第二話「透」
夢を見た。
本当にそれが夢なのか、はたまた現か、はっきりとは分からない。だが、頬を抓っても痛みを感じることが夢か現かを左右するならば、それは夢となるのだろう。
取り敢えず、俺が見たのはそんな夢だった。
*
彼女は顔のない人間を抱えて群衆のど真ん中に立っていた。顔なしは、どうやら死んでいるようだ。彼女が殺したのかは知らないが、彼女を中心に血が大輪の花を描いていて、その外側を群衆が囲んでいた。
周りの群衆は様々な感情を俺に見せる。
あるスーツ姿の男性は、息絶えている顔なしを見て、自分がソイツを黙って見るしか出来なかったことに対する怒りを感じているようだ。彼は医者なのか何なのかは知らないが、全ての命を自身の手で掬おうなんて、不可能だ。そんな感情が見えて、うんざりした。
これからデートでもしそうな若い女性は、血に濡れた彼女に怯えている。
だったら、こんな場所に留まらないでさっさと行けばいいのに。
如何にも買い物帰りの恰幅のいいおばちゃん達は、可哀想にという目をしたの人と、怖いもの見たさに近寄ってきた人が入り混じっている。おばちゃん達のゴシップ大好き度には、呆れを通り越して尊敬する。
そして、全ての元凶だと思われる女性は、呆然としていた。更に、ひょっとこのお面の向こう側から俺を見ていた。驚くことに、何を考えているのか全く見えない(・・・・)。ひょっとこの面をかぶっていながら、笑いをとろうとも考えていないとは。
なんて奴だ。
あ、やべ。
つい、蔑んでしまった。
悪い癖だ。アイツにもするなと毎日言われてんのに──
*
「…きろ、起きろ!先生が怒ってんぞ!」
「あと1日…」
「寝過ぎだよ!早く起きろ、俺が怒られる!」
「あの娘のパンツ、可愛い…」
「オイ、朔夜!ふざけた寝言言ってる場合じゃねーよ!」
「あ、こっち向いた」
「ああ、クソ!さ、く、やぁぁぁぁ」
「五月蝿いぞ!
って、また寝てんのか中園ぉ。今度授業中に寝たら説教すると言ったよなぁ。覚悟は出来てんだろ、あぁ?」
「んぅ?」
「朔夜ぁぁぁ」
※この後、二人仲良く職員室でみっちり1時間説教されました。
――放課後
「で、どんな夢を見たんだ?」
と、瞭に聞かれた。
「んー、女の子のパンツが水玉だった」
「そんなことはどうでもいい。何があった。」
「楽しい夢〜」
「その割には、顔が歪んでいたぞ」
「あっはは、バレてた?」
「何年の付き合いだと思ってる?」
「そろそろ10周年記念が出来る位?」
「正確には、9年2ヶ月と7日だ」
流石は学年一の秀才、計算が速い。顔もいいのに、性格が残念だったりする。
「お前の才能は別のところに使えよ」
「お前にだけは言われたくない」
「酷いなぁ。これでも、人助けしてるんだよ?」
「プライバシーの侵害常習犯が何を言ってんだ」
「少し位、信じてくれたっていいだろ」
「お前の言葉は信憑性に欠ける」
「もー、瞭ちゃんったら。ツンツンしちゃって〜」
「蹴るぞ」
「いやん、止めて〜」
「お前、アッチ系の人?気持ち悪い。近寄んな」
瞭がドン引きしてる!これは、瞭に嫌がらせが出来るチャンスだ!
「瞭君ってば、イ・ケ・ズ♪」
言いながら、背後に回る。どうやら寒気を感じて俺を振り返った彼は、何かに気付いたようだ。
彼が口を開く。
「ところでお前、」
「なぁに?」
「時間、大丈夫か?」
「え?」
「今日命日だろ」
「…あぁ、そうだね」
「仮にも身内だろう?」うちの家庭事情を説明する為に、黒板を使おうかとも思ったが、コイツの頭であれば問題ない。
「とか言われてもね。実際に会ったことすらないんだぞ?しかも、うちの高祖父夫妻の長男坊の長女が離婚した相手の後妻との間に出来た次女夫妻の命日とか言われてみろよ?訳わかんねえ上に、説明するのに一苦労するだけの死者をどう弔えと?」
「もう、お前んちの家系から離れてないか?」
「今ので理解出来たお前の頭脳は恐ろしいな。まあ、そういうことだ。赤の他人なのに、俺が墓参りしなきゃならないんだからな。理不尽にもほどがある」
「そうこうしてる内に、15分も経っているんだが」
「げ、マジで?もう俺帰るわ。じゃあな」
「早く帰れよ」
「お前は過保護な母親かっつうの。だから女の子が逃げるんだよ」
──そして、その数分後。俺は、夢で見た水玉パンツの彼女と出会った。
高祖父は曾祖父の事です。
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