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強襲と強奪と逃亡

「……!? 何だ、この気配は?」

 魔緒は、仁奈の近くに不穏な動きを感じた。すぐさま向かおうとするが、隣の部屋にまだ七海がいることを思い出し、踏み止まってしまう。

「……くっ」

 迷いは一瞬。魔緒は懐から魔道書を取り出すと、魔術を起動するための言霊を発した。

「魔術解放! 光の檻。鉄壁、異なる物を分かつ壁となりて、囲う。現世と冥土を隔てよ。包め閃光」

 七海のいる部屋に強固な結界を展開。彼女の安全を確保した上で、仁奈の元へ向かう。

「楠川……!」

 リビングの扉を開けるが、そこに仁奈の姿はない。しかし、気配は確かにする。彼女のものと、それとは違う何者かの、二つの気配が。

 魔緒はリビングを駆け抜け、そこから続く台所へ飛び込むと、そこには―――

「……」

 ローブを身に纏い、フードを深く被った(体のラインからして恐らく)少女が、勝手口の前に立っていた。その肩には、ぐったりとした仁奈の姿が。

「……陰陽、魔緒?」

「楠川を放せ!」

 魔緒は少女の問いには答えず、仁奈を放すようにと叫ぶ。しかし少女もそれには応えず、左手に握った、手作り感溢れる弓を魔緒に向ける。

「……あなたは、陰陽魔緒?」

 仁奈の体を支えていた少女の右手が、腰についた矢筒に伸びる。

(弓なら装填と発射に時間が掛かる。なら……)

 魔緒は魔道書を持つ左手を少女に向け、光の矢を撃つ魔術を放った。

「射抜け閃光!」

 魔道書の手前で光が、周囲を明るく照らしながら集まり、矢の形(というか、ただの線分)となって少女の元へ放たれる。対して少女は、自身の体を僅かに左へ傾けた。

(なっ……!)

 相手が動いたことにより狙いがずれて、このままでは仁奈に矢が命中してしまうかもしれない。咄嗟に魔緒は魔術を解除。光の矢は霧散し、辺りは再び暗闇に包まれた。その頃、少女は矢筒から矢を取り出し、弓につがえていた。

(どうする……?)

 少女は既に発射の態勢に入っている。今からでは、魔術の起動は間に合わない。避けようにも、この狭い台所では限度がある。こんな暗闇でも弓を使うくらいだから、少女は自分の腕に自信があるのだろう。いかに暗闇といえど、外してくれる保証はない。この状況で撃たれれば、回避はほぼ不可能。ならば―――

 魔緒は魔道書を盾のように構え、急所である頭部をその陰に隠す。他の部分を狙われれば意味が無いのだが、これで最低限、即死だけは免れる。

「……無駄」

 少女の手から放たれた矢が、直線の軌道を描きながら、魔緒の腹部に命中、突き刺さる。

「ぐっ……!」

 矢尻が肉を突き破る感触に、魔緒は呻き声を上げるが、怪我よりも相手のほうを優先する。魔道書を胸元に持ってくると、それを素早く開いた。

「魔術解放。新月の夜、天の星たち。時の制約を、罪人に与えよ。縛れ閃光」

 再び光の矢を形成。しかしそれは少女のほうではなく、魔緒と彼女を結ぶ線の中間の辺りに突き刺さった。誤射だろうか? 矢の輝きも小さく、夜の闇に掻き消されてしまいそうだし。

「……これも、無駄」

「それは、どうかな……?」

 魔緒は不敵な笑みを浮かべた。彼の腹は傷口から血を吐き出し続けているが、魔緒はそれを止血する素振りも見せない。少女はもう一度矢を番えようとして、その手が動かなくなっていることに気づいた。

「陰縫い。影に刺して、その持ち主の動きを封じる技だ。アニメとかだと陰の出来ない真っ暗闇じゃあ使えないこともあるが、俺のは暗ければ使えるんだぜ。もっとも、真っ暗なときに使うと自分も動けなくなるんだがな」

