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日常と、忍び寄る影


  ◇◇◇



 ……九月の上旬。学生たちは夏休みのだらだらから脱して、いつも通りの学校生活に戻っている。


「あ~、だるい」

 机に倒れ込んでいる、この女子生徒の名は楠川仁奈。彼女は先程述べた話において、唯一の例外だ。

「仁奈、いつまでそうしてる気なの?」

 そんな彼女を嗜めるのは、双子の姉である清田七海。仁奈と比べると、目付きが鋭いのですぐ分かる。髪型を見ても、仁奈はその黒髪を右側で束ねているのに対し、七海は左側で結っている。何故この二人が、姉妹であるにも拘らず名字が違うのかについては、説明すると長くなるので割愛。

「だってぇ~、何かだるいんだも~ん」

「「も~ん」じゃないでしょ。だらだらするなら、せめて家に帰ってからにしなさい」

「ここんとこ、ずっとこんな感じなんだよね~」

 だらだらしてるのは前からだと思うのだが。

「とにかく、早く帰るわよ」

 七海は仁奈の首根っこを掴み、強引に引き摺っていく。

「うぅ~」

 その仁奈は、まったく動こうとしない。体があちこちにぶつかるが、反応さえしない。いや、せめてずり落ちそうなスカートくらい押さえて欲しいんだけど……。

「はぁ……」

 七海の溜息に篭められているのは、果たして呆れか、それとも憂いか。



  ◇



《―――という訳なんだけど》

「で、何でそれを俺に言う?」

 その日の夜、七海からの電話を受けている少年の部屋にて。少年の名は陰陽魔緒。白い髪に赤い瞳、更には高身長と、とにかく目立つ容姿をしている。その見た目と共に珍しいのは、彼の職業である。表向きは(も何も、本当に)普通の学生だが、その実体は何と、現代に生きる魔術師なのだ。つい先日まで、夜の校舎で亡者達と戦っていたのだが、それはまた別の話。

《そんなの、相談してるからに決まってるじゃない》

「俺に相談されても困る。大体、そういうのはお前の役目だろ?」

《貴方も協力しなさいよ》

 具体的に何を協力しろと言うのだろうか。「具体的」の部分を考えることだろうか。

「暫くほっとけよ。俺の家族も最近そんな感じだし、季節的なものだろ、きっと」

《ま、それもそうね》

 思ったよりあっさりと引き下がった。「もっとちゃんと考えなさいよ」と返ってくるかと予想していたのに……。

「……いつもはもっとしつこいのに、変だな」

 魔緒も同じことを思ったようだ。

「まあいいか」

 しかし彼は深く考えずに、ベッドに入った。

「……すぅ」

 程なく、穏やかな寝息が聞こえてくる。もう眠ってしまったようだ。



「やほー、ベルフェ」

「……」

 同時刻、魔緒の家から1kmほど離れた小さな丘の上にて。そこに聳え立つ大木の頂上に、二人の少女がいた。一体、何をしているのやら。

「何よ? 無視するの?」

 こちらの少女はTシャツにハーフパンツのラフな格好で、短めの髪は、やはりというか真っ白だった。当然、瞳も紅い。

「……作業の邪魔」

 もう一人の、ベルフェと呼ばれたローブの少女は、深く被ったフードの中からか細い声を漏らす。その反応に、相方の少女は驚いたような声を上げた。

「えぇっー!? これが作業なの!?」

「……」

 ベルフェはそれに答えず、双眼鏡で何かを見ている。その先には、一体何が?

「プロトタイプの居所は分かってるんでしょ? 何でこんなとこにいんの?」

「……もう夜。……実行は、また今度」

「いいじゃん夜でも」

「……駄目。……交渉材料が、まだない」

「交渉? もしかして、あいつを仲間にする気なの?」

「……愚問。……そもそもこれはそういう作戦」

「ふーん、ベルフェはそう思ってるんだ……」

 少女は木から飛び降りると、ベルフェのほうへ振り返る。

「言っとくけど、私とサタンとアスモは、今回の作戦には反対なんだからね!」

「……」

 しかしベルフェは反応さえせず、結局少女はその場を後にしたのだった。



  ◇



 ……翌日。


「まおちん、おはよー……ふぁ~」

 教室に入ってくるなり、大きな欠伸をする仁奈。そのだらしなく開け放たれた口に、何か食べ物を突っ込んでやりたい。

「せめて口に手を当てろ」

 魔緒は、そんな彼女を見て呆れていた。多分彼も、同じことを考えていたのだろう。右手が、制服のポケットに伸びている。

「だって眠いもん~」

「理由になってないからな、それ」

「ふぁ~」

 言ってる傍からまた大欠伸。見かねた(というか、誘惑に負けた)魔緒は、大きく開いた仁奈の口に何かを放り込んだ。

「んぐっ……!」

 急に異物が入ったせいで、仁奈はむせてしまう。……うん、やっぱり苦しそうだ。

「いきなり何するの……?」

「だから口に手を当てろと言っただろう」

 恨めしそうに魔緒を見上げる仁奈。しかし、当の魔緒は悪びれた風もなく言うと、自分の席へ戻っていった。

「もう……。あ、これ甘い」

 どうやら、口に入れたのは飴のようだ。何故そんなものを持っているのかは知らんが。

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