秘め事
「先生!見て下さい、紙で華を作りました!」
「まぁ…とても綺麗ね」
この子も、随分器用になった。初めは手を握ることすら難しかったのに…。
赤い紙で出来た華を見ながら少女は思う。少年の手の中にある華は龍の魔力に充てられまるで本物の花のように艶やかに潤っていた。仄かに香りまでする。少年が先程折った鳥は羽ばたき少年の周りを飛び回っていた。少年の魔力は日に日に強くなっている。
少女は、少年と生活を共にして2年が過ぎていた。龍の成長は驚く程早く、見た目はもう少女と変わらない。龍の知識を叩き込まれた少女は少年に人間の事をひたすら教えていた。初めは怯えていた少年も少女にだけは心を開き、少女の教えを素直に聞いている。素直に、人間として生きている。
「ねえ先生。風船、折れますか?」
「ええ、勿論。作り方を教えましょう」
1度だけ、少女は少年の龍の姿を見た事がある。会って間もない頃。まだ不安定だった少年が、少女の立てた物音に驚き威嚇した際つい変身が解けてしまったのだ。その姿を少女は忘れない。龍を知っている少女だからこそその恐ろしさに身が震えた。漆黒の鱗に悪魔の翼、縦に割れた瞳孔に紅い虹彩、鋭い咆哮。まだ幼体だとしても、もし襲いかかられたらひとたまりもない。少女の様子を見てか、龍はすぐに少年の姿へと戻った。それ以降、少女の頭の中には常に龍の姿の少年が過る。
「出来ましたか?」
「少し歪になってしまいました…」
少年の手の中の紙の風船はやや浮き上がり、ふらふらと揺れている。少女の手の美しく折られた風船はただ転がっていた。姿は人間に見えても、やはり違う生物である事が痛いぐらいに分かる。
「貴方は、空を飛びたいと思った事はない?」
貴方は龍で、立派な翼があるのに。
ふと、聞いてしまった。人間として育てるならば、龍として少年を扱ってはいけない。この少女から続く王宮の企みなど少女には分からない、分からないが、逆らってはいけない事を少女は常々感じていた。少女も計画の中にいる。そう、育てられた。
でも…しかし…
「僕は空を飛んだことはないですから」
だから、空を恋しいと思った事はないです。
そう言って少年ははにかんだ。少女の胸が痛む。このまま人間として育てていいのか?この子は龍だ。人間として生きるなんて…そんなの哀しすぎる。
その日から、少女は少年と2人の時だけ。こっそりと、教え込まれた龍の事について教え始めた。
「龍はね、成体になると炎を吐けるようになるのよ」
「炎を?」
「ええ、これは素晴らしいことよ。他のどの生物にも出来ない、龍だけの能力だから」
少しずつ、ばれぬように。