 だから止血をしなかった、という出来なかったのか。矢の光が小さいのも、拘束力を維持するため。

「……理解した。……けれど、何故それをわざわざ話すの?」

「無理に抵抗されて、へばられたらこっちが困るからな。折角の機会だ、色々と話してもらおうか」

「……それは、出来ない」

「おい」

「……この状態なら、あなたも動けない。……こっちだけが不利なわけじゃない」

 確かに、少女だけでなく、魔緒も行動が制限されてしまっている。現に彼は、自分が使った魔術のせいで、止血が出来ないでいるのだから。

「そうかい。なら……射抜け閃光」

 魔緒の言葉により魔術が発動。光の矢が作られ、放たれる。矢は少女の頭を掠め、後方の壁に刺さってから霧散した。

「こっちは動けなくても魔術があるんだ。お前をどうこうするくらい、簡単に出来る」

「……なら、一つだけ話す」

 観念したのか、少女はぽつりと呟いた。

「……あなたは、プロトタイプI」

「プロトタイプ……って、どういう意味だ?」

「……今は、話す必要がない」

 すると、今まで控えめに輝いていた光の矢が、突然砕け散った。

「……!?」

「……迎えが、来た」

 魔術が解け、体が自由になった少女は、魔緒に背を向け、勝手口を開ける。

「待てっ!」

「……待たない」

 言うよりも早く、少女は外へ飛び出した。動けるようになった魔緒は、無意識のうちに腹の矢を抜く。その弾みで出血がより一層増したが、気にせず少女の後を追った。この家の敷地には結界が張ってあったが、さっき光の矢と一緒に破壊されてしまったらしい。追わなければ、逃げられてしまう。

(だが、何故陰縫いと結界が壊れたんだ……?)

 二つの魔術が解けたとき、魔緒は特に何も感じなかった。魔術師である魔緒が何も感じなかったのだから、魔術で破壊されたわけではないはずだ。では、何故……?

(いや、それ以前に、奴はどうやってここへ入った?)

 少なくとも矢が壊れるまでは、敷地に張った結界は有効だった。しかし、現に少女が家に侵入してきたのだ。まさか、ずっと気配を消して敷地のどこかに隠れていたのではないか? だとすれば、彼女はかなりの時間、ここに身を潜めていたことになる。だとしたら、何故今まで気づけなかったんだ?

「……!?」

 そんな思考も、頭上に気配を感じて、反射的に立ち止まった際に中断されてしまう。そしてその判断は、正しかったと知ることになる。

「くっ……!」

 数瞬遅れて、魔緒の眼前に何かが立ち塞がった。その何かが、刃渡り2mにも及ぶ巨大な剣であると分かるには、更に数秒を要した。

「油断したな」

 唐突な声に、魔緒はふと顔を上げる。すると、大剣の上部、柄の先に、少年が立っていた。

「一応、名乗っておこうか」

 伸び過ぎた白い髪を夜風に揺らし、その前髪の下から赤い双眸を覗かせる長身の少年は、ゆっくりと唇を動かしながら話す。

「俺の名はサタン。これでも一応、お前の兄みたいなものだ」

「兄、だと……?」

 彼の言葉を反芻する魔緒。確かに、風貌は魔緒と似ている。だが、魔緒の兄は陰陽家にいる一人だけのはず。ということは―――

「……まさか」

「これ以上の会話は無駄だな」

 サタンは柄から飛び降りると、その根元を右手で掴み、地面に刺さった大剣を引き抜いた。

「んなっ……!」

 驚きながらも、後退して距離を取る魔緒。魔道書を構えるが、それよりも、サタンが剣を振り下ろすほうが早い。

「ぐっ……!」

 咄嗟に魔道書を盾とするが、強い衝撃に、体が地面に埋まりそうになる。何とか踏ん張って、更に後方へ飛び退く魔緒。魔道書を開き、言霊を紡ぐ。

「狩人の剣、血を纏い、儚き鼓動を断つ。切り裂け閃光」

 詠唱を終えると、魔道書を閉じた。すると魔道書の上部から光が溢れ出し、鋭い三角形のような形状となった。

(あのでかい剣はまともに受けてられない……。こいつで、本体をぶった切る!)

 魔道書を両手で掴み、両手剣のようにして構える。対してサタンは、大剣を片手で軽々と持ち上げ、魔緒に向かって投擲してきた。魔緒はそれを右へ飛んで躱し、即座に間合いを詰めに掛かる。今サタンは武器を手放してしまい丸腰状態だ。仕留めるなら、今しかない。

「はあぁぁーーー!」

 魔道書を振り上げ、光の刃でサタンに切りつけようとする。―――したが。

「……!?」

 その光剣は、何の前触れもなく砕け散り、夜の闇に溶けてしまった。

(またか……)

 またもや、魔緒の魔術が破壊されてしまった。これで二回目だ。一体、何が起こっているというのだろうか。

「……まさか!?」

 その理由に思い至ったときには、既にサタンは大剣を手にしていた。ブーメランの要領で戻ってきたのだろうか? ともかく、次、あの斬撃を受けたらひとたまりもない。魔緒は更に右に飛びながら、魔道書を上部に構えて来たるべき攻撃に備える。そして、対抗策となる魔術を素早く起動した。

「そう何度も……」

 しかしサタンは剣を振り上げずに、水平に構える。

「躱せるものか!」

 横に薙がれた大剣が、縦の斬撃に備えて横に動いていた魔緒に襲い掛かった。

「……!?」

 予期せぬ事態に、魔緒の思考は停止しかかる。追加で複雑な魔術を起動する余裕はない。魔道書は上からの攻撃を想定して構えているため盾には使えない。このままでは大剣が魔緒の体を両断するだろう。―――しかし。

