 お店や企業のお医者さん、と言ったところでしょうか。

 どこの具合が悪いのかを診断させて頂いているのです」


 わかるような、わからんような。

 というか、つまりは仕事の営業でこの人はここに来ているはずだ。

 白のワンピースで?


「あなたの仕事でのお悩みや疑問点を是非、お聞かせいただきたいのです」

「まぁ、悩みや疑問はいっぱいあるけど……」


 あんたの服装とか。


「それなら話は早いですわ! 近くの喫茶店で是非お話を聞かせてください! あ、印鑑はお持ちですか?」

「え、ええ。上にありますけど」

「必要になるかもしれませんので、持ってきてください!」


 有無を言わさない勢いで印鑑を取りに行かされ、外に半ば強引に連行される。


「さ、桜井! 飯塚! 店は頼んだ!」

「はい! 任せてください!」

「へいへい、楽しんでこいよー」


 慌てふためいている桜井と不貞腐れている飯塚(おそらく俺が美女と話をしているのが面白くないのだろう)を置いて、

「あげいん!」を出た。


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