「―――なっ!」

 魔緒と剣の間に、紫に光る魔法陣が現れ、迫り来る斬撃を阻む。

「ぐおっ……!」

 それどころか、剣が大きく弾かれてしまった。危機から逃れた魔緒は、素早くサタンから距離を取り、額を伝う汗を拭った。

「ったく、反射リフレクションが間に合ってよかったぜ」

 ―――反射。受けた力の一部を跳ね返す、防御系魔術でも最高位の盾である。本来なら長い時間と、高い集中力を要する魔術なのだが……魔緒の技能が相応に高いという証拠なのか、或いは魔道書のお陰か。

「にしても、危ないところだったな……。まさか、超振動能力が来るとは思わなかったぜ」

 なるほど、この能力は超振動だったか。閃光の魔術は、発光するマナを集め形成して、光の矢や剣、壁を作るものである。だが、光は高いエネルギーを持っており、それを放つマナにもかなりのエネルギーが蓄えられている。故に、彼の魔術は非常に不安定で、強い衝撃を受けると壊れてしまうのだ。例えるなら、磁石を同じ極同士で合わせ、積み重ねているようなもの。或いは、ばねを圧縮した状態。横から力を加えれば、簡単に崩れてしまう。若しくは、そこで地震でも起これば、同様の結果になるだろう。……って、誰に説明しているんだか。

「振動の媒体はその馬鹿でかい剣か? それを中心に、周囲へ振動を伝えているんだろう? しかも、空気が震えていなかったところを見ると、魔術って言うより、除霊師とかが使う霊術の系統だな」

 魔術は、事象の根源たるマナを用いる。対して霊術は、生命の魂を構成する霊質を使う。一般人から見れば、不可解な現象を引き起こすという点では同じものだが、それを専門としているものにはまったく別物に見える。

「……それがどうした?」

 種を見破られたサタンは、気にした風もなく、ゆっくりと魔緒に向き直る。

「これ以上の会話は無駄だと言った筈だ。俺の能力を見破ったことを、そんなに誇りたいのか?」

「おいおい、話しても意味ないとか言いつつ、話を引き伸ばしてるのはそっちだぜ。それに、俺は別に誇ったり自慢したりしたくて喋ってるわけじゃないさ」

 魔緒は魔道書のページを静かに捲りながら、真っ直ぐにサタンを見つめる。そんな彼を、サタンは鼻で笑った。

「ふん……。つまりは少しでも情報を引き出そうという魂胆か」

「違うな」

 魔緒が魔道所を閉じると、バチンという音が辺りに木霊した。

「この会話は、ただの時間稼ぎさ。あんたがそれに乗ってくれたお陰で、すっかり準備が整ったぜ」

「っ! しまっ―――」

「もう遅い。ロックオンは終わってる」

 魔緒の周囲に、微かな光が瞬く。よく見ればそれは、彼が纏う紫電であった。

「天駆ける幻獣の如く、その息吹を纏え。駆けよ雷光」

 雷が輝きを増したかと思えば、おびただしい数の蛇のようにサタンへと襲い掛かる。サタンは大剣を盾にするが、金属製の剣で雷を防げるはずもない。

「がっ―――!」

 強烈な電流を浴びて、全身を痙攣させながら飛び跳ねるサタン。大剣を地面に放り出し、力なく倒れ込む。

 魔緒はそんな彼に歩み寄ると、頭を掴んで持ち上げた。

「おい、起きろ。楠川をどこへやったか、今すぐ吐け」

 軽く揺さぶってみるが、サタンは白目を剥いたまま一向に反応を示さない。

「死んだ振りするな。ちゃんと死なないように加減したんだからな」

 と言っているが、結構凄かったぞ。それこそ、死んでもおかしくないくらいに。

「おい、おいったら」

 頬をぺちぺちと叩いてみるが、やはり無反応。本当に死んだんじゃないか?

「まずいな……。これだと、楠川の居所が聞き出せない」

「それは安心していいよ」

「!?」

 突然聞こえてきた声に、魔緒は咄嗟に飛び退いて、サタンから距離を取った。

「心配しなくても、彼女には会わせる。また後日に、だけどね」

 サタンの傍らには、別の男が立っていた。こちらも白髪に赤目で、年は二十代くらいだろうか。

「ああ、自己紹介をしないとね。僕はレヴィ。「この子達」の兄だよ」

「「達」……?」

 彼の風貌は半ば予想していたからなのか、そちらよりも彼の言葉遣いが気になる様子の魔緒。レヴィは続ける。

「もう分かっているだろう。君の前に現れた子達は皆、僕の弟妹なんだ」

 彼らが兄弟なのは、髪や目の色からも明白だろう。だが、そうなると―――

「まったく、弟妹達がとてもお世話になったようだね。特にサタンは酷い。早く手当てをしないと大変だ」

 言うや否や、レヴィとサタンの姿が、忽然と消えてしまった。

「……」

 魔緒はただ、目の前で起きたことが信じられないとでも言いたげな表情で、呆然としていた。